唐突過ぎる、これって革命?
サタンとアリシアとメアは大きな家の前に立っていた、ただ大きいといっても他の家よりはと言うだけであり屋敷とか豪邸と言うわけではなく本当に大きな家と言う感じの家だ。
その家の中へアリシアとメアは迷いなく入っていった、サタンも少し戸惑いながら入っていった。
家の中には笑い声が溢れていた、それも嘲笑や狂喜などではなくもっと穏やかな温かみのある笑い声だった。
その笑い声にサタンの心はなんだか重くなった。動くたびに絡めとられていく粘々した黒い心の底なしの闇、サタンは周りがそんなものに感じられた。とそこで
「おやおや、なんと悲しみに満ちた目だ・・・。」
目の前から声がした、サタンは我に返って前を向く、そこには初老の男が笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「あんたは?」
無愛想な言葉で短くサタンが問うと初老の男は
「オーランドじゃ、して君はアリシアの言っていた青年じゃな?奥に入りなさい・・・朝食は準備してあるぞ」
それだけ言うとオーランドは家の奥に入っていった。それにサタンは慌ててついて行った。
中にはたくさんの人がいた、お手伝いさんもかなりいたが・・・その皆が笑っていた。
サタンは急にここに居辛くなった。『悪魔』『化け物』『魔王』そんな言葉が耳に鳴り響く、頭に鳴り響く、『破壊、はかい、ハカイ・・・望むな、与えるな、願うな・・・そんな資格は無い』そこまで聞こえると足が地面から離れているように感じる、クラクラ頭がする・・・。そしてサタンは皆の前で意識を失い、倒れた。
目を覚ますとそこは白い部屋だった、いや白だけと言うわけではないが全体的に白が強調され心が落ち着くような部屋だった。少し考え何を思ったのかサタンは部屋から出て行った。
(今は一日のどの辺りだろう・・・。)
そう思って家を彷徨っていると背後から声をかけられる。
「もう身体はいいのか?」
さっと振り向くとそこにはアリシアの姿があった。
「あぁ、迷惑かけたみたいだな」
短くそう言うとサタンが家から出て行こうとしたのでアリシアは慌てて止めた。
「お前、どうして出て行こうと・・・。」
サタンは少し考え、短く言葉を紡いだ
「ここにいると・・・失うものが多すぎる」
「お前何を言って・・・」
いるんだ?という言葉は続かなかった。何故ならアリシアはサタンの目を見てしまったから、租の目に映るのは絶望、全てお諦めたような目
そしてサタンは出て行こうと扉のドアノブに手をかけたところで
「アリシアお姉ちゃんっ!!大変だよっ!!」
メアが凄い形相で走ってきた、その顔には微かだが恐怖が映っていた。
「どうしたんだメア?」
アリシアが冷静にそう言うとメアは少し落ち着いたようでゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「魔物達がたくさんやってくるって動物達が・・・。」
その言葉を聞いたアリシアは少し考え
「わかった、メアはお父様とお爺様にそのことを伝えてくれ、それまで私が食い止める」
と言い残し家を出て行った。そしてメアは走り出そうとして、腕を引かれて止められる。止めたのはサタンだった。
「ねえ、魔物達は何体ぐらいだ?」
「え・・・さ、三十体・・・。」
「俺の荷物は何処にある?」
「そこの部屋・・・。」
メアはサタンに言われるがまま荷物のある部屋を指差した、それほどサタンの顔は真剣だったのだ。
「ありがとう」
そういい残して教えてもらった部屋に入り、数秒後何かを持ってサタンは出てきてそのまま家からも出て行った。呆然としていたメアだったがアリシアに言われた事を思い出しお父さんとお爺さんを探し始めた。
村から少し離れた平原で魔物達とアリシアは睨み合っていた。アリシアの足元には三体ほど魔物が灰となって転がっており、アリシア自身も無傷と言うわけではなく太腿に少し大きめの傷を負っていた。
「多勢に無勢とはこの事か・・・だが私も引くわけには行かないのだ」
そう言って自らを奮い立たせアリシアはより一層紅炎の剣の火力を上げて魔物たちに向かって行った。
