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十話 告げられた事実

次の話を中途半端に入れると変なところで切れちゃいそうだったので今回は短めです。

次は土曜日にでも投稿できたらいいなぁ~って思ってます。

「エルトナ王国が滅んだのは五十年も前の話なんだ」

「………………えっ?」 


 そのあまりにも予想外な答えに全く理解が追いつかない。


「エルトナ、王国が、滅ん、だ………………五十年、まえ?」


 壊れた蓄音機のようにダンさんの言葉を途切れ途切れに再生する。

 揺れる視線を下げ、俯く私に向け、更にダンさんが言葉を紡ぐ。


「エルトナ王国の名は有名だ。魔族や魔物が現れだしてから、真っ先に攻め滅ぼされた国だったからな。逃げ延びれたのは、ほんの一握りの人々だけだったらしい」

「……そう、ですか……」


 返事はしたもののダンさんの話は殆ど耳に入っていなかった。

 あの時、ローズマリーを見つけた時、父は血の海に沈んでいた。だから、エルトナ王国が滅びたのは理解出来る。それに、あの国には感慨なんてものは感じていなかったから、特に悲しいとか寂しいとかの感情は湧いてこない。

 問題はそれが昨日今日の話じゃなくて、五十年も前の話だということだ。

 そんなの悪い冗談に決まっている。だって現に、私はあの時のまま……あの時のまま?

 脳裏に蘇るのは赤かった髪が白く染まっている光景、王城にいた時とは比べ物にならない向上した身体能力。

 確実に変わっていることがある。変わってしまっていることがある。

 心臓の鼓動がドクッドクッと耳元で鳴り響き、これ以上は考えるなと心が訴えてくるけど、思考を止めない。

 もし仮に昨日今日に魔物が現れたとして、ダンさん達の手慣れている対処には、知識にはどう説明が付く?

 それに遺跡というものの存在。こんなものがあったなら王城図書館に資料が無い訳が無い。冒険者組合(ギルド)についても同じだ。

 『五十年も前の話』。それによって今までの疑問が解消されしまう。理由がついてしまう。

 ダンさんの話、確実に変化してしまっている身体、手慣れた魔物への対処、私の知らないもの。

 その全てに『五十年も前の話』という内容を否定できる要素が無い。寧ろ、それで納得出来てしまうものの方が多い。


「ほ、本当に、五十年もたっているんですか……」

「ああ」

「……ええ」


 震える声で絞り出した言葉もあっさりと肯定されてしまう。

 否定の言葉が欲しかった訳じゃ無いけど、その言葉が止めとばかりに、冗談かも、という考えを打ち砕く。

 実際に確かめた訳じゃ無い。話を聞いて状況を整理した結果の憶測だけど。今は、その言葉を信じるしかない。

 例え五十年経っても、マリアとの約束は変わらない。そう、変わらないんだ。

 一度息をいっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出して、気持ちを切り替える。

 うだうだと考えていても仕方ない。(かこ)がどうよりも、問題は(みらい)なんだから、と。

 俯いていた顔を上げ、ダンさん達を正面からしっかりと見つめ、「もう大丈夫です」と伝えると、ダンさんは何時ものにやりとした笑みを浮かべ、エリスさんは目に見えてほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「あの襲撃から五十年も経ってることは理解しました。でも、五十年も経ってるのに、成長してないこの身体は何なんですかね?」

「それについては、私に一つだけ心当たりがあるわ」


 そう言って軽く手を挙げたのはエリスさんだった。


「詳しくは覚えてないけど、吸血鬼は人を同族に“転化”させることが出来るらしいのよ。私の覚えている限りだと、転化させられた人は、その吸血鬼の身体的特徴の一部を受け継ぐみたいで、さっきのエステルの話に出て来たローズマリーとかいう吸血鬼に噛まれたせいで、転化してしまっているんだと思うの。それに吸血鬼は歳を取らないって聞いたことがあるから、今のエステルの状況と全く同じなのよ」

 

 なるほど。エリスさんの言う通り、髪の色はローズマリーと同じ色になっているし、五十年も経っているのに全く成長していないとこも合っている。

 焚火に薪をくべているエリスさんに「確かに辻褄が合いますね」と、同意の意を示した。

 その間中、腕を組んで一人、何か悩んでいたダンさんが「しかし、そうなると……」と話を切り出した。


「エステルは吸血鬼の眷属、つまりは魔族って扱いになるのか?」


 そのダンさんの疑問にエリスさんがはっと何かに気付いたような顔をするが、私はその意味がわからず一人首を傾げる。そんな私にエリスさんが説明してくれた。

 

