93話 ギルドの利用方法
やっと書きあがりました。
チェックは時間のある時に……!
お金の話、おおいなー…(苦笑
ウォード商会を出る。
ずっしりと重たくなったバスケットは既にポーチの中だ。
朗らかな店員さんの声がまだ店内から聞こえる気がする。
店の外に出て態々見送ってくれた弟君とお父さんに軽く一礼をして、逃げるようにその場を去った。
慌てる学年首席の声を背中で聞きながら、一刻も早くウォード商会から離れたい一心で足を動かした。
「お、おいっ! どうしたんだ、ライム。そんなに急がなくても…ッ」
「でっかいお店の責任者二人に見送られる一般市民の気持ちが分かってたまるかぁ…ッ! 今後はホントああいうの全力でいらないからねっ! 恥ずかしいし居た堪れないしっ」
「そ、そんなにか」
「そんなにだよっ。ほんとにもう! あのねぇ、自分で言うのもアレだけど、最近やっと人の群れに慣れてきた田舎者なの! いくら同じ工房で生活してて友達の家族だって言ったって、お金持ちで偉い人の前に心の準備もないまま放り出されて正気でいられるわけないでしょ! 商談室だっけ、あそこで普通にバイバーイってしてくれればよかったんだよ……お店で一番偉い人と二番目に偉い人に見送られる特別待遇は今後一切要らないからね。お金的な特別待遇は別だけどっ」
「ず、図太いんだか繊細なんだか分からないな……君は」
戸惑いと動揺を珍しく滲ませるリアンの言葉は右から左に流れる。
人にぶつからない様に気を付けながら進む。
言葉に出来ない気持ちが落ち着いたのは少し経ってからだ。
「あれ。ここ何処だろ」
ピタッと足が止まった。
大きな煉瓦が敷き詰められた地面は歩きやすい。
それはいいんだけど左右に軒を連ねる建物はどう考えても初めて見る類の店だった。
「ギルド通り過ぎちゃったかな」
どんなに正門から離れていても一番街と呼ばれる大きく広い道に人は絶えない。
うーん、と道の片隅で首を傾げる私の耳に、聞き慣れた声が微かに聞こえた。
振り向くと辛うじて目視できるくらいの場所で、こちらに向かって来る見覚えのある色。
「そんなに速い速度で歩いてたっけ……? ま、丁度いいや。ここ何処だか聞いてみよう」
おーい、と手を振りながら来た道を戻ってみるとリアンが凄いことになっていた。
「い、生きてる? 大丈夫? 死にかけてるようにしか見えないんだけど」
ぜーぜーと全身で呼吸をして、両膝に掌を乗せて必死に息を整えている学年首席の同期生。
輪郭をなぞる様に汗が数滴、敷き詰められた煉瓦の上に落ちていった。
「なんだか採取の時より体力無くなってない? ギルド過ぎちゃってるし戻ろうと思ってたんだけど、私おぶろうか? 歩くっていうより這って進むしか出来なさそうだもん。私まだ元気だから遠慮しないで」
はい、とリアンの前に立って背中を向けると振り絞ったみたいな声が聞こえた。
まだ呼吸は荒いままだから喋らないで素直におぶさればいいのに。
「じ、ぶんで……あるける…ッ」
「えー。でも早く戻りたいし、私結構力あるからリアンくらいなら運べるよ。ちょっと足引きずるかもだけど。リアンは縦に長いから」
「ぜ、ったいに……ごめんだッ」
じろりと睨みつけられたので背負うのは諦めて、休ませることにした。
邪魔にならない隅の方へ移動した所で、リアンは崩れる様に座り込んだ。
近くにあった露店で二人用の飲み物を買って渡す。
ギルドに着いたのはそれから三十分ほど経った後。
その道すがらずーっとリアンにネチネチ説教されたのがちょっと納得いかないんだよね。
元はといえばリアンの家であったひと悶着が原因なんだもん。
(よし。帰ったらリアンの体力向上の話し合いをベルにしてみよう。私も体力落ちるのは嫌だから教会まで毎朝走ろうかな。結構距離あるもんね。ミントにも運が良ければ会えるだろうし)
◇◆◇
蝶番が小さな音を立ててゆっくりと開いた。
扉が閉まっていても漏れ聞こえていた騒めきが息を合わせた様にぴたっと止まる。
昼夜問わず賑やかなギルドが静まり返るのは、トラブルかギルドの扉が開いた時くらいだろう。
(注目というか視線が集まるのが分かってるとなんか緊張するんだよね)
出来るだけ目立たないように、と少しだけ扉を開けて体を滑り込ませたのはいいんだけど、視線が向けられるのは変わらなかった。
決して少なくない人数の視線に眉尻を下げた私に、リアンが気付いたらしい。
隣から小さなため息が聞こえてきた。
「髪の色のこともあるから注目浴びるのは慣れている筈なんだけど、やっぱ人数いると緊張するね。なんか毎回ギルドに入る度に見られてる気がするんだけど、何かしたっけ」
