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90話 君の思い出、私の想い

日常と、ちょっと後半シリアスチック。

 

 三人違う人間が集まっていれば色々ありますよね。

主人公も情緒面がじわっと成長していたり、いなかったり。



 翌朝、いつもの時間に目が覚めた。



 身支度を終えて、庭の薬草に聖水や水を遣ってから状態を確認。

昨日植えたばかりのシャボン草のタネからは、小さな芽が出てきていた。

間引くのはまだ早いので気持ち多めに水をあげて今日のお世話は終了だ。

雑草も生えてないしね。



(シャボン草って芽吹くの早いし広がるしで繁殖力とか生命力どうなってるんだろ。割と謎な植物だよね)



ちなみに特別な土を与えたとか、肥料をたっぷり与えたわけでもない。


 早くて1日、遅くても3日以内には芽吹くことでも有名なのだ。

どんな荒野にでも水と土さえあれば芽吹くとして重宝がられたり雑草扱いを受けたりと、中々に忙しい植物でもある。



「今朝はパンケーキでも焼いてみようかな。リアンのお父さんから沢山チーズとかルブロを貰ったし。お礼にタルトでも焼いた方がいいかも」



あのリアンのお父さんから物を貰いっぱなしというのは何だか怖いし、と呟きながら台所へ。


 パンケーキの生地を作るために小麦粉や必要な材料を計っているとリアンが二階から降りてきて、台所に立っている私を見て動きを止めた。



「朝食は何を作るんだ。手伝うことはあるか」


「パンケーキ二種類にしようかと思ってるから助かるよ。薄焼きは一人2枚ね。具はソーセージとハンバーグの二つ。野菜はリーフスと炒めたマタネギ。味は上からマトマのソースかけるつもり」


「昨日の肉か。リーフスとマタネギを持って来よう。他に必要なものは」



作ると決めたのはいいものの、用意するモノが結構あるんだよね。

助かったと思いながらリアンに指示を出す。



 ―――……遠慮? する理由がないよね!



美味しいものは食べたい。

でも、それにかかる手間は減らすに限るもん。




「じゃあ、果物とミルの実をお願い。私の遠心分離機使っていいからサクッとホイップクリーム作って来て」


「………遠心分離機でホイップを作れと」


「うん。砂糖は用意しておく。あ、レシナの果汁ちょっと必要だからレシナもお願い。こっちで絞って使わない所はレシナソースにしちゃうから先に食材持って来て」


「遠心分離機でホイップクリームを作る錬金術師……才能の無駄遣いだろう、どう考えても」



ぶつぶつ言いながらも地下へ向かう背中を横目で確認して私は振るった粉を合わせて生地を作っていく。


 ほんの少し合わせた粉を取っておいて、リアンが戻ったら卵白を泡立ててメレンゲを作って貰うつもりだ。

こっちはフワフワしてシュワッと口の中で消えちゃう感じのパンケーキの生地になる。


 時間が経っても冷めるだけで美味しく食べられる薄焼きパンケーキは先に、メレンゲを使ってる分時間が経つとぺったんこになりかねないデザートパンケーキは最後に作る。



「順番は違うけど、先にデザートパンケーキから食べて貰おう」



 この種類の違うパンケーキもおばーちゃんから教わったものだ。

何でも故郷で一時的に流行ったから色々研究したんだって。



(まぁ、美味しいもの食べられるのはいいんだけど、おばーちゃんも相当な食いしん坊だよねぇ)



