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アイスゴーレムは貝になりたい

102部分「乙女ゲーの悪役だからって戦闘狂だと思うなよ」の補足回になります

「ゴーレム」


 アレムさんがつんつんと私の袖元を引っ張ってきました。何か相談事があるのでしょうか。


「ゴーレム」


「……ん?」


 アレムさんから響くその声に、私は首を傾げます。


「聞き違いでしょうか? アレムさん」


 問い返します。何となく伝わってきたことばに、私は困惑します。


 だって、


「私は貝になりたい?」


 と、アレムさんは言っているように聞こえたんですから。


『聞き間違いではないぞ。アレムは確かにそう意を伝えようとしたのじゃ』


「なんでそうなったんですか?」


『うーむ……ややこしいのじゃがな。まず、今日、アレムがイリューシオンの奴とデートに出かけたのが発端じゃな』


「……なるほど。色々尋ねたいこともありますがとりあえずはいいでしょう。それで何があったんですか?」


「ゴーレム」


「……シオンさんがデート中に余所見をして? それで自分よりも綺麗で可愛らしい……? を、引き、寄せて? 見せびらかしてきた?」


 今一つ分からない所があるのが難点ですね。ただ、


「シオンさん最低ですね」


 これだけは分かります。


『待て待て待て! 早まるでない』


「何ですかブリジット。まさかとは思いますが傷心のアレムさんよりもシオンさんの肩を持つんですか」


『それを言うのは事情をきちんと把握してからでも遅くはないと思うがのぅ』


 事情?


『補足するとじゃな。まず、アレムとイリューシオンが最初に向かったのは雑貨屋じゃ』


「ふむ」


『で、そこで小物などを見ていてじゃな』


「ん?」


『これなど綺麗ではないのかと、貝がらの小物を持って来てアレムに見せたわけじゃ。しかし、それがアレムの逆鱗に触れた!』


「どこに反応するポイントが? それにさっきのアレムさんの訴えと何の関係があるんです」


『アレムはシオンの部屋で置物として振る舞うようにしている内に、使命感のようなモノが芽生えたのじゃよ』


 そしてシオンさんが持ってきた自分よりも『綺麗で可愛らしい』貝がらの小物に、自らの地位を脅かされるのかもしれないという危機感、不安、そして嫉妬でぐちゃぐちゃになってしまった、と。


「えーっと……」


『まあ妾も似たような旧友がおってな。でなければ気付けなかったやも知れん。アレムは侵入者撃退用のゴーレムであって、人のような自我や欲求というのは無くての。あるのは、求められた機能を満たすか、という機構システムだけじゃ。それでもアレムの内部に感情と呼ぶべき揺らぎが芽生えたのは十分驚異であるのじゃがな』


 アレムさんの価値観は人間とは微妙……いえ、大分違うということですか。


「アレムさんはシオンさんのことが本当に大好きなんですね」


 私やブリジットのように意思が通じるわけでもない。それでも、せめて置き物としてでも必要とされたいなどとなかなか思いはしないでしょう。


「でもですね。シオンさんはきっとそれ以上を求めてくる人だと思います。戦うためだけではなくて、必要だからと言うだけではなくて」


「ゴーレム?」


「今はまだ分からなくてもいいのでしょうけど」


『お主も偉そうなことを言えんしな』


「黙ってください」


「ゴーレム……」


 しかしアレムさんはなお不安そうに見つめてきます。


「では、明日。シオンさんの反応を見てみてください。それで大丈夫だと安心させてくれると思いますから」



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