プロローグ:幻影の君は遠く遠く
『幻影の君に愛の祝福を』におけるラスト付近、エドヴァルド加入イベントです
この時には既にルート分岐イベントも終えておっちゃんにシオンの正体がバレています
―――どうすれば、あの時が訪れるのを食い止められたのだろうか。
『みんなが信じたシオン・イディムなんて冒険者なんざ、最初からいなかった』
おっさんが告げた言葉を、私達は理解できなかった。
いや、理解できなかったんじゃない。理解を拒んだのだ。その意味を、分かってしまうのが怖くて。それが現実として降りかかるのが。
『いたのは、幻影の君ファントムロード。人を騙して堕落させ、惑わす悪の権化さ。人当たりのいいツラしといて、裏でその本音をひた隠して、嘲笑ってたんじゃあないかしらーねぇ』
『そんなわけないじゃない! そんなの、あのバカがそんな器用な真似できるわけないでしょ!』
『どうかしらねぇ……婚約者のいる女の子を攫ったり、王女様にちょっかい掛けてみたりその悪行自体はみんな知ってるってなもんでしょう?』
『それは……何か事情があって』
『そう? ま、別にどうだっていいんだけどね』
おっさんは、面倒くさそうに溜息を吐きながら、淡々と言う。
『何でよ……』
漏れる。
『おっさんだって、シオンのこと気に入ってたじゃない……』
『そうね。それで?』
『……似合わないっての! 違うじゃないの、正義だとか使命だとか。そんなのより明日の酒の肴のことでも考えてるような、そんなだらしないおっさんだったじゃないの!』
『耳が痛いね。ま、正直に言うと今だってそんなんどーでもいいさね。ただ……俺が守らなきゃならないもんにまで手を伸ばしてきたんなら、しょうがない』
守らなきゃいけないモノ……そう言いながら、ちらりとミスティを見て、逸らした。
『一応言っておくと、別におっちゃん、みんなを説得しようなんて思っちゃあいないわ。おっちゃんは一人でも追いかけるつもりよ。ただ、あの子の仲間だったみんなにはこの件に関わる権利ってもんがあろうさ』
むしろ足手まといかもしれない。私達は余りにも無力だった。既に覚悟を決めているおっさんの手を借りなければ、シオンの元に辿り着くことすらできない。
『で、どうすんの?』
おっさんは、私達が協力しようと、あるいは裏切ろうとどっちでも受け入れるつもりなのだ。そうして、粛々と幻影の君の首を刈る、それだけ。
『……私は行く』
なら、私も覚悟を決めなくちゃならない。
『あのバカが抱え込んでること全部吐き出させてやらなくちゃダメなの。そうして……そうして、何でこんなバカなことしたのかって、そうやって、躾けてやるんだから』
私は、シオンのことについてあまりにも何も知らなかった。
だから、私は今度こそあいつのことを分かってやらなきゃならないんだって思った。もし、私の今までの言葉が届いてなかったとしても、それでもこれから全部、届かせてやらなくちゃならないんだって。
―――気付くのがあまりにも遅かったのだろう。この時には、きっと何もかもが遅すぎて、どうあっても幻影の君の運命を覆すことは出来なかったのだ。
―――だから、今度こそ救おう。彼を。そして―――




