挿話1 ――むかしむかしのはなし――
今夜は昔話をしようか?
違う違う、いつもの御伽話じゃなくて、本当にあった話。
父さんと母さんの、なれそめだよ。
……なにそんな嫌そうな顔してんの。あんた達が聞きたがってた事でしょ。そろそろ話してもいいかなあって歳に、あんた達がなったって事よ。光栄に思いなさい。
父さんと母さんはね、遠い遠い国で出会ったんだ。父さんはその国の王子様だった。
あれは母さんが……アタシが、当時の彼氏にフラれてやけっぱちになってた年末。一人でやけ酒飲んで、ぐでんぐでんに酔っぱらった帰り道。よったよった歩いてたら。マンホールの蓋が開いてて、そこに落っこちたんだ。
さすがにそのまま死ぬかと思ったね! 下水道のコンクリートに頭ぶつけて。
でもアタシは死ななかった。落ちて、落ちて、気づいたら、とても日本とは思えない場所に辿り着いてた。
テレビで見た事あるでしょ? 外国のお城。あんなかんじの、すべすべの大理石で造られて、きらっきらのスレンドグラスが光る神殿に、アタシは背中から落ちて、「痛ーッ!!」って思いっきり悲鳴あげたよ。酔いもすっかり吹っ飛んだね。
くらくらする頭をおさえながら起き上がったら、更にびっくりだよ。青い髪に金色の瞳をしたひらひらドレスの女の子が、心底嬉しそうな笑顔でこっちをのぞき込んで、開口一番言ったのよ。
「戦巫女様!」
って。
何だそりゃ、って呆気にとられてぽかーんとしてたら、もう一人入って来たの。やっぱり青髪に金色の瞳の、すごい整った顔をした男。そう、よくわかったじゃない。あんた達の父さんよ。若い頃はそりゃあもう、びっくりするくらいの美形だったんだから。
だのにあいつったら、綺麗な顔していながら、アタシを一目見るなり何て言ったと思う?
すんごい残念そうに顔背けて、ボソッとこぼした言葉。いまだに忘れてないわ。
「何だ、今度の戦巫女はこんなに年増だったのか」
だよ! アタシはあの時まだ、二十八だったのに!
ともかく、アタシとあいつが出会った、その国の名前が――