協会で革命!!
多くの人間で賑わい、多くの露店で賑わい、それらで囲まれ存在を象徴するように建つ大きな城『王城フェブリス』、そんな古都フェブリスにサタンとアリシアは来ていた。
普通の人間なら右往左往してしまうほどの人の流れでも二人は確かな足取りで迷い無くすすんでいた。
この二人が古都フェブリスを目指す事になったのは二日ほど前のことだった。
二日前アリシアは家族全員をゲイドとヘルいう名の二人とその集団に襲われてしまう。その時のアリシアはサタンの助けを得て何とか魔物の集団を撃退する事に成功したのだが、それにより疲弊していた。その時動いたのがサタンであった。サタンと言うのはアリシアが妹を助ける時に見つけた『変な奴』というイメージだったが魔物の集団との戦闘の後、有名ギルド『黄昏の騎士』の一員だという事が分かった。話は戻るが現れたゲイドとヘルはサタンと知り合いのようであり、話をしていた感じからすると彼等も『黄昏の騎士』の一員のようだった。さらにいうとサタンの方が二人よりも強いらしく一人は酷く怯えていたように見えた。事実もう一人のヘルという女と戦った時には、何をしたか分からないうちに攻撃を全て消し去っていた。そして戦闘が終わるとサタンはアリシアに「一緒に古都フェブリスに行ってくれないか?」と言ったのだった。
そこでアリシア自身もサタンの正体が知りたいと思いついて来たわけなのだ。
そして現在は古都フェブリスの中央部に拠点を構える傭兵系ギルド『黄昏の騎士』の本部に向かっているのだった。
「やっと着いたな」
サタンは短くダルそうにそう言うと重量感溢れる鉄製の大きな扉に手をかけた。ギィーっと鈍い音をたてながら開く扉は不思議と別世界の入り口のような感覚をもたらした。扉の中は何故か真っ暗だった、いやただ真っ暗なわけではなく生き物の存在を感じさせない無音の暗闇だった。
その光景にサタンは眉を顰めた。
「どうしたのだ?」
サタンの表情になんとも言えない疑問を持ったアリシアは質問をした。サタンは早口で
「血の匂いがする」
と述べ奥に走り出した。
自分の所属しているギルドで血の匂いがするなど理性を失ってもおかしくないような状況だったが、サタンはアリシアがついてこれる速さで走っていた。目指したのは一番奥の部屋・・・『マスター室』
駆け込むようにサタンは扉を蹴破ったり・・・沈黙した。
少し遅れて到着したアリシアはサタンの肩越しに部屋の中を見て愕然とした。
部屋の壁は赤黒く塗られ所々ひび割れていた、そして部屋の中心の机には腐乱した生首と一つの手紙が置かれていた。
手紙にはこう書かれていた。
『親愛なるサタンへ
君等が魔王と呼んでいた存在の子供って言えば分かるかな?
今回は君に仕返しに来たんだけど生憎君等のリーダーだったミランとあんまり訓練されてなかったギルド員ぐらいしかいなかったから三十分くらいで制圧できたよ、でも見事だったのがミランが街に被害が出ないようにその能力の『世界』でギルドの敷地に結界を敷いた事だったね。まあそのせいで彼は死んじゃったんだけどね。あっ!!そういえばまだ腐ってない?一応防腐処理しようか剥製にしようか迷ったんだけどめんどくさいからそのままにしたんだよね・・・ミランの首さ。
憎いかい?僕を殺したいかい?ならここまで来なよ・・・フェブリスの外れの協会までさ、僕は君が来るまでいつまでも待つつもりだよ。
・・・最後にこの手紙を他のメンバーが見つけないように君以外のメンバーには面白い仕事を回しておいたよ。ミランが普通頼まないような仕事をね・・・。
じゃあなるべく早く来ることとを祈っているよ。
魔王の子供より』
サタンは読み終わると同時にグシャリと手紙を握りつぶしていた。その手はフルフルと震えていた。
「アリシアはこの事をここの王に話してくれ・・・これを見せれば王と面会が出来ると思う」
そう言ってサタンはギルド会員証をアリシアに手渡した。
「私も着いて行くぞ」
アリシアはそう言ってギルド会員証を返したが・・・。
「足手まといだ」
の一言を残してサタンは先ほどとは段違いの速さで出て行った。
サタンはこの時怒りで忘れていたかもしれないが・・・アリシアも手紙を読んでいたので何処に向かったのか知っているのだった。
アリシアはサタンのギルド会員証をポケットにねじ込むと自らも教会に向かって走っていった。
十数分後五キロほど離れた協会の扉の前にサタンは立っていた、扉を押す方とは逆の手には銀色の剣が握られていた。
そしてサタンはその扉をゆっくり奥に押し扉を開いた。警戒しながら中に入ると・・・置くの神を表したのであろう巨大な石像の肩に一人のサタンと同じ位の年を思わせる青年が座っていた。金色の髪に深紅の瞳・・・それを見た瞬間サタンは確信した。奴が魔王の子供だと
「やはり・・・あいつの子供もあいつと同じ人型の魔物ってわけか・・・。」
忌々しそうに魔王の子供を睨みそう言うと魔王の子供は石像の肩から降りた、結構な高さから降りたにもかかわらず魔王の子供は音も無く地面に降りていた。そしてゆっくりと話し出した。
「僕は魔王の三人の子供の中の二番目の子供、名前はルード。君は僕を始めてみたかもしれないけど・・・僕は君を一度だけ見たよ。君が僕の父を殺しにきたときにね。」
「そうか・・・。」
