94話 騎士団にだって色々ある
御待たせしてスイマセンデシタ(汗
短いですが、とりあえずキリがいいのでこの辺りでチョッキンとぶつ切り。
ややこしいぜ…騎士団とか組織の話は…
昼食時を過ぎたギルドはどこかまったりとした空気が流れていた。
いくつか置かれているテーブルに座っているのも数人だけだし、職員の数も少ない。
見晴らしのいいギルドの中を見回しつつ、窓口へ向かえば珍しく男の職員さんが座っていた。
「納品に来ました。確認をお願いします」
控えの依頼書を出したリアンの横に並んで、ポーチから納品分のアイテムを取り出して並べる。
すると、窓口にいた男性職員はアイテムを受け取って、鑑定持ちだと思われる職員の所へ行く。
普段なら少し時間がかかるんだけど、今はアイテムを鑑定に出してる冒険者が少ないみたいで、職員は直ぐに戻ってきた。
「鑑定の結果、品質も問題ありませんでした。依頼の基準を満たしていますので報酬は満額となります。確認していただけますか」
「全額、確かに確認しました。少しお伺いしたいことがあるのですが……」
一瞥しただけで金額が分かるらしいリアンに感心しつつ、先にその場から離れる。
工房からギルドへ向かう途中で職員に確認したいことがあるって言ってたんだよね。
(時間も少しあるし、ギルドの売店見てみようかな。色々な素材も販売してるってエルとイオが言ってたし)
ギルド内には売店があることは知っていた。
そこではギルドに納品された品物の一部を売っているらしい。
商品は武器や防具、素材、野営に必要な道具や薬の類など。
売り切れると補充がいつされるのか分からないこともあって、品揃えだけチェックしている冒険者もいるんだとか。
私としては、素材を扱っているって言うのが一番うれしい。
売店のある方へ足を踏み出した私の視界に……なんだか見覚えのある後姿がちらっと見えた気がして体がピタッと動きを止める。
一人は焦げ茶色の髪で、隣にいるもう一人は濃い灰色の髪だった。
(エルとイオ……だよね。何してるんだろ、掲示板の前で)
この後、エルの家に行って騎士団へ顔を繋いでもらえないか頼みこむ予定だったんだけど、本人がいるなら今この場で聞いてみた方が良さそうだ。
そう判断した私は、売店から掲示板の方へ踵を返した。
静かなギルドでは足音もそれなりに響く。
エルは熱心に掲示板を眺めていたから気付かなかったんだけど、隣にいたイオはコチラへ振り返って私と目が合った瞬間に後退った。
「やっぱりイオだ。ねぇ、二人ともどうしてここにいるの?」
「ライムさん!? どうしてここに」
私の質問にイオは愛想笑いを浮かべて、エルは分かりやすく狼狽えている。
何となく二人がこの場所にいる理由が分かった気がした。
「もしかして、討伐依頼とか受けようとしてたの?」
「騎士科の連中が戻ってくるまで医者の言う“療養”してたら、戻って来た奴らに間違いなく抜かれるし、早い段階でも実力差ってのは分かりやすく出る。戻った時に『前より弱くなった』なんて思われたら、俺だけじゃなくて薬使ってくれたライムたちにも迷惑かかるだろ」
「一応止めたんですけどね、僕も。でも、エルの言う事も一理ありますし、装備品も整えたいので時間があるうちに少しでも稼げたらと思いまして。ライムさんは何か依頼を受けたんですか?」
「割のいいアイテム納品の依頼を二件受けたけど、納品はもう済んでるよ。もう終わると思うけどリアンを待ってるとこ」
窓口の辺りを見ると、メモ用紙らしきものを懐に仕舞ったリアンが見えた。
ほらね、と指させば二人とも納得したように頷いたので、二人の予定を聞こうと口を開く。
「実はエルとイオに相談したいことがあって、この後エルの家に行こうって話してたんだけど、予定がないなら話だけでも聞いてくれないかな」
「別に構わないけど、俺らあんま金はないぞ?」
「お金は自分で稼ぐってば。簡単に話しちゃうと騎士団の人に会いたいんだよね。できれば、隊長とかそういう偉い感じの立場にいる人がいいんだけど」
私たちの目的はサフルの訓練をつけて欲しいっていうお願いと、店の宣伝だ。
宣伝はさせて貰えるとしても訓練の方は断られるのが前提だったりする。
「あー……会ってどういう話をしたいのか聞いてもいいか?」
申し訳なさそうに私を見るエルに頷けば少しホッとしたらしい。
そうこうしている間にリアンが合流してギルド内にある酒場で話をすることになった。
飲んだのはお酒じゃなくてお茶だったけどね。
◇◆◇
お茶を飲みながらリアンの話を聞いた二人は気まずそうに表情を曇らせた。
やっぱりそう簡単に紹介してもらえないか、と思った所でエルが口を開く。
眉間には薄く皺が一本刻まれている。
