アンチノエルライン-聖夜に響く旋律とタクティクス-
凍獄の冬。
浮遊都市アカモートでは、猛吹雪が吹き荒れていた。
まるで赤い服を着てコメット・キューピッド・ブリッツェン・ダンナー・ヴィクセン・プランサー・ダンサー・ダッシャーに引かれたソリに座る人物を拒むように。
しかし、そんな妙な猛吹雪の中に人影があった。
「ようし、野郎ども。今回の任務を説明する」
「あの……なんでサンタクロースの格好で武装しているんですか」
と、質問をしたのは冬のクリスマス商戦の短期アルバイトに応募した青年、霧崎だ。
霧崎は頭に大きな地竜の角を乗せ、狼系の魔物を狩って剥ぎ取った毛皮で作った着ぐるみを着ている。
どこからどうみても、冬のクリスマス商戦向きではない。
周りにはこんな猛吹雪の中でも、トナカイの格好をした若者たちが呼び込みをしているというのに。
「良い質問だ。野郎ども、もっぺん簡単に説明するから耳の穴かっぽじってよぉーく聞いておけよ」
事の起こりは第十二の月に入ってからすぐだった。
メティサーナが寝ぼけて災厄を運ぶ風を召喚してしまい、それが原因となり限定的な戦闘ではなく戦争が起こる事に始まり、勘違いから止めに入ってきた元フェンリル(傭兵集団)のメンバーたちも相まって大騒動に。
その後、騒動は終息するも今度は元フェンリルの構成員たちの帰還手段がなくなり、しばらく浮遊都市アカモートに留まることなった。
そしてしばらくして、いろいろと整ってくると女性陣がもうすぐ年も終わるしなにかしようと言い始め、どうせならば24日夕刻(18時以降)から25日(23時まで)に決定されたのだ。
「まあ、僕らキ○ス○教徒じゃないから聖誕祭なんてどうだっていいんだけど」
「キリヤ、お前もだいぶこっちの色に染まってるな。俺たち日本人にとっては宗教的な意味合いなんてどうでもいいんだよ。プレゼント交換して、みんなでわいわいはしゃいで、でけえホールケーキでも食ってりゃいいんだ」
「なに? クリスマスを交尾の日と勘違いしちゃってるようなバカップルどももいるのに?」
さらりと毒を吐きながら、仙崎霧夜は鮮血のように赤い魔術師のローブを脱いで、
「じゃあね。僕、彼女たちのために行動して殺されるくらいならコンビニでおでんでも買ってくつろいでるから」
と、立ち去っていく。
今回の作戦目標は、この西暦が終わった先の遥か未来、世界暦の世で、浮遊都市アカモートにクリスマス(宗教的意味あいはほとんどない)を勝手に広めようとしている馬鹿どもの独断専行と、もう一つ。
とある少女たちの恋路をかけた争奪戦だ。
珍しいことに、告白をことごとく蹴ってきた青年たちが言ったのだ。
『期間内にタグを奪って終了まで持ち続けていたら承諾する』
一部男性陣からは『腐れ外道のハーレム野郎ども弾け飛んじまえ‼‼‼‼』なんて声も上がったが、少女たちにとっては長い長い戦いに決着がつく大事なときだ。参加できた数名は喜び、できなかった残りは残念ながら。
「あのー……」
おずおずと手を上げたのは、襟元にファーのついた軍用コートを着た青年、狼谷だ。
「なんで俺たち桜都の人間まで呼ばれてるんです? いくらアジア系の末裔とは言え関係ない気がするんですが」
「横に同じ……」
霧崎も寒さでかじかんだ指先を口元で温めながら抗議する。
なんで他人のハーレムのためにこんなクソ寒い日に自腹で飛行機のチケット買ってこんなところにまで来た上にただ働きをしなければならないのかと。
「そう言うなガキども。殺し合った仲だが、年末くらい一緒に騒ごうやないか」
「……嫌ですよ、冬休みの課題が山積みなんでもう帰りたいです」
「……横に同じくコタツに潜ってゲームしたいです」
「諦めろ、この天気だ。アカモートからの便は一っつもねえよ」
そんな彼らに後ろから現実を突きつけたのは全身黒一色の青年だ。
「まあなんにせよ、俺たちがやるのは女どものサポートだろ? ターゲットを行動不能にしてタグを奪えるようにしてしまえばそれでいいわけだ。そんで、俺たちは後でアカモートの大食堂で好きなもん食って帰ると」
「「なっとくいかねえ!!」」
二人が叫び、
「俺だって如月寮でパーティあるんだぞ!」
「ネトゲ仲間とのゲーム内パーティあるんだぞ!」
「とりあえずネット引き籠もりは黙ってろ。んじゃまあ、作戦内容は?」
そんなことを無視して話が進んでいく。
「なあに、簡単なことだ。あの最強コンビをとっ捕まえて動けなくしてやればいいだけだ」
「へえ簡単にいうねぇ。片や単独で戦略規模の戦闘をこなす、片や雷の速さで戦艦すら破砕するやつらを鬼ごっこで捕まえろと? まるっきり無茶じゃねえか」
「無茶だろうがやるんだよ。それがフェンリルだ」
---
アカモートの中央浮遊島。
空高くにそびえ立つ白き塔、メインタワーと呼ばれるそれは浮遊都市の主にしてイレギュラーな駄天使の住処である。
「あなたたちも大変ねえ」
いつもなら面白いことがあれば進んで手を出してくる浮遊都市の主メティサーナだが、今日はそういうことはできなかった。
いつもいつもいつもいつも仕事を、レイズという奴隷に丸投げしていたのだが、先日のとある賭けに負けて奪われてしまったため珍しく書類の山と格闘している。
