挿話3 ――こんなこともあったっけ――
天敵の戦巫女が自分達の世界にやって来て、魔族も焦ったんだろうね。城に直接魔物が乗り込んで来た事があったよ。
キイキイ鳴きながらすばしっこく飛び回る、鳥と人間をかけあわせたような化物。ああ、そうそう、あんたはゲームとかやってるから想像しやすいわね、ハルピュイア。そいつは、こっちを馬鹿にしたように翻弄して、地上からの攻撃は届かないわ、戦巫女の能力で宙を飛んでも追いつかないわで、アタシも、隣国からたまたま来ていた戦巫女も、すっかり手を焼いた。
そいつがアタシ目がけて飛びかかってきた時、あいつがアタシをかばったのよ。肩に思いっきり爪をくらって、ぼたぼた血を流して。さすがにアタシも目を真ん丸くして驚いちゃった。
結局魔物はアタシがふっ飛ばして、あいつも妹姫の回復魔法で傷を癒してもらって、事態は落ち着いたんだけど、アタシは気づいたら怒鳴ってた。アタシをかばうなんて馬鹿じゃないの、自分を楯にするなんて何考えてるのって。
そうしたらあいつ、どうしたと思う? 物凄い真面目な顔して、自分は絶対に間違っていないって自信に満ちた表情で。
「お前が怪我をしたり死んだりする方が問題だ」
そうバッサリ。
何それどういう事って、さすがにアタシも混乱したね。なんだこいつアタシに気があるのか? って、変な恋愛脳が働いて、心臓がドキドキしておさまらなくなった。
ところがあいつ、とんでもない言い方をしたのよ。
「代わりの戦巫女を見つける方が大変だからな」
アタシは笑顔であいつの腹にパンチ一発叩き込んでやった。
ちなみにその時、魔物が自分達の王の名前を口にしたのよ。
北の果てに棲む魔王、デア・セドル。
妙な名前でしょ? アタシも思わずぼやいちゃったわ。
「変な名前ぇ~」
って。