地下から頼んだものを持ってきたリアンに指示を出して手伝って貰いながら、私は順調に朝食の準備を終えた。


 デザートパンケーキを焼き始める所でベルが起きてきて、洗濯などを終わらせたらしいサフルも合流したので呼びに行く手間が省けた。

スープは昨日の残りだったけど、三人ともデザートパンケーキに夢中になっていたし、文句は出なかった。



「口の中でパンケーキが溶けるなんて」


「これは口当たりも軽くて食べやすいな。いくらでも食べられそうだ」


「ライム様の奴隷になれてよかったと食事を頂く度に思います……これは奴隷が駄目になる味です」


「奴隷どころか貴族も駄目になるわよ。これ毎朝でも食べたいわ」


「えー。メレンゲ作るの面倒だし、遠心分離機でホイップクリーム作ると後片付け大変なんだもん、嫌だよ」


「僕はたまに朝から麺が食べたい。何かないか?」



凄い勢いで無くなっていくデザートパンケーキ。

余分に焼いたものがあっさり消え、続いて薄焼きパンケーキに取り掛かったんだけど、こっちも消費が凄く早かった。


 ちょっと分量間違えて沢山焼く羽目になったんだけど、何も残らなかったんだよね。

テーブルにあった全ての食材がなくなった所で、ベルが紅茶を淹れに行き、サフルとリアンが食器を片付けに向った。


 私は作るだけなのでこうなると気楽だ。

紅茶が来るのを待ちつつ、昨日作った【吸臭炭】のレシピと手元にある炭の量を照らし合わせていると二人が席に着いた。


 サフルはテーブルの横に控えている。



「あれ? 今日はウォード商会には行かないの?」



驚いて聞く私にサフルではなくリアンが答えた。

 視線は自分で書いた資料に向けたままだ。



「ああ。もっと時間がかかると思ったんだが、教える事は全部教わって来たらしい。商会の教育係からも『教育は無事に終了しました。不満等があればまた寄越してください』と手紙が届いている。これで店番も問題なく任せられるんだが、問題が幾つかある」



改めてサフルに視線を向けると黒い痣は大分薄くなっていて、明後日には完全に目立たなくなるだろうという回復具合だった。

 こうして明るい所で見ると回復具合はかなり顕著だと思う。



「問題ってなに? 痣は大分薄くなってるし、体調も良さそうだけど」


「僕が薬を作ったんだから痣は消えて当然だろう。問題はサフルに護衛能力がないことだ。どこで鍛えるべきか……ベル、心当たりはあるか?」


「心当たり、ねぇ。まぁ、なくもないですわ。以前、私が騎士見習いとして住み込みで騎士寮生活をしていた事は話しましたわよね?」



 そういえば、と頷けばベルは何かを考えながら心当たりについて話してくれた。

現在奴隷を鍛えるのに適していると考えられるのは冒険者ギルドと騎士の訓練場の二つだという。

どちらも、奴隷と戦う事は当たり前らしい。



「捨て駒ではなく、奴隷は貴重な戦力なのよ。優秀な奴隷は国所属の奴隷として専門の部隊もあるくらいですし、一般騎士に奴隷が混じっていることも少なくないし。差別をするのは一部の貴族くらい……近衛部隊以外ならば面倒見てくれるでしょうね」


「へー。じゃあ、冒険者ギルドの方は?」


「さぁ? 冒険者登録したのもこの工房に入ってからだし、詳しくは知らないわね。ただ、奴隷を貸し出して鍛えてもらうという事ができたはず。私が“頼んで”もいいのだけれど、それだとサフルがやりにくいでしょうし、エルとイオに頼みましょ。あの二人の知り合いなら全く知らない人間に託すより気楽ですもの―――……ああ、それと最初に確認しておかなくちゃいけないことがあったわね。サフル、貴方は戦う力を身に付けたいと思っているのかしら」



ギョッと目を見開く私を見ることなくベルは真っすぐにサフルを見据えている。


 サフルは一瞬狼狽えるように後退った。

でも、直ぐに灰色の瞳でベルの燃えるように紅い瞳を見据える。



「はい。僕は戦えるようになりたいです」


「理由は」


「戦えるようになれば、ライム様を護れます。ベル様やリアン様の補助もできます。有事の際は時間稼ぎとして使っていただくことも可能です。また、戦いを覚えることで体力も腕力もつくと聞きました。そうすれば、今よりもっと使い勝手が良くなるはずです―――…採取へ行く際のお供も出来るかと」


「私たちの為に強くなりたい、ということかしら」



この質問でサフルがびくっと肩を揺らした。

 一瞬、揺らぐ瞳を見てベルは笑った。



「違うわよね。貴方が強くなりたいのは“自分の為”で“ライムの為”だもの。誤魔化さなかったのは―――……褒めてあげる。いいわよ、私も時々訓練をつけてあげるわ。切断しなければある程度取れかけてても回復薬で治るみたいだし」


「宜しくお願いいたします」


「私って手加減が苦手だから丁度いいわ。今回の盗賊みたいに殺しちゃわないように加減できるようにもなりたかったの。あ、勿論貴方も殺す気で来なさい。くだらない遠慮も配慮もいらないわ」


