79話 新調合と薬の調合
調合回です。
主人公は満面の笑みで調合中。
調合するアイテムについて話し合った結果、無事に新しいアイテムと薬の調合をすることになった。
必要な素材を地下から運び出し、作業台に並べていく。
それぞれの作業台には、下処理前の沢山の素材。
工房にある素材を活用することにした私は外に出る必要がないんだけど、ベルは【虫よけ香】を作るための素材を自分でウォード商会まで取りに行くと言ってつい先ほど飛び出していった。
余計な物は買わないように、とリアンに再三注意され発注書を渡された後は、止める間もなく駆け出して……あっという間に見えなくなったのには驚いた。
貴族のお嬢様があれだけ足速いってどうなの。
色んな意味で心配になったけど私にもリアンにもやることは山積みなので諦めた。
「ベルに渡した発注書になんか乾燥メイズの粉とか色々書いてあったんだけど気のせい?」
「万一にでも足りなくなった、では困るからな。ついでに注文しておいた。何度も往復するのは馬鹿らしいし、やる気がある人間に発注を託すのは当然だろう?」
「………ベルに張り倒されても知らないよ」
「ベルの調合に役立つモノもいくつか書いてあるから問題ない。ああ、それとミントやディルに支払う報酬だが既に手配済だ」
「あれ? 8時に届けるって言ってたよね」
「昨日色々と商品を見直したんだが、あまり頻繁に工房から出るのも問題だろう。詫び状も同封してあるから礼儀的には問題ない筈だ」
抜け目ない、と半ば感心しつつ自分の作業台横にある道具置き場へ足を向ける。
頑丈な棚に並べられた中から必要な道具を取り出していく。
隣の作業台ではリアンが下処理を始めたのが見えたけど、私はまずいくつかの道具を点検する。
(うん。ちゃんと使えるね。まぁ、そうそう壊れるようなものでもないけど)
自分の道具を作業台に置いた後、手に取った道具は二つ。
一つは精密天秤ばかりという、素材の重さを正確に測るための道具だ。
私が使っているのはおばーちゃんから受け継いだ大型の天秤に分類される。
大型のものは結構場所も取るんだけど、小さいものからある程度大きなものまで計量できるから便利なんだよね。
今回は小さめの計量皿と重石を用意した。
大皿も大きな重石もあるにはあるけど、それはインゴットとか作る時に使う。
二つ目の道具は蒸留器だ。
蒸留器の造りは割と簡単で、素材そのまま若しくは水などを入れて沸騰させ、発生した煙を冷やすことで素材の成分を抽出することができる。
錬金術では割と用いられているけど、薬を作る時には割と当たり前に使われるのでレシピに書かれていないことが多い。
ちなみに、私が持って居る蒸留器は【魔石ガラス】でできている。
蒸留過程がガラスなので抽出過程を目で見られて楽しいし、落としても割れない、加熱・冷却にも影響を受けない優れものだ。
蒸留器も天秤も魔力を使わなくていいから、調合に関係なく時々使っていた私にとっては使い慣れた道具でもある。
「リアン、これ使っていいよ。薬作るなら必要でしょ? まだ持ってないみたいだし」
「天秤ばかりと蒸留器? 薬を作る工程にこれらを使うとは書いてなかったが」
「え? 書いてなくても使うよね? あ、待った。何か分かったかも。薬ってどれ作るんだっけ」
「あ、ああ……このページだ」
リアンが持っている小難しそうな薬レシピ本に目を通す。
確かに、道具についての記述はない。
錬金術と違って薬はレシピで本にまとめられていることが多い。
それはどの薬師が見ても同じ薬を作れるように、という配慮からなんだけど……だからこそ、錬金術でそれを再現する時にはちょっと注意しなくちゃいけないのだ。
「これ、元々は薬師用のレシピだよね?」
「そうだが……問題でもあるのか? 教員に確認したが、薬師のレシピでも薬は作れると言われたぞ」
眉を顰めつつ眼鏡を押し上げたリアンに“どの教員”に確認したのか聞いてみると、ワート先生ではない教員の名前が返ってくる。
聞いた事のない名前だったんだけど、後でベルに確認したら女生徒に人気だっていう教師だった。
なんでも、女生徒には優しいけど男子生徒にはそうでもないらしい。
「確かに薬は作れるよ、でも、錬金術で薬を作るなら錬金術用に書き直さなきゃダメなんだよ。薬師は魔力を使って薬を調合しないからね。それに、錬金術で薬を作るなら、きちんと適切な道具や処理をしないと魔力で薬素材の性質が変わることもあるんだって。おばーちゃんの友達が言ってた」
