3秒惨話
<ひとつめ>
朝、小学校へ向かう途中、
自転車に乗った女のひとが、すれちがいざま、ぼくに何かを投げつけてきた。
びちゃっという音がした。
人間の舌だった。
<ふたつめ>
彼の部屋の机の引き出しに、
瓶詰めにされた、たくさんの血まみれの歯を見つけた。
「今日、泊まっていくんだろ?」
彼の楽しそうな声がした。
<みっつめ>
痛い痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い。
「これで私達、ひとつになれたね」
そう言って、全然知らない女が、針と糸で、おれの体を自分の体に縫いつけていく。
痛い痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い。
<よっつめ>
夕方頃、道路に落書きをしている男の子を見た。
その子は、切り落とした手首の切断面を道路に強くこすりつけて、泣きながら血で絵を描いていた。
<いつつめ>
手足が十本ある、人の顔を持つ何かに追いかけられる夢を見た。
朝、目を覚まし、夢かと思って安心してリビングへ行くと、
母が、夢に出たそいつにむさぼり喰われていた。
<むっつめ>
「あしあげるからうでくれよ」
そう書かれた手紙といっしょに、太ももの付け根から千切りとられた、血まみれの人間の両足が、 アパートの私の部屋のベランダに転がっていた。
手紙の終わりには、
「こんやうでくれよ」
と書かれていた。
もう夜だ。
<ななつめ>
朝、登校中に、電柱に頭をゴツゴツとぶつけている男を見た。
「30、31、32、33、34・・・・・・・」
とつぶやき、頭をぶつける回数を数えているようだった。
夕方、下校中に、その男がまだ電柱に頭をぶつけているのを見た。
「156789、156790、156791、156792・・・・・・」
男の顔の鼻から上が、原型がわからないくらいに、ぐちゃぐちゃに潰れていた。
<やっつめ>
居間のテレビに、男が猫の首をねじ切る映像が映っていた。
気持ち悪い番組だな、と思い、テレビを消そうとして電源ボタンを押した。
・・・・・・消えない。
男がこっちを見た。
<ここのつ>
オレオレ詐欺をしてみた。適当な番号に電話をかける。
「もしもし?」
「あ、おばあちゃん?オレオレ」
「・・・・・サトシかい?」
「そう、オレ、サトシ」
「サトシ、ちゃんと、お母さんを殺したかい?」
「・・・・・・え?」
「おばあちゃんの指示通りに、死体をすり潰して、トイレに流せたかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「サトシ、サトシ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんた誰だね?」
<とお>
夜、塾からの帰りに、踏切で電車が通り過ぎるのを待っていると、
走る電車の下で、背中を踏み潰されている女の子を見た。痛い痛いと泣き叫んでいた。
隣に立つおじさんが言った。
「目をあわせちゃダメだよ。ひっぱられるから」
もう、目があっていた。