二十四話 冒険者組合
「送ってい頂いてありがとうございました。私一人だったら辿り着けなかったと思います……」
「いやー、お礼を言われるようなことは何も。ただ、僕達もこっちに用事があっただけで、お礼らしいお礼も出来てないから…………。あ、そうだ! もし、何か他に困ったことがあったら何時でも力になりますんで、遠慮なく頼ってください! なあ、リース!」
「はい! 私達に出来ることなら協力させて頂きます!」
「その時は是非、お願いしますね」
そう言って、冒険者組合の道を挟んだ向かい側まで送ってもらった私はピティアさんとリースさんの二人と別れた。
そういえば、二人がどこに住んでいるのか聞くのを忘れた……。これじゃ頼ろうにも頼れないや……。
まぁでも、縁があればまたどこかで会えるかな。と軽く捉えることにする。
二人の姿が見えなくなり、視線をすぐ向かい側にある目的の冒険者組合へと向ける。
冒険者組合とは、ざっくり言ってしまうと仕事の斡旋所のようなものだ。
登録して冒険者になると、冒険者組合が斡旋している仕事を受けられるようになり、それを熟して報酬を得る。
他にも色々としているみたいだけど、今それらは関係ないので考えから除外する。
そこには、風格がある――悪く言えば古臭い――鳥の片翼と剣が交差しているものが描かれた盾のエンブレムの看板が正面入り口のすぐ上に取り付けられている、六階建てで今まで城以外でこれ程まで大きなものを見たことが無いと言い切れる程のとても大きな建物が燦燦と日の光を浴びて聳え立っていた。
その外観は、話に聞いていた冒険者の斡旋所とは到底思えない砦のような、武骨で若干威圧感を感じるものだ。
しかし、よく目を凝らせば全く継ぎ目の無い滑らかな外壁には、所々木材――恐らく普通の木材では無い――を使い周囲に放つ威圧感を多少緩和している…………気がする。
実用性という武骨さの中に散りばめられた建築者の意匠が窺える…………気がする。
正直に言えば、建物のデザインのことなんて王城図書館にそれ関係の本が無かったからさっぱりわからない。
それから少し冒険者組合を眺めた後、視線を目の前に広がる人の激流に向ける。
お昼を過ぎたからか、多少は人数が減ってる気がするけど、十分に再び遭難する自信がある。
(なんだか行くのやだなぁ……)
げんなりとする気持ちを頭を振って追い出すと、折角ピティアさんとリースさんがここまで送ってくれたんだから、と意を決して人波を突き進む。
何度か肘鉄を受けつつも、何とか入り口前まで辿り着くことが出来た。
中に入ると、そこには屈強な肉体を持つ数多の戦士や威厳ある立ち姿の魔術師などが犇めいていて、何やら紙が貼り着けられている掲示板に群がっていたり、数ある受付に並んでいたりと、その人の多さと勝手のわからなさにその場でたじろいでしまう。
今日、この冒険者組合に来たのには、ベンデンスさん達への挨拶の他に冒険者としての登録をしようと思っているのだ。
それには訳がある。基本的に武具の類の購入にはどうやら許可が必要らしく、一般人がまともな武具を買おうとすれば、その許可をもらうのに五日から九日くらいかかってしまう。
何時襲ってくるかわからないアイリア教の刺客に、流暢に魔法陣を描いてる訳にはいかないから、咄嗟に攻撃なり防御なり出来る実体の武器が欲しいのだ。
しかし、さっきも言った通り、一般人は武具を買うのに最低五日はかかり、アルの通学開始は三日後……。そこで出てくるのが、冒険者登録だ。
冒険者には通行料の免除や宿屋の割引などの様々な優遇処置があって、その中に『武具の購入に許可が不要になる』というものがある。
これを使えば許可をもらうのに五日かかるところを一日もかからずに武具を購入することが出来る。
アルの話だと、登録には半日もかからないとのことだったので、手早く済ませて武器を入手しようという魂胆だ。
もちろん、アルには登録の話を出した時点で、武器を購入する旨を伝えてある。そのためのお金も必要経費とのことでもらっている。
何時までも入り口で突っ立っている訳にもいかないし、なんだか周りの視線が妙にこそばゆい……。
と、とりあえず、適当にあの列に並んで受付に聞けば大丈夫……だよね?