すれ違い様に二体の魔物の首を飛ばす、そのまま三体目も斬ろうとして足が動かないのに気付く。
足元を見るとそこには、地中から魔物の腕が足を掴んでいた。急いで足を掴んでいる魔物の腕を斬り飛ばそうと振りかぶるが正面から二本の角の生えた魔物が角を突き出して突っ込んできた。防御しようとするが振りかぶっていたせいで体制が上手く取れない。
アリシアがやられると思い反射的に目を閉じた時だった、急に身体が横に引かれた、しかも不思議に足を掴んでいた魔物の手ごと・・・。とそこまで思ったところで目を開けた。そこには自分を引っ張る黒い影と掴んでいた手を切り裂いた銀色の刀身が見えた。
とそこで自分を引っ張っている存在と目があう・・・なんだか信じられなくなった。嘘だと思った。こんな都合のいいことないと思った。何故ならそこにサタンの姿があったから
「な、何故だ?」
こんな言葉しか口から出なかった、その言葉にサタンは律儀にも答える。
「一応世話になったから、だけど今回だけだ」
そう言ってアリシアを降ろす、二人の眼前には血走った目をした二十七体の魔物の姿があった。
「止めは頼む、剣じゃ倒せない」
そう言い残してサタンは魔物に向かって走っていった、慣れた動き、熟練者の動き、そして自分の数段上を行く動き、それがサタンの動きだった。銀色の剣が煌くたびに魔物の腕や足が飛ぶ、だがその傷は即座に回復してしまう。首を飛ばしても銀色の剣はただの剣に過ぎない為、傷口からくっ付き始めてしまう。だがサタンはそんな事意に介さずといった感じで次々と切り裂いていく、そして怯んだ魔物にアリシアが剣を突き立て灰に変える。
数分後、魔物は四体と数えるほどになっていた。とその時魔物の一体が空を飛んで村に向かって行った。サタンは舌打ちをして剣を空に投げる、クルクルと回って剣は魔物の羽を切り裂き魔物は地面へ落下した。だが武器を手放したサタンの下へ三体の魔物が殺到した。最初の魔物の攻撃はサタンの顔を襲ったが軽く状態を逸らす事でサタンは回避した。二体目の魔物は身体を逸らした事で無防備になった腹へ鋭い爪を突き出したサタンはそれを上空へ飛ぶことに回避した、だが飛んだとき誘い込まれた事が分かった。何故なら三体目がすでにこちらに飛び掛る準備を終えていたからだ。そして魔物はシュッという風を切る音とともに襲い掛かってきた。
ザシュッという音とともに辺りに鮮血が舞う、そして地面に血だらけの・・・魔物が落ちてきた。
サタンの手には銀色の剣が握られていた、あの瞬間回転しながら落ちてきた剣を素早くサタンは掴むと眼前にまで来ていた魔物の四肢を斬り飛ばし地面に蹴落としたのだ。
すぐさま再生しようとする魔物の胸に紅い剣が突き刺さる、すると断末魔を上げさせる暇さえも与えず魔物は灰となった。他の魔物も同じように灰になっていた。
「終わった・・・。」
そう言ってサタンはフーッと息を吐き出すと村とは逆の方向に歩き出した。
「何処に行くのだ?」
アリシアはサタンの肩を掴んでそう言った。だがサタンは何も話そうとせず無言のままだった。
「もしや・・・私のせいか?」
震えるような声でアリシアが問い掛けるとサタンはなんだか伐が悪そうに頭を掻いて
「違う」
と小さく呟いた。そしてそのまま歩き出そうとして・・・転んだ。
「何するんだ?」
少し怒った様にアリシアに言う、アリシアはサタンの足を掴んでいた。
「行くな、お前の力は役に立つ」
その言葉に分けも分からず黙っていると
「古都フェブリスに一緒に来い、そこで私と一緒にギルドの仕事をするのだ」
ギルドとは人々の依頼を受けて依頼をこなし報酬をもらう組織の事で、この世界でのおもな役割りは魔物の討伐である。だがギルドにはさまざまな種類があり、先ほど紹介した討伐ギルドの他に物探しの能力に特化した革命者が集まる探偵系ギルド、戦闘系の能力に特化した革命者が集まる傭兵系ギルド、そして報酬次第ではどんな仕事もこなすといった危険な思想の革命者の集まる盗賊系ギルドがある。アリシアはこの中の傭兵系ギルドに属している、つまりアリシアはサタンを傭兵系ギルドに誘っているわけだ。とそこでサタンが口を開いた。