「そうなのか。僕なりに色々勉強はしたつもりだったが、そういうこともあるんだな。となると一から調べ直して…―――」
「ちょっと待った。これなら私でも書き直せるよ。簡単にだけど転用の法則とかそういうのも教わったし……流石にこれ以上難しい薬になると無理だけど、この薬って元々そんなに難しくないでしょ? 工程も比較的少ないしさ」
「一般的な特効薬に比べると工程が少ないな。だから僕にも作れると思ったんだが……実際、この薬は素材の数も難易度も低いから特効薬としての値段が安くなった一面もある」
「アルミス軟膏とかよりは難しいけどね、コレ。錬金術で作ると大体素材入れてグルグルーだもん。今作れてるのが簡単なものばかりっていうのもあるけど」
驚くリアンを余所に、薬師用のレシピを錬金術用に書き直す。
おばーちゃんが生きていた頃、よく友達だって人が来てくれていた。
彼らは私が錬金術に興味があると知ると大体色々なことを教えてくれて、遊んだりもしてくれたから大好きだったのを今でも覚えている。
とりわけ、キョウじいちゃんやカミール様は私に色々お土産をくれたり沢山の話をしてくれたっけ。
全部錬金術に関する事だった気がするけど、私はそれが楽しくて彼らが来るのを心待ちにしていた。
(懐かしいなぁ。おばーちゃんが亡くなった時に二人とも手紙くれたけど、少し前から手紙代がもったいないからって書いちゃったんだよね、我ながらバカだったなー。でも、忙しくてこっちに来れない、困ったらすぐに頼れって言ってくれたのは嬉しかった)
申し訳なくて頼ってはいないけど、でも定期的に手紙は書いてくれていた。
「っと、だいたいこんな感じでいいと思う。工程見て貰えればわかるだろうけど、錬金術は魔力で素材を混ぜたり力を引き出したりするから薬の調合は正確な計量が必要になるんだって。数字に変換はしたけど、あくまでレシピ通りだから。あ、配合によっては効果が増したり、逆に品質や性質が変わったりもするから色々やってみるのも楽しいかも」
リアンには鑑定があるから薬が完成しても態々、鑑定士に効果を診てもらう必要がない。
だからこそ気楽に言えるんだけどねー。
鑑定士に見てもらうと証明書を出してもらえるんだけど……凄く高いらしいし。
(そう考えるとリアンって凄いよね。効果分からなくってもリアンがいれば万事解決だし、鑑定結果誤魔化すような性格でもないし。ちょっと、お説教好きだけども)
書き直した特効薬のレシピは、私の手帳にもしっかり追加されていた。
【解放薬】
ハクレイ茸+猛毒薬+イーズの根+カムル草+聖水+酒の素
ハクレイ茸は生だと一本、乾燥だと二本。猛毒薬は0.3gでイーズの根は1.5g、カムル草は5輪(花は5輪以上で葉は10枚以上。根は切り取る)、聖水は小瓶1本、酒の素は10ml用意。
ハクレイ茸とイーズの根を刻み調合釡へ入れて直ぐに酒の素を加える。酒の素に二つの素材が溶け込んだら、一度完成した液体(①とする)を取り出す。カムル草は蒸留器にかけて蒸留し成分を抽出した液体を聖水と混ぜ合わせる(②とする)。ここまでが下準備。
調合釡に①と②を入れて魔力を込めながら低温で混ぜ、淡い乳白色になった所で猛毒薬を入れる。量が適切であればすぐに澄んだ青色に変化するので劣化しないうちに保存瓶へ詰める。
封印病(黒色魔力不適合症)の特効薬。
毒薬を使用するので分量をきちんと計測しないと大惨事になる。
成功すると澄んだ青色に。それ以外の色は失敗。
「改めて手順見てみると結構な工程になった」
これでも手順は簡単な方なんだよね、うん。
高度な薬になると、⑥と⑩を混ぜるとか余裕で出てくる。
まぁ、あくまで薬師用のレシピを元にして考えてるから複雑になるんだけどねー。
蘇生薬なんかは素材があれば割と簡単にできるし。
(高級素材を使うか、難易度を取るかって感じ? 両方難しいことに違いはないけど)
薬師に作れて錬金術師に作れない薬もあるし、その逆もある。
どっちが優れているかって言うよりも錬金術師と薬師は共存関係と言ってもいい。
「錬金術になると、より短い時間で作れるし素材の幾つかも省けるのか。即効性もあるようだな―――……薬師レシピから錬金術師用のレシピにどう変換するのかだけでも、ワート教授に聞いてみるか」
「薬は作れるようになると便利だけど、私はちょっと面倒だからしたくないんだよね。リアンみたいに鑑定があるなら積極的に挑戦してみるんだけど、効果が分からないのって使えないじゃない?」