「承知いたしました」



ベルとサフルのやりとりを見ていた私とリアンは、二人に悪いと思いながらも静かに距離を取った。

顔が強張ったのが自分でもわかって、視線を二人から外す。

 リアンと目が合う。



「……これ、いいの?」


「いいも悪いも僕らに止められるはずないだろう。諦めろ……中級回復薬は早めに作れるようになる必要が出てきたが」


「巻き込まれないように薬の調合手伝わせて、絶対に。私まだ死にたくないもん」


「戦闘能力皆無な君より僕の方が危ないだろう、どう考えても。僕もまだ死ぬつもりはないぞ」



小声でボソボソ話していたのが聞こえていたのか、いなかったのか二人の視線がこっちに向いていることに気づいて、私たちは慌てて佇まいを直した。

 リアンは咳払いをしてから普段のように『提案』を持ちかける。



「訓練を騎士に頼むついでに、開店前に一度店の宣伝をしに行きたいんだがどう思う?」



驚く私たちにリアンが話し始める。


 どうやら、前々から考えてはいたらしい。

手に持っていた羊皮紙をテーブルに置いて私たちに説明を始めた。

そこには開店候補の日付までいくつか書いてある。



「まず、開店日についてだが僕は十日後がいいと考えている」



十日と聞いて私もベルも驚いた。


 リアンのことだから慎重にあと二週間くらいは時間をとるんじゃないかと思ってたから。

驚く私たちの反応を見たリアンが目を細める。



「早すぎると準備が間に合わないし、遅いと遅いで学園からせっつかれそうだ。工房の経営が忙しい、というのは立派な理由になるから、これ以上面倒ごとに巻き込まれないうちにすべきことをしてしまいたい」


「納得した」


「そういう事でしたのね。私は十日でいいわ。商品もある程度揃っているし、新しいアイテムを補充して、他に売れそうなものの在庫を多めに揃える位でしょう? することなんて」


「重要なのはそこだな。他には、購入制限や休日についても周知させておきたい。この十日で、店の準備や経営方針を定めて休日の制定、また採取へ行っている期間の店の扱いなんかも話しておいた方がいいだろう」


「決め事に関してはこの場で決めてしまいますわよ。私まだトリーシャ液の調香が終わってませんもの」


「私も十日後でいいよ。商品で作りたいものはないけど、個人的に【水晶石の首飾り】を作りたいし、在庫だって殆ど準備し終わってるもん。錬金素材とかは大量に用意しておいた方がいいかなーって思うからその辺は用意しなきゃだけど」



私とベルの二人が同意したことで、開店は今日から十日後に決定した。

とりあえず、忘れないように皆で使っている黒板に『開店まであと10日』と書いておく。

この黒板は当番表替わりだ。

 私の担当は料理しかないんだけどね。


サフルの名前はリアンが書き足したらしく『洗濯』と彼らしい字で書いてあった。

 ベルとリアンの名前の横には『掃除』と『工房環境整備』『地下室の整理』などと細々書いてある。

意外とこの二人も忙しい。


リアンは報告書関連完全に請け負ってくれてるし、ベルなんか貴族関連の面倒ごとを丸っと担当してるもんね。



(あれ、そう考えると私ずいぶん楽してる気がしてきたぞ)



良いのかな~と思いつつ調合時間が減るのは嫌なので、何か言われるまで黙っていることに決めた。


 私が席に戻るとリアンは新しい羊皮紙を取り出す。

そこに書かれるのは工房を経営するうえでの基本的な決め事。

 これを決めるのに30分ほどかかった。



「まず、食物系の購入制限は一人二つまで、回復アイテムや他のアイテムも各種一つとして落ち着くまでは対応する。開店日と購入制限については、これから店の前に黒板を置いて周知し、聞かれたら口頭でも説明してくれ。当日は、表に看板を出すだけでなく入り口付近で客に購入制限についての説明をする、という方法でいくぞ」



分かった、と頷いた私たちを見て、今度は休日などについてもリアンが決まったことを復唱していく。



「休みに関してだが、基本的は週に二日休もうと思う。ただ、工房に訪問者があれば対応する。その場合、緊急性がある場合に薬を売るくらいだな。食べ物系や生活に必要なものを売ってしまうとキリがなくなる」