「時期が悪い。一月後には所属替えがあるから隊長や副隊長は忙しいし、他の人も特殊な事情がない限り稽古したり試合したりして技量を磨くことに時間を割くんだ」
「それに所属替えが終わったら早速遠征が入りますからね。近衛部隊と呼ばれる上位十番部隊ですら順番に過酷な遠征や訓練をするんです」
所属替えは一年に一度行われて、より相応しい部隊へ人を移動させる行事のようなもの、らしい。
勿論実力だけじゃ決められないから、功績や人柄なんかも見て新しい隊長と副隊長を決めるんだって。
「でもさ、その配置替えとやらで二人の知ってる人が隊長じゃなくなったら話聞いて貰えないんじゃない?」
「そこなんだよなー……リアン、話ってのはどの程度で終わるんだ?」
「幾つかアイテムを見て貰えればと考えていたんだが難しいか」
ギルドに向かう道で二人で話し合った結果、直接品物を見て貰って評価を頼んでみようってことになったんだよね。
荷馬車を引いてる行商の人を見て思い付いたんだけどリアンも割と乗り気だった。
どうしても口頭での説明だと反応が鈍いことが多いらしい。
「アイテムって錬金術で作ったアイテムのことだよな。あー……それなら時間取ってくれる可能性も出てきた。手ぶらで話だけってなら断られただろうけど」
「それってどういうこと?」
首を傾げる私とリアンに二人が騎士団の事情について教えてくれた。
お茶を一口飲んで喉を潤したエルが話し始める。
「リアンは知ってるだろうけど、ライムは知らないだろうから説明するぞ。まず、騎士団は大きく分けて二十五部隊ある」
「え!? そんなに?!」
想像以上に多い数にギョッとする私にイオが苦笑し、リアンは呆れた顔、エルはやっぱり知らなかったかと呟いた。
どうやら一般常識らしい。
「二十五部隊でも役割が決まってるんだ。一番部隊から十番部隊までを近衛部隊、それ以外の十五部隊を外衛部隊って呼ぶ。近衛部隊は王族や王城の警護が仕事だ。それ以外の十五部隊は国境や詰所なんかで働いたり、検問所に滞在して危険を排除するのが仕事ってことになってるな。まぁ、外衛部隊は国王が頭の自警団みたいなもんだ」
トライグルは広いから、外衛部隊は一つの部隊の人数も最低五十人はいるそうだ。
騎士科の人数が多くても殆どが外衛部隊に配属されるらしい。
沢山の見習い騎士が卒業する時期に、騎士団にいる人も年齢などを理由に騎士を辞めるんだって。
だから、人数だけで見ると最終的に過不足がないようになっているんだって。
「騎士は体が資本ですからね。歳を重ねると肉体労働よりも、経験などを活かして後輩の育成に回ることが多いんです。後は完全に退職して野菜を作ったり、出身の村なんかに帰る方も多くいるようですが」
「で、俺らがいた部隊は二十四番部隊――……モルダスの丁度東側の駐在所が基本拠点だった」
エルによると外衛部隊でも、二十一番部隊から二十五番部隊までは国の東西南北、そして中央の辺りにある駐在所に常時いる常在騎士と呼ばれる仕事をしているらしい。
討伐もあるけど、王都からあまり離れていないリンカの森周辺くらい迄なんだとか。
「なるほどな。それで、アイテム持参なら話を聞いて貰えるかもしれないと言ったのか」
「いや、これまでの説明で何をどうやったら納得に繋がるのか分からないんだけど」
「少し考えればわかるだろう。騎士団なんて脳筋連中が多いんだぞ? 二十一番部隊から二十五番部隊は外衛部隊の中でも軽視されているんだろう」
「お、リアン正解。やっぱ頭いいんだな、眼鏡だし」
「エル、眼鏡は関係ないと思うよ。 実は、十一番部隊から二十番部隊に所属している隊長や副隊長の殆どが魔物やモンスターから街や人々を護ってるって意識が強くて、予算をほとんど持っていかれるそうなんです。勿論、隊長たちも頑張っているんですが、十五人中十人が敵みたいなものですし、どうしても数で不利になりますし」
内情を知るエルやイオから聞くと妙に生々しいって言うか、聞いちゃいけないこと聞いてるような気持になるんだよね。
話す二人の表情もどこか憮然としているので、話している内に色々思い出してるのかもしれない。
「んで、そのシワ寄せは隊員に来るんだよ。外衛部隊でも二十一番以降の“常駐部隊”には契約した錬金術師がいないからな」
エルとイオ曰く、一部隊につき二~三人程度の錬金術師が魔力契約を結んでいる場合が多いらしい。
その契約した錬金術師から一定数のアイテムが支給されるんだって。
「錬金術師と契約を結んでいれば回復アイテムに余裕が生まれます。いざと言う時の治療にも躊躇せず使えますしね……でも」
「常駐部隊って呼ばれてる二十一番部隊から二十五番部隊の隊員は貴族籍を持ってない奴が多いんだ。給料はいいから多少なら買い揃えられるけど、契約を結んでいない錬金術師からアイテムを買うと給料の半分が飛ぶこともあるから、緊急事態にでもならない限り使えない」
