三話 不思議な少女との出会い
私はぼんやりと微睡んでいるかのような感覚の中で目覚めた。
全身に力が入らない。瞼が重くて開けられない。私はどうしてしちゃったんだろう? そう、確かローズマリーに捕まって……。
そこで、私は自身の身体が上下に揺れているのに気づいた。それに合わせるかのように鎧の擦れるカチャカチャという音が聞こえてくる。
鎧……そうだ、あの騎士に違いない。ぼんやりとした記憶過ぎて夢かと思っていたけど…………。
と、考えていると急に猛烈な睡魔が襲ってきて、私の思考を妨害する。更に、私を抱き上げているであろう騎士の鎧がひんやりとしていて気持ちがいい。
私は睡魔に抗えず微睡みの中に沈んでいった……。
◆◆◆
:ダンテ・ウォード
俺は今、じめじめとした洞窟のような通路を進んでいる。
俺の名前はダンテ・ウォード。知り合いからは気軽にダンと呼ばれている。
顎と口周りに無精ひげを生やし、紅茶のような赤茶色の髪を短く刈り込んでいる。自分で言うのもなんだが、黒い色の瞳は力強く身体もがっしりと筋肉がついていて身長も高いから、なかなかに凄みがあると思っている。
魔物の皮を加工して作った革鎧に、肩や胸などの場所を金属で補強したものを着ていて、背中には自信の身長より若干短い程の長さがある大剣が斜めに背負っている。
元々は北の地のベッツァニアを治めるウォード男爵家の長男だったが堅苦しい貴族の世界が性に合わず、弟のステリオに全部押し付けて家を出た親不孝者だ。
今は冒険者していて主に遺跡調査の依頼を請け負っている。
遺跡とは今から約五十年前から突如として各地に姿を現している謎の建造物のことだ。当初から多くの人物が研究してきたようだが、遺跡が誰の手で何の目的でどうやって作ったのか何一つ解明できていない。
それでも遺跡を調査する輩は後を絶たない。その理由は遺跡の中には強力な武器や防具、または珍しい道具などが発見されるからだ。これらは必ずあるというものでは無く、たまに発見される程度だが一つでも見つけられれば十年は遊んで暮らせる程の金が手に入る。俺は使えるものは使う派だから有用そうなものは売らずに取っておく。…………まぁまだそんな価値がありそうなものは発見してないが。
「ちょっと、ダン!この遺跡に妖魔巨人の巣があるなんて聞いてないわよ!?」
と、後ろに付いて来ている、右手に長杖を持ちお腹の辺りを紐で軽く留めるだけの簡単な黒色のローブを纏った如何にも魔術師といった風貌の女性が声を荒げて話しかけてくる。
因みにローブの中は濃紺色のズボンに簡単な白いシャツを着ている。
彼女の名前はエリス・ザッハード。五年程前から一緒にパーティーを組んでいる魔術師だ。
無駄な肉を落とした洗練された美しさを感じさせるすっきりとした顔立ちをしていて、まるで森の緑を凝縮させたような深い緑色をした瞳に端が吊りあがった目は攻撃的というよりも猫のような愛くるしさを感じさせる。そして一番目を引くのが腰下まで伸びた金色の髪である。今いる場所に不釣合いな程よく手入れされている髪は、まるで金のベールのように歩いている彼女の後ろにたなびいている。
身長は俺より低く平均的な女性より少し高い。とっくに成長期を過ぎているであろうエリスだが、女性的なな特徴が皆無だ。出ていてほしいところは出ていないし、引っ込むところは……引っ込んでるな。つまり、どこがとは言わないが壁、壁だ。
「少し声を抑えろエリス。近くに魔物がいたらどうするんだ。それにお前だってアルクスの町で情報収集した時に、この遺跡の近くには妖魔巨人みたいなやっかいな魔物はいないって聞いていただろう?」
「うっ……そ、それはそうだけど……」
反論を考えているようだが、目が泳ぎっぱなしで全く反論が浮かんでいないのがわかる。エリスは魔法の腕は一流なんだがたまに抜けてるところがあるからな、と心の中でため息をつく。
