十四話 決意
区切るに区切れず、二話分くらいの八千字以上になってしまいました。(汗
それと「想像されし強靭なる武器」の名前を「想像されし魔の武器」に変更しました。
ルビがふれなかったんです……。
現れたそれはまさにおとぎ話に出てくる鬼だった。
身長は妖魔巨人では無いが、それでも三メートルに届きそうなくらいはある。肌は炎のように赤く、筋骨隆々なその体躯は刃などはじき返してしまいそうなくらい硬質に感じる。
顔の特徴は小人鬼に酷似しているが、下顎から伸びる二本の牙は比べ物にならないくらい太く鋭い。額から天を穿つように伸びる螺旋を描く二本の角に黒色の髪を後ろに棚引かせている。
身体には鎧の類が一切無く、一枚の布を羽織り身体の前で上下に重ね、腰辺りに巻き付けた帯を結んで留めている見慣れない服のみだ。右手には素人目でもわかる程よく手入れされている巨大な鉈を持ち、今はその切っ先は下げられている。
咆哮から感じた荒々しさを全く感じさせない立ち姿は、どこか武人然とした雰囲気を感じさせる。
狩人風の男が言っていた魔物――大赤鬼だった。
その姿に一同は息をのみ視線を逸らさず、ピクリとも動かない。いや、動けない。小人鬼を切り捨てた手練れと思われる騎士でさえ動けないでいる。
私もその大赤鬼を目を離せないでいる。が、動けない理由は別にあった。
あ、あんなのに勝てる訳無い! 今まで見た魔物と格が違い過ぎる!
あの自信溢れる顔をこの手でぐちゃぐちゃにしてやりたい!
この間まで命のやり取りなんてしたこと無かった私が、今こうして魔物と戦ってるのがそもそもおかしいんだ……
闘いたい! 壊したい! 殺したい! 私の目の前に這いつくばらせて、惨めったらしく死んでくさまを見てみたい!
……なら逃げよう……そうだよ逃げればいいんだよ。私だけなら逃げられるはず。私だけなら……
あぁ、想像しただけで楽しくなっちゃうなぁ~。早く殺そう、今すぐ殺そう! まずは逃げられないように脚から切り落とそう! それから……
まるで自分の心が人間の心と吸血鬼の心とで別れて、好き勝手なことを言っているような、自分が二人になったような感覚に気持ちが悪くなる。視界がぐらぐらと揺れ、自分が立っているのか倒れているのかすらわからない。
それでも、頭の中では今も二つの心が言いたいこと言い合っているのが嫌なほど鮮明に響いている。
私は自分の意志でここに来た。魔物がいることだってわかってたし、私が役に立たないかもしれないこともわかってた。
それでも……吸血鬼の本能に多少流されたかもしれないけど……確かに私の――人間の私の意志でここに来たはずだ。
それなのに今のこの状況はなに? 一つの心は逃げたいと泣き言を言い出し、もう一つの心は殺したいと喚き散らしてる。私の決意なんて何処にも微塵も残って無い。なんて軽くて脆い決意なんだろう……。
私は一体何がしたいの? こんなことに顔を突っ込んで、結局動けないでいる私は…………。
私が思考の海に埋没している間にも状況は刻一刻と進んでいく。
大赤鬼はその見つめると吸い込まれそうになる深く黒い瞳で、まるで値踏みするように横転している馬車の方から一人ずつ順に視線をずらしていく。
そして、全員の値踏みが終わると、ふんっと鼻を鳴らし、二本の大きな牙が飛び出している恐ろしい口を開いた。
「部下が取り逃がしタ、と聞いて退屈しのぎになるやもしれヌ、と思ったガ、とんだ期待外れだったナ。赤毛に金のヒトミ、の小娘も見当たらヌ、では主様に申し開きが出来ヌ、では無いカ」
たどたどしいが言葉を話す大赤鬼に、私以外の人たちは驚愕の表情を露わにする。
私にとっては言葉を話すことよりも、その内容にまるで頭を殴られたような衝撃を受けた。
赤毛に金の瞳……この魔物は私を探している? それで、この人たちを襲った?
つまり、私が、こんなところにいるから、手当たり次第に、人間を、襲ってるってこと……?