「冒険者がギルドに入ってきた者を見るのは、条件反射であり相手を確認する為だ。誰だって、厄介な貴族や横柄な態度を取っている一部の人間に関わりたくはないだろう。そういう人物が入ってきた場合、話しかけられないようにギルドから出たり、目立たない位置に移動したりする。話しかけられたら無視はできないからな」
「貴族に話しかけられてどうこう言われるのは私も嫌だし、今度気を付けてみようかな。だけど、そっか。そうだよね、話しかけられる前に逃げればいいんだよ!」
「店を開いたら嫌な客でもよほどの事が無い限り追い返せないから、その辺は覚悟しておくといい」
「……カウンターの下に隠れるとかダメかな」
「どう考えても駄目だろう」
だよねー、と項垂れつつ掲示板の前に立つ。
最初にいた冒険者の青年は私たちに気付いて、見やすい場所を譲ってくれた。
腰には剣を下げているし、身に着けている皮鎧は使い込んではいるものの手入れがしっかりされている。
「ありがとうございます」
「あ、ああ。いや、いいんだ……あー、その君たちは」
聞きにくそうにしながらも私やリアンの服装を上から下まで確認するように視線を向けてくる。
その様子にリアンが営業用の笑顔を浮かべて小さく頷いた。
「お察しの通り学院の錬金科に所属しています」
「学院生徒がこの時間にギルドに……?」
リアンの口調と雰囲気に警戒心を緩めたらしい。
警戒はされているものの、少し表情は柔らかくなった。
「今年から設けられた工房制度を利用しているんですよ。聞き覚えはありませんか」
「工房制度……ああ。あれか、役に立たないアイテムしか扱っていない工房があるっていう……っと、すまない。役に立たないと言っても俺たち冒険者にとって、という意味で」
慌てて弁解する青年にリアンの笑みが深まった。
怒っているわけではないのは、冒険者にも伝わったらしい。
「生徒が運営している工房は全部で三つあるのですが、僕らの工房はまだ開店していないので気になさらないで下さい。扱っているのは調和薬のみと僕も風の噂で耳にしたので、その反応は当然かと。冒険者の皆さんには役に立たないものばかりでしょうから。あると便利なのは回復薬と日持ちがする食料などですしね。そうそう、僕らの工房は10日後に開店する予定でして……―――」
ここからはもう、なんというかリアンの独壇場だった。
依頼書はいいのか、と聞く前に青年が属しているパーティーや彼らの知り合いだという冒険者が集まってきた。
私はリアンから『絶対に僕の傍から離れるな』と言われているので、大人しく後ろをついて回る。
(でも、こうして見るとケルトスの冒険者ギルドより落ち着いてるのが凄く分かるなぁ。あっちは子供と年長者が多い感じだったもんね。こっちは若い人と働き盛りの中堅者が多いから落ち着いてるのか、時間帯の問題か……イマイチ判断はつかないけど)
活気という点では変わらない。
でも、ちぐはぐな感じがしないから個人的にはモルダスのギルドの方が好きだ。
あっちのギルドって色々あったから落ち着かないんだよね。
リアンについて回っていると案の定というか私にも気さくに話しかけてくれる人がいた。
大体というかほぼ全員が最初、髪色に驚いたり興味深そうに地毛なのかと聞いてくるのには少し笑っちゃったけどね。
(冒険者って言っても色々なんだなぁ。ここにいる人達はそんなに悪い感じしないし。親切だもん)
自分のことを少し話したら、相手の態度が一気に軟化した。
勿論おばーちゃんのことは言ってないんだけど『錬金科にいる庶民の錬金術師』について、噂が色々と広まっているらしい。
その流れで、モルダスには詳しくないと言ったら露店について教えてくれた。
「露店で携帯食料は買っちゃ駄目。というか、携帯食料は出来るだけ買わない事ね。死ぬほど不味いから」
「お腹が膨れるって謳い文句だけど、あれはそういう次元じゃない。腹が膨れる以前に味覚が死ぬよ」
「水を浴びるほど飲むから腹は膨れるな。水をいくら飲んでも味が消えないんだよ、臭いも」
驚いたり感心したりを繰り返す私に気をよくしたのか、アタリの露店やハズレの露店の見分け方まで教えてくれた。
美味しいという他国の料理についても色々聞けたので私としては大収穫。
最後にはお姉さんやお兄さんたちと握手をして、見送った。
これから採取と討伐に行くんだって。
お店に来てくれるって約束してくれたのもまた嬉しい。
リアンの方もあらかた情報収集を終えたようで、満足げに掲示板の前に戻る。
「―――……受けるならコレとコレだな。在庫もある」