「色々と言いたいことがある訳だが……」
「同じ句、付け加えてあれはハーレムと言うよりは、複数の女性による”男の所有”という形に持っていかれそうな気がしないでもない」
「一夫多妻、別にハーレムをつくりたいわけでもないし、女を所有物のように扱いたいわけでもない訳だが。それに散々嫌われるように努力してきてなぜこうも好かれているのかが最大の謎な訳だが」
ラウンドテーブルを囲み、男二人が書類を選別して処理できるものは処理、残りをメティの方へ回すという形で捌いている。
「あらぁ? 嫌われるって言っても、あなたたち絶対に心に深く残る傷は与えなかったし、危ないときは誰よりも先に駆けつけて助けて、ケガをすれば治るまでずっと傍にいたじゃない。それに、あなたたちって根は優しいし頭もいいし、いざというときはキュンとくるほどカッコいいタイミングで出てくるじゃないの」
「「いつそういうことをした?」」
「そうねえ、アオちゃんの場合は重たい責任のある位階に上がった時、精神的な支えになってあげて、美味しいものつくってあげて、いつも味方してあげてじゃない」
「……言われてみても、バディ組んで数日で放置して散々暴力振るった覚えしかないんだが」
「でも放置する前には失敗しないようにいっぱいアドバイスしてあげてたでしょ? それに暴力って言っても、あんな”傷ついて欲しくないから”っていうのが見え見えの形だけの暴力はバレてるわよ」
「……はぁ」
「おかしいわよねえ、男って見た目で女の子を選ぶはずなんだけど……」
「「だからどうした」」
「アオちゃんもユキちゃんもリムちゃんもゼロちゃんもフィーちゃんもほかのみんなも私もかなりの美女だと思うんだけど」
「……(おい、この駄天使自分で自分のこと美女って言ったぞ)」
「……(見た目は確かに会えるだけで大吉だが、服装は凶で性格は大大大大凶な訳だが)」
「……(見た目より中身だろ。性格があわんなら付き合えん)」
「そこ、聞こえてるわよ」
クリップで一纏めにした書類の束(厚さ二センチ)で、失礼な男二人を殴打して再び手元に視線を落とす。
処理能力に圧倒的な差があるらしく、メティ一人で作業する間にもどんどん書類の山が出来上がっていく。
「なに? 嫌がらせなの?」
「嫌がらせではあるな、今まで散々やられたことへの仕返しとか」
「確かにな。一時期奴隷の烙印押されて、あれ消すのに何年かかったと……」
「なによ、あれは隷属の呪いだけじゃないのよ」
「そりゃ分かってる。あれがあったおかげで魔力とか色々、非科学的な現象を操れていたんだから」
仕分けの終わった書類を山の上において、再び雑に詰まれた山から書類を取ろうとしたとき、じゃらりとボールチェーンに纏められたドッグタグが落ちた。
それぞれに綺麗な細工が施されており、女の子たちの名前が刻み込まれている。
「それね、今回の”ゲーム”で取られたらいけないタグっていうのは」
「ああ。まあ逃げ切るから問題ないとして、こちらからはタグに名前の刻まれたやつへの手出しは一切禁止。しかも取られたら取り返すのはダメで、さらにあちらはどれだけサポート要員を投入してもよし」
「割に合わん遊戯だな。たぶん漣は一緒にいるだけでいいって言うだろうが、あとは長い付き合いで迫られた時もあまり相手をしなかったから思い切り甘えてくるぞ」
「いやだねえまったく」
「だな」
「あ、いいこと思いついたわ」
「「……(ぜってぇ碌な事じゃねぇ)」」
「もしあなたたちからタグを奪えたら、サポートに報酬を出すっていうの。どうかしら? いいわよね! やりましょ!」
いきなり立ち上がると、部屋の隅においていたマイクを手に取って放送を中央島から全域に変え、
「「待てっ!! この駄天使っ!」」
そして、
『あー! あー! みなさーん! タグ取りゲームでタグが一つ取られるごとに、活躍したサポートさんにご褒美を出しまーす! ふるってご参加くださーい!』
猛吹雪にも掻き消されない音量で、浮遊都市全域に流れてしまった。
「言いやがったなこの駄天使」
「ちょっとばかし仕置きをするか?」
「賛成だ」
男二人は、静かにメティに近づくと、
ミナ(通称・歩く災害)と呼ばれる青年はポケットに手を入れて、どうやったらそれだけの長さが収まるのか教えてほしいほどのロープを取り出し、
レイジ(通称・歩く災厄)と呼ばれる青年はパーカーの中に手を入れて、どうやったらそんな長さのものを収納できるのか教えてほしいほどの棍を取り出し、
「な、なによ」
二人は視線を交わすと神速で仕掛けた。
かつて神をも凌駕した世界最強の堕天使は、なすすべもなく服を剥かれ、後ろ手に縛られ、脚を無理やりに広げられると棍に結び付けられ閉じることができないようにされる。
「ななななんなのよ! 私をレイプする気!? あ、あいにくだけど私はレイズ以外とはする気はないわよ!」
「こっちもテメェを強姦する気なんざねえ」
「レイズのマッパよりは下着があるだけマシだと思えよ?」
「ま、まさかあなたたちアレを……」
男二人は頷くと、どこからか金属のポールを引っ張り出して、窓の外に突き出すと部屋の中に固定する。