「これからアルクスの町に行って報告をしないといけないんだけど、町には魔族や魔物の侵入を感知する魔法が張られているの。だから、もしかしたらエステルとその黒い……彼? はその魔法に反応してしまうかもしれないの」


 私の後ろで膝を抱えて座っている黒騎士さんを、眉根を寄せて困惑気味に指さすエリスさんは、黒騎士さんをどう扱えばいいのか戸惑っているようだ。

 短い間だけど、今まで何気なく接していたけど、黒騎士さんは魔族なのだろうか? 確かに私の影から急に出てきたり、私の側に五十年間も居てくれたであろう事を考えると人間とは考えられない。


「もしそうなら確かに不味いですよね……。でも、私のことは魔族と考えるとして、そもそも黒騎士さんは一体何ものなのか、何か心当たりとかないですか?」

「正直なところわからないわね。魔族自体の目撃例が少ないし……。それに精霊や妖精の可能性も無くはないけど、そこまで詳しいことは専門家に聞かないと……」

「俺もエリスと同じだな。魔物の知識はあっても、そういう特殊な知識は唯の冒険者の俺達じゃあ手に入れることは難しい」


 ダンさんとエリスさんはこの正体不明な黒騎士さんについて、私の話でその正体がわかると思っていたみたい。

 「なら直接聞いてみるか?」とダンさんの提案で、黒騎士さんに尋ねるも、何時も通り特に反応が無く、結局、黒騎士さんの正体は謎のまま、『私を守ってくれる用心棒みたいなもの』ということで、一時的に結論付けた。


「黒騎士君についてはわからず仕舞いだけど、エステルの身体のことなら、知り合いに魔族を専門に調べてるやつがカナンハンにいるから、エステルのことについて手紙を送っておくわ。だから、申し訳ないけど今回は外で待っててくれる?」

「わかりました。大人しく外で待っていますね。……あまり遅くならないですよね?」

「どれくらい掛かりそうだと思う、ダン?」

「そうだな~。明日の朝にここを発てば昼過ぎにはアルクスの町に着くから、依頼主への報告と必要な物の補充もして……まぁ日が沈む前には合流できるだろ」


 と、ダンさんが顎を手で擦りながら大まかな時間を伝える。

 それを聞いて少しほっとした。

 私は王都から出たことがないから全く地理には詳しくない。知らない土地に黒騎士さんと二人で放り出されれば、いくら戻って来てくれるとわかっていても流石に不安を覚える。


「まぁ、他にも聞きたいことは山ほどあると思うが、今日はもう遅い。明日は早いからさっさと寝ちまおう」


 ダンさんの提案に私とエリスさんは頷きを返して賛成した。

 エリスさんが自身の荷物の中から大きめの布を取り出し、「夜はそうでもないけど朝は少し冷えるから」と私に貸してくれた。

 エリスさんは新たに取り出した布に包まり荷物を枕代わりにして横になり、ダンさんは近くの木の幹を背に座り目を瞑っていた。

 まだ身体が少し痛むけど、眠るのに支障が無い程度だ。

 私も貸してもらった布を身体に掛けて仰向けで横になる。

 空を仰ぎ見ると、そこには王城で見た星空と同じものが、あの時と同じ光を放って輝いていた。

 風に煽られざわざわと木の葉の揺れる音が、焚火に淡く照らし出される森が歌う子守歌のように、私の耳を撫でる。


 焚き火とは逆の、森の方を横目で一瞥すると、そこには私が夕食を食べ始める前から同じ姿勢の黒騎士さんが座っている。

 すると、私の視線に気付いたのか、俯き気味に下を向いていた黒騎士さんが、重そうなヘルムを持ち上げ、こちらを向いた。

 漆黒の鎧を纏っている大の大人が、膝を抱えて座りながらこちらを見てくる光景に少し可笑しくなり、小さく笑うと、黒騎士さんは僅かに首を傾げた……気がした。

 最後に「お休みなさい」と一言声をかけ瞼を閉じる。

 そういえば、私は何でこんなに黒騎士さんに親しげに声を掛けているんだろう? 

 私を二度も助けてくれたけど、見た目は全身鎧で厳ついし、身長はダンさんと同じくらいで鎧と相まってかなりの威圧感があって、知らない人が見たら間違い無く怖がってしまうと思う。

 けど……どこか懐かしいような雰囲気がするんだよね……。

 私は黒騎士さんから感じる懐かしさの元を思い出そうと記憶を探る。そして探り当てたのは酷く朧げな記憶だった。

 そう、私が記憶の中の母の纏う雰囲気に似ているんだ。あの優しくて暖かい雰囲気に……。

 そんなことを考えながら私はゆっくりと眠りについた。


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