氷魔法とかいうチート
魔法というものは自らの賄っている魔力のみで現象を起こしていると考えがちではあるが厳密に言うと違う。自らがイメージしコントロール下に置いた魔力を大気中に満ちる無色の魔力に共鳴させ、現象を引き起こしている。この人が干渉する前の純粋な魔力というのは人には感じ取れるものではないが厳密に言えば常に何らかの現象は起こしておるのじゃ。大気を温め風を起こし光を反射し水を低きに流す。魔法というのはいずれ起こるそのような流れを拝借しているに過ぎんしそれで自然の調和を乱すということは有り得んから安心せい。
あぁ話が逸れた……といいたいところであるがここからが重要じゃ。氷魔法というのは他の属性とは根本的に違う。他の属性は魔力の性質の変化を促すことで現象を起こすが、氷魔法はその大気中に満ちる魔力の活動を停滞させることで現象を起こす。
まさか、と過ったかのう。そうじゃ。氷魔法が魔法使いたちの間で伝説とされ、恐れ敬われてきたのはそれが理由じゃ。絶対氷結。氷魔法が支配する領域下では、氷属性以外の魔法が発動できなくなる。魔法使いの天敵であり故に魔法使いにとって目指すべき真理に近しいそんざ……
「何だそのクソチート!!!」
ブリジットの説明に思わず絶叫するのだった。
ちなみに今、目下逃亡中である。何からって? アイリシアの猛攻からである。
追って来る氷柱を剣で弾き返す、がこれは俺の知っている氷柱の強度じゃないな。カキン! と甲高い音が響き、ざっくりと地面に刺さるほどだ。
指をと鳴らしてみる……が、手応えはない。
「何か奥の手があるかと思っていましたが……そうでもないようですね」
「さてどうかな?」
アイリシアの問いかけに、しかし俺は不敵に笑う。笑うしかない。何かある。そう思わせること自体が幻影の君の武器であるのだから。
パリパリと張りつめた氷の上をアイリシアはゆっくりと歩く。その背後に。おびただしいほどの氷魔法で拵えた氷柱を構えながら。
「ん……んぅ……」
その時、呑気な声が背後から聞こえる。
「うわ! つめたっ!? 一体何が……アイリ? それに……」
「おやアスタ、目が覚めたのか、ちょうどいい。君の妹御に矛を収める様言い聞かせてはくれないだろうか」
「……いやアイリは無駄なケンカとかしない、いい子だよ。そのアイリとケンカしてるっていうのなら非はあなたのほうにあるんじゃない、のかな?」
正論だ。実に正論である。しかしごめんで済むなら警察は要らんのだ。
「というか……え!? ボク捕まってたりする!? このゴーレムって一体何!?」
そしてようやっと状況を把握したのかジタバタ動き出し、落ちないようにアレムは抱え上げている腕の力を強くする。
『……この状況で目を覚ました? 何を企んでおるのだあのファントムロードは』
「ふぇ!? 喋った!?」
アスタが驚いているところ悪いのだがアレムが喋ったわけじゃないんだ。いや、説明している場合じゃないな。
『ああそうじゃ。大切なことを言い忘れていた』
「ん? 今度は何だ?」
魔法は使えないのは分かったから。まさかこれ以上の最悪なんてあるのか?
「……あぁ、先程まで靄がかかったようでしたが、ようやく頭がすっきりとしてきました」
『氷魔法に対して効力を失うのは、幻影魔法とて例外ではない』
ブリジットは告げた。
「初めまして、というべきでしょうか」
アイリシアの氷柱が一本、俺の頬辺りを掠める。仮面が、地面に落ちる。
「シオンさん」
幻影を打ち破り、アイリシアは俺の名を呼んだ。




