第一回ハーレム家族会議:議題『隠し子疑惑について』
一体どうしてこうなったかなぁ……。
今、俺の部屋にはアイリシアとミスティだけでなく、アルトレイア、フィオレティシア、リオン、スレイ、アスタまでもが集まっている。
「ていうか、皆、シオンのこと知ってたんだね。そのことについてちょっとびっくりだよボク」
「しっかし蒼眼の魔女まで口説き落とすとはねぇ。まあいつかこうなるとは思ってたけど思ったより早くてびっくりだよ」
リオンお前それどういう意味だ。
「シオンに言いたいことは色々とあるものの、アイリシア、それにミスティ。呼び出した要件について……にわかには信じ難いが本当なのか?」
「いやいやいやいや!」
と、抗議の声をあげたところで
「はいシオンさん。許可のない発言は慎んでください」
アイリシアがすかさず杖で制する。氷魔法のおまけつきで。
ちなみに俺は今、正座である。ここ俺の部屋なのに。
「さて、皆さんをお呼びしたのは他でもありません。何と、私達の友人、ミスティさんが重大な告白をしてくれました。何と、シオンさんがミスティさんの探し求めていた実の父親だったのです!」
エドヴァルド・W・サイファー。通称おっちゃんがミスティの保護者ではあるが、血のつながりはなく義理の父親であることは周知の事実である。おっちゃんがどういう経緯でミスティを引きとったのか、そしてミスティの実の両親については『幻影の君に愛の祝福を』でも語られていない謎の一つでもある。
だからといってあ り え な い。
「まさかこっちもクラスメイトに父親と間違われる事態に陥るとは思わなかったよ」
まあ入学時の年齢に制限はないから年上のクラスメイトなんて珍しくはないが。
「シオンってば。避妊はちゃんとしないとダメだよ。血統を絶やさないようにするのはいいことだけど管理しきれないほどに増やすと知らない間に争いの種になっちゃうんだから」
と、亡国の王子は語る。
冗談じみてはいるがこっちのことを本気で心配しているような気配もある。亡国の王子……いや、亡国の王子だからこそか。その気になれば正当性を主張して国を奪うことが出来る立場。
旧き支配者の力をその背後に借りた代行者。その血筋が野心ある者に利用されてしまうのを避けて、穏やかな終焉をもたらす、それが王族としての最後の仕事なのだろう。
まあ某ム○カ大佐みたいなんなきゃそれでいいわけだ。
「しかしお前……何か手馴れてんな」
「……まあ身体を売っているわけでは無いけれど、夜の町にも色々とあってね。身体だけの関係を割り切って慰めてほしいご婦人とか、訪れたりするんだよね」
見た目は麗しい王子様だしな。それでいて退廃的な雰囲気も併せ持つリオン・アルフィレドであり、さもありなんである。
「色々とあるだろうしね。来る者拒め、とは言わないけど面倒にならないように色々と弁えるのが夜遊びの流儀ってやつだよ。色々とあるんだよ、そういう手管は。クロードあたりから教わってないの?」
「お前俺がやらかしたみたいに言ってるけど有り得ないからな? そもそも」
「と、言うと?」
意外そうにリオンが疑問を浮かべる。
みんなが俺に注目している。う、気まずい。俺が今言おうとしていることをそんな中止しないでほしい。
「……………………そもそも俺、童貞だし」
「……えー……」
何言ってんのみたいな顔するな。
「……シオン、え? いやその……確かに私に手を出そうとしないのはどうしてだろうと考えたことはあったがてっきり」
「アルトレイアさんもですか!?」
アルトレイアとフィオレティシアが互いに顔を見合わせている。
「その二人に覚えがないなら分かるだろう? 二人を差し置いて誰かとゆきずりに、なんて有り得ねえって」
「割と説得力あるね……へたれなのは事実だけど」
ほっとけ。
「まあシオンさんがどうしようもないへたれなくせに私のことはキスして止めたりした畜生だったりするのはいいとしてです」
おい!
