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十八話 変わるもの、変わらないもの


「ふぅ。お腹いっぱい……」


 アルに屋敷の中を案内してもらった後、護衛の労いで今晩だけこの屋敷に泊まることになった【明星(あけぼし)】の四人とアル、私で夕食を頂き、私は宛がわれた二階の部屋のベッドに仰向けで大の字に寝転がっていた。

 夕食の後にアルにカナンハンのこととか図書館のこととか色々と教えてもらいに行ったら、「今日は僕もゆっくり休みたいから、これからのことは明日話そう?」と、馬車内でよく眠れなかったのか目の下に若干隈が出来た顔で言うアルの姿を見て逸る気持ちを抑えてその提案を受け入れた。

 無理を言ってカナンハンまで連れて来てもらって、屋敷にも当面の間泊めてくれるというアルに平然と追い打ちを掛けられる程、私の神経は図太く無かった。

 

「まだカナンハンに着いてから一日も経ってないから急ぐ必要も無いよね……?」


 自分に言い聞かせるように虚空へ問いかける。

 ぼっと天井を見上げると、部屋の中央に吊るされた四方に魔力灯が取り付けられたシャンデリアが視界に入る。扉の近くの壁にある四角い形の小さな感知盤に触れれば、魔力をため込んだ魔石からシャンデリアに魔力が流れて魔力灯に明かりが灯ると部屋まで案内してくれた使用人の女性が教えてくれた。

 王城だと魔術師が一々灯して回らないといけなかったのに、と思わず感心してしまった。

 魔石とは薄紫色をした透き通った結晶のことで魔力を内に溜め込めるという特異な性質と、発掘される数が少ないということも相まってかなり高値で取引されていた。たかが一室のシャンデリアに使われるようなものじゃ無い。

 これについても調べる必要がありそうだね、と頭の中の調べる項目に追加する。


 本来なら部屋を照らし出す役割のシャンデリアは、今は明かりが灯されていない。部屋の窓から差し込むはずの月の光も雲に遮られているようで、まさに部屋は真っ暗状態。

 そんな状態でもシャンデリアがくっきりと見えてしまうことに苦笑が漏れる。

 昔は夜は静かで好きだったけど、今は自分が人間じゃ無くなったということをどうしようもなく実感してしまうからあまり好きじゃない。それに、人の殆どは夜は眠っているので、夜中に行動するのは目立ってしまうから暇を潰すのにも苦労する、ということもある。

 馬車旅の最中は本当にこれに苦労したなぁ…………。

 だけど! それも今日で終わりだっ!!


 ガバっとベッドから飛び起き、近くに置かれた丸型のテーブルの上に積まれている一番上のものに手を伸ばす。

 手に取ったそれはアルから借りた茶色い表紙をした本だ。題名は『心を持ったゴーレム』という変わった内容のものだ。五十年前は紙が貴重だったから本は高価なものだったけど、アルの話だと今は一般市民でも普通に買えるくらいまでの価格になっているらしい。

 暇が出来たら町の本屋に行ってみよう。………………その前にお金をどうにかしないといけないかな。

 そんなことを考えつつ、ベッドの縁に腰を下ろし本を開いて読書に耽る………………。


 

 アルから貸してもらった本は全部で五冊。それを全て読み終える頃には太陽が昇り始め、窓から陽の光が差し込んでいた。


「ん…………。もうそんな時間かぁ」


 読み終えた本をベッドの脇に置いて立ち上がり、長時間同じ態勢でいたせいで固まった身体を解すようにぐっと伸びをする。


「っ、ふぅ。とりあえず『浄化(クリーン)』で綺麗にするかな……」


 今着ている服は馬車旅が始まった時と同じものだ。寝間着も用意してもらってるけど、寝ないのに寝間着に着替えるもの面倒で馬車旅初日の夜にしか着ていない。

 毎日同じ服というのは女の子としてあまり好ましくないんだろうけど、生憎と私はそういうことは全く気にしない。ボロボロの服は勘弁したいけどね。

 王城ではそんな私の代わりにマリアが服を選んでくれてたっけ……と二度と戻らない懐かしい光景が浮かぶ。


 胸を締め付けるような悲しみに似た何かを感じながら、手早く「浄化(クリーン)」で服と身体を綺麗にすると、唐突にぐ~とお腹の虫が鳴いた。

 一日中起きているからなのか、眠れなくなってからやたらとお腹が空いて仕様が無い……。

 使用人の人達はもう起きて仕事を始めているだろう。簡単なものならすぐに用意してもらえると思うし、アルには悪いけど先に朝食を摂らせてもらおうっと。

 部屋の出入り口の扉へ向かう途中、ふと化粧台に取り付けられた姿見に――そこに映る自分の姿に目が行く。

 全てを拒絶するかのような真っ白い髪は相変わらずだけど、肩に掛かるか掛からないかぐらいだった長さは少し伸びて肩に掛かるくらいになっている。そして決定的に前と――ガルザーと戦う前と違うのは血のように紅く染まった両の瞳。

