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もしかして根に持ってますか?

「シオンさん。やっぱり私に隠し事をしていましたね」


 開口一番にアイリシア師匠は言い放った。


「いや待ってほしい。隠し子についてはさすがに俺は身の潔白を主張したいわけで」


「そっちではないです。言いましたよね? 全力で戦ってください、と。私はあの時」


 あの時。それが指し示しているのは、最初のアイリシア師匠との力比べの時だろう。あの時の俺は幻影魔法は勿論のこと他の属性の魔法も一応武器に出来ることを画して戦っていた。


 いやでも……だって仕方がないじゃないかそれは。


「言い訳はいいです。私は仮にもシオンさんの師匠として、あなたを教え導く義務があるんです。シオンさんが隠し事をしていては、それを万全に出来ないではないですか」


 アイリシア師匠……そこまで考えて


「大体何ですか。昨日のあのお粗末な使い方は。自己流のつもりですか?」


 アイリシア師匠は魔法に関してはマジです。だからこそ厳しい。分かります。分かりますがもう少し優しさが欲しい。


「前にも言いましたがシオンさんに足りないのは基礎の部分ですからそこは地道に進んでいくしかありません。いい機会ですし今回は闇属性について学びましょう」


「そこでミスティが出て来たのか」


「ええ。シオンさんへの教育方針について実はクロク……いえ、クロードさんとも相談してみたんですが」


「待って! 何だその保護者面談みたいなの」


「闇属性に関しては色々と扱いが難しく、私が教えられることというのはそう多くはないんです」


 闇属性。何らかの形で魔族からの干渉を受けなければ発現することが叶わない属性である。アイリシアも旧き支配者と言う規格外から力を受け継いでいるわけだからそのあたりの支障はないが、それでもやはり血の影響、本物の魔族のそれと比べるとその差はそれなりに大きいらしい。


 それにアイリシアは理論に沿って物事を推し進める性質があるが、闇属性の場合、感性の部分がどうしても大きい、とのこと。


「それでも今のシオンさんよりはマシですがね」


 その意地の張りはいるだろうか。アイリシア師匠も中々頑固よな。


「では、始めましょうか」


 ミスティが咳ばらいをした。


 血、か。ミスティのルーツは未だ分からないものの、魔族の血をそれなりに濃く受け継いでいるというのは間違いない事実だ。


 ミスティは、おっちゃんがそれを利用しようとして自分を引き取ったのではないか、という疑念を持っている。


「闇属性の能力というのは一般的に相手の持ち物や体力、魔力を奪い取る用途で用いられます。例えば魔力が枯渇した状態でも相手から魔力を吸収し、補給が出来るということです」


 闇属性が重宝されている要因はそこであり、空間魔法とは違って色々な条件は要るもののパーティ内での持続力が上昇させることが可能となる。魔族てきからの干渉が必要でもあるので忌み嫌われてもいるが、それでも使いこなすことで単独で戦線を維持する強者も存在するほどだ。


「イメージとしてはそうですね……食べ物です」


「……食べ物?」


 これには俺だけでなくアイリシアも首をかしげる。


「相手を、削って、食べるんですよ。美味しくて、お腹を満たしてくれるそんな何かに」


 油断して、何かがミスティの手元から伸びて来たのに気付かず、首筋にちくりと痛みが走る。


 ミスティの手元には愛用のナイフ。その先には血が、滴り落ちていて、ミスティは下でそれを舐めた。


「まあ、こんなところも、闇属性というのが忌み嫌われている要因、になるのでしょうかね」


 魔族が闇属性を誰に言われるまでも無く習得する理由は至極簡単。人間にとっての捕食者であるからに他ならない。そう分析する者もいる。


「けど、この解釈というのもまた違うと思うんですよ」


 ミスティの紅い瞳と、目が合う。


「相手を食べものと思いながらも、自分も食べてほしいと思ってる。そうして、融け合うための、きっと、その為の魔法」


 ミスティのナイフが俺の頬を叩く。俺は間の抜けたようにそのナイフが刃を向けるのを


「え……えっちなのはやめてください」


 ばしっと頭に衝撃が走る。


 アイリシア師匠が俺の頭を杖で殴りつけた様である。俺? 俺なのか。


「それでミスティさん。闇魔法の修行にはどのようなものがあるんですか?」


「色々とありますけど」


 ミスティは、今度は俺の手を握ってきた。


「私が付き合ってあげられるうちで一番効率がいいのは、吸収し合うこと、ですかね」


 その手のひらから俺の中から魔力を吸い上げられてっておい!


「さあシオンさん、頑張らないとミイラになってしまうかもしれませんよ」


 くすくすと笑うミスティ。


「大丈夫です。やり方は、本能が知っているはずですから。それとも……出来ませんか?」


 挑発するように、誘う。その流れはあまりにもゆっくりで、俺に教えようとしているのかあるいは、じっくり味わうつもりなのか。


「ん……いい感じ、です」


 こっちからも吸収し始めたというのに、むしろミスティは心地よいように声をあげた。


「さて、次は、そうですね。これを戦闘中でもこなせるようにすること、ですかね」


 ミスティはアイリシアに目を向ける。ん? ちょっと待って。


「というわけでアイリシアさん。遠慮は……ほどほどにしてシオンさんにいつもの修行をつけてあげてください」


「なるほど。分かりました」


 アイリシア師匠。笑顔であった。


 そして、俺はミスティと手を繋ぎながらアイリシア師匠の攻撃を躱す(ミスティに力を吸われながら)というハードな修行をすることとなった。


 いや。しょっぱなからハード過ぎませんかね。


 それがようやく終わった頃というのはものすごい疲労感で俺が完全に動けなくなった時であり、二人はものすごいいい顔をしていたのだった。


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