洗濯液やトリーシャ液は使用した後も買いに来る客が多いだろうから、常に在庫は多く用意しておくこと。

 商品アイテムは勿論、調合素材の在庫は毎日調べて不足分は購入するか、代用して調合することになった。

 代用ができなくて作れない場合は欠品という事でお客さんには説明する。



「でもさぁ、採取に行かないの? 採取に行って素材を取ってくればアイテム作って売れるのに」



リンカの森くらいなら大丈夫なんじゃないかな、と言えばリアンがじっと私を見据えた。

眼鏡の奥の目に光がない。



「行けると思うのか」



「………み、店番はサフルと誰か一人残れば」


「行けると思うのか、君は」



淡々とした声に促されるように必死に考える。

 多分、リアンが無理だって言うなら無理なんだろう。



「………無理かもしれないです」


「私とライムが採取に行けば問題無さそうですけど」


「その場合君たちがいつ帰って来るのか全く判断がつかない」


「あー」

「……チッ」



ベルの舌打ちに内心びくつきながら、思い浮かぶ組み合わせを口にしてみる。

見事に全部切り返されたけど。



「私とリアンは?」


「ベルに店番が完璧にできると思うのか君は。食事に散財するのは目に見えてるだろう」

「……破産一直線はちょっと」


「失礼ですわね! 私にだって店番位できますわよっ」



やったことはないけれど、と胸を張るベルは見なかったことにした。

続いて、私が残ったらどうなるだろうと考えてみる。



「ベルとリアンが採取に行って私がサフルと留守番は?」


「君を残していくと奴隷落ちして市場に流されかねない。だから却下だ」

「ですわね。間違いなくセットで売り払われますわ。アホですもの、ライム」


「自分が残るなどという言葉は、警戒心と戦闘能力を身に付けてから言うんだな。サフルが戦えるようになっていれば、悪くない案だが……個人的にベルと二人で採取に行くのは御免だ。僕はまだ死にたくない」


「私も口うるさい貧弱眼鏡と四六時中一緒に行動するのは嫌」



採取は諦めよう、と私たちの中で結論を出した。

その場にいた全員が暫く無言で紅茶を啜ったのは此処だけの話。



◇◆◇




 紅茶がなくなったから、とベルが再びお茶を淹れに台所へ向かった。



その背中を見送って、手伝いに行ったサフルを視線で追う。

 私は話し合いで変に凝った肩や体を伸ばしていたんだけど、ふっと思い出したことがあったので薬草辞典を熱心に眺めるリアンに話しかける。



「ねぇ、リアンのお父さんってレシナのタルトとか食べるかな」


「父に好き嫌いはないぞ。ゲテモノでも平気で食べるからな、あの人は。弟もだが……突然どうしたんだ。まさか昨日の追加報酬の礼をしたいと言い出すんじゃないだろうな」


「だ、だって貰いっぱなしって何か罠がありそうで落ち着かないんだもん。追加報酬が高級食材と三着分の仕立て券ってどう考えても可笑しいよね?!」


「あー、仕立て券は完全に母の仕業だな。父は食材だろうが、定期的に仕入れているものを少し君へ贈っただけだ。ただ、そのレシナのタルトと言うのは気になるな」



錬金術で作るのか?と聞かれて少し考えた。


 実は、作れる。

ただお礼として贈るのに簡単にできる錬金術で作るのはちょっと、と思ったので首を横に振った。



「作れるけど、今回は普通に作るよ。だってお礼の品を錬金術でパパーッと作っちゃうのは抵抗あるし」



錬金術で作った方がいいのかと聞けばリアンは言いにくそうに口ごもって、最終的に観念したようにポツリと零した。




「そうじゃないんだ。その、父ではなく『僕』に作ってくれないか」



予想もしなかった言葉にギョッとしていると、台所からこちらへティーセットを運んできていたらしいベルとサフルの足音がピタリと止まった。


 そちらを見ると二人とも驚いたような顔をしてリアンを見て、ベルは何故か愉しそうな、嬉しそうな顔をしている。

サフルは複雑そうな顔で視線を床に向けていた。

こっちの反応も、謎だ。



「理由は聞かせてくれる、んだよね?」


「―――……レシナのタルトは、色んな店のものを食べたし、注文して作って貰ったこともあるんだがどれも“味”が違った。でも、君なら」



ここまで話してくれれば私でもわかった。


 リアンが求めている『レシナのタルト』を誰が作ったのか。

そういう事か、と頷いて私は頭の中でレシピを思い出す。

元々特別な食材は使わないレシピだ。



「悪いんだけど、私に『おばーちゃんのレシナのタルト』は作れないよ。おばーちゃんが作るタルトは錬金術で作られてたから、魔力の色が違う私が作っても同じ味にはならない。それでもいいなら作るけど、それでも食べたい?」