こいつと組んでからどれだけため息をついたことか……。それでも一緒にいて嫌な気分にはならないけどな。なんだかんだ馬が合っているのかもしれないな。
流石に見ていて可愛そうになって来たから話題を変えてやることにする。
「しかし、逃げている間に随分と様変わりしたところに出たな」
「そ、そうね。さっきまでは建造物みたいな通路だったけど、ここはまるで洞窟ね。じめじめしてて気持ち悪いわ。さっさと出口を探して抜け出しましょ」
そう、俺達は今遺跡の中で迷子なのだ。
遺跡に進入してからしばらく探索をしていると、突如妖魔巨人が群れをなして現れた。その数は五体。
妖魔巨人は身長が三メートル以上もある巨人で性格は獰猛で残虐だ。その性格から普通は同属同士で群れを作ることはない。たまに自分よりも弱い種族を手下にしていることもあるらしいが俺はであったことが無い。
妖魔巨人は動きは遅い代わりに強力な再生能力がある。腕を切り飛ばしてもすぐに新しい腕が生えてくる。頭を切り飛ばしても同じだ。心臓を突いても死なない。妖魔巨人を倒すには魔法か炎、または強力な酸が必要だ
妖魔巨人は体内の魔力を使って再生しているらしく、魔力の塊である魔法をぶつけると命中した箇所の魔力を乱すことが出来るらしく、魔力が乱れれば再生することは出来ない
炎や酸は妖魔巨人に継続的な傷を負わせることが出来るため、傷が再生してもまた傷ができ、また再生しても……といった具合に体内の魔力を削ることが出来るから最終的には倒せる。
まぁ他にも倒す方法はあるにはあるがおすすめ出来ない。対処できる装備や荷が重いと感じたらすぐに逃げるのが生き残るのには最善の手だと俺は思っている。
もう何回も相手にしてきた魔物だから遅れは取らないが、それは相手が一体の時に限る。
一体なら難なく倒せる。試したことはないが二体同時でも倒す自信はある。三体は……正直に言って俺達には荷が重かった。
だから数回打ち合い、隙を見て全速力で逃げた。さっきも言った通り、妖魔巨人は動きが鈍いから全力で走れば振り切れる。そうして必死に逃げてるうちに探索していた遺跡とは趣が全く異なる場所に出てしまった、というのが現状だ。
携帯食料は二、三日分持ってきているし、水はエリスが魔法で出せるので問題ないのだが出口がわからないのは非常にまずい。
「出口を探すのも重要だが、今はとりあえず休憩できるような場所を探す方が先だ。何回か打ち合ったから剣が刃こぼれしていないか確認しておきたい」
「私もこんなに必死に走ったのは久々だから疲れちゃったわ。それじゃ手っ取り早く探しましょうか」
そう言うとエリスはその場に立ち止まり長杖の石突に素早く魔法陣を構築すると、そのまま石突で地面を軽く打つ。
第四階層無魔法「探査魔力壁」。これは自身の魔力を不可視の球状に薄く広げていき、それに接触した魔力を持たないものを感知する事が出来る魔法だ。
魔力は全ての生き物に少なからず宿っていて、例外はあるが基本的に魔力を持たないのは石や土、加工された木材などの物だ。
探査できる距離は魔力制御がどれ程上手くできるかで大きく変わる。魔力制御はその名の通り魔力の動きを自在に操り制御する能力のことだ。俺は魔法なんて使ったことが無いからわからないが、エリスが言うには編み物をしているような感覚らしい。
エリスなら二百メートルくらいが限界だが、そこら辺の魔術師なら精々百メートル程だろう。この「探査魔力壁」は魔力の大小はほぼ関係無いらしいから、単純にそこら辺の魔術師の倍近くエリスの方が魔力制御が出来るということだ。それだけでも、エリスが優秀なのがわかるな。
俺は相変わらず見事な魔法だと感心しながら、そのようすを見届ける。
「この先に、少し大きめの部屋があるわ。そこなら戦闘もしやすいし出入り口には扉もあるみたいだから休憩するにはもってこいね」
「なら一先ずそこに向かうか」
エリスが頷くのを確認し、俺達はその部屋へ向けて歩き出す。
