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4話 学生寮

〈学園〉は東京湾上にある人工島に建っている。というより人工島自体が〈学園〉そのものだった。初等部から高等部までの校舎、運動場、体育館、図書館(図書室ではなく図書館、校舎とは別に建物がある)、学生寮。そのほかにも、入学式をやった大ホールに超能力の研究施設、病院などが〈学園〉内にはあった。

 説明は受けていたけど、ずいぶんと広い。教育施設というより、もはや一つの街なのではないだろうか。学生用情報端末で〈学園〉案内図を見た時にそう思った。そしてわたしは〈学園〉施設の一つ、第三学生寮にいた。

〈学園〉は全寮制の学校であり、生徒は全員学生寮に入らなければならない。学生寮は初等生住む第一学生寮(初等寮)、中等生の住む第二学生寮(中等寮)、高等生の住む第三学生寮(高等寮)に分けられている。

 しかしわたし場合、「男子ばかりの場所に女生徒が暮らすのはいかがなものか」という意見が出て、暮らす場所について一悶着あった。まあ結局、わたし自身そんなに気にしていないし、一人だけ別の場所で暮らすのもあれなので寮で暮らすことになったけど。で、今日から高等寮で生活することになるのだが……果たして上手くやっていけるのだろうか。寮に入った瞬間そう思った。

「へー、君がニュースでやってた娘?」

「マジで? 結構カワイイじゃん」

「どこ出身?」

「ねぇねぇ、名前なんてゆーの?」

 うーん、デジャヴ。しかも今度は人数が教室の比ではない。頼りのちとせも、寮の人達が押し寄せてきた時にはぐれてしまった。うう、また顔が熱くなってきた。頭の中がパニックになり、うまく喋れない。またもやどうしたらいいかわからず困っていると、

「うるせーぞ、お前ら」

 と声がした。声と同時に、わたしを囲んでいた人だかりが散っていく。

「ったく、女の子によってたかって話しかけてんなよ」

 華やかな顔立ちをした男の人が、こちらに近づいてきた。肩まで髪を伸ばしており、いかにも遊び慣れてそうな――言ってしまえば軟派そうな雰囲気な人だった。

「いきなり取り囲まれて驚かせちゃってごめんねー。怪我とかない?」男の人が言った。

「は、はい。大丈夫です」

「そっか、よかった。俺は高等部二年で、副寮長の九棗。漢数字の九で『いちじく』、変わった苗字でしょ?」

「一条唯です」わたしはそう言って頭を下げた。九が一文字だから『いちじく』……なのだろうか?

「一応、あいつらも悪気があったわけじゃないんだ。許してくれねーかな」九先輩が言った。

「い、いえ、気にしてないので」わたしは思い切り首を横に振りながら答えた。

「寮の中はわかる? 案内しようか?」

「いえ、ちとせが、幼馴染がいるので――」

 ――大丈夫です。そう言おうとしたら、

「――俺がいるんで大丈夫です、九先輩」

 ちとせが割り込んできた。

 ちとせを見て九先輩は一瞬驚いた様子で目を丸くしたが、すぐに「へえー、ふーん、そういうことか」と言ってにやけた笑みになった。

「ま、がんばれ千駄木」

「……別にそういうんじゃないですよ」ちとせは呆れた声で言った。どうやら二人は知り合いのようだ。っていうか、何をがんばるのだろうか。

「じゃーなお二人さん。邪魔しちゃって悪かったな」

 九先輩はそう言って去っていった。

「……行くか」

「うん、そーだね」

 わたしとちとせは自分の部屋へ向かった。ちなみに、ちとせに部屋の番号を訊いたら、隣同士だった。


「そういえばちとせは九先輩と知り合いなの?」

 自分の部屋に向かう途中、廊下でわたしはちとせに九先輩について訊いた。

「まあな」

「どんな人なの?」

「女好きだよ、女好き。お前も気を付けろよ」

 ああ、やっぱり。しかし口には出さず、「ふーん」と答えた。

「まあ、それ以外は面倒見が良いし、頼りになる先輩だよ」

 そう言ったちとせの顔は、どこか楽しげだった。ちとせの表情(といってもひどくわかりにくいが)からして、本当に頼りにしているのだろう。確かに軟派そうだったけれども、悪そうな人ではなさそうな気がする。