ギョッとする私の横でリアンはいたって普通にお茶を飲みながら
「まぁ、そうだろうな。確か、一般的な騎士の給金はひと月金貨2枚程度。その中から武器や防具の手入れ、回復アイテムの補充を各自でするとなると計画的に使わないと厳しい筈だ」
「リアンはなんで騎士のお給料知ってるのさ」
「客によく相談されていたからな。買うものの平均金額何かを見てるとある程度推測できるだろ」
「いや、できないって」
無理無理と首を振るとリアンはどこか不思議そうな表情を浮かべて、首を傾げていた。
リアンって自分にも厳しいけど他人に求める基準も同じくらい厳しいよね……分かっちゃいたけどさ。
「それで、どうしてアイテム持っていくと話聞いて貰える可能性があるって話になるの?」
「錬金術師見習いとは言っても錬金術で作られたアイテムを買える機会はそうないだろ? 態々、見たくもない街の偉そうな錬金術師に大金払って買うより、ライムたちから買う方がずっと気楽だし」
「ちなみに、ですが販売価格を聞いてもいいですか?」
「構わない。一覧ならここに作ってある」
意見があれば言ってくれ、とリアンが懐から丸めた羊皮紙を取り出し、その紐を解く。
ぴらっとテーブルの上に広げられた用紙を覗き込んだエルとイオは顔を見合わせて、真剣な顔で一言。
「計算間違いしてるだろ、どう考えても」
「ええ。この値段だと採算が取れないんじゃないですか……?」
間違いに気付いてよかったな、と苦笑するエルの横で「あまり無理をしなくても」と申し訳なさそうな顔をしているイオ。
二人のあんまりな反応に興味を持って紙面を目で追う。
「えっと、二人とも……コレ、普通の値段だよ。工房でもこの値段で売るし」
「数に限りがあるから幾らでも売れるわけじゃないし、材料にも限りがあるからこの値段で妥当だし採算も十分取れている。回復アイテムは少し利率を上げているからな」
いったい今まで幾らで買っていたんだ?と訝し気なリアンの言葉に二人は顔を合わせて、言いにくそうに口を開いた。
「先輩たちから聞いた話だと、この位ですね」
「うっそでしょ……何でそんなに高いの!?」
二人が告げた金額は私たちの工房での取引価格のおよそ二倍だった。
他の所も軒並みこの値段だったらしい。
「その値段で買っていたならさぞいいカモだったんだろうな」
「リアン、傷口に塩塗り込む様なこと言わない! そりゃ、私もいいお客さんだったんだろうなーって思うし、信じられない程の高い値段付けてるのに買ってくれる良いお客さんがいるお陰で、その錬金術師はウハウハだったんだろうけどもっ」
「……リアンもライムも頼むから『それ』先輩たちの前で言ってくれるな」
「確実に崩れ落ちますね、色々な意味で」
ははは、と乾いた騎士見習い二人の声に流石に申し訳なくなって謝ったけどさ。
カップのお茶がなくなった頃、新しいお茶を追加で頼んだ私たちにエルが気を取り直したように小さく咳ばらいをした。
「でも、まぁこの値段で本当に売るって言うんなら、今すぐにでも駐在所まで案内する。駐在所には必ず隊長か副隊長のどっちかが残ってるからな」
「ですね。副隊長が残っているといいんですけど……あの方が主に予算や書類関係をさばいているので。現物も持っているんですよね? 確か」
「うん、勿論。各十個ずつくらいだけど」
「なら話は早い。ここからなら駐在所もそんなに遠くないし。あ、副隊長って確か甘いもん好きだったよな」
何か買ってくか、とお茶を一気に飲み干したエルに続いて私もカップに残っているお茶を飲む。
イオやリアンも同じようにカップを空にした所で、私たちはギルドを出た。
◇◆
そうそう、手土産は錬金クッキーを出すことになった。
それを聞いたリアンがエルの家に持って行く予定だったパンとジャムでいいんじゃないかって言ったんだけど、エルの猛反対にあったんだよね。
「宿屋なら自宅でジャムを作ることもあるだろ」
「それが俺らの口には入らない事くらいわかってるだろ、お前。砂糖の値段考えろよ」
前を歩くリアンとエルの背中を見ながら私とイオはのんびり歩く。
「そうだ。イオもジャム食べる? 小さい瓶で悪いんだけど、量が半端だし二回分くらいは入ってるよ。ベリーのジャムじゃなくってアリルのジャムだけど」
「ベリーも美味しいですがアリルのジャムも好きなので嬉しいです。ありがとうございます、ライムさん」
「ライムでいいよ。私も呼び捨てで呼んでる訳だし」
「うん、わかった。ありがとう、ライム。大事に食べる」
渡した瓶を大事そうに仕舞い込んだイオと他愛のない会話をしながら、東の駐在所へ向かった。
ここまで読んで下さって有難うございます。
誤字脱字変換ミスなどありましたら教えて下さると嬉しいです!