そこで休憩を取ったら周囲の探索して出口を探さないとな。エリスには負担をかけてしまうが、もう何度か探査魔法を使ってもらうしかない。
◆◆◆
俺たちは何事も無く部屋の扉が見える所まで辿り着くことができた。
道中には横道や小動物が通れそうな小さな穴がいくつかあったが魔物の気配は一切しなかった。液状魔法生物や吸血蝙蝠の襲撃は避けられないと思っていたんだがな。
液状魔法生物はゼリー状の身体を持った魔物だ。大きさはまちまちだが概ね5歳児程の大きさだ。天井などに張り付き通りがかった獲物に覆いかぶさるように襲ってくる。
吸血蝙蝠は見た目はコウモリに見えるがその体格は一回り以上大きく性格は獰猛だ。暗がりから獲物に飛び掛るとその獲物の身体に噛み付き血を吸う。
どちらも遭遇頻度は高いがそれ程脅威になる魔物ではない。
「どうやら中に何かいるみたいだな」
「そうみたいね」
部屋の扉の隙間からはゆらゆらと光が漏れ出している。どうやら中で焚火か何かしているみたいだ。ということは暗闇では視界が確保出来ない魔物の可能性が高い。
「中に突入して魔物の姿を確認し次第、お前の魔法で火を消してくれ。その隙に俺が接近して蹴散らす」
「わかったわ。私はいつでも逃げられるように退路を確保しておくわね」
俺達はエリスが事前に発動しておいた第二階層闇属性魔法「暗闇を見通す眼」で暗闇の中でも昼間のようによく見える。だから、明かりの類が一切無くても問題なく行動することが出来る。もし、中の魔物が暗闇でも行動出来る類でも最低限の条件が対等になるだけだ。
手早く作戦を立て役割分担を済ませると、扉に近づき右脇に俺、左脇にエリスが立ち一度目配せしてから扉を蹴り開ける。
「――どりゃあっ!」
そのまま部屋の中に駆け込み、背負っている大剣を何時でも引き抜けるように右手を持ち柄に掛けたまま魔物の姿を探して周囲を見渡す。しかし、予想とは裏腹に魔物の姿は無く隠れている気配も無い。あるのは火を灯された燭台が部屋の各所に置かれているのみだ。
「…………魔物はいないか。しかし、何で蝋燭に火が灯されているんだ?」
俺は周囲を警戒しつつ、入り口で魔法の準備をしていたエリスの方へ振り返り疑問を投げかける。何者かが近づくと部屋の蝋燭に火が付く仕掛け……も考えられない訳では無いし、そういう仕掛けらしきものがあったなら調べたエリスが知っているはずだ。
「そんなの私が知るわけ無いでしょ。考えられるとすればここにいた何ものかが…………? ダン、あれを見て」
エリスが部屋の奥に向けて指を指す。その方向へ視線を向けると、そこには俺の腰辺りまでの高さがある台座に蓋が無い半ば崩れて壊れている棺がある。遺跡には同じような棺が見つかることがある。誰かに荒らされた後か何者かに壊された後のなのかわからないが、特に何か入っていたり等の情報は今のところ知らない。
しかし、その棺の崩れている部分をよく見ると、人間と思われる素足がちらりと覗いている。大きさからして大人ではない、恐らく子供だ。こんなところに生きている人間がいるとは考えづらい。罠という線も考えられなくは無いが……確認だけはしておくか。
エリスを入り口付近で待機させ、俺はゆっくりと棺に近づく。そして棺を覗き込むと、そこにはあちこちが破れボロボロになった服を着た少女が横たわっていた。よく見ると胸が上下していて呼吸をしている。どうやら眠っているみたいだ。
信じられないが生きているみたいだな……。この部屋の蝋燭のことを考えると、この子はこの部屋にいたであろう誰かに攫われてここに連れて来られた可能性があるな。
「エリス! ちょっと来てくれ!」
待機させていたエリスを手招きしてこちらに呼ぶと、若干後ろを警戒しつつ小走りで俺の後ろまで来る。俺を見上げるエリスの顔は少し眉間に皺が寄っていて辛いのを我慢しているようだ。棺の中が死体だとでも思っているんだろうな。エリスは人の死に敏感なところがあるからこういう状況は居たたまれないんだろう。