そしてそのポールの先端にメティを結び付けて部屋から出ていった。
……部屋の外は氷点下の猛吹雪である。
……この塔のこの階には人の出入りが滅多にない。
「ちょ、ちょっとぉ! 寒いわよ! 私を凍死させる気なの!!」
---
「これより作戦を開始する。トナカイ一号、準備はいいな?」
「はいはい……ていうかなんで排気口?」
「サンタさんは煙突から入るもんだ」
「それプレゼントを持っていくときですよね、断じて人を拉致するときじゃないですよね!! そもそもサンタクロースが赤いカラーリングのPDW持ってちゃいけないですよね!!」
「いいんだよ。これはあいつらへのプレゼントを捕まえて運ぶためだから」
「狂ってる、あんたらフェンリル狂ってるよ」
浮遊都市アカモート、中央島から伸びる連絡橋の先にある小さな浮遊島。
魔導技術の研究施設があるそこに逃げ込んだターゲット捕獲のため、先駆として元フェンリルのメンバーと雇われの霧崎が動いていた。
梯子を使って施設屋上の、余剰魔力排出口からの侵入を試みる。
「はぁ。捕まえなきゃ損だよ……」
子供が見れば泣き叫ぶどころか失神すること間違いなしの、妙な角と毛皮を脱いで普段着に着替えている。
排気口の縁にロープを固定し、ラぺリング。
素人ながら悪くない動きである。
するすると降りた二人は、分岐点で別々の方向へ別れて進む。
「暑いな……」
下で炎系魔法の実験でもやっているのだろうか。
そのまま進み、また降下地点に来て、引っ張ってきたロープを固定してずるずると降りる。
長い。
長すぎる。
「……なんか湿ってないか?」
気にせず降りていくと、下から蒸気がもくもくと上がり始め、温度も上昇する。
そのうち手の平が濡れて、
「うおぁっ!?」
ずるっとすべって真っ逆さま。
「ちょっ、ちょっ!!」
狭い排気口の中で身体を打ち付けながら、落ちると、その先には湯の沸いた深鍋が。
「煙突から入った狼はそうなる運命なのか!!」
どぼん! と鍋に落ち、すかさず待機していた男二人は容赦なく蓋を閉めてしまう。
三匹の雑食動物と一匹の肉食動物の物語でもあるように……。
「よし、一人無力化」
「まあ、それなりの魔法士だから死にはしないだろう」
現実的に考えて、やってはいけないことをさらりとやった二人はすぐに移動する。
浮遊都市全域の監視設備はすべてリンクしているため、一か所にとどまるとすぐに居場所が割れてしまう。
そういうわけで、また監視設備のない連絡橋の裏や、配管の裏を命がけで移動していく。
落ちたら雲の下の高さから海面までまっしぐらだ。
---
「なあ雅」
「なんだ秋」
「今頃、寮じゃクリスマスパーティをしてるんだよな」
「そうだな」
倉岡と狼谷は指示された場所に向けて、とぼとぼ歩いていた。
外縁の障壁の外や、障壁に覆われていない上空は猛吹雪だと言うのに、アカモートの街並みは街灯に照らされて明るい。
それに反比例するように、この青年たちは暗い。
「なんでだよ、寮長さんも珍しく彼氏さんを占有できるからって遊びに行っちゃったから俺たちこんなところにいるんだろ? 本来ならその彼氏さんの仕事なんだろこれ?」
「つーかその彼氏さんもすごい数の美少女に囲まれてたよなぁ、羨ましいよなぁ」
「おいこら、彼女は何人も作るもんじゃねえ」
「それを秋が言うか。可愛い幼馴染と美人の姉に清楚なお嬢様まで顔の利くお前がっ!」
「雅、言っていくけどな、あれは家が近かったからってのと家庭の事情で知り合っただけだからな(……深く言えない)」
「じゅっっっっぶんに! いや不自然すぎるほどな運じゃねえかよ!」
「……(確かに、殺人級の料理の腕前(俺が倒れた)と、ウィザードと呼ばれるほどの天災(才ではない、しかも最高クラスの演算能力を持つ人工知能をダウンさせた)クラスと、もろに殺人経験者(お嬢様で傭兵で軍属)だもん)」
コンビニの明かりに照らされた道を進んでいると、歩道の脇に設置された椅子に座っておでんを食べている仙崎がいた。
「おや? 君たちもおでん買いにきたの?」
「……ここでなんでおでんが売られているのか疑問なんですが」
「ここって浮遊都市だよ? 浮遊都市って言ったらどこにも属さずどことも取引をするから色々揃ってるよ? あ、でも日本食……じゃなかった、今は桜都だった。桜都のものはあまりないかも、ほら、生で魚食べたりって言うのはさ」
「コンビニで刺身なんて売ってるの見たことないぞ」
倉岡がそういうと、
「いや、普通に売ってたな。ほら、人通りの多い駅前のあのコンビニ」
と狼谷が言う。
「ていうかさあ、なんで君たちも呼ばれたからって簡単に来ちゃうの? こんなの来なければいいのに」
「だったら逆に聞くけど、なんで霧夜は来てるんだよ」
「う~ん……まあ、あれだよ。僕って君らからすると異世界の人間な訳だしさ。こういう、戸籍とかの……取得できないものがなくても暮らせる場所って少ないからね。だから少しは協力、ってことで」
ぐいっとおでんの汁まで飲み干すと、明らかに届かない距離からコンビニのゴミ箱めがけて投げ、不自然な軌道を描いておでんのカップがホールインワン。
「すげっ」
「魔法だよー。君たちには使えないけどね」
「その代わりに霧夜は仮想空間にダイブできないだろ」