「回復薬二種類ってアルミス軟膏と初級ポーションでもいいのかな」
「注意書きには何も書いていないし、とりあえず受付で聞いてみるか。こっちの【浸水液】の納品は錬金術師が出したもので間違いないだろう。【浸水液】のような簡単だが時間のかかる調合の手間を惜しんで依頼を出す錬金術師は多い。品質さえしっかりしていれば文句は言われないし、金払いもいいからな……これは相場の二倍だ。量が相場の2倍なのは納期が短いからだろう」
「急いで依頼を出したってこと?」
「ああ。工房を経営したりすると、突然注文が入る事もある。数を揃えたい時や急ぎの場合はある程度報酬に色を付ける必要があるんだ」
なるほどね、と返事をしつつ帰ったら【浸水液】の補充をしておくことに決めた。
こういう依頼を出すのって切羽詰まった時らしいんだけど、確実に納品される確証がないから一種の賭けでもあるらしい。
納品されても品質が悪かったり、望んでいたものとは違うってことも多々あるとか。
「ギルドでの評判は店の売り上げにもいずれ関わってくるから、出来るだけ不備がないようにしてくれ。少しでも疑問に思ったら受付で確認するのがいいだろう」
「確認するのは品質だけでいいの?」
「色々確認することはあるが、まぁ、そうだな。相手がどういうものを求めているのかきちんと聞くのが一番間違いない。現物があるならそれを見せて判断してもらうのもいいし、どういったアイテムが作れるのか話をして判断を委ねることも一つの手だな」
「依頼に失敗すると違約金掛かるんだっけ。それは嫌だな」
「品質や条件が満たされない場合は報酬を減額されることもある。何よりそういったことを繰り返すと評判が下がるから、余計な手間を増やさない為にも確認はしておくべきだ」
分かったら行くぞ、と素っ気無いリアンにくっついて受付に向かう。
受付に行って依頼書の内容を確認してから依頼を受けた。
手元にアイテムが無かったので一度帰って昼を食べてしまおうという話になったので、二番街の露店で買い物を済ませようと足を向ける。
「うわ、珍しいの色々あるね。食べ物は冒険者の人達から色々教えて貰ったから、少しずつ買って皆で味見してみようよ。食べて作れそうなものは挑戦してみたいし。リアンは何か用事ある?」
「僕は少し薬の素材がないか見てみたいな。時々掘り出し物があるんだ。いずれオリジナル調合もしてみたいし、作りたい薬が沢山ある」
「錬金術で作った薬って高いけど即効性あるもんね。んー、素材の置き換えとかで安くできたりするのかな」
「恐らくな。幸い僕には効果を的確に判定する術がある。色々試してみようと思っているんだ。薬効にしても価格にしてもまだまだ改善の余地はある。特に値段に関しては貴族錬金術師が殆どで安価な錬金薬は中々作られていない。薬師との兼ね合いもあるから仕方ないんだが」
難しい話をするリアンだけど、錬金術のことなら私もついていけるのでついつい話が弾む。
お陰で色々買っちゃったんだよね。
「素材が色々あって楽しかった。これでまた色々作れるし実験できそうだし、瓶も色々安かったし今度ちょっと時間ある時にベルも連れて行こうよ」
「気分転換にいいかもしれないな。ベルも自費で購入する分には構わないだろう。あまり酷い買い方をするようなら止めるつもりだが……しかし、モルダスにいると現地に行かなくてもある程度の素材が手に入れられるから助かるな。二番街に来る商人にも色々いて面白い」
「商人になりたてっぽい人とかもいたよね。でも、普通は商人初心者の人ってケルトスとかで露店開いて経験積むんじゃないの? ほら、あっちも結構人たくさんいたし、こっちよりお店開きやすいんじゃない? あっちの露店って色々ごっちゃだったしさ」
「商人にも色々なタイプがいる。堅実に稼ぎたい者や信頼や信用を得て細く長くと考える者、一発逆転で一旗揚げようとする者や『稼ぐ』ことが目的の輩………碌に経験も積まずにモルダスへ出てくるのは、たいていが一発逆転を狙っている人間か荒稼ぎを目的にしている短慮かつ愚かな人間だろう。稀に特殊な事情を抱えている人間もいるが……他国出身ではなくトライグル出身で経験の浅い商人が露店を構えている場合は買わない方がいい」
面倒な上に何の益もない、と接客用の笑顔を浮かべたリアンが切り捨てた。
ぶっちゃけ怖い。
リアンって実家が商家っていうのもあるのか、商売に対する意識やらプライドが高いんだよね。
多少高く値段をつけていても、情勢などを考慮して値切らないこともあるんだとか。
「それはそうと、食費を君が出すと言っていたが本気なのか?」