「それでもかまわない。頼む、作ってくれないか」


「わかった。私も久々に食べたくなったし、作るね。あ、でもちゃんとウォード商会にもタルト届けて。二つ作るから―――…レシピはいる?」



頷くだろうと思ってメモ用紙を取り出す私にリアンは困ったように笑う。

 初めて見る顔だ。



「レシピはいらない。僕が作っても“意味”がないからな。オランジェ様と血縁者である君が作るからこそ意味があるんだ」



そう言って笑うリアンは嬉しそうで、悲しそうで、幸せそうで、苦しそうだった。

 こういう顔をして笑う人を、私は何人も見てきた。



(おばーちゃんは、本当に凄い人だったんだなぁ)



慣れ親しんだ自分の家を離れたからこそ感じるおばーちゃんの偉大さ。

 私にとっては家族で師匠だったおばーちゃんは、他の人から見ると偉大な錬金術師で神様みたいな人なのかもしれない。

おばーちゃんに命を助けられたという人は、皆、リアンみたいな顔で笑って山を下りて行ったから。



「……味が違っても、文句言わないでね」


「作って貰えるだけで有難いさ。すまない」


謝罪の意味は聞けなかった。

声を封じられたみたいに喉に何かが詰まったような変な感じがして。


 私はリアンの言葉に答えないまま、素材を取りに地下へ続く扉を開ける。


薄暗く、ひやりとした空気に触れて、自分以外の誰かの気配を感じなくなって漸く息を吐いた。



「私、どうしちゃったんだろーなぁ」



変なの、と食材を選びながら独り言ちる。

抱えられるだけの食材を持って、石の階段を上がり真っ直ぐに自分の作業台に乗せた。


  それを確認したのか、ベルに紅茶が入ったと声をかけられたので気持ちを切り替えて駆け寄る。

いつもの席に座って、温かい紅茶を飲んでいくうちに『いつもの』自分が戻ってくるのが分かった。


 普段通りに言葉を返しながら、私はそっと自分の中に芽生えた不安と恐怖に気付かなかった振りをする。




―――……目指している場所が、遠いことを喉元に突き付けられた気がしたんだ。




ここまで読んで下さって有難うございました!

誤字脱字などありましたら是非というか、前のめり気味に報告の方、お願いします。

ほんと、変換ミス……ほんと、うん……すいません

=食材=

【ルブロ】

シャーフ(無害化した羊の魔物)から飲み作られる高級バター。

庶民が口にするのは、ミルの実から作った植物性のパタル、牛や羊の乳から作るバタルが殆ど。ルブロは貴族や王族が食べるものとして親しみ深くはないが憧れはある。

 価格はパタル100gで銅貨5枚、バタル銅貨6枚、ルブロ銀貨5枚といった具合。

【パタル】

ミルの実に含まれる油を遠心分離と拡販させること出来るクリーム状の食べ物。

軽い舌触りと仄かなミルの香りがする。パン・お菓子に使われる。

現代で言うマーガリンのようなもの。100gで銅貨5枚ほど。

【バタル】

パタルと同じ要領で、牛や羊の乳から作られる。

こちらは少し黄色みが買っており、パタルに比べると濃厚でどっしりとした味。

 香りも良いので主にお菓子作りに重宝される。パンに塗っても美味しいし、料理にもよく用いられる。現代で言うバター。

100g銅貨6枚ほど。

【ホイップクリーム】

皆が想像する白くて甘くてフワフワのヤツ。

ミルの実や牛などの乳から作れる。遠心分離機に入れて攪拌しながら魔力を加える。

ミルウォーターとホイップクリームに分かれる。フワフワ状態で出来上がるので、先に甘味を加えておくが、ミルウォーターにも甘味が映るので普段使うより少し多めに甘味を加えておく。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] バターについて少々気になっています。 90話の食材の説明書きに『バタル』現代で言うバターとありますが、58話と77話で『バタル』ではなくバターが使われていました。 今後は『バタル』で…
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