「まあね。でも魔法を捨てて仮想世界に自由に出入りできるようには、なりたいとは思わないからね」
仙崎は立ち上がると、おもむろに猛吹雪の吹き荒れる障壁の外へ、手を向けた。
「どうした?」
「うんうん……」
何かに納得するように頷くと、
「魔力波によるサーチだよ、そこにいるよ」
「そこって……えぇっ!? 障壁の外側!?」
「外ってたしか手すりも何もなかったような……」
「うん、ないね。落ちたら飛行機の高さから海までフリーフォールかな」
外縁まで駆け寄って、極寒の中に顔を突き出して下を見れば確かに二人。
細い配管の上を命綱なしで渡っている姿が見えた。
「うわっ、マジかよ」
「雅、お前ならどうする」
「さすがにこれはお手上げだ。指示された場所もこの辺だったし、どうしようもねえよ」
「だよな……」
狼谷は、渡されていた拳銃を使うのは気が引けた。
いくら発砲許可と所持許可が下りているとはいえ、こんな往来の中で、しかも知り合いを撃つのは気が引けた。
「指示された場所?」
「フェンリルのやつにこの辺にいろって」
「……あ」
ポンッと拳を叩いた仙崎が、
「そうだよ、確かここって排気口から地下の管理通路につながってるから、そこから上がってくるって予想したんだよ」
「一番近い出口は」
「あそこ、駐輪場前にある通信ケーブルの四角いやつのところ」
「了解!」
狼谷と倉岡が走って行って、出てくるのを待ち構えていると、案の定、通信設備を集約している場所のすぐ近くの四角い扉が上がって、二人出てきた。
ただし、
「どわっ!?」
「スタングレネード!?」
いきなり視界を焼き尽くす閃光と鼓膜をぶち破る轟音に、何もできず、その間に蹴り飛ばされてしまった。
視力が回復した時にはもちろんターゲットがいるわけはなかった。
---
「さぁて、それじゃみんな行こうか。あの絶食系を肉食系に変えてやろうじゃないか!」
元フェンリルのナギサは、元フェンリルの若い集団をまとめて戦闘の準備をしていた。
各々がPDWとフラッシュバンを備え、マガジンに込められた弾種は訓練用の青ゴムではなく実弾。
「いくらなんでもやりすぎじゃないかな」
「だよねー……スコールでもさすがに飽和射撃なんてされたら死ぬんじゃない」
「一つ勘違いしてる。彼、魔法を使う人たちに強いだけで通常戦力には一般人並みだよ?」
「「…………」」
少女二人は顔を見合わせると、指揮官に抗議した。
「ちょっとナギサ! 殺す気!? これ捕まえる装備じゃなくて殺す装備だよね!?」
「はいはいホノカちゃんミコトちゃん、男って言うのは死にかけると性欲が増す単純な生き物なの、そういうわーけで、死なない程度に撃ち込んじゃおー」
「「おぉー」」
「いやだめでしょ! しかもここ街中!」
「はいレッツゴー、在庫処理もかねて全部撃ちきっちゃえー!」
ばたばたとみんなが走っていき、寒い待機所に残ったのは長年一緒に行動しているメンバーだ。
ゼファー(偽名・前衛・魔法使い)とホノカ(中衛・魔法使い)とミコト(中衛・魔法使い)とアヤノ(後衛・狙撃手)とユキ(オールラウンダー)。
「よし、ヘッドショット決めようぜアヤノ」
「ゼファー、今回は殺すんじゃなくて捕まえるの」
「んなこと言うなって。どうせあいつら殺す気で攻撃しても避けるだろ」
「そんなこというなら、軍隊用意したってあの人たち正面突破で殲滅するよ?」
「だからどうしたってんだ、忘れちゃいねえだろうな? ここにいるのはたったの数十人で戦況を変えるフェンリルの正規メンバーだぜ。それが勢揃いしてんだ、勝てない訳ないんだよ」
ゼファーが自信満々に言い切ったところで、いつものようにミコトとホノカが後ろから銃のストックを振り下ろした。
「あ、がぁぁぁぁっ!!」
ガヅッ! とかなり痛い音がして、倒れて転がりまわっているゼファーを無視して、
「じゃーいこっか。とりあえずスコールの弱点っていうと、敵になったとしても元仲間は絶対に助けに来るってとこだから」
「あ、あの……?」
なぜか怖い雰囲気がある三人からユキは後ずさりして、
「ユキちゃん、とりあえず飛び降りよっか?」
「嫌ですよ! こんなところから海に落ちたら死んじゃいます!」
「じゃあ裸になって路地裏に鎖で縛り付けて、お腹にf*** *eって書いて放置?」
「変態じゃないですか!」
「とにかくこっちから追いかけても追いつけないなら、あっちから来てもらうのが一番早いからさあ」
ごろごろと転がって足元に来たゼファーに、スカートの中を見られまいとミコトが蹴り飛ばして、
「ごふぅっ!」
「あ、でもわざとやったら来ないから」
「そっか。……じゃあ」
話が詰まりかけたところでアヤノが、
「こういうの、どう?」
あるものを取り出した。
そして、このゲームのメインである少女の意見を無視して作戦がはじめられた。
---
「く、くくくっ、おもしれえ、人を守るべき天使が敵に回るか」
「笑っていられる状況ではない訳だが……」
転送陣を伝って別の浮遊島に逃げ込んだ二人は、天の御使いに包囲されていた。
天使と言えば、基本的なものならば最下位でも地上を焼野原にできる存在だ。
そんなものが空を覆い、例外クラスの人型が数名。
