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使い使われ

「ミスティさんが幻影の君の隠し子?」


 あの後、解散して一応クロードとマリアにも事の次第を伝えることにして、寮の共同スペースに呼んだ。


「どうだ? 実際、有り得ると思うか?」


「そうですね。あの方は色々私の与り知らない所で色々と交友を広めていたようですし。アイルーン王国の現王妃が学生時代の頃は……おっと」


 え? 何? 父さんフィオレティシアのお母さんに何かしたのか。


「まあいいではないですか」


 露骨に誤魔化した!!


「しかし、ミスティが幻影の君の血縁者ってのはないんじゃないかやっぱり。幻影魔法を受け継いでたりしないみたいだし」


「おや知りませんでしたか。女性は幻影魔法の属性を受け継ぎにくいのですよ」


「そうなのか?」


 とはいってもなんとなく分かってしまうのがアレだ。


「まあ例外もあるのですがね」


 例外ってあれか。○塚的なあれなのか。


「ですから、将来のことを見据えるとそういう意味でも男の子を授かってほしいものですがね……しかし、あまり口出しするのもどうかと思って静観していましたがまさかまだお二人に手を出していなかったとは」


「……悪いか?」


「いえ。まだ道の途中、そういうことは全てが終わってからでも遅くはありません。せっつくと……イリューシオン様がいつ死んでもいいようにと準備しているようですしね」


 それは本来正しいかもしれない。所詮、日陰者の俺はどうにか次に繋げるための準備に勤しんで然るべきかもしれない。


 けれど、アルトレイアもフィオレティシアも、アイリシアもか。三人とも、身重だから下がっててくれと言えるほど余裕があるわけでもないし、何だ。仕方ない事情だとかそんなんじゃなく、もっと自然に触れ合いたいとか。そんなことを考えてしまうのだ。


「……あとはそうですね。自信を着けたいというのであれば、マリアを使ってはいかがかと思います」


「ク、クロード様!?」


「見損なうなよ。いくらなんでも、その……」


 まずい、何だ。マリアの身体なんて見飽きたくらいだと思っていたのに、メイド服に身を包んでもじもじしだしたマリアに、目が離せなくなりそうだ。


「私もマリアの意思を捻じ伏せろとまで言う気はありませんとも」


「だからそういうこと言うなって」


「はは、失礼しました……ただ少しばかり気になることもあるので、いっそのことマリアをイリューシオン様のものにして貰えれば面倒事も減るかと」


「……気になること?」


 一体何だというのか、聞き返そうとしたところで、玄関から物音がした。


「あー……つっかれたー」


 帰ってきたのはおっちゃんだった。


「それでは私はこの辺りで」


 クロード、もといクロクロは女子寮に戻る。


「そ、それでは、私もその……晩御飯の準備に!」


 マリアもいそいそと去って行った。赤面のままちらちらとこっち見るの止めてほしい。


「……ふぅ……」


 おっちゃんは水差しから水を一杯汲んで、一息入れて、俺の対面に座った。


「ねえ、シオン。アイリシアが今日、ちょっと暴れてたみたいなんだけど何か知らないかね?」


 心臓がびくりとした。


「さあ。今日は師匠との修行の日でもなかったし知らん」


 しれっと答える。おっちゃんはそう、と流した。


「アイちゃんの様子はどう……て、そうね。もうシオンの方が詳しいのかしらね」


 おっちゃんは俺の顔をじっと見つめ、少しだけ笑顔を浮かべる。


「……おっちゃんも色々とやってはみたんだけどね。どうにも思春期の子ってえのは苦手だわ。おっちゃんにもそういう時期はあったはずなんだけど……まあ女の子じゃあねえしね」


 やれやれ、とおっちゃんは溜息をついた。


「シオンがいてくれて助かったわ。スレイのこともアイちゃんのことも。おかげでおっちゃんも思ったよりも結構楽できてる。ホントよ?」


「……何だよ。おっちゃん、らしかないぞ? 死ぬのか」


「アハハハハ! あーそうね。確かにそうだわね」


 おっちゃんはしばらくおかしそうに笑って、


「……そうね。いっそのこと、おっちゃんが死ぬ方だったら楽だったんだけどね」


 何だ? 何か言ったか。


「何でもねえわよ。てかさ、おっちゃんの眼から見るとシオンの方が危なっかしいってえのよ。いつか仲間庇って死にそうな感じがさ。困るわそういうの。シオンにはこれからもがんばっておっちゃんを楽にさせてもらわにゃあさ」


「何だそりゃ。おっちゃん仕事しろ」


「あはは、仕事してるってえわさ。生徒を上手に使うってえのも教師の仕事のうちの一つなの」


「……」



――もしかしたら、私のことも、そうやって拾ってきた道具・・のひとつかもしれない。


「どうかしたの?」


「……いや、なんでもないさ」


 お互いに本音は喋らないまま、俺達はしばらく話し込んでいた。



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