「まぁ、そうだな。アイテムの鑑定は僕が請け負うし、工房にいる期間は積極的に調合してみるといい。助かった、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、私も調合に取り掛かるね。蒸留器と天秤は使い終わったら空いてる所に戻しておいて」
早速、といった具合に集中し始めたリアンの作業台から離れて自分の作業台に戻る。
私が調合するのは新しい商品候補の【石鹸】【トリーシャ液】【洗濯液】の三種類だ。
どれも簡単で大量にできるし、小分けにしたアルミス軟膏を購入してくれそうで、情報発信力の強い主婦を呼び込めそうだからね。
冒険者や騎士の女性も石鹸やトリーシャ液は嬉しいだろうというベルの意見も採用してこのラインナップになった。
「まずは簡単な所で石鹸かな。石鹸の素材は……うん、充分。まずはレシピ通りに作ってみよう」
石鹸の材料は実は三つだけ。
“普通”に作る時と素材が違うんだけど、錬金術で作った方が汚れも良く落ちる。
心なしか肌もしっとりするんだよねー。品質が悪いとちょっと汚れが落ちにくくなるみたいだけど。
【石鹸】
シャボン草+油素材+調和薬。
調和薬とシャボン草を入れて煮立たせ、沸騰した所で油素材を投入し火を止める。
グルグル魔力を加えながら混ぜると固まってくるのでそれを取り出し、成形、冷やし固めたら出来上がり。香りを付けたいなら魔力を加える直前に付けたい香りの素材を足す。
油と調和薬は高品質のものを使うとしっとり。
さっぱりさせたいなら調和薬の品質を上げて油の品質は通常通り。
今回、香りは付けないことにした。
香りがないって言ってもシャボン草の香りはするし、錬金術で作ると香りが強くなるんだよね。
男性向けの香りもってリアンが言っていたけど見当がつかなかったっていうのが一番の理由でもある。
「まずはシャボン草の下処理を済ませちゃわないとね。茎から葉を全部毟り取って、傷んでる葉と汚れてる葉、枯れかけてる葉なんかを除ける……っと。油素材はオリーブオイルでいいや。結構品質の高いオイルだったし他の油素材って今のところないし。動物系使うと臭くなるから石鹸とか体に直接つけるものには使わない方が良さそう」
一応、料理用の豚油とか牛油とかはある。
だけど、商品にするならまず却下されると思ったし、自分がお客さんなら買いたいとは思えないので今回はゴメンナサイってことで。
油も植物の種から採る方法があるんだけど、どうしても量を確保しないといけないんだよねー。
下処理が終わったら計量した素材を持って調合釡へ。
「ではでは~、おっ楽しみの調合開始~! うぅ、採取旅から帰ってきて初めての調合。アイテム作れるとか幸せすぎる」
調合釡へ作り置いていた調和薬と処理を終えたシャボン草を投下して、綺麗に洗った杖でグルグル混ぜる。
魔力こそ流してないけど、混ぜたくなっちゃう。
スープとかも無意味にグルグルっとかき混ぜてたりするし。
機嫌よく調合釡の中に入れた調和薬とシャボン草を混ぜながら火を徐々に強めていく。
(これ、実はゆっくり加熱した方が品質良くなるみたいなんだよね。成分がしっかり煮出されるからだと思うんだけど、こういう小さなことって書いてないからやっぱり実際に調合してみてなんぼ、みたいな)
錬金術の品質を決めるのは、魔力の注ぎ方や素材の品質もあるけど、適切な温度管理や投入のタイミングっていうのもあるし、時間なんかも関わってくる。
傍から見ると大雑把に見えたり適当に見えても割と“勘”で何とかなるのはそういう所だと思う。
料理も似たようなところがあるけどさ。
「うん、順調順調! あと数十秒って所かな」
ぽこっと小さな音が鳴って、視線を戻すといくつかの水泡が釜の底から生まれ、そして浮き上がって弾けていく。
それからは一気に泡の数と大きさが変化する。
じっと釜の中に集中して沸騰した瞬間に火を止め、すかさず用意していた適切な量のオリーブオイルを垂らした。
全ての素材を入れ終えたかどうかって所で魔力を流しながら、練る様に混ぜていく。
魔力を注ぎながら混ぜると透明だった液体は、徐々に黄色がかった乳白色へ変化して、かき混ぜる腕にじわじわと負荷がかかるようになる。
(石鹸は魔力を均等に、えーっと、練り合わせれば練り合わせるほど品質が良くなるんだっけ? おばーちゃん凄い勢いで混ぜてたしっ)
急げ急げ、と固まり切る前にグルグル杖を使って混ぜ合わせていた時間は多分、三分くらいしかない。
固まり切る直前で杖を引き抜けば、釡の中に入れた石鹸が浮かび上がってくる。
実はこれ、かなり熱い。
(釜の中では固まってるけど取り出すと少しの間柔らかいから、取り出してからが勝負!)