ダンさんとエリスさんは巻き込んでしまったけど、なるべくなら他人を巻き込みたく無い。そんな風に考えていたのに、私の知らない場所でこうして私の事情に巻き込まれてしまっている人たちがいる……。
でも……でも、私にはどうすることも出来ないよ! だって私は非力で……私には力が無くて………………あっ。
気づいてしまった。
私を探している者達に対する怒りや、巻き込まれてしまった人たちに対する謝意よりも先に、言い訳をしている自分に。
今思えば私は散々言い訳をして逃げて来た。舞踏会だって、そのための稽古だって、父のことだって、そして自分のことだって……。貴族は私に興味が無いからと、それなら稽古だっていらないと、父は私のことが嫌いだからと、自分は平民との子だからと。
マリアが私を残して敵に向かっていった時も、マリアが生きてと言ったからと言い訳をしてあの場から逃げた。私が助けに行ったところで単なる足手まといにしかならなかっただろうけど、私は最も大切な人を置いて逃げたんだ。もしかしたら、マリアと一緒に逃げることだって出来たかもしれない。
そして、今もまた言い訳をして逃げようとしている……。
私は瞬きを忘れてしまったかのように見開いたままの目を瞑り、意識を心の内側に向けた。
そういえば、私が王城に来て一年が経った頃に、マリアになんで私なんかに付いていてくれるのか尋ねたことがあったっけ。
その時、確かマリアは――
「人は生まれた時から責任を負うんです。そして、長く生きれば生きる程に大小様々な責任が積み重なっていくんです。小さな責任を果たすのは簡単ですが、責任が大きくなればなるほど難しくなっていきます。時に迷い、悩み、辛い思いもすれば、苦しい思いもする。責任から逃げるのは簡単です。ですが、私はその責任からもう逃げたくないんです……もう二度とあんな…………はっ!? こ、これじゃ答えになっていませんね……申し訳ありません、エステリーゼ様」
その後も何度か同じことを尋ねたけど、何時もはぐらかされたっけ……。
あの時、マリアが何を思い、何を考えていたのかはわからない。けど今はその言葉の意味だけは何となくわかる気がする。
私には今、目の前にいる私の事情に巻き込まれてしまった人たちを助ける責任がある。それが例え自分の意図したことじゃ無かったとしても。
だから、逃げることしか考えてない心なんていらない。ただ、殺したいと喚き散らすだけの心なんていらない。
今必要なのは立ち向かう心。立ち向かえるだけの力。
例えこの身が完全に人間じゃ無くなったとしても、今この瞬間、別の場所で理不尽に殺されているかもしれない人たちに比べたら何のことは無い。
この身体に流れるローズマリーの血よ! 力を寄越せ! 私の人間の部分を全て喰らってもいい! だから力を!!
その思いに呼応するかのように、心臓から全身に向けて煮えたぎるような熱い血が巡っていくが、それとは逆に、肌はまるで生気が感じられない病的な白さに変っていく。
全身を熱い血が巡りきった時、瞑っていた目を開くと、まるで蜥蜴のような縦に割れた瞳孔に、金色の瞳では無く血のように紅い瞳が薄っすらと光を放っていた。
その姿は、あの夜に遠目に見たローズマリーに瓜二つだった。
全身に満ちる膨大な魔力……それでもあの大赤鬼に勝てる姿が浮かばない……それでも! マリアがそうしたように、私ももう逃げない!
刺剣を握った右手に更に力を籠めて握り直し、脚に魔力を集中させる。
感じる。今の身体は人間とは違って魔力で動いている。魔力を集中すればするほど力が跳ね上がる!
脚に集中した魔力を地面を蹴りだすと同時に開放し、大赤鬼に向けて跳躍する。
「ヌッ!?」
大赤鬼がこちらに気づき、咄嗟に左腕を横に振りぬいてくるが、それよりも私の方が速い。
腕を振り切られる前に懐に飛び込むと、左脇腹を刺剣で左から右に裂くように振るう。が、その皮膚はまるで巨大な岩のようにびくともせず、私の拙い魔力で創り出した刺剣では薄皮一枚程度しか斬れない。逆に刺剣を握っていた右手が痺れてしまう。
そのまま大赤鬼の背後に抜け、再び跳躍。今度は右脇腹を刺剣で突き刺す。が、結果はほぼ同じで多少刺さりはするものの肉にまでは達しない。
硬すぎて全く刃が通らない!? 折角のチャンスだったのに……これじゃいくら斬りつけても意味がない。どうする……どうしたら……いや、こいつを倒すのは後で考えよう。今は騎士達とあの貴族を逃がす方が先!
