3話 再会
千駄木ちとせ――わたしの幼馴染だ。目つきが悪く愛想もないので、周りからはよく恐い人だと思われている。表情の変化が乏しいのもそれを助長していた。ただ、顔立ちはそこそこ整っているので、中学時代の友人曰く、『一部の女子からは人気があるタイプ』らしい。ちなみにその友人も、『一部の女子』だった。
ちとせとは、互いの両親が昔からの親友同士で家も隣同士ということもあり、小学校に入る前から付き合いがある。中学に上がる時に、ちとせが〈学園〉に入学して別々の学校になっても付き合いは続いた。ちとせは休みの日にはなるべく実家に帰ってきたし、わたしとわたしの両親にも会いに来た。
しかし中学二年の夏休みを境にそれは変わった。夏休み以降ちとせはあまり実家に帰らなくなり、帰ってきたとしてもわたしに会いに来ることはなくなった。それどころか、むしろ避けられている気すらした。ちとせに何があったかわからず、また、何があったのか訊いても話してくれず、だんだんとわたし達は疎遠になっていった。
そしてわたしは、およそ一年ぶりに幼馴染と再会した。
「ねぇねぇ、一条さんってどこ出身?」
「好きな食べ物って何?」
「趣味は?」
「どんなタイプが好み?」
クラス紹介が終わり、放課後初日――わたしはクラスメイトに囲まれて、質問攻めにあっていた。次々繰り出される質問に、わたしはたじろぐばかりだった。
「ええと……その……」
うう、緊張して言葉が全く出てこない。だんだん顔が熱くなってきた。早くこの場から抜け出したいが、どうしたらいいかわからない。そうして何も言えずに固まっていると、
「唯、帰るぞ」
という声がした。声の主はちとせだった。ちとせに話しかけられたのは久しぶりで、わたしは突然の出来事に驚いた。
「早く支度しろ」ちとせは、ぽかんとしているわたしに言った。
「え? ああ、うん」わたしはちとせに言われて、急いで帰る支度をする。
「じゃ、そういうことで」
支度が終わると、ちとせは不愛想に言った。そしてわたしの手をつかみ、そそくさと教室から出ていった。
「いやー、ちとせが同じクラスでよかった。さっきはありがとね」
帰り道、わたしはちとせにそうお礼を言った。およそ一年間会っていなかったが、困っているわたしを何だかんだで助けてくれるところは変わっていない。そんなちとせを見て、わたしは安心を覚えた。
「別にいいよ、礼なんて」
ちとせはぶっきらぼうに言った。無表情ではあるが、どことなく不機嫌な顔だった。感情をあまり表に出さないちとせだが、わたしには何となくちとせの感情の変化が『わかる』のだった。これは長年付き合っているからではなく、初めて会った時からそうだった。もっとも、全部が全部わかるわけではないが。
「もしかして怒ってる?」わたしはちとせに訊いた。
「別に」ちとせは素っ気なく答えた。ああ、この感じは怒ってるな。
「ははーん、さてはさっきわたしがモテモテだったから妬きもちを妬いてるな」
「んなわけねーだろ、ばーか」ちとせが言った。「だいたい、お前さっき何もできなかったじゃねーか」
「うっ! 痛いところを突いてくる」
わたしにとってちとせは、兄弟のような存在だ。一緒にいると心がホッとする、そんな家族のような関係。だから、ちとせがわたしを避けるようになって落ち込んだ。教室でちとせを見たとき、また避けられるのではないかとひどく不安になった。けれども、今こうして普通に話せていて、わたしはとても嬉しかった。