「とりあえずだが、あそこの三名要注意で逃げようか」
「えーと……いつかクロードが殺し損ねたのと、テメェで組み上げた作戦である意味助けたのと、もろに悪魔なのと……残りはもういいか? さすがに無理があるぞ」
「正直にいうが、勝ち目がない。イリーガル、漣を相手にするのと一人でこいつら相手にするのならどっちがいい」
「どっちも嫌だね、勝ち目がない」
ミナはお札のようなものを取り出し、イリーガルはトランプを二つつなげたようなカードを取り出す。
「「では逃げようか」」
二人がそれぞれ、手に持ったものを足元に叩きつけると煙幕が張られる。
魔法を刻み込んだアイテムだ。
使い捨てで用意するのも面倒だが、あると便利。
「倉庫で合流」
「オーケー」
イリーガルは再び転送陣に飛び込み、ミナは外縁の手すりを飛び越えて浮遊都市の外側に配置されている防衛兵器の上を飛び移りながら姿をくらませた。
---
猛吹雪の闇の中、メインタワーの屋上から市街を見下ろしていた青年は目を細める。
「さて……」
ベルトに固定して、後ろ側に下げた黒い筒に触れる。
「始めるとするか」
真下で繰り広げられるアカモート最強の防衛隊との戦い、騎士団を次々に打倒していくイリーガルめがけ、飛び降りた。
その青年は全身を特殊な装備で覆っていた。それは液体装甲の改良型。衝撃を受けると一瞬にして液体が個体のようにふるまい、攻撃を無効化するというものが改良前。
いま、青年が装備しているのは根幹物質配合型磁性流体装甲……と、長い名前の付けられたアーマーだ。
なに、難しく考える必要はない。磁性流体は磁石を近づけて磁界に晒したり、電流を流すと動きを変える。その欠点は常に重たいバッテリーを持ち運ばなければならないこと。ならば、魔法によってそれをカバーしてしまえばいいと言うことで、根幹を成すものと呼ばれる詳細不明のモンスターから抽出した細胞を混ぜ込んだ、いわば生体兵器。
攻撃対象はイリーガル。
正式認定ではないが戦略級と呼ばれ、単独で方面軍クラスと戦える存在だ。主な戦闘方法はこれと言って決まっておらず、場に存在するすべての武器を扱いながら強大な召喚獣を次々とスイッチしながら破壊を振り撒く。
そんなものが相手ならば、こちらも相応の装備で挑むべきだろう。
青年が横合いに手を伸ばすと、影が落ちたようにそこだけ暗くなり、明るくなった時には大きな鎌が出現している。かつて死神と呼ばれただけあって、これは使い慣れている。
「うおらぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
こちとら急な呼び出しで許可なく出ていったから帰ったらお説教がまってんだこんチクショー! と、思い切り首を狩り取る思いで鎌を振るった。
の、だが。
「リリース、ライトニング」
雷じみた、というか雷そのものが放たれて、凄まじい電圧に弾き飛ばされて莫大な電流によってアーマーが誤作動を起こして固まってしまう。自分が感電しなかったのはアーマーの導電性が恐ろしくよかったのとアテリアルの”なんでも(物質だろうがエネルギーだろうが)”食べてしまうという性質のおかげか。
ちなみに家庭用電源は数百ボルト、静電気の電圧は数千から数万ボルト、雷は億から数十億ボルト。
電流は順番に数アンペアから数十アンペア、数ミリアンペアから数十ミリアンペア、数千アンペアから数十万アンペア。
P(電力)=V(電圧)I(電流)
その積が大きいほど、流れている時間が長いほどに危険性は跳ね上がる。
この場合は時間は瞬間的だが、電力は凄まじいものになる。
「だいたい厄介なのは潰し終えたか。これならタグは取られずに済みそうだ」
余波で軒並み倒れた騎士団の合間を縫って、イリーガルは立ち去って行った。
---
霧崎アキトは縛り上げられて女の子たちに囲まれていた。
具体的には両手首を縛られて無理やりに背もたれのない椅子に固定され、足も動けないように縛られた状態。
「ア、アノミナサン? イクラスコールヲオソエナイカラッテオレヲオソウノハオカシイトオモウンデスヨネ?」
恐怖のあまりに言葉が震えてうまく言えない。
「んー、ほら、あんたってこういうことに向いてそうだし」
「ま、そういう訳だからぁ」
言いながら迫ってくるホノカ、ミコト、アヤノの手には、霧崎もよく見るあるものが抱えられていた。
オフホワイトの可塑性爆薬。
ペンのような細長い信管。
理科の実験で使うような導線。
モバイルバッテリー。
そして、自作らしいカウンタ回路と昇圧回路と……。
「それ無線起爆付きの時限爆弾ですよねぇっ!!」
「ぴんぽんぴんぽーん、ちなみに下手に導線切っても爆発するから」
霧崎の服を捲り上げると、女子三名は手早く設置していく。
「ぎゃああああああっ! もぉぉどーして俺には女運がないんです、かぁぁぁぁっ!!」
「騒ぐな」
「あ、解除コードはユキちゃんが持ってるからー」
「まあ、うちらの中じゃ唯一魔法の発動兆候を読めるからねぇ、魔法使いだとまず近づくことすら難しいんだよね」
「俺に死ねと言いたいのかなあんたらっ!」
「「「んー」」」
女子三人はひそひそと話し合って、