「犯人は言います。俺はヤってないと」
推定無罪の原則はこの世界にはなかっただろうか。
「嘘をついている可能性と言うだけではなく、実際に記憶が無いからと言って、そういったことがなかったのかという証明にはなりません」
そりゃあそうだ。剣と魔法の世界なのだからそんなものはどうとでもなる。
「そもそもで言えば俺がミスティくらいの年ごろの娘がいるなんてのが有り得ないことなんだが」
何歳の時に孕ました子だというのか。
「……幻影魔法で誤魔化しているのではないんですか?」
ミスティが自らの考えを述べたがさすがに半信半疑の様である。
ミスティの推理ではどうやら俺は幻影魔法で若作りをして学園に潜入していることになっていたらしい。
「なるほど。残念ながら私の氷魔法の影響下でもシオンさんの外見は変わりませんでしたし、その辺りを誤魔化しているという線は無いです」
アイリシアは意外と冷静だった。
「リリエットを呼べれば一番早いのだろうがその成長を見守ってきた人間がいる以上、年齢を詐称しているということもないだろう」
アルトレイアのダメ押しの結論付けに、ミスティも項垂れる。
「そもそも、何で俺……というか幻影の君を父親だと思ったんだ? そもそもおっちゃんから何も聞いてないのか?」
「……さあ。聞いてもいつもはぐらかされます。ですから、私も自分の出自について独自に調べていたんです。そうしている内に……父が幻影の君をひそかに追いかけ続けていることに辿り着いたんです」
クロードも言ってたな。おっちゃんは学園内の幻影の君を打倒する怪しげな派閥に参加している、と。
「けどそれだけで……」
「……父は昔から幻影の君を追いかけていたわけでは無いんです。約十年前から。これはちょうど、私を引き取った時期とほぼ合致します。私の出生に幻影の君が関係していることは間違いないと思います」
なるほど。ミスティなりに色々調べた結果なのか。確かにミスティの出自について、幻影の君が関わっている。その可能性は十分に高い。そこまではいい。が……そこからは少し短絡すぎはしなかっただろうか。
「……そう、ですね。よくよく考えればそんなわけはなかったんですよね。私が、シオンさんの娘だなんて」
ミスティの口から自嘲のため息が漏れる。
「しかし、ミスティが真に気にしていると分かっているなら、あのエドヴァルド・W・サイファーとて無下にはしないのではないか?」
「どうでしょうかね? ではお聞きしますがアルトレイアさん、あなたはお父さんに初めて会った時、どう思いましたか?」
アルトレイアはミスティの問いかけに対し、考え込み、やがて口を開く。
「……本物か、と思った。さらに言うのであれば、もう少し、エドヴァルド・W・サイファーというのは何と言えばいいのか……もっと生き汚い人間であると思っていた」
俺はおっちゃんのこの世界での評判というものをよく知らない。『幻影の君に愛の祝福を』で映っていたのはヒロインから見た視点でしかないのだ。
「墓荒らしのエドヴァルド……ですよね」
ミスティとて知っているのだ。自分の父親のことくらいは。
言わずもがな、換装武芸師と言う職業は数多の装備が無ければ成り立たない。では、その武装はどこから調達してくるのか? 深き迷宮の奥深く、志半ばに散って行った冒険者の遺体。その遺体を地上へと運ぶ見返りとして、その装備を頂くのだという。
それだけではない。家族への形見として送り届け、供えられた装備すらも、その墓を荒らして持ち去っていく。
生きる為。成り上がる為。手を汚すことを厭わないそういった外道な行いの上に成り立っているのが、エドヴァルド・W・サイファーの強みである。故に、与えられた|換装武芸師(二つ名)とは別に、こう呼ばれるのだ。
―――墓荒らしのエドヴァルド、と。
「……もしかしたら、私のことも、そうやって拾ってきた道具のひとつかもしれない。なら、真実なんて話してくれますか? 娘だなんて思ってないかもしれないのに、それを信じられますか?」
「そんな言い方!」
アスタが何かを言い返そうとしても、しかし、誰よりもおっちゃんを間近で見てきたミスティの言葉は重い。
ミスティは、ずっと孤独だったのだ。本当の家族のことも知らず、自分を引き取った男は自分を道具と思っているのかもしれない。甘えるなんて出来ない。そうした中で、自分の家族を探していたのだ。
だから、『家族かもしれない』。そんな希望的観測でも、それに縋ってしまったのだろう。
「……分かった」
「……シオンさん?」
なら、俺の……というか俺達のするべきことは一つだろう。
「な、何するんですか!?」
抱き締めたくらいでガタガタ騒ぐなよ。こんなの、親子なら当たり前だろう? いや、認知はしないが。
「俺達はミスティの味方をするさ。おっちゃんが何を秘密にしてるか分かんねえけど、一緒に解き明かしてこう」
いいよな、と周りを見る。皆は頷いてる。
「……皆さん」
「ミスティさん」
フィオレティシアもまたミスティに駆け寄る。
「……ミスティさんがシオンさんの娘だと言うなら私のことも……お母様と呼んでくださっていいんですよ?」
「おい待てややこしくなるから止めて」
「……おかあ、さま?」
今度はフィオレティシアの胸元に顔を埋めながらミスティは呆然と言う。ボイ……いや、母性ってやつなのか!?
「何を言っているんですかバカ弟子が……というか、現実的な路線で言うと、ミスティさんはもしかしたらシオンさんのお父さんの隠し子、という可能性でしょうか? つまり、腹違いのお姉さんですか」
「何で俺が弟前提なのかについて」
まあ何はともあれ、俺の隠し子疑惑は払拭され……払拭するためにも、俺達はミスティの出生の秘密を探ることになったのだった。
スレイは喋っていませんがこの場にいます。




