壁があるから乗り越えたい
「……なるほど。周囲に身体の形成に必要な分の氷の魔力を状態変化させて漂わせているんですね。これならばむしろ平時のアレムさんの状態よりも消費が抑えられるかもしれません」
アイリシアが色々と調べる限り、どうやらアレムの健康|(?)に支障はないようだった。それに関してはとりあえず一安心といえるだろう。
ちなみに今、アレムはとりあえずアイリシアの予備の寝間着? の雪だるま形のもこもこ服を着ている。
「別に不可解というわけでは無いんですけどね。アレムさんの身体というのは、元々、再構築、再構成が容易な設計思想の元、形作られていましたから。ですから、修復が容易であったわけですし……ただ今回は、それを修復以外の目的で本人の意思に則って行われたというのが驚異的というわけで」
つまり、アレムには今までに類を見ないレベルでの心境の変化が確認された、とそういうわけか。
でも何で?
「おはナし……しタかっタカら」
アレムの声が響いた。
「そっか。ありがとう」
俺はそれが嬉しいのだと答えた。
「……ん」
アレムはひかえめに微笑む。笑い方がまだよく分からないのだと感じた。
その表情を確かめようと頬に触れると柔らかく、そして冷たい。雪の様だと思ってしまい、触れるのを少しためらわれたが、アレムはその手を掴んで寄せた。
「んー」
「何か気になることでもあるんですか? シオンさん」
「あー、いや。ちょっと気になってさ。アレムがこうして、喋れるようになったのはそりゃ嬉しいことだけど、何だ。俺がきっかけというのが何というかあれだ。アレムはブリジットや、アイリシアのことだって大好きだろうに。何で今までは、てちょっとな」
「……それを言うのは卑怯ではないかと思いますが」
それはまあ、そうなんだが。
『別にそう不思議でもない』
ブリジットの声が響く。アレムの方を見ると、今までのように映し出される形ではなく声のみがどこからか響いているだけのようだ。
『妾やアイリシアにとっては、必要が無かった。それだけの話じゃよ』
「必要ない?」
『言葉を交わす必要、というのがな。言わずとも伝わるから、その辺りは……どうにも鈍になってしまってのう。お互いに』
言わなくても伝わる関係、か。それはそれで羨ましい気もするな。
『ほれほれ~羨ましいじゃろう』
何だこのBBA。
「この人もアレムさんを取られそうで内心焦ってるんです」
『余計なことを言うでないわ!』
ほほぉ可愛いところもあるじゃあないか。にやにや。
『じゃがな。アレムが、そういう面倒を背負いこんででも、お主と言葉を交わしたい。通じ合いたいと、そういう心が発生したことが。妾は何よりも喜ばしい』
「ブリジット……」
「……ブりジットさま……」
『しかしアレムよ。どうせならもう少しボインボインな感じに調整した方がよかったのではないか?』
「ゴーレム?」
「余計なこと吹きこむんじゃねえロリババア」
『何じゃ? もしやお主…………小さくないと反応しないという性癖であるまいな』
「違うわ。幻影の君たる者どのような乙女だって守備範囲さ」
「最低ですね」
アレムの今の姿は
―――ありがとう―――
あの時の姿そのままで。それは多分、彼女の魂の形そのままということで。
だから、俺はそれを大切にしたい。
「ゴーレム!」