 そうこうしているうちに、自室の前に着いた。

「じゃあ、夕方の歓迎会でな」

ちとせはそう言って、自分の部屋に入っていった。

入学初日は午前中で学校が終わり、夕方から寮の食堂で新入生の歓迎会がある。ちとせが先輩から聞いた話だと、食べて駄弁る立食式のパーティらしい。

「うん、また夕方」

 そう言ってわたしも自分の部屋に入った。

「おぉ、すごい」ホテルのような部屋だった。そして広い。〈学園〉の学生寮は二人一部屋なのだが、さすがにそれは問題があるので、わたしは二人部屋を一人で使うことになる。それを差し引いても、広い部屋だ。寝心地がよさそうなベッドに、上品なデザインの机がそれぞれ二つ。テレビとパソコンと、あと小さな冷蔵庫もついている。ほかにもバスルームとトイレ(別々)も何かいろいろすごそうだった。

 さて、今日からここで新しい生活が始まるわけだが、とりあえずシャワーを浴びて一休みしよう。そう思ってわたしはバスルームに行った。


 シャワーを浴びて一休みしたら歓迎会の時間になったので、わたしはちとせと一緒に食堂へ向かった。食堂にはすでにたくさんの生徒が集まっており賑わっていた。

「新入生諸君、〈学園〉高等部へようこそ。心から歓迎する。私は高等寮寮長で三年の覇堂将希だ。困ったことがあったら何でも相談してくれ」

 歓迎会は寮長の挨拶から始まった。二メートル近くあるのではないかという巨躯に、これでもかというほどに鍛えられた筋肉。覇堂先輩は圧倒的な存在感と、凄まじいまでの迫力を放っていた。正直、気軽に相談しにくそうな気がする。

「寮長さんすごい迫力だね」わたしは小声でちとせに言った。

「まあな。何でも、筋トレが趣味らしいぞ」ちとせが答えた。

「へー」なるほど、納得の趣味だ。しかし肉体的迫力だけでなく、覇堂先輩の顔つきには、知性を感じることができた。

「ちなみに成績は学年トップクラス」

 わたしが考えたことを悟ったのかどうかはわからないが、ちとせはそう付け足した。文武両道というやつか。一見近よりがたそうだけど、寮長をやっているのだからみんなに頼りにされているのだろう。

 寮長の挨拶の後に寮監の先生などの紹介があり、それらが一通り終わるとフリータイムになった。友達、あるいは友達になるきっかけを作りましょうという時間なのだが、フリータイム開始早々わたしは取り囲まれた。本日三度目である。しかし、さすがに三回目となると多少は慣れてきて、一言二言受け答えした後に適当に理由をつけて逃げることができた。

 で、目立たないように部屋の隅のほうにいると、

「どこにいるのかと思ったらこんなとこにいたのか」

 両手に皿を持ったちとせがこちらにやって来た。皿にはシーフードパスタが乗っていた。

「ほら」

 ちとせはそう言ってわたしにパスタを差し出す。

「ん、ありがと」

「ところでさ……お前学校上手くやっていけそうか? まだ一日目だからわからなことも多いと思うけど」

「そーだね。初めは不安があった――っていうか今日の出来事見たらむしろ不安が増えたけど、それと同じくらいに安心できることもあったから、何とかなりそうな感じかな。今のところは」

「そっか」

 ちとせはほっとした声で短く言った。最初は上手くやっていけるのかと思ったけど、教室でちとせを見た瞬間、その気持ちは薄れていった。そして今こうしてちとせと話していると、安心感が生まれてくるのだった。


 そして時は流れ、歓迎会もお開きになろうとしたころだった。

「一条唯ぃぃ! 貴様に決闘を申し込む!」


 ――わたしは唐突に決闘を申し込まれた。


 何とかなりそうな気がしたのは、やっぱり気のせいだったみたいだ。


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