大赤鬼を一周するような形で再び道に帰って来た私は騎士達を背にし、大赤鬼と対する。
「騎士さんたち! 私がこいつを足止めするから、その間に逃げて! 早く」
怒鳴るように叫んだ私の声を皮切りに、固まっていた騎士達は弾かれたように動き出した。
それを横目で確認すると、視線を大赤鬼へと戻す。
私が斬りつけ突いた箇所を手で触って確認しているみたいだけど、ダメージの確認というよりは何をされたかの確認みたい。
しかし、こうまじまじと見ると凄い威圧感を放っている。まるで城壁がすぐ目の前にあるような……そんな風に感じてしまう。
「よもヤ、このオレが小娘程度に傷つけられるとハ……。面白イ。暇つぶしにはなりそうダ」
そう言って右手に持った大鉈を肩に担ぎ、身体の左側を私に向ける半身の構えをとる。
私は逆に身体の右側を相手に向け半身に構えて腰を軽く落とし、右手に持った刺剣の刃先を相手に向けたまま顔の左頬近くまで持ってくる。
あの大鉈を肩に担いだってことは、隙の大きな大振り――皮膚の硬さを活かした防御を考えない攻めで来るってこと?
確かに、私の攻撃じゃ全くダメージを与えられないから防御なんて考える必要は無い……それとも遊んでる? 暇つぶしになりそうとか言ってたし、もしそうならまだ反撃のチャンスはある!
一触即発のピリピリとした雰囲気の中、後ろの馬車からまだ声変りのしていない男の子の声が響いた。
「あんな僕と同じくらいの歳の女の子を残して逃げることなんて出来ないよ!」
「アルベルト様! その彼女が自ら囮となっているのです! 私達がここに止まれば彼女は何時までも逃げられません!」
「で、でもっ!――」
私を気遣ってくれるのは嬉しいけど、今は騎士さんの言う通り早く逃げてくれた方が助かるんだよね。
少し雰囲気に呑まれてたかな。私の目的はここから彼らを逃がすこと。別にこいつを倒す必要なんて無い。いざとなったら逃げればいいんだ。
そんなことを思っていると、目の前の大赤鬼がふんっと鼻を鳴らし口を開く。
私は次に大赤鬼発した言葉によって、自分の考えが甘いことを知ることになった。
「後ろの連中ガ、目障りだナ。先に始末するカ」
大赤鬼の視線が私から私の後ろにいるアルベルトとかいう貴族と騎士へ移る。
まずい! 私じゃあいつの攻撃を止められない! どうする……どうしたら……
大赤鬼の脚の筋肉が膨れ上がり、力が籠められるのが見て取れる。あと一秒もしない内に飛び掛かるだろう。
ごちゃごちゃ考えてる暇は無い! 今はただ前に! あいつの気が少しでも私に行くように前に!
飛び掛かろうとする大赤鬼に、逆に飛び掛かった私は少しでもダメージを与えられそうな顔を狙い刺剣を突き出す。
「そう来なくてはナ!」
突き出した刺剣を左手を盾にして受け止め、そのまま振り抜く。
身体が浮いていたこともあって、もろに受けてしまったがダメージは殆ど無く、押し返されるように元の位置に着地した。
「早く行って! 早く!!」
「くっ……」
「さぁ、アルベルト様」
今の攻防を見て自分では太刀打ち出来ないと感じたのか、渋々騎士に馬に乗せられ去って行く。
さっきは違って大赤鬼は襲おうとはしないみたいだ。
何とか逃がすことは出来たけど、私のことは逃がしてはくれないんだろうな……。
「これデ、邪魔者はいなくなっタ。存分ニ、やろうではないカ」
ただでさ恐ろしい顔を歪ませ笑うと、再びさっきと同じ構えをとる。
やっぱり逃がさない気だ。
私の刺剣じゃダメージを与えられないし、速度で翻弄しようにも最初の奇襲でさえ遅れたとはいえ、反応されてしまっているから恐らく通じない。今だって難なく止められてしまった。
まだ試していないのは魔法だけど、「想像されし魔の武器」で創った武器が通じないから第五階層より浅い魔法じゃ通じないだろうと思う。
まさに打つ手無し……
「来ないのなラ、こちらから行くゾ!」
対策を練る暇も無く、瞬時に距離を詰めてくる大赤鬼。
「くっ!?」
「どうしタ! どうしタ! どうしタ! そんなものカッ!!」
は、早い!? あんな大きな武器を片手で軽々振り回すなんて!? それに少しずつ速度が上がってる……まだまだ小手調べってこと!?
