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第四話 魔女様と僕

何か今日ふと思いついた話です。

 僕は何てことのない男爵家のただの四男坊でした。


 大きくなったら跡継ぎの男子のいない家へ婿入りをするか、騎士になるか、商売で身を立てるか。


 そんな、平凡な将来をぼんやり思い描いていた、平凡な子供でした。


 特別な才能も、怜悧な頭脳も、秀麗な容姿も、類まれな身体能力も、何にもありません。


 我ながら、普通だなーって思っていました。 


 それが、人生どう転ぶかわかったもんじゃありません。


 今僕は、魔女様のお城で鬼ごっこをしているわけなのです。


 どういうわけだ。




 事の起こりは今年の新年会。


 国中の貴族が集まりました。


 老若男女。


 いないのは病を得て寝ている人か、一人では歩けない老人か、まだ人前には出せない乳飲み子か、なくらいのものです。


 僕も当然参加しました。


 ちっぽけな男爵家のしかも四男坊として、隅の方でささやかに。


 そこに現れたのが魔女様でした。


 魔女様はとても強い魔力を持った、とても聡明で、とても美しい、とても身体能力に優れた、スーパー少女でした。


 え? そうですよ。魔女様はまだ少女です。僕と同じ年くらいのようです。


 この国は、時折現れる魔女様をとても優遇しています。


 魔女様の機嫌を損ねると、大変だから、だそうです。


 今回の魔女様は歴代から見ても、一・二を争うくらいに強い魔力を持った魔女様でした。


 本気で怒ったら、国の一つや二つは簡単に吹き飛ばして消滅させてしまうくらいと聞きました。


 ……どんだけですか。


 そんな魔女様なので、扱いは、まあ、おわかりでしょう。


 王様も気を遣っているのがありありです。


 宴に現れた魔女様は、どんなにちやほやされても、すっごく退屈そうな顔でむっつりしていました。


 そんな、魔女様がふと僕の方を見たのです。


 僕も魔女様を見たまま、時間が止まったかと思いました。


 魔女様は僕を見つめたまま、大きく目を見開きました。


 そして。


「……すごい、素敵」


 はい? 


 僕は首を傾げました。


 まわりの人達もそうだったと思います。


 だって、僕のどこに、素敵、しかもすごい、と表現する言葉が当てはまるでしょうか。


 しかし、魔女様はそんな周囲の空気はものともせず、僕を指差して言いました。


「私、アレ欲しいわ」


 その瞬間僕の運命は決まりました。


 誰が、機嫌一つで国を滅ぼせる超ド級の危険人物の言葉に否が言えるでしょう。


 僕はその日から、魔女様のものとなったのです。




 という訳で、僕は簡単に魔女様に身を受け渡され、魔女様のお城でお世話になっています。


 魔女様のお城には基本人はいません。


 すべて、魔女様の使い魔が用をこなしていました。


 基本、生活は快適です。


 魔女様は何だかよくわからない研究に没頭しているらしく、基本僕は放置です。


 なので僕は普段は庭をいじったり本を読んだりお城の模様替えをしてみたり……え、どこの奥さんですか僕。


 ただ、思い出したように、魔女様は僕を構いにきます。


 頭撫でられたり、抱き着かれたり、枕にされたり、遊びにつきあわされたり。


 この鬼ごっこも遊びの一環です。


 魔女様曰く、「探索魔法なんか使わなくったって、私にはあなたのいる場所は一目瞭然よ!」らしいです。


 それなら、と僕も本気で隠れてみました。


 偶然見つけた隠し部屋の、その隠しダンスのなかの、積まれた洋服の中に潜り込んだのです。


 あ、眠くなってきました。


 と、その途端。


「みーつけた!」


 魔女様に発見されました。


 はて? どうして見つかったのでしょう?


「簡単よ。私にはあなたが輝いて見えるんだもの」


 意味が分かりません。


「そう? 簡単なのに。光を探して追いかければ、あなたに行きつくのよ」


 もっと意味がわかりません。


「そう? 人間って不便ね。私は人間って色と光で見えるのよね。人間の言う容姿ってよくわからないわ。いろんな色や、光があるけど、大人になるほど汚く濁っていくのよ」


 ほう、初めて聞きました。して、僕の色は?


「すっごく透明で、綺麗なの。澄み渡っているのよ。綺麗過ぎて、輝いているの」


 僕にはさっぱりです。


「うん。それでいいと思うわ。私はそんなあなたに癒されるわけだし。だけど、変わらないでいてほしいな」


 と、言われましても。自覚がないのでよくわかりません。


「簡単よ。ずっとわたしのことだけを考えて、ずっとわたしと一緒にいれば、それだけよ」


 何だ、そんなことですか。


「それなら簡単ですね。僕は初めて出会った時から魔女様しか見えてませんよ」


 僕がそう言うと、魔女様はとても嬉しそうに微笑みました。


 僕は何てことのない男爵家のただの四男坊でした。


 だけど今は、魔女様を誰よりも愛する、何てことのないただの平凡な人間なのですよ。

次回もまた別の話ですが、よろしくお願いします。

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