「下手すればスコールに蹴り殺されるんじゃない?」
とだけ。
「誰か、誰でもいいから俺に日常という平穏を返してくれぇぇぇ!!」
そんな訳で、
「きゃぁぁぁぁぁ!」
実際問題、解除コードなんて持っていないし、こんなこと自体を知らされていないユキは追いかけられていて。
「なんなんですかもう!」
うしろからは青色のヘックス状迷彩の施された戦闘服を着た霧崎が、ゴキブリのようなしぶとさで、人の動きではなくゴキブリのような姿勢で追いかけてきていて。
「来ないでください!! 撃ちますよ!!」
腰に下げた短機関銃、vz-61ベースでフェンリルが勝手に改造したものを手に取って、セーフティーを解除して後方に向ける。
「コードを……寄越せぇぇぇっ!!」
それでも飛び掛かってきた生理的に受け付けない動きをしていた霧崎めがけ、ユキはトリガーを思い切り引いた。せめてもの優しさは、弾種が合成樹脂弾であることか。
全身に恐ろしいサイクルで吐き出される弾丸を受けたにもかかわらず、それでも霧崎は動き続ける。
「つ、つつつぎはじじじじつだんいいっちゃうですよ」
「おるあぁぁぁぁ!」
頭よりも、外す確率の低い胸を狙い、貫通力重視の弾が装填されたPDW、P-90ベースの銃を向けて撃った。
ダァンッ! とアカモートの地下通路に破裂音が木霊するが、直撃を食らった霧崎は勢いに任せて後方宙返りを(まぐれで)決めて、再び突撃してくる。
「ひぃぃ」
若干恐慌状態に陥りかけたユキは、走りながら一定の間隔で撃ち続けた。
一方霧崎は、驚異的なステップで躱しながら食いついてくる。
「こんなところで死ぬわけにはいかんのじゃぁっ!」
いよいよ撃ちきってしまうと、銃を投げ捨てて全力疾走に移る。
通路をまっすぐに突っ切るとアカモートの外縁部の”受け皿部分”に出る。ここは万が一にも上から落ちてしまったときのセイフティーゾーン。
ほぼ直線で、だんだんと距離が縮まってくるといよいよ肩に手を掛けられて倒れてしまう。
「コードはどこに」
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
猛吹雪の寒空を突き抜けるような悲鳴と同時だった。
霧崎の後頭部に金属片の仕込まれた硬い靴のかかとがぶちあたり、続けて背中を踏まれて頭に手が置かれて、毛髪を鷲掴みにされると無理やりに仰け反らされた。
「あだだだだだ! いてぇ!」
「さて、お前はいったいなにをしようとしていたのかな」
首を片手で絞められながら、霧崎は通路の影まで引き摺り込まれていく。
「ご、ごごごごごごごごかい! 誤解なんだこれは! 決してやらしい意味はにゃい!」
恐怖で……漏らすまではいかないものの、過去の経験上こいつはまずいと本能が危険信号を全力で発している。
「へぇ」
「こ、これなんだってこれ! 爆弾!」
青い戦闘服の前を開くと、そこには括り付けられた爆弾があるが。
「……、」
ミナはそれの導線を引き抜いて、爆薬をカバーしているものを剥ぎ取ってちぎり取ると食べてしまう。
「え……」
「携帯食料だな」
「は……? これ……偽物?」
「当たり前だろう、民間人がこんなもの入手できるわけがないだろう。作れるけど」
「お前だけだろそれは!」
「そこらのハードウェアストアで材料は揃うが」
「……いや、もういいです」
霧崎はとぼとぼ走ってきた通路を引き返そうとするが、
「ちょっと待て、通路を出たタイミングで殴りかかってこい」
「なんで!?」
「そうだな、やらなかったらフェネのサンドバックになってもらおうか」
一発殴るか無間地獄か。
「やります! やらせていただきます!」
ビシッと決まった敬礼。
恐怖に屈した証。
言われた通り、ミナが通路から出ていくまで待つ。
出るか出ないかの分かりづらい場所でユキが話しかけて、少し止まるがすぐに歩きだして、言われた通りのタイミングで殴りかかった。
「ほっ」
のだが、寸前で躱された上に足を掛けられ、なんの運命か上から下りてきた女天使三人組にぶつかって、しかもたわわに実った果実をがっちりホールド。
霧崎の顔が一気に青ざめていき、予想通りの展開となり……。
「まあこれでいいだろう」
猛吹雪の中、真っ暗な海(数キロメートル下にある)へと落ちていく霧崎をミナは見送った。
「ほら天使ども、人間助けるのがお前らの仕事だろ」
簡単に仕組んだ事故(殺人未遂)でとりあえず空を飛べる女性陣に狙われなくする。
「あ、あの……」
「なんだ? タグならくれてやるきはないから奪い取ってみせろ」
「むぅ……なんでいっつもそうやって」
「お前らの恋愛になんか付き合ってやる暇はねえ。探せばそこらじゅうにいいやつがいるだろ、そっちにアタックしろ」
「なんで……なんでそんなに頑なに拒否するんですか、だったらなんで私たちを助けてくれるんですか」
「ああ? こっちに寄ってこられると迷惑だが殺すなり記憶改竄なりはちと法とか周りの目が厄介だからさっさと別のところに行ってもらおうかと」
「じゃ、じゃあスコールさんは私のこともほかの人たちのことも好きじゃないってことですか!」
哀しげな瞳で視線を突き合わせる。
そしていつも通りの答えが返ってきた。
「前にも言っただろう?