暴風のように、右へ左へ、下から上へ上から下へと右手に持った大鉈を振り回す大赤鬼の攻撃に、ひたすら後ろに後退して避ける。
そして、大きな横薙ぎを回避したところで背中が何かにぶつかった。
「なっ!? そんな、後ろに木が!?」
「ふンッ! 周りを気にしなさすぎダッ!!」
返す刃で再び横薙ぎに振るわれた大鉈が右側から迫る。
この速さじゃ避けられない! なら、刺剣を盾にして受けるしか無い! 「想像されし魔の武器」で創った武器は並みの攻撃じゃびくともしないから耐えられる!
刀身の中程に左手を当て構える。
「ぐっ!!」
重い衝撃が腕を襲い、刺剣がギリギリと音を立て大鉈を受け止め――――――折れた。
刺剣を折った大鉈がそのまま私の脇腹に食い込み、ブチブチと肉が裂ける音と共に後ろの木ごと道の真ん中に吹き飛ばされる。
「うぅ……い、いだい……」
四つん這いの形になり、左手でお腹を押さえながら呻くようにつぶやく。
痛い痛い痛い!! け、けど、まだ生きてる……刺剣が大鉈の勢いをかなり殺してくれたおかげかな。でも、刺剣が折れる威力ってことは、もし直撃したら…………今はそんなことよりも、とりあえず立たないと。
逃げるにしても立ち向かうにしても倒れてたら何も出来ない。
苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がろうとするが、脚に力が入らず片膝立ちも出来ない。脇腹からは血が溢れ出て地面に血だまりが出来ている。
「拍子抜けだナ。期待したオレが馬鹿だったカ」
恐る恐る後ろを見やると、そこには落胆の雰囲気を滲ませる大赤鬼が立っていた。
「暇つぶしにモ、ならなかったナ。これデ、最後ダ」
大赤鬼が大鉈を振り上げる。
まずい! 避けられない!!
振り上げたのも束の間、すぐに大鉈は振り下ろされる――
まだ死にたくない! まだ死ねない!! マリアとの約束もある! まだ、まだ……!
しかし、思いとは裏腹に身体は動いてくれない。いや、少しずつ動くようにはなっているが、時間が足りない。
大鉈が迫る――――が、大鉈は私に届くこと無く途中で固定されたように止まってしまっている。それは、私の背後から伸びる黒い手甲が大鉈をがっしりと掴んでいるからだ。
視線を前に戻すとそこには、遺跡の時みたいに私の影から上半身を出している黒騎士さんがいた。
「ウゥォォォォ…………!」
唸り声のような低く重い声を上げ、大鉈を押し上げながら影から出てくる黒騎士さん。
「ヌッ!? 力だけデ、オレを上回るカ! しかし、黒い甲冑の騎士ニ、こむすメ……なるほド、そういうことカ!」
そう言うと大鉈を手放し後ろに下がる大赤鬼。その顔は何かを成し遂げたように口元を歪ませていた。
「そういえバ、まだ名乗っていなかったナ。オレの名はガルザー。鬼族の長ガルザーダ。この名を覚えておケ。それト、最後に面白いものヲ、見せてくれた礼ニ、一ついいことを教えてやろウ。先程逃げタ、あいつらの先ニ、部下を先回りさせてあル。早く助けに行かないト、手遅れになるゾ?」
そう言葉を残して森の中に消えていく大赤鬼に、緊張の糸が切れたかのように力が抜ける。
でも、安心してる暇は無い。あいつ――ガルザーの言うことが本当なら、一刻も早くあのアルベルトとか言う貴族と騎士達を追いかけないと……。
幸い、無理すれば走れるくらいには回復したし、今から全力で走ればまだ間に合うはず!
