第八話 ミハルの国
非常にわかりにくい話ですみません。
暗い岩陰に潜むのは、杖を持ったローブ姿の老人。
ミハル、は問いかけた。
「ラパ様、何を考えているの?」
「この世の理を」
ラパ様はそう答えた。
ラパ様はこの国の賢者。
いつも岩陰にいて、瞑想している。
「理とは何?」
「理とは即ちものの道理、道筋。理由となる標」
「それを考えてどうするの?」
「真理を求める」
「真理とは?」
「真なもの。普遍なもの。ただ一つの絶対的なもの」
「求めてどうするの?」
「ただ、求めるのみ」
そう言うと、またラパ様は静かに瞑想に耽る。
しばらくその様子を眺めていたミハルだったが、くるりと背を向けると歩き出した。
高く高く聳える塔のてっぺんに座り込むのは、綺麗に着飾ったお姫様。
ミハル、は問いかけた。
「マリー・アネット姫、何を見ているの?」
「全部ですわ」
マリー・アネット姫はこの国のお姫様。
いつも塔の上にいて、その下に広がる国を見下ろしている。
「全部って何?」
「全部は全部ですわ。この国の全部」
「どうして見ているの?」
「それがこの国の姫たるわたくしの成すべきことだからですわ」
「何が見えるの?」
「この国のみんなの暮らしを」
「こんな高い所じゃ、よくは見えないよ」
「いいのですわ。近くから、細かいところまで。遠くから、たくさんのものを。いろんな見方、接し方がありますが、わたくしの役割は、遠くから全体を見渡し確認することなのですから」
「近くはどうするの?」
「それはまた、別の役割の者がおりますわ」
「こんなところで一人じゃ寂しくないの?」
「わたくしは、わたくしの役割に満足しておりますもの。ですから、寂しくなんてありませんわ」
そう言うと、またマリー・アネット姫は遠い足元下に広がる国を見遣った。
しばらくその様子を眺めていたミハルだったが、くるりと背を向けると歩き出した。
国の一番端の国境の門の前で、長槍を持って佇むのは衛兵さん。
ミハル、は問いかけた。
「トトさん、何をしているの?」
「国を、守っているのです」
衛兵のトトさんはそう答えた。
「どうして守るの?」
「わたしが衛兵だからです」
「どうして衛兵だと守るの?」
「それが仕事だからです」
「どうして衛兵になったの?」
「この国が大切だからです」
「どうしてこの国が大切なの?」
「この国が大好きだからです」
すると、今度はトトさんがミハルに話しかけました。
「ミハル、あなたの役割は何ですか?」
「役割?」
「あなたにとって、この国は、この国の人は、この国の生活とは、どういった意味を持つのですか?」
「わたしは……」
ミハルは、そこでトトさんに応えようとして……。
はっ、と目が覚めました。
ミハルは、咄嗟に自分の状況がわからずに目をぱちぱちとさせました。
「美春ー、早く起きなさい。学校遅刻しちゃうわよー?」
部屋の外からお母さんの声がします。
「……ああ、そっか」
美春はそう呟くと、ふわあと大きな欠伸をしました。
あれは、夢です。
小さい頃から、繰り返し見る夢。
夢の中の国。
そこにはラパ様や、マリー・アネット姫や、トトさんや、その他のキャラクターが登場します。
その国で美春は、いろんなことを考え、いろんなことを見て、いろんなことを体験し、いろんなキャラクターとお話しします。
なぜいつも同じその国の夢を見るのか不思議でしたが、今ではその夢を見るのが楽しみになっていました。
美春はそのキャラクター達がいる国の一員なのです。
その夢は、いわば美春だけのもの。
現実はと違う、もう一つのミハルの世界。
ミハルの国。
「美春ー?」
「はーい、今行くー」
美春は大声でそう答えると、自分の部屋を出て行く前にの小声で言いました。
「……行ってきます、みんな」
また次に、夢の中で会う時まで。
また、ミハルの国で、会いましょう。
ちなみに美春の年齢設定小学2~3年生です。