「無理だな」
短いが決定的な拒絶の言葉、それでもアリシアは諦めなかった。
「何故だ?お前に不利になるようなことはないはずだが・・・。」
「不利とか不利じゃないとか問題じゃない、お前も知っているだろ?ギルドの契約を・・・。」
アリシアが返答する前にサタンは懐から一枚のカードを取り出す。
カードにはこう書かれていた。
『傭兵系ギルド【黄昏の騎士】』
名前:サタン
役職:戦闘員
ランク:■■■
ランクの所は何故か黒く塗りつぶされていたがそのカードは確かにギルド会員証だった。
そうギルドの契約とは・・・二つのギルドに加入する事は出来ないだった。
「お前・・・あの【黄昏の騎士】のメンバーだったのか・・・。」
傭兵系ギルド【黄昏の騎士】それは通常の人|(革命者ではない人間)と革命者の双方が入ることが許されている珍しいギルド、このギルドの入会条件は唯一つ十体の魔物を一人で殺すことだった。この特殊な入会条件を設けてから【黄昏の騎士】にはさまざまな人間がテストを受ける為に訪れ・・・多くは死んでいった。だが【黄昏の騎士】はギルド界では五本の指に入るほどの強豪ギルドで今なおテストを受けるために訪れる人間は少なくない。そんなギルドにサタンが入っている・・・。考えてみれば先ほどの超絶剣技を扱うサタンがギルドに入っていないのはおかしいと言えるだろう。
「その・・・なんだ・・・すまない」
上手く気持ちを言葉に出来ずこんな言葉しか出てこなかった、とそこへメアが走ってきた。
「大変だよっ!!なんか・・・なんか変な人たちがお父様とお爺様を・・・。」
その言葉は最後まで言えなかった、何故ならメアの背後から身長二メートルほどの男が現れたからだ。
「お前がメアとアリシアだな?お前たちに用がある、着いて来い」
有無を言わせぬような凄い威圧感で迫ってくる男が背後に目をやり急に青ざめて足を止める。
「あ、あんたは・・・。」
「ゲイド、お前何をしている?」
アリシアが振り返ってみるとそこには今まで見たことないほど真剣な顔になっているサタンの姿があった。
「サ、サタンさん・・・これは・・・ギルドの命令で・・・。」
ゲイドと呼ばれた男は先ほどとはうって変わって弱い口調になり弱々しく反論を述べたが
「嘘だな」
と一言でサタンは跳ね除けた。
「俺たちのマスターのミランはこんな盗賊ギルド紛いの事はしない・・・本当の事を言え。」
そしてサタンは剣に手をかける、とそこに一人の女が歩いてきた。
「あらサタンじゃない、会うのは何年ぶりかしら?」
親しみを込めて話し掛ける女をサタンはキッと睨みつける。
「ヘル、やはりお前の・・・。」
忌々しそうにそう言うと銀色の剣をサタンは抜き放つ、だがヘルと呼ばれた女は空に浮かんでいく・・・どうやら革命者のようだ。
「貴方を下手に怒らせて無駄死にするほど私も馬鹿じゃないわ、しょうがないから今回の仕事は・・・契約者を殺して解除させてもらうわ・・・さて、ゲイド少しだけ時間を稼いで上げる。そのうちに逃げなさい」
ヘルの言葉を聞いてゲイドは一目散に逃げていった。サタンは逃げるゲイドを無視してヘルに切っ先を向ける。
「話を聞かせてもらうぞ」
その言葉を合図にサタンは走り出す。
「能力も使わないで・・・勝てると思わないことねっ!!」
そしてヘルの背後から風の刃が辺り一帯に降り注ぐ、サタンは右目を見開く。その瞳には三角形が映し出されていた。
「これが、噂の『悪魔の双眸』ね。その能力、見極めさせてもらうわ」
とヘルが言った瞬間サタンの手が素早く動き、持っていた銀色の剣がキラリと煌き風の刃が一つ残らず壊された。
「嘘っ・・・。」
呆然としているヘルにサタンが告げる。
「お前レベルでは俺を倒す事は出来ない」
その言葉にヘルは苦々しい顔になり空高くに舞い上がって消えた。サタンは目を瞑って、何かを考え始めた。とそこで今まで呆然と見ていたアリシアが我に返りサタンを問い詰めようと近寄り・・・サタンに肩をつかまれた。
やろうとしていた事を先にやられて微妙に焦っているアリシアに向かってサタンは言葉を紡ぐ
「一緒に古都フェブリスに行ってくれないか?」
と・・・。