「……どうだったの、ダン?」
「そんな悲しそうな顔をするな。とりあえずこの子を見てくれ」
と、俺が棺の中を見るように促すとエリスが恐る恐る覗き込む。そして驚きのあまりその吊り上がった目を見開いている。
「嘘……まだ生きているなんて……だってここは――」
「そう。ここは魔物がうじゃうじゃいる遺跡の中。それも相当に奥だろう。そんなところに横たわっている人間が生きているはずは無い。ましてや子供なんてな。だがこの子は奇跡的に生きている。ここにいる理由はどうあれ、今はこの子が生きているのを喜ぶべきだろう?」
「そうね、そうよね……」
エリスは笑みを浮かべて何度も頷いている。俺もそれにつられて頬が緩んでしまう。しかし、何時までもこうしている訳にはいかない。俺達の置かれている状況はこの子を連れて外を目指す余裕は無い。エリスの反応もわかっているし俺の考えも決まっているが、一応確認だけはしておくか。
「しかし、どうする? 今の俺達の状況だとこの子を護りながら移動するのはかなりの危険を伴うぞ? それにこの子一人でここまで来れるとは考えづらい。となるとこの子を連れて来た奴がいるはずだ。最悪、そいつも相手することになるが…………」
「それでもこの子を連れて行くわ。見過ごす事なんてできないもの。どうせ貴方だってそのつもりでしょ?」
「まぁな」
そう言って俺がニヤリと笑うと、エリスが「それなら聞いてこないでよ」と呆れた表情で笑い返してくる。
「さて、と。この子を連れて行くのは決定として、その方法だが……」
「誰かがこの子の護衛として付かないとダメよね。って言っても今は2人しかいない訳だから必然的に後衛の私よね――」
「あ、あの……」
俺とエリスが話し合っていると突然声を掛けられた。声のした方へ顔を向けると、棺の中で眠っていた白髪の少女が眠そうな半開きの金色の瞳で俺達を見ていた。
「おっ、目が覚めたのか、お嬢ちゃん」
「何処か痛いところとか違和感があるところとか無い? 大丈夫?」
「い、いえ、あの…………大丈夫です………………」
完全に目が覚めたようすの彼女だが、その顔は人見知りする性格なのか何か怖い思いをしたのか恐怖が色濃く浮かんでいる。……まぁ起きたら見ず知らずの二人組が目の前にいたら誰でも怖がるか。とりあえず、会話は出来てるしざっと見た感じも外傷は無いから身体の方は大丈夫そうだ。
エリスもその事に安心したらしく、少女の方を見ながら微笑んでいる。
何時までも棺の中にいさせるのは流石にかわいそうだから適当に座ってもらうか。それと服を何とかしないとな。ボロボロの服のままは恥ずかしいだろう。
そう思っていると、エリスが少女を手を取って棺から出してあげてから自身が着ているローブを脱いで、少女の後ろに手を回して着せる。少女はその気遣いに少し戸惑い気味だがお礼を言っている。
エリスも一応女性だからそこら辺は俺より気が付くのは早いか。
俺とエリスはその場に適当に腰を下ろしてから少女にも適当に座るように促し、座るのを確認してから再び口を開いた。
「さて、と。先ずは自己紹介からするか。俺の名前はダンテ・ウォードだ。これでも一応貴族の出だが堅苦しいのは苦手でな。気軽にダンって呼んでくれ」
「私はエリス・ザッハードよ。エリスって呼んでちょうだい。身なりからわかると思うけど魔術師をしているわ。専門は攻撃魔法だけど、少しは治療魔法も使えるから怪我したら遠慮無く言ってね」
「は、はぁ……わ、私はエステリーゼ。エステリーゼ・エルトナと申します。度々お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
エステリーゼと名乗った少女は座ったままペコリと頭を下げる。
初めはただの村娘か何かかと思ったが、それにしては言葉使いが整い過ぎているな。まるで貴族みたいだ。まぁ確認するだけなら警戒されない……よな?