食べ物系の露店が増えてきて、教えて貰った店の列に並ぶ。
安くて美味しい上に量もあるってことで人気の店らしい。
「私、今お金持ちだし。それに食事を用意するのは私の仕事でしょ? ホントは作らなきゃいけないのに私が外のご飯食べてみたいって理由で今回作らない訳だし。それなら私が払うのが当たり前でしょ」
「筋が通っているのかいないのか……仕事と言ってもあくまで当番制で、毎日のことでもないんだ。別に僕もベルも文句は言わないし、言うつもりもない」
「それはそうかもしれないけど、皆平等に工房の事負担してるんだからいいんだよ。それにいつもリアン達が色々個人で買って食材提供してくれてるのに私は何もしてないから、気になってたんだ。なんかちょっと気が引けるって言うか」
密かに気にしていたことを告げると納得したらしい。
そういうことなら、と頷いたので代金は私が支払った。
予算は自分の考えていた範囲内で納めたし、そうそうある事じゃないのでいいか、と満足して買ったものをポーチへ。
珍しい調味料や香辛料はなかったけど、珍しい野菜の苗や種があったので買ってみた。
育て方はリアンがお店の人に詳しく聞いていたから大丈夫な筈。
久々の買い物を満喫した私たちは、昼を少し過ぎた頃に工房へ戻った。
ベルとサフルは食べ物を買ってきた私たちに驚いていたけど、理由を話すとすんなり納得してくれた。
「へぇ、これ美味しいわね。少しピリッとしてご飯があったら進むでしょうね」
「僕はコレが気に入った。食べやすいし、乾燥麺が売っていたからギルドに行く前に買っておくか。ライム、今度スープに入れて出して欲しいんだが」
「いいよ。どっちも作れそうだから今度挑戦してみる。私はこれが好きだな。これこっちでは珍しいみたいなんだけど、種芋買ったから早速明日にでも植えてちょっとずつ増やしていこうかな。お菓子とかも作れるみたいだし。サフルはどれが好き?」
「自分はコレが美味しかったです。食べやすくて腹持ちも良さそうなので……」
「へー。こういうの好きなんだね。これも作れそうだからやってみるよ。これならお弁当にするのも良さそうだし、色々具を変えれば飽きなさそう」
テーブルにたくさん並べた料理を食べながら久々に賑やかな昼食を取った。
最近はもう、詰め込んで調合に戻るって感じだったもんね。
「午後だけど、ベルも一緒にいく? 上手くすれば騎士団に行けるかもしれないし」
「……遠慮しておくわ。午後は調香をしてトリーシャ液を作らないと。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど実家の庭の花を使うのは大丈夫なのかしら?」
「微妙なラインではあるな。対価を払って仕入れるなら問題ないんだが」
「ああ、買い取る形にすればよかったのね。じゃあ、ちょっと査定して欲しいのだけどいいかしら。学院との兼ね合いもあるし、一応適正価格で買い取った方が後々不正だなんだのと文句付けられなくていいでしょう?」
「そうだな。そういう事なら請け負おう。ちなみに素材はなんだ? ものによっては直ぐに値段をつけられるぞ」
「ローゼルの花よ。アレは香りが強いしね」
「なるほどな。ただ、ローゼルは少し値が張るから、芳香性に優れた他の花も幾つか用意しておくといい。調香するなら原料はあった方がいいだろうしな」
「ローゼルの香りだけどベル専用のトリーシャ液に使ったらどう? ほら、自分専用のも欲しいってこの間言ってたし、お店に出す奴とは別に空き時間で作ればいいと思う。それならローゼルは買い取らなくてもいいしさ。リアンも自分用の調合してみたら? 自分だけのものって愛着も湧くし、自分の為だけのアイテム持てるのは錬金術師になった特権だもん。私はサフルの作ろうかなーって思ってるんだ。材料の個別購入できるよね? 流石に工房資金からは買えないし」
「いいわねそれ! サフル。食事が終わり次第、手紙を書くから私の家までちょっと届けてくれないかしら。帰りは荷物になるだろうから家の馬車を使う様に言っておくわ」
「かしこまりました」
店員さんみたいに頭を下げるサフルにベルは満足げに「頼んだわ」と弾んだ声で返事を返している。
二人の予定もなんとなく決まったらしいので、私とリアンは当初の予定通りギルドに納品を済ませたら、エルの家に寄ることを告げて食事を再開した。
ここまで読んで下さって有難うございます。
誤字脱字は勿論、変換ミスが毎回どこかに潜んでいるので、間違い探しの要領で探して教えて下さると色々と助かります…。
何で気付かないんだろうか……わからん……読み流す癖がついてるせいか…?