怖ず怖ずと手近な受付の列の最後尾に並び、何故か集中している好奇の視線に耐えながら、早く順番が来ることを願い、待つ。
それから十分程経ち、他の受付の列はどんどん進んでいるのにも関わらず、私に対する嫌がらせなのか、私が並んでいる列だけ遅々として全然進まない。前にいるおじさん――恐らく冒険者――もこの状況にイライラしているようすで、時折舌打ちが聞こえてくる。
流石にここだけこんなに遅いのはおかしい。そう思い、身体を傾けて受付の方を見ると、私よりも如何にも仕事に慣れてません、といった具合に右往左往している女性が見える。
道理で他よりも進みが遅い訳だ……。このまま、この列にいても私の番が回って来るのは相当後になってしまうのは目に見えている。ここは他の列に並び直して……。
しかし、私の考えは私よりも後ろに並んでいた人達全員同じようで、気が付けば後ろには人っ子一人おらず、他の列は長蛇の列になっていた。
「………………このまま待つしかないかな」
さっきまでの好奇の視線は、今はこの列の先にいる職員の女性に幾分か向いているので、少しだけ居ずらい気持ちが緩和された気がするし、時間にもまだ余裕があるから大丈夫。
と、思っていた私を怒鳴りつけたい。
あれから一時間。他の受付の長蛇の列は全て消化され、今は時折来る新たな冒険者が疎らに並んでいるだけ。どうやら、お昼の混雑時に来てしまったみたい。そんな状況になってやっと私の順番が回って来た。
もう何だか疲れた……。ただ並んでいただけなのに疲れた……。
「よ、ようこそ冒険者組合へ!? ほ、本日はどのようなご用件でしょうか!?」
蜂蜜色の瞳に疲労の色を見せる職員の女性は、それでも私に屈託のない笑顔を向ける。
私よりは年上のようだけど、未だに幼さが残る顔立ちは、きっちりとした白色のシャツに黒の蝶ネクタイ、ズボンという冒険者組合の制服を着ているというよりは制服に着られているような気慣れていない印象を受ける。
本来なら鮮やかな蜜柑色のロングヘヤーは、今はどこか元気が無くくすんでいるように見えてしまう。
そして、頭頂部付近から天を突くように伸びる純白の毛に覆われた兎の縦長の耳は、彼女――兎人族の女性職員の疲労を現すように半ばから力なくへたり折れている。
「あの、その、冒険者の登録をしたいんですけど……」
「と、登録ですね!? わかりました、書類をお持ちしますの少々お待ちを」
そう言って席を立ち、蜜柑色の髪を棚引かせながら、奥へと書類を取りに行く彼女の後ろ姿になんだか哀愁のようなものを感じてしまう。
たぶん、応対に忙しくて昼食もまだ摂って無いんじゃないかな。と他の受付は交代しているのに未だに仕事をしている彼女に、一人申し訳なさを感じる。
「お、お待たせいたしました。登録の前に関係書類や登録の流れなどを一通り説明させて頂きます」
しばらくして戻って来た兎人族の女性職員は、私の前に二枚の紙を差し出してから説明を始めた。
兎人族の女性職員メリンダさん――左胸の小さなネームプレートにそう書かれていた――の説明は意外と長かったので要約すると、死亡時の補償や非常時の緊急招集に関しての契約書と、得意分野や使用武器などの情報を登録するための登録書を記入した後、別室で実技試験を受ける。それに合格したもののみ、次にある冒険者の心得や注意などの講義を受け、晴れて冒険者になれるとのこと。
例え実技試験に落ちても書類は提出されているから、次回は実技試験からの開始になるようだ。
それからさっさと契約書、登録書を書き終えた私は、メリンダさんに案内されて建物内にある大きな一室――訓練場へと向かった。
開きっぱなしになっているドアを潜ると、そこには私と同じで試験を受けるために九人の男女――私よりも何歳か上の人が多い――が、そわそわと落ち着かなさげに集まっていた。
「では、エステルさん。試験官が来るまで、この部屋で待機していてください。頑張ってくださいね!」
最後に応援の言葉と笑顔を残して訓練場を出るメリンダさんを見届けた後。誰もいない隅の方で壁に背中を預ける。
