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第三話 放課後のグラウンド

短いです。

 ずっと、ずっと好きでした。


 あなただけを、ずっと。




 日の暮れかかる夕方のグラウンド。


 気がついたのはいつからだろうか。


 サッカーボールで一人、遊んでいる男子生徒を見つけた。


 戦前からある広い敷地を持った高校の、第二グラウンド。


 長い長い渡り廊下から見えるグラウンド。


 放課後には人気がなくなるそこで、その男子生徒は遊んでいた。


 いつも、着ているのはジャージではなく制服。


 春が過ぎて、夏が来て、秋が通り過ぎて、冬になっても、いつも。


 いつもその男子生徒は同じ時間にそこにいた。


 だから私も、長い長い渡り廊下を渡りながら何気ないふりをして、彼を見ていた。


 それは、いつの間にか自然と、私の心に落ちてきた。


 それは、恋心。


 好き、なのだと気がついた。


 わかったのに、何も言えなかった。出来なかった。



 四季は巡り、もう三年が経とうとしている。


 明日は、卒業式。


 もう、会えない。


 会えなくなる。


 でも、仕方がない。


 だって、違うんだもの。


 私の世界と、彼の生きている世界は。


 たった三年間、一日のうちの、ほんの短い時間。


 私は歩く。


 長い、渡り廊下の残りを。


 そして、もう一度だけ、とグラウンドの彼を見た。


 ……!


 彼は、私を見ていた。


 見えていたの? あなたにも……。


 知っていたの? 私のこと……。


 だけど、それはもうどうでもいい。


 胸の内だけであなたに囁く。


 好きでした。


 ずっと、あなたを。


 さようなら。


 そして。


 ……ありがとう。




「おい! 関根!」


 突然かけられた声に、僕は思わず手に持っていたボールを落とした。


「……何だ、山根か」


「何だじゃねーよ、これからみんなでメシ行く約束だろ。探させてんじゃねーよ」


「ああ、悪い」


「そんなにサッカー好きだったんなら部活はいりゃよかったのによ。毎日毎日飽きもせず一人でボール蹴ってねーで」


「サッカーが好きだったわけじゃないから」


「は? 何言ってんだ?」


「三年くらい前かな。暇つぶしでここでちょっと遊んでたら、そこの渡り廊下を一人の女子が通り過ぎたんだ」


「へ? 女子?」


 僕は頷くと、手の中のボールを見た。


「何となく気になって、次の日も、また次の日も……って感じで、気がついたら三年間」


「さ……三年? 何やってんだよ、お前。普通さっさと声かけるだろ。って、三年間ってことは同級生か? 今からでも、俺が……」


「いや。いいよ」


「あ? 何で。好きなんだろ?」


 たぶん探しても、どこにもいないと思うから。


 そう、僕は口の中だけで呟くと、不審そうな顔をしている山根の背を叩き歩き出した。


「それより行くぞ、メシ食いに」


「あ、待てよ!」


 僕は笑いながら、もう一度だけ渡り廊下を見やった。


 ずっと見ていた。


 ずっと気になっていた。


 いつも、通り過ぎていくだけの彼女を。


 不思議と、怖いという感情はわかなかった。


 会いたい、と思った。


 決して交わされない、その視線。


 だけど、今日はその足を止めた。


 はっきりとこっちを見た。


 もしかして、見えていたのだろうか、彼女も。

 

 わかっていたのだろうか、もう、会えなくなるということを。


 彼女が、自分とは違う世界にいるということを知っていたから。


 だから近づくことをしなかった。


 話しかけることもしなかった。


 だけどもう、それも終わり。


 後悔は、ない。


 会いたかったから、会いに来ていただけ。


 それが、たとえ限られた時間だと知っていても。


 叶わない想いだと知っていても。


 きっと、忘れはしないけれど、もうここには来ない。


 だから最後に一度だけ。


 誰にも聞こえない、小さな小さな囁きを、君へ。



「ずっと、ずっと好きでした。たとえ、君がなんであろうとも……」






これは、ホラーになるか恋愛に分類されるか、どちらでしょうか。

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