「さらに言うと、僕は初めて君を見たときにはあんまり興味が無かった・・・って言うよりこの世界自体に興味が無かったんだよね。父にはいつもあと少しのところで訓練で負けてたけど勝つのは時間の問題だったし、二人の兄弟はそれぞれ好きなことしてるし・・・。そんな日常はいつも続くと思ってたし、でもその日君は僕の父を倒した。死ぬ寸前で僕と兄弟を父は助け出して遺言に三つの事を約束させたんだ・・・なんだと思う?」
サタンは興味なしと言わんばかりに早口で
「知らん」
と言って身構える。
「一つ目が自分の欲望のままに生きる事、二つ目がたくさん人間を殺す事、そして三つ目が・・・サタンと言う男に会ったら逃げる事・・・ここで質問、普通なら仇をとるように言うのが普通だけど・・・父はあえて逃げるように言ったんだ?父をそこまで言わせるような君の能力は何なんだい?どんなに情報を集めても、君の能力の情報だけは集まらなかった。どうして『悪魔の双眸』なんて能力の名前なのかもね・・・。だからさぁ・・・ここで確かめさせてもらうことにするよっ!!」
先ほどまでルードのいた地面が陥没しルードの姿が見えなくなる、それはただの踏み込み、だが地面が陥没するほどの力を込めた踏み込みだった。一瞬でルードはサタンを攻撃できる間合いまで詰め寄り拳を突き出す。サタンは左目を開ける、その瞳には三角形が映し出されていて・・・サタンの姿が消える。正確に言うとルードの拳が当たった直後に霧のように霧散したのだ。
驚いて飛び退くルードの目に驚くべき光景が映る、なんと霧散した霧が二つに集まりそれぞれサタンのとなったのだ。
「影分身の能力なのか・・・。案外つまらない能力だったね」
そう言ってルードは二人のサタンに向かって先ほどの踏み込みで割れた床の小石を二つ掴み投擲した。普通の人間が投げると牽制にしかならない小石も魔物のルードが投げると人を殺せるほどの威力を持った武器となる。ルードは先に避けた方を殺そうと思っていたが・・・サタンは避けるどころが気にも留めていないように歩いてきた・・・しかもルードに向かって真っ直ぐに・・・。
ルードはサタンの行動に度肝を抜かれその光景に見入っていた、そしてルードの攻撃はサタンを通過した。
と同時にルードの近くで銀色の光が舞い・・・両腕が宙に舞っていた。
舞った両腕が地面に当たるボトッという音とともにルードは声にならない悲鳴をあげていたが、それでもルードは今起こった事を冷静に判断していた。
しかしその時にはサタンは首を飛ばそうと振りかぶっていた。
(二人のサタンには、小石は当たる何処ろが触れもしなかった。確かに当たったはずなのに・・・そう何も無い空間を通過したみたいに・・・通過?そしてサタンはそれに呆然としているところでいきなり現れた・・・。この事から推測されるサタンの能力は・・・。)
「そうか・・・幻影を作り出す能力か・・・。」
うめくようにそう言うとサタンは首を跳ね飛ばそうと振り上げていた剣を止める。
「良く分かったな、『悪魔の双眸』の左目の能力、『幻影創造』だ」
それだけ言い終えると勢い良くサタンは剣を振り下ろした。
ところがルードは振り下ろす時に生じる若干のタイムラグでサタンにタックルをくらわせる、弱っている状態でも流石は魔物なのかサタンは二メートルほど吹っ飛んだ。
「左目って事は、右目にも何か能力があるのかな?僕の腕の治りが遅いし」
「それはあの世で考えろっ!!」
そう言って振り下ろすが・・・またもやサタンは後方に飛ばされる。見えない力によって
「父王との約束を忘れたのですか?ルード」
「そうだよ父様の言い付け守らなくちゃ駄目じゃん、ルード兄ちゃん」
そう言いながら歩いてきたのは背の高い優男と少年だった、だが二人ともルードと同じく金色の髪と深紅の瞳だった。
「なんだよ・・・二人とも来たのかよ・・・これじゃ僕がかなり格好悪いじゃん」
ルードは憎まれ口ながらも嬉しそうに言った。
「お前らも魔王の子供か・・・。」
サタンがそう言うと優男の方が一礼して
「私は魔王の三人の長男を勤めています、ケルトといいます。どうぞお見知りおきを・・・。」
それにならって少年のほうも一礼して
「僕は三男の、フゥっていいます。」
サタンは剣を地面に突き刺し三人を見据えると
「俺は『黄昏の騎士』所属のランクS戦闘員サタン、今からお前たち三人を俺等『黄昏の騎士』マスター、ミランを殺した罪でランクSの任務としてお前たち三人を討伐を申請し・・・排除する。」
そう言ってサタンは地面を蹴るが
「待って下さいよ、この人どうなってもいいんですか?」
ケルトは笑みを浮かべてそう言うと背後に手をかざす。すると背後から宙に浮いて何かが運ばれてくる。その運ばれてきたモノ(・・)を見て驚いた。
「なっ!!アリシア!?」
そう、運ばれてきたのはアリシアだったのだ。
「彼女は貴方を追って来ていたところを偶然発見しましてね、何かに利用できると思っていましたが・・・やはり利用できましたね」
ケルトは不意にアリシアの喉を掴む
「彼女の命と引き換えに・・・今回は逃がしてくれませんか?」
それはお願いではなく殆ど脅しだった。サタンは苦々しい顔になりながら剣を捨てる。
「ありがとうございます、では・・・もう会わないように願っていますよ」
そう言ってケルトはルードを脇に抱えるとフゥと一緒に何処かへ行ってしまった。
残ったのは気絶しているアリシアと三人が消えていった方向を睨むサタン。
「・・・たく、面倒な事になったもんだな・・・。」
サタンはそう呟くとアリシアを起こす事にした。