「エステリーゼか。いい名前だな。ところでエステリーゼちゃんは貴族の出だったりするのか?」
「…………よくお分かりになりましたね。はい、一応は貴族……の出ではあります」
「やっぱりそうだったか。やけに言葉使いが整っていると思ってな」
「なるほど、そういうことでしたか。納得しました。それと、出来ればちゃん付けはやめてもらえませんか? 私のことはエステルとお呼びください」
「ん? ああ、そういうことならエステルって呼ばせてもらおう。あとそんな硬い言葉使いしなくても大丈夫だぞ。俺達は特にそういうのは気にしないからな」
外見的にあと二、三年で一応成人だろうからちゃん付けはいやか。
しかし、エルトナ……どこかで聞いたような……。うーむ、思い出せない。まぁ思い出せないってことは大したことでは無いんだろうな。
そう結論付けるが念のために頭の隅には留めておく。
「では、お言葉に甘えまして。ところで、その……あなたたちは何なんですか?」
エステルが少し言葉に詰まりながら恐る恐る質問してくる。
こちらも色々と聞きたい事があるが、まずは現状を理解してもらうのが先だな。
「俺たちは冒険者さ」
「冒険者?」
「何だ、知らないのか? 冒険者ってのは魔物退治や護衛、薬草採取とか、色々な依頼をこなす……まぁ言ってしまえば何でも屋みたいなものだ」
「魔物……」
この反応からして魔物のことも知らないらしいみたいだな。
冒険者はまだしも魔物のことを知らないなんてことは普通ありえない。一体どこの箱入り娘だ?
「私たちは近くにあるアルクスの町の領主に依頼されてこの遺跡を調査しに来たのよ」
「遺跡?」
エステルは今まで気付いていなかったようで周囲をキョロキョロと見回し始めた。
今いる部屋はここに来るまでに通ってきた洞窟のような通路とは違って、建物の一室のように整備されている。と、言っても所々崩れていたり罅が入っていたりとボロボロだが……。
「遺跡は今から五十年程前に各大陸で急に発見されるようになったものよ。丁度、同時期に魔物が数多く出没するようになった事から、遺跡は魔族と関係があるものではと言われていたりするけど、未だにこの遺跡が何なのかわかって無いわ」
エリスの説明を聞いたエステルはやはりこちらも知らないようで首を傾げている。
魔物も知らないお嬢様が遺跡なんてものを知っているはずも無いか。
「色々と知りたいことはあると思うが話を戻そう。俺たち冒険者は依頼人からギルドという組織を通じて依頼を受ける。エリスが言っていたように、俺たちはアルクスという町の領主から依頼を受けてこの遺跡を調査しに来たんだ。
遺跡には魔物が住み着いてるからな。俺たちみたいな専門家に依頼するんだ。で、その調査の途中であの棺の中で横たわっているエステルを見つけたって訳だ」
「依頼……遺跡の調査…………」
俺は棺を指さして経緯を説明すると、それを聞いているエステルは何やら難しい顔をして考え込んでいる。
「それで、だ。エステルはなんでこんな場所にいるんだ?」
「そのことですけど、実は私にもよくわからないんです。確か森の中で…………っ。いえ、よく覚えてないです。すいません……」
一瞬、エステルが何かに怯えたように見えたが気のせいか? 問い質すか……いや、どうせ今は答えてくれないだろう。今言わないということはそういうことだ。
「そうか……。何か思い出したら俺かエリスに言ってくれ。誰かに連れて来られた可能性もあるから少しでも危険は減らしておきたい」
「わかりました」
ある程度の信頼は得られたようだし、続きはもっと信頼関係を築けてからだな。
とりあえず武器・防具の点検をしながらでも、これからの行動について話しておかないとな。