お前らと違って”こっち側”のやつらは
感情をロストしている。
閉ざしたのではなく、
跡形もなく殺しつくしたから
”なおす”ことなんてできやしない。
人を人として好きになりはしても、
それはあくまでも人としてだ。
恋人として、それ以上の好きは無い。
たとえそれが家族であろうが、
家族という認識だけで付随すべき感情は無い」
もとから人でもないくせにそれを言うか、そんな思いもあるが、
「ふっ」
何の意味ない無力な笑みに、どこか苦しんでいるようなものを感じたユキは、
「だったら、誰のことも”好き”ならないっていうことですよね? 他の女の子と恋人になることもないんですよね? ね?」
「だったらなんだ」
「……だったら、だったら私が、私だけがタグを取ればスコールさんは私だけのものになってくれますよね!」
「”もの”にされる気はさらさらないがな」
なにかよく分からない”乙女の気迫”のようなものにあてられたミナは、意識せずにじりっと足を下げる。
そしてユキは、走り出す前の前傾姿勢で、しかも獲物を狙うハンターのような気配で。
「平時と戦時なら」
「分かってますよ、スコールさんは戦闘になるといきなり強くなるのは」
「なら、追いついてみろ」
ダァッと身をひるがえして駆け出したミナを、ユキは全力で追いかける。
外縁部の”受け皿”部分は薄く氷が張った上に雪が積もっている。ユキは靴にスパイクをつけているが、前を走るミナはつけていない。
一歩一歩に微妙な力加減を加えて、緩やかにカーブしているこの場所だから全速力というわけにはいかない。追いつける、そう確信していた。
あと少しで手が届く。
あと少しで隣に並べる。
それほどまでに距離が縮まったのに、ミナは絶対にやらないことをやった。
「よっ」
飛び上って壁の配管を蹴ると、そのまま上にあるバルブを掴んで一回転。走り抜けたユキを見送って、着地――
「あら――」
滑り止めのついていない靴裏が積もった雪を押しのけてスリップ。
「これは――」
壁から突き出ている細い管に手を伸ばすが間に合わず。
「まずい――」
慣性に従って、消費されなかった運動エネルギーでつるつると滑って”受け皿”から落ちてしまった。
「スコールさぁぁぁぁぁぁ……」
上から聞こえてくる叫び声は猛吹雪に掻き消されて。
「慣れないことはやるもんじゃねえな」
「だろう?」
なぜか相棒イリーガルまでもが落ちてくる。
「なんで落ちた」
「いやなに、アキトが降ってきたから棍に引っ掛けたら天使まで降ってくる訳じゃん」
「それで?」
「しっかりと棍を持ってた訳なんだが」
「シーソーみたいなもんか」
「そゆこと……」
手持ちの魔法もないため何もできずに、濡れタオルをかざせば一瞬で鈍器になるほどの寒さの中を落ちる。
しばらく落ち続けると、不自然な吹雪から抜け出し、あるものが見えた。
「サンタっていうのはどこかの会社が儲け話のためにつくったと思っていた訳だが」
「いやまあ、そっちはそれでいいにしろ、黒の方はいるような気はしてたんだ」
黒いトナカイ(?)に引かれてソリで空を駆け、黒いサンタクロースは人がすっぽり入りそうな白い袋をいくつも背負っている。
「確か……悪い子にいやなプレゼントをするとか」
「いわく、人攫いの犯行を隠すためにつくられた架空の存在だとか聞いた覚えがあるが」
そこで二人の考えはある方向に至った。
「そういや赤いサンタも白い袋だったな」
「いい子のところには最高のプレゼントを」
「あれ、もしかして悪い子のところから巻き上げたものを配ってるだけの同一人物じゃねえの」
「……嫌な予感しかしない訳だが」
サンタクロース独特の笑い声、を……とても邪悪にアレンジしたような、まるでよくRPGのラスボスとして登場する魔王のような笑い声を上げながら黒サンタは迫ってくる。
「あれ誰か入ってないか?」
「間違いなく誰か拉致られていると思うのだが」
純白の布で作られた大きな袋が一つ。
明らかに”人間”が入っている大きさで中で誰かが暴れているのが分かる。しかも袋の口はきつく縛った上に斬る以外では開かないほどに頑丈に固定されている。
距離がさらに縮まると音が聞こえてくる。しゃらんしゃらんという鈴の音でない。もっとこう、気分を不快にさせるような、嵐の前の音のようなものだ。
「グオッホッホッホッホー」
落ちる二人は、黒サンタが広げた袋に呑まれる。そしてとてつもない早業で口が閉じられてしまうと、
「袋ならナイフで」
ミナがポケットからナイフを取り出して布地に突き立てるが、まったく通用しない。
「これ、触った感じ鋼糸に近いんだが」
「……じょーだんきついねー」
---
タグ取りゲーム終了間近。
アカモートのメインタワーの一階、そこにある大広間に全員が集合していた。
「あいつらどこに隠れやがった!」
「ユキが言うには落ちたらしいが、途中でレーダーからロストしているあたり戻ってきてるはずだ」
「つーかいい加減帰りたい」
「横に同じ、俺なんて鍋に閉じ込められたんだぞ!」
「街中でいきなり雷撃とかねえわー」
「だから言ったのに、僕は無駄だと分かっていたから直接はなにもしなかったんだよ」
男性陣は躍起になって最後の作戦を考える。ただし、報酬目当て。
「うーん、困ったねえ」
「諦めるしかないっしょ」