立ち上がる私を大鉈を放り捨てた黒騎士さんが心配そうに見ている。
「大丈夫だから心配しないで。それと、また助けられちゃったね、ありがとう。でも、ここからは私の……私がやらないといけないことだから……」
黒騎士さんは私のことをじっと見つめた後、何時も通り何も言わず再び私の影の中に沈んでいく。
それを見届けてから私は彼らが去って行った方へ走り出す。脇腹がかなり痛むが手遅れになるよりはましだ。
森を横切ったのが功を奏してすぐに後姿を捉えることが出来た。が、状況は思っていたより悪い。
既にガルザーの部下と思われるガルザーよりも一回り小さな大赤鬼が、彼らの後ろに張り付いている。追いつかれるのも時間の問題……しかも、貴族と騎士の二人を乗せている馬は、かなりの疲れているのか、見る見るうちに速度が落ちて行っている。
何とか追いつかれる前にあの大赤鬼を倒したい。けど――
今も血が流れ続けている脇腹の傷口を右手で強く抑える。
じっとしていれば治るんだろうけど、流石にこんなに動いていたら治らない……か。ガルザーよりは弱いと思うけど、今の状態で相手に出来ると楽観的に考えない方がいい。と、なると奇襲から一撃で倒すしか無い。
右手を離し血で濡れた掌に魔力を集中させる。
大赤鬼の皮膚はかなり硬い。並みの魔法じゃびくともしないだろう。なら、「想像されし魔の武器」で創った武器を全力で頭に突き刺す、これしかない。
創るのは短剣。刺剣みたいに大きい武器になると時間が掛かるし、消費する魔力も多くなる。刀身は細く鋭く薄く、鍔は邪魔だからいらない。持ち手は私の手でもしっかり握れるように大きすぎず小さすぎず……。
そう考えて魔力を流すとすらすらと刺剣の時の半分以下の時間で魔法陣が描かれていく。思わず魔法陣を二度見してしまうくらいに驚いた。
流石に、いくら小さくて簡単な出来の短剣だからってここまで早くはならない。勿論、魔力を操作して魔法陣を描いているのは私だけど、前よりも何というか思い通りに――キャンバスに思いついた絵を好きなように描いているようなそんな感じがする。
これも吸血鬼の――ローズマリーの血の影響なのか、それともただ単に使い慣れてきただけなのか……。理由はともあれ、今は時間が無いからかなり助かる。
完成した魔法陣から想像通りの見た目をした短剣を引き抜くと、大赤鬼の真後ろから近づいていく。
近づくにつれて纏っている衣服はガルザーと同じだが、雰囲気はまるで獣のそれと同じに感じる。やっぱりガルザーとは全然違う。目の前の獲物に注意が向いている今なら倒せる!
あと少しで大赤鬼の持つ金属で出来た大きなハンマーの間合いに入だろうし、やるなら早い方がいい!
一気に速度を上げ大赤鬼の頭目掛けて飛び掛かろうとした時、貴族と騎士の二人を乗せている馬の速度がガクンと下がった。
それを見逃す大赤鬼では無く、両手で握ったハンマーを横に振り被る。
まずい!
慌てて飛び掛かり、後頭部に思いっきり短剣を突き刺す。が、大赤鬼は未だに動きを止めない。
「なっ!? なんでまだ動いて……!?」
確かに短剣は後頭部に深々と刺さっている。なのにまだ動いているどころかハンマーを振ろうとしてる!? このままじゃあの二人が! ええいっ! 多少痛いと思うけど今はこれしか方法は無い!!
大赤鬼を足場にし、馬に乗っている二人に向かって飛ぶ。
「っ!? き、君はっ!!」
「歯食いしばって!!」
丁度、後ろに振り返った貴族の男の子と目が合い、一言入れてから空中で態勢を変えて二人を思いっきり蹴り飛ばす。
「――っ!?」
「――ぐはっ!?」
貴族を抱え込む形で乗っていた騎士の鎧が拉げた気がしたけど、きっと気のせいだろう。貴族の方は騎士がクッションになってダメージは少ないと思う。
あとは大赤鬼を何とか――――と、考えていたら側頭部に走る強烈な衝撃と、鉄と鉄がぶつかったような鈍い音が響いた。
振られるハンマーから助けようと二人を蹴り飛ばしたのに、その二人がいた場所に着地すれば当然ハンマーの直撃を受けることになる。そんなこと少し考えればわかったことだろうけど、頭に短剣が刺さっているのに動く大赤鬼を見てかなり混乱してたんだと思う。すっかりそのことが頭から抜け落ちていたんだ。
そして、私は何が起きたかもわからず意識を失った。
一話目から文章の書き直しをしようと思うので、次の投稿も遅くなりそうです。
内容については大きな変更は無い予定です。