第五話 ぐうたら仙人とその弟子
連載にしようか迷った話、先が思いつかないネタだったので短編にしました。
「もー、お師匠様ったらまたこんなに散らかしてー!」
僕はぷんぷんと怒りながら、片づけをします。
「はははー、ごめんごめんー」
お師匠様は全然悪いと思った様子もなく、ごろごろしながら僕に謝ります。
「んもー、片づけの邪魔になるからどっか行ってて下さいー!」
「はいはいなーっと」
お師匠様は重い腰を上げると、部屋から出て行きました。
きっとどこか日当たりの良い草原で昼寝でもするつもりなのでしょう。
お師匠様は仙人です。
しかも、とっても力のある偉い仙人様なのです。
普通は厳しい修行に耐え、やっ仙道を開いて仙人になることが多いので、仙人は見た目お年寄りの方が多いのです。
が、お師匠様はとっても若い見た目をしています。
それだけ、仙骨を多く持ち、仙人として力がある証拠なので、本来であればそんな方の弟子である僕は鼻高々で仕方ないのでしょうが……。
僕のお師匠様は、とってもだらけているのです。
いつみてもごろごろだらだらぐてぐて、なのです。
長い髪はぼさぼさ、着物はよれよれ、草履もきちんと履きません。
せっかく男前ないい見目もしているのに、全部台無しにする勢いでぐうたらしているのです。
たまに人里に下りると、若い女の人達は黄色い悲鳴を上げますが、こんな状況みれば百年の恋もいっぺんで覚める勢いですよ。
ふうっと、僕は今日も溜め息をつきながらお師匠様の世話をしてまわるのです。
僕はある日、薬草を探して崖をよじ登っていました。
効能の強い薬草は得てして こういう所に多くあるものなのです。
やっと見つけた薬草を、僕は引っこ抜いた時、確かに油断があったのでしょう。
僕はぐらっと姿勢を崩し、崖から真っ逆さまに落ちました。
もう駄目だ。
覚悟を決めたその時、僕はやわらかい腕に抱きとめられました。
「……もう、無茶は駄目だよって言ってあるのに」
苦笑しながらそう言ったのは、僕のお師匠様でした。
お師匠様は、雲にのって空を飛び、僕を助けてくれたのです。
僕はまだ空を飛ぶなんてことはできませんが、お師匠様にとっては簡単なことなのです。
「す、すみませんでした、お師匠様。助かりました」
お礼を言う僕に、お師匠様は優しくうん、と頷いてくれました。
その笑みに、僕はお師匠様と初めて会った時のことを思い出します。
貧しくて、口減らしの為に実の親に山の中に捨てられた僕は、野獣に食べられる運命でした。
そして、実際に食べられかけたその時、助けてくれたのがお師匠様でした。
親元へ戻そうとしたお師匠様でしたが、帰れない経緯を知るとそのまま僕を弟子にしてくれました。
僕は別に、仙骨が多いわけでも仙人の才能があったわけでもないのです。
ただ、お師匠様の優しさに拾われただけだったのです。
僕の、お師匠様。
僕の、親代わりになってくれた、優しい人。
だから、僕はお師匠様の役に立って、少しでもご恩返しをしなければならないのです。
少しでもお師匠様の役に立ちたくて、身のまわりの世話をし、必要なものを集め、だから。
どうしてこんな無茶をするの、と言ったお師匠様へそう説明しました。
「馬鹿だなあ」
そう言うとお師匠様は優しく僕の頭を撫でてくれました。
「ずっと一人だった私は、君がそばにいてくれるだけで、とても幸せなんだよ。だから、そもそも恩返しなんかいらないんだ」
「僕も、お師匠様といられて嬉しいです」
一時は貧しさゆえとはいえ、親にもいらないと捨てられた僕を、救い上げてくれた人。
「だから、少しでも役立ちたいんです」
「うん、ありがとう。いつもたくさん世話をしてくれて」
お師匠様は僕の頭を撫でながら、微笑んでくれます。
「だから、危険なことはしないで。いつものように、ぐうたらしてばっかりじゃ駄目ですよーって言いながらそばにいてくれればそれでいいんだよ」
お師匠様がそう言うから、僕は今日もお師匠様へ文句を言いつつ身のまわりの世話をします。
危険なことはしてません。
薬草も、お師匠様へお願いして一緒に採るのを手伝ってもらってます。
それが、お師匠様の望みだから。
だけど、仙人の修行も少しずつはじめているのですよ。
ただし、無理はしません。
だって僕は。
ぐうたら仙人の弟子、なんですからね。
お読み頂き、ありがとうございました。