戦わないならそれに越したことはありませんが
いるのかは分かりませんがゴーレムフェチの方がいらっしゃればちょっとご期待に沿えないかもしれません
「少しやり過ぎましたかね。これからはちゃんと自力で帰れるくらいには体力と魔力を残すことを心がけましょう」
アイリシア師匠は溜息を吐いて俺の顔に向かって瓶に入った液体をぶちまけてきた。
口の中に入って来たそれはほんのりと甘く、薬の風味がした。聞くところによるとアイリシア師匠お手製の回復薬の類であるそうだ。
それで何とか動けるくらいには回復したのはいいものの……|現代日本(前世)だったら体罰だぞこれ。
「……これくらいやらないとあの人と戦うことになった時に対処しきれないでしょうからね」
話したいことがある、と言ってミスティだけ帰らせたと思えば、アイリシアはそう切り出してきた。
あの人。おっちゃん。エドヴァルド・W・サイファー。
『幻影の君に愛の祝福を』において、ぶっ壊れと呼ばれているキャラが三人いる。アイリシア・B・ココレット。俺ことシオン・イディム。そしてエドヴァルド・W・サイファーである。
アイリシアは言わずもがな強力な魔法使いキャラである。魔法攻撃力の伸びが著しく他の追随を許さない。魔法耐性? 何それ? というレベルで魔法ぶっぱで終わる。
シオン・イディム。一応言っておくと自画自賛ではない。詠唱が極端に早く、魔法と物理の切り替えが容易で、どのような盤面でも活躍でき、構成を考えるのが面倒でも、初心者でも、とりあえずシオンを入れておけば大概大丈夫と言われる程である。
ちなみに余談だが、どう考えても見かけの強さに合わないダメージ計算がシオンの戦闘ではたびたび発生し、それは度重なる修正にも関わらず最後まで続き『バグ技のシオン』などと一時期言われるようになっていたが、これは今思えば幻影隠匿、並びに幻影の君の正体に関する伏線であったのだろう。
もっとも……それとは無関係にバグが多いゲームだったからただの不手際だろうと噂が大半を占めていたのが悲しいところだが。
そして最後のぶっ壊れ、エドヴァルド・W・サイファー。終盤で味方になるキャラというのは大体使い物にならないのはもはや流儀だが、おっちゃんに関しては違う。シオンと入れ替わりになる形で加入するおっちゃんは、シオンの抜ける穴を埋めてしまう程に強い。
『一応言っておくと、別におっちゃん、みんなを説得しようなんて思っちゃあいないわ。おっちゃんは一人でも追いかけるつもりよ。ただ、あの子の仲間だったみんなにはこの件に関わる権利ってもんがあろうさ』
おっちゃんがリリエット達にこんなことを言っていたがこの言葉に偽りや誇張はないのだ。エドヴァルド・W・サイファーは、幻影の君を共に追いつめる仲間など必要としない。仮に他の攻略対象たちが立ちはだかってもそれをどうとでも排除出来るのだ。
「ま、戦わないで済むならそれが一番だけどな」
「それを本気で言っているなら私やクロードさんも心配はないんですけどね」
本気でそう思ってるけどな。
ただ、『幻影の君に愛の祝福を』でも明らかにならなかったおっちゃんの過去、何で幻影の君を恨んでいるのか。ミスティの正体は一体何なのか。それを知るためには、避けられないのではないか、てそんな発想が頭の中から離れない。
もし、その為に必要であるのなら、俺は……
「ただいまです。アレムさん」
そうこうしている内に研究室に着いた。アレムに挨拶を、と
「お、カえリなさイ……」
「ああただいま」
「「………………ん?」」
アイリシアと疑問の声が重なる。
「シおン」
そこにいたのは、透明な少女だった。
見た目の年は十二、三くらいだろうか。地面に着くくらいに長い透明な髪の毛からはつぶらな蒼い瞳が垣間見える。その肌は白磁のように白く、まるで作り物の様にすら見えるほど、で……
「だ、れですか?」
アイリシアは問いかける。少女は不思議そうに首をかしげる。何を言っているのか、と問いたげに。
だが、俺は知っている。そうだ。俺は、彼女に会ったことがあるのだ。彼女の心に触れたことがある。
「アレム、か?」
「ゴーレム!」
アレムは元気に返事をして、俺の腰に抱きついてきた。
「アレムさん。シオンさんの腰が砕けてしまいますのでほどほどに緩めてください……あと服を着ましょう」




