第一話
七月七日に載せようと思ってたら忘れてました。
そんなに長くはなりません。ノリで書いてます。
七月七日、七夕―――。
それは彦星と織姫が一年に一度だけ出会うことが出来る待ちに望んだ一日。
今年も天の川が―――止まる。
七月六日午後十一時五十九分。
「彦星様、あと一分ほどで天の川が止まります」
「わかった」
彦星は天の川の岸へと立って反対側を見つめた。
同時刻。
「織姫様、もうまもなくでございます」
「わかりました」
織姫もまた彦星がいるであろう岸の反対側を見つめた。
そして、七月七日午前零時―――天の川が止まった。
「織姫……」
「彦星……」
二人はお互いを求めて止まった天の川を走っていく。そして―――視認する。
周りの者たちは誰一人動かない。ここで動くのはたった二人。
歩みがだんだんと早くなっていった。そしていつの間にか走っている。それほどまでにこの瞬間を待ち望んだのだ。あと少し、あと少しだ。
二人の距離はどんどん近づいていった。
天の川に立つ全員の緊張がピークに達する。
「織姫ッ」
「彦星ッ」
声が届く。もう目と鼻の先だ。迷うことなく愛しき相手を見つけて二人は微笑んだ。
そして―――その距離があと二メートルとなった時だった。
二人の目つきがギロリと変わった。
お互いにどこからともなく大きなエモノを取り出して迷うことなく愛しき相手へと振り下ろした。
「死になされぇぇぇぇぇッ!」
「どっせいやぁぁぁぁぁッ!」
ガキン、と金属音が天の川全体に響き渡る。そしてその火花が合図となる。
「開戦ッ!!」
誰かが叫ぶと同時に凄まじい咆哮が天の川を揺らした。
「うおおおおおおおおおおおおおッ」
「おらああああああああああああッ」
「だらああああああああああああッ」
「くたばれコラああああああああッ」
そう。彦星と織姫は長い間にわたり愛を育んできた。それは何万回も会っているのだ。
つまり―――。
只今、絶賛ケンカ中。ちゃんちゃん。
「このクソ女があああッ! いい加減くたばりやがれえええええッ!」
「それはこっちのセリフよこのクソ野郎がッ! 男らしく夜空のお☆さまになりやがれッ!」
メルヘンもへったくれもない汚い言葉使いであった。
彦星と織姫の周りには数々の星座たちが死闘を繰り広げている。
「おらコラァァァッ!」
「ふぬあああああッ!」
彦星側の参謀であるアンドロメダ座は、織姫側のカシオペア座を攻撃。それは見事に肩にヒットした。
「ぐあっ―――」
「あっ!」
とアンドロメダ座が声をあげて膝をつくカシオペア座に駆け寄る。
「申し訳ないっ」
心底心配している表情だ。
「あぁ、いえいえ。今のは私が悪かったですね。こちらこそ申し訳ありません」
お互いにぺこりと頭をさげてあやまった。
どういうことかというと―――。
やる気、もとい殺る気なのは彦星と織姫だけなのだ。
「あっ、新しい人ですよね? 私、彦星組の参謀をしておりますアンドロメダ座と申します。以後よしなに」
名刺を両手で丁寧に差し出した。それを両手で丁寧に受け取るカシオペア座。
「あっ、わざわざご丁寧にどうも。ですが私はまだ新人ですので名刺がなく……」
「はっはっは、いえいえ構いませんよ。それよりもお怪我大丈夫ですか?」
「えぇ、このくらい平気ですよ」
そんな会話をする二人。よくまわりを見れば、あちこちで頭を下げ合っている姿が見受けられる。数人で談笑をしている者たちもいる。
「そうなんですか? もうそんな歳になったのですね」
「えぇ、子供の成長は早いもので」
「私なんか家に帰ると目も合わせてくれませんよ」
「そうなるまでいっぱい抱きしめたいと思います」
はっはっはー、と父親たちは笑い合う。
「そういえば今度の休日にBBQに行くのですが、どうですかご一緒に」
「いいんですか? それはぜひとも」
「ええ、ええ、もちろんですとも。まぁちょっとお肉の方を持ってきてもらえると助かりますなぁ」
「いいお酒が手に入ったんでそれも持っていきますよ」
「おお、それはいいですな。週末が楽しみです」
なぜ彦星と織姫はまわりの状況に気が付かないのだろうか。よほど愛しの相手しか見えていないのだろう。
「こんのおおおおおッ」
「くそがあああああッ」
二人だけどんどんヒートアップしていく。
そして彦星が動く。
「オリオン座ッ! 行くぞッ!」
「ぇ? ぇえっ? 私ですかっ!?」
「いくぞおおおおおッ!」
「ちょっ、待っ、わたしにはまだ幼い妻と子が―――」
聞く耳を持たない彦星がそこにはいた。
「必・殺―――。オリオン座流星ぐぅぅうううんッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
オリオン座はいくつもの☆になり織姫を襲った。
「なッ! ついに出したわね彦星。それなら私もよ。アルタイル、デネブ、ベガ!!」
名前を呼ばれて三人は凍りついた。
「うそおおおおおおっ」
「いやだあああああっ」
「ちーんっ」
そんな悲鳴は織姫の耳には届かない。
「必・殺―――。防壁、夏の大三角形ッ!」
織姫の前に巨大な防壁が展開される。
オリオン座、アルタイル、デネブ、ベガは文字通り夜空のお☆さまとなったのだった。
「ぬう、味方を盾に使うとは卑劣な!」
「ちっ、味方を攻撃使うとは犬畜生ね!」
「「それアンタが言うかッ!!」」
きっと似た者同士なのだろう。
まわりの猛者たちは無言で仲間の冥福を祈ったのだった。