乙女ゲーの悪役だからって戦闘狂だと思うなよ
さて、というわけで寮を出たはいいものの。
「て言ってもどこがいいのかね? アレムはどこかいいとかあるか」
『何を聞いているか。それを考えるのがお主の仕事じゃろうが』
「……うん。俺も言った後そう思ったけどな」
アレムはこの地に慣れてないってかまともな外出すらこれが初めてだろうし、ましてや趣味だの何だのってのも難しい状態ってのは分かる。だから俺がリードしなきゃならんだろう。
しかしその文句を当人以外の口から聞くことになるとは。
『何じゃ? 保護者同伴では不満か?』
「いや、これはこれで面白いかもな」
たまにはこういうのも悪くない。言うなれば二人の乙女とデートしているのに等しい。となれば男の立場としては歓迎こそすれ反対する理由もないだろう。
『なるほど、妾も乙女扱いと来たか……まあ間違えてもおらんがの。これでも生娘じゃし』
くすくすと可笑しそうにそんな爆弾発言繰り出してきた。いや、意外でもない……のか?
『ま、まあ妾のことはどうでもいいじゃろう』
あ、ちょっと恥ずかしがってるなこれは。
「そうだな。アレムをほったらかしにするわけにゃあいかんよな」
手を差し出す……だけじゃ少し足りないか。その手を少し強引でも取って、繋ぐ。
※※※
というわけでやって来たのは雑貨屋。『幻影の君に愛の祝福を』ではヒロインの部屋を飾りたてる装飾としてその品質は折り紙つきである(?)。
綺麗なガラス細工の小物は見ていて楽しいものだ……たまに値段にたまげるが。
「……ゴーレム……」
どうしたことだろう。ちょっと不満げだった。
「ほら、これなんかどうだ? これは……貝がらか。凝ってるなぁ。幾何学模様の細工が内と外から」
「ゴーレム!」
不機嫌そうに腕を振り上げてくるアレム。
「あぶな!」
何とか死守した。ちらりと値札を見る…………危なかった。本当に危なかった。
「どうしたんだアレム」
『うーむ……さすがにこれに関してお主を責めるのも酷か』
一人ごちているとブリジットが呟いているのが聞こえる。
「どういうことだ」
『まあ乙女心は難しいというところじゃよ……そうさな。色々な意味でいい機会といえよう……イリューシオン』
「何だ?」
『ちょっと表出ろ』
そこまで悪いことした!?
※※※
そうしてやって来たのは人気もない郊外の空き地。
派手に立ち回ってもそうすぐには気付かれまい。まあ幻影魔法があるんだが。
「で、何でこんなことに」
アレムは俺とちょっと離れたところでウォーミングアップに腕をぶんぶん振り回している。風圧がここまで飛んできそうなほどスピーディ&パワフルだった。
『まあ、アレムに出来ることというのはそう多くはないからのう。その中で、お主の役に立つことと言えば、これじゃろう?』
そんな乙女ゲーの悪役だからって戦闘狂じゃあないのよ。
『おや、これは異なことを。お主は力を求めているであろう? バスティア・バートランスから迷宮の主の座を取り戻す力を』
「……分かったような口を利くな」
ついて出た言葉に我ながら暗い感情を込められているのに気付いたが、しかし吹雪く華はそれに気圧されることなく、挑発するように笑う。
『それでよい。アレムも未だ本調子とも言えぬ……が、アレムであればお主の相手として不安はあるまい』
「ゴーレム……?」
アレムは不安そうだった。
「アレムの気持ちはどうなる? アレムだって、好き好んで戦う程好戦的でもないんだろう?」
『お主がそれでどうするか。むしろ、アレムはだな…………まあいい』
今何を言いかけたんだ?
けど、ま……そうだな。
「アレム」
「……ゴーレム……」
「バスティア・バートランスにおわれて、そうしてまたっていうのも酷な話だとは思う。けど、協力してくれたら俺は嬉しい」
「ゴーレム!?」
「アレム、お前の力を俺に示して見せてほしい」
「ゴーレム!」
直後、俺は吹っ飛ばされた(そのままの意味で)。