「他人事だと思ってるから言えるんですね。知ってます? あの人、わたしのために天使の大部隊の中に突っ込んできたんですよ」
「あ、それなら私の時も教会から助けてくれたよ」
「むー、アイリのときは一緒に遊んでくれたもん」
「ぬ、主様はリムのものであります! 誰にも渡さないです!」
「あ、あのー……みなさーん……」
「ユキあんたの存在って結構ちっちゃいぽいね」
もっともターゲットに近づいたユキは、集まった女性陣の中では結構すみっこの方に下がっていた。なにせここにいるのは天使や悪魔や亜人。人間の入り込めそうな余地がないと言うか、よくもまあこれほどにまで手を出していたというべきか。
「あー、あー……ちょっと聞けぇぇ!」
仙崎の一喝で場が一斉に静まる。普段おとなしい人が大声を出すと、意外に効果があるのだ。
「あのねえ君ら忘れてない? 僕が誰かってことを」
大きなクリスタルのはめ込まれた、長い杖で床を叩きながら言う。
「ソウマの相棒だろ?」
「よく忘れられてる……あれ、そういやフルネーム出てこねえ」
「確か単独行動し始めた頃から全っ然出てこなくなって味方にもすっかりきれいに忘れられてたって言うバカ?」
「俺に秒殺されたな」
「学生……だよな」
「スコールに足を砕かれ――」
「もぉぉぉぉーーーーいいよ! もう! なんだいなんだいっ、分かりやすく杖まで持ってるってのにさ!」
そこでユキが一言。
「魔神……ですよね」
「おしいね。僕は魔神の域には達しない”ただの魔法使い”だよ」
くるりと杖を回してもう一度、カツンッと床に打ち付ける。音に乗って瞬間的に魔法陣が広がると、そこには白い袋が五つほど。
「この僕が何もしていなかったと思うかい?」
杖の先にアーク溶断のような眩いブレードを顕現させると、一つ目の袋を開ける。
中からはランニングシャツとステテコパンツのおじいさん。
「まさかとは思ったけどさ、いるんだよ、この変な世界には」
そのおじいさんに赤い服と帽子をつけてみよう、
「サンタクロースが!」
「おまっ」
「子供の夢を!」
「今すぐに業務に戻らせろ!」
「明日にはプレゼントが届かねえじゃねえかよ!」
「とりあえず黙ろうか」
ブレードを弾けさせて威嚇する。
場が静かになったところで続ける。
「魔法って言うと、大抵は個人がイメージしたものを形にしてるんだけど、ほとんどもとになってるものがある。先入観って言うのかな、神話とかおとぎ話とか、小さいころからこれはこういうモノだって言われるとそれをイメージに何らかの形で混ぜ込んじゃうんだよね。だから」
「説明はいいから結論言えや!」
「……えー、僕はこのサンタクロース(本物かどうかは知らない)をもとにして黒いサンタクロースを召喚。攫うというところを魔法記号として埋め込んで」
袋を一つ開ける。
中から出てきたのは上半身裸で全体的に白いアルビノの青年だ。猿轡に特製の手錠と足枷で拘束されている。
「人を攫う実験を成功させました。という訳で、仕掛けてみた」
さらに二つの袋を開けると、中からレイジとミナが現れる。
これもまた拘束された状態だ。
「えっ!」
「どうやって」
「あいつらが捕まるってのはレアだぞ」
「あーはいはいどうでもいいよそこ。とりあえず女性陣の皆様方、お好きにどうぞ。まわすなりにるなりやくなりどーぞどーぞ。僕もこいつらには恨みが……うわ」
言い終える前に説明できない惨状になった。
とりあえずミナが引きずられて行って、近場の部屋に女性陣もろとも消える。
「あれ、君はいいの?」
「えー? だってあたしゃアレの写し鏡だよ?」
「あっそう」
なんだかよくわからない内に話が進むが、残された男性陣の視線は最後の袋に集まっている。いったい誰が入っているんだ? と。
「ああ、あれ? あれはさすがにバランスブレイカーだから僕が捕獲しておいた」
袋の口を焼き切ると、目隠しまでされて厳重に拘束された、白髪混じりの女の子。時川漣。
見た瞬間に誰もが、確かにバランスブレイカーだ、とうなずいた。なにせこの少女は認識した相手の動きを、自分の考えた停止の概念で停止させることができるのだ。
逃げる相手を目視→停止→捕獲と持っていかれるとゲームにならない。
「そういうわけだがぶあっ!」
横合いから鋭い蹴りが突き刺さった。
「相分かった、お前のせいで捕まったという訳だ。タグも取られてるし」
イリーガルこと、歩く災厄レイジは仙崎の襟首を掴むと、一階の中心にある”池”へと引き摺っていく。
「ねえちょっと待って! さすがにそれ僕死ぬ!」
「なあに大丈夫だ。大魔導士クラスのお前なら廃人コースですむさ」
「人として死ぬっていう意味で言ったんだけど!」
「分かってるが」
「なおさらたちが悪いよ!」
「こんな茶番を仕組んでくれた礼だ。サポートへの攻撃は許可されている訳だから」
「えちょちょちょちょ! なげおうわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
ドボン。
---
カタカタとキーボードをたたく音が聞こえる。
「以上、レポートしゅーりょっと」
ソウマは一人寂しく帰るために調べ物をしながらいろいろと纏めていた。
「まったく、あいつら帰る気あんのかよ」
To be continued...
またグダグダな変なものが出来上がってしまった……。