さっきの受付程では無いけど、ちらちらと視線を感じるなぁ。はぁ~、とため息をついて試験官が来るのを待っていると、受付の時とは違い、すぐに二人の試験官が入って来た。
「待たせてすまない、これから試験を始める! くれぐれも無茶な魔術の行使や武器の扱いはしないように!」
「では、まずは持ち込みの武器を持っていないものは、あそこにある武器を好きに使ってもらって構わん。一応、一般的な種類の武器は一通り揃えてある。自分の手に合うものを選ぶといい」
最初に声を張った中年の試験官と、武器云々の話をした髪も髭も真っ白なおじいさん――背筋がピンとしていて遠目からではおじいさんには見えない――の指示に従い、四人が恐る恐るといった感じで、多種多様な武器が置かれている一角へと移動を始める。どうやら、殆どの参加者は武器を持参しているようだ。まぁ練習とかで使ったりしているだろうから持っていても不思議では無いけど、少なくとも私が知る限り、ただの一般人が剣やら槍やらを持っていることは無かった。これも、魔物が蔓延るようになった影響かな。
私も武器は持ってきていないので刺剣と短剣を取りに四人の後に続き、適当な刺剣と短剣を手に取ってさっさと戻った。
「全員武器は持ったな? では今から試験を開始する!」
中年の試験官が声を張り上げてそう言うと、部屋の最奥の壁に沿うように置かれていた数個の木箱の蓋がバンと勢いよく開く。
そして、中から木製のマネキンが独りでに飛び出てくる。それに続けと言わんばかりに、続々と軽快に飛び出してくる同型のマネキン達。その数は十体。丁度、受験者の人数と同じだ。
人のように滑らかに動くそれらに、思わず目を見開く。
あれは『創られし土塊の巨人』の応用かな? でもあれは第八階層に相当する魔法だったはずだ。そんな深い階層の魔法をそうそういじれる人なんていないと思うし、それに『創られし土塊の巨人』の召喚数は三体が限度だったはず…………。
まぁ何にしても、あれがすごいものだということは確かだ。それをこんな試験に使うなんて、それだけ冒険者組合の人材と資金は豊富、ということかな。
「全員武器は持ったな? では今から試験を開始する!」
「試験内容は既に察しているものもいると思うが、あの人形――魔道具『パペッティア』を相手に一対一で戦ってもらう。パペッティアは基本的に人を傷つけることは出来ない。だから、別段勝ったからといって合格する訳では無い。私達は君達の武器裁きや立ち回りなどを重点的に見ている。何時も通りに、あまり気張らないことだ」
あれが魔道具!? 魔力灯とか発火機とか以外に、今はあんな魔道具もあるんだ。それなら何体も用意出来るはずだ。
魔道具は基本的に魔石を核に魔力で動く道具のことを指す。アルの屋敷にあったシャンデリアも魔石を使っているから魔道具ということになる。
「と、いうことだ! 試験は一人ずつ行ってもらう! そうだな…………まずはそこの白髪の君からだ!」
「えっ、わ、私ですか?」
「そうだ! 君、名前は?」
「エ、エステルです」
「では、エステル君。準備が出来次第、前に出て来てくれ!
思わぬ一番手指名に動揺している私を尻目に、残りの人達は大雑把に一列を作っていく。
流石に気張るとか意気込みを持って来てる訳じゃ無いからしないけど、こう人目があるとなんだか変に緊張するなぁ…………。
そんなことを思いながらとぼとぼと前に出ると、一体のマネキンが私と対峙する位置へ躍り出てきた。
「では、一人目の試験を開始する! 受験者は武器を構えて!」
「むっ……………………!?」
指示に従って、刺剣を持った右手と右足を軽く後ろに引き、左手に持った短剣を前に突き出す、独特な構えを取る。
おじいさんが何やら言いたげだけど、特に何も言ってこないので、無視して目の前のマネキンに集中する。
「準備はいいな? では――――始めっ!!!」
ちょっと忙しくなるので、次回の投稿は16日以降になりそうです。