 王城にいた時の私の容姿を知っているものからすればエステリーゼには間違いなく見えない。

 この変化に気づいたのは村で目が覚めてからすぐだった。気づいた時はそれなりに驚いたけど、力を求めた時にある程度覚悟していたことだったから、母との繋がりが絶たれたことに対する悲しみ以外はこれといって感じなかった。

 今は自分の姿を見る度にあのローズマリーの姿がちらつくのが癪に障るくらいだ。


 多少乱暴に視線を姿見から外し、扉を開けて廊下に出る。

 屋敷の中央部分にある階段を下り、途中で見つけた使用人の人に朝食を頼んでから一階にある食堂に向かった。

 蔦が絡みついているような彫り物がされている食堂の扉を開けると、まだ起きていないだろうと思っていたアルが外がよく見える一番奥の私から見て右側の席に着いて、紅茶が入ったティーカップを傾けている姿が目に入る。

 私の存在に気が付いたアルが口からティーカップを離し、それをソーサーの上に音を立てずにそっと置くと、目を細めて微笑む。


「おはよう、エステル。昨日はよく眠れた?」

「う、うん。よく眠れたよ。アルもすっかり目の下の隈が取れてるみたいだね」

「え? そ、そんな隈なんてあったんだ……全然気づかなかった……」


 若干恥ずかしそうな苦笑を浮かべ人差し指で頬を掻くアルを横目で見ながら移動し、アルの向かい側の席に着く。

 再びティーカップを口に運び傾けるアルに率直な疑問を尋ねた。


「こんなに朝早く起きて何してるの? それとも貴族は全員こんなに早起き、とか?」

「他の貴族がどうかは知らないけど、僕は鍛錬があるから」


 「小さい頃からの日課なんだ」と話すアルの表情はどこか懐かしい光景でもみているかのような雰囲気を感じた。

 なんでもアルの家――ミューゼル男爵家は武官よりも文官を多く輩出して来た家系で、その中で唯一、飛び抜けて武の――魔法の才能があったアルは幼い頃から魔法・魔術学や剣術、武術を教え込まれてきたらしい。

 その頃から朝早くから稽古をしてきて、今ではそれが日課なのだと。

 私のイメージは偏っているものだと思うけど、貴族は偉そうに踏ん反り返っているイメージしかなかったから少し意外……。

 きっと私が知らなかっただけで、こうやって稽古をする貴族もいたんだろうな、とアルを見ていると思う。


「そうだったんだ。でも、見た目は全然そんなことやってる風には見えないよね。筋肉ついて無さそうだし」

「ははは、よく言われるよ…………。今朝も稽古中にアーレスから『アルベルト様はもっとお身体を鍛えねばいけません』、なんて言われたばかりさ」


 なんだかんだと話が弾んでいると、扉を叩く音の後に「失礼します」と声を掛けて女性の使用人が私の朝食を運んできてくれた。どうやらアルはもう済ませてしまったみたいだ。紅茶の御代わりを頼んでいた。

 小麦色の透き通ったスープに、オムレツ、ベーコン、更にサラダまでついている。パンも焼きたてのようでふかふかだ。

 お腹の虫が鳴って恥ずかしい思いをする前に、その朝食に手を付け始める。

 最初に手を付けたのはオムレツ。実はオムレツは私の好物なのだ。あのふわふわした触感に口の中でとろけて広がる卵の滑らかな甘味。初めて食べた時からその美味しさに病みつきだ。

 ナイフとフォークで真ん中からざっくりと割って一口サイズに切り取ったオムレツを口に運んで頬張る。

 あぁ……オムレツは相変わらず美味しいなぁ……美味しすぎる……。

 思わず口端が上がり表情が崩れてしまう。そんな私をアルは御代わりした紅茶を飲みながら優しい表情を浮かべ眺めていた。


今回は日常(?)回でした。次から話が進みます!

こういうちょっとした会話とかもっと上手く書けるようになりたい……。

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