用意しておいた皮手袋をはめて釜の中にある石鹸を取り出す。
ちょっと硬いパン生地くらいの柔らかさだから垂らさないように一度、作業用ボウルに移し、作業台に乗せた石鹸板にソレを押し込む。
石鹸板っていうのは、丁度使いやすい大きさに区切った金属でできた仕切り箱のこと。
おばーちゃんが知り合いの鍛冶職人に作ってもらったんだって。
大きな四角い金属の箱にキッカリ100gになる様に仕切りが入っている。
出来上がった石鹸を、その上から押し込んで冷やせば一度に同じ形と大きさの石鹸が作れるし、態々切る手間も無いから便利なんだよね。
「よし。これで放置しておけば勝手に冷えるし、次はトリーシャ液かな」
トリーシャ液は私が普通に使っている髪を洗うための石鹸。
これで洗って乾かすだけで普通にサラサラになるし、便利なんだよねー。
おばーちゃんが沢山作ってくれてるけど、もう少しで無くなるし補充する為にも“基本レシピ”の確認と実験をさせて貰っちゃおう。
【トリーシャ液】
浸水液+ローゼルの花+香油+サイプレスの実
とろみのある液体。水や湯に触れると泡立ち、良く溶ける。
ローゼルの花を別の素材に変えると様々な香りに。
髪を洗うと綺麗にサラサラ艶々に! また、汚れにくくなる効果も。
オランジェが考えたもので他には広まっていない。ローゼルの花を入れなければ無臭になる。
今手元にないのは、ローゼルの花と香油の二種類。
サイプレスの実は料理で肉や魚の臭み消しに使う為に在庫はある。
浸水液は簡単だし素材もあるからって試しに作ったのが一回分。
香油はないけどレシピは手帳に載っていた筈だ。
【香油】
香料+薬効油+浄化石。
入れる香料によって香りや効果が異なる。薬の素材や雑貨として、また髪に塗る人もいる。
調合素材の一つ。
薬効油は確かリアンが作っていて使わせてもらえることになったから問題なし!
浄化石なんかはベルが大量生産したからまだまだ余裕あるし、とそこまで考えて気づく。
(こう考えると結構色々空き時間に作ってるなぁ。私が料理している時間に二人とも色々調合してくれてるから出来ることだよね)
調合用の素材には色々あるけど、調和薬や浄化石といったものは頻繁に使う。
新しい調合素材に挑戦したりしてたんだけど、一人より三人だ。
三人いれば効率もいいわけで―――…量も種類もその分揃えられるんだって当たり前だけど実感中。
「香油さえ作っちゃえばトリーシャ液は調合できるか。まぁ、香りなしになっちゃうけ……いや、待って。何かなかったっけ。いい匂いがする花」
慌ててリアンが書いた在庫のリストを眺めていて、その中に普段料理によく使ういくつかの香草が目に付いた。
これならいけるんじゃないか、とダメ元でいくつかの臭み消し用の香草を組み合わせて投入してみようと思う。
生じゃなくて乾燥だけど香りはするし多分大丈夫だろう。
食べて大丈夫なら体に悪影響はないだろうし……そんなことを考えながらキッチンにストックしてある香草をいくつか手に持って作業台へ。
下処理はしてから乾燥させているので、今回これの下処理はなしだ。
「じゃあ、早速香油を作っちゃおうかな」
香油の作り方はいたって簡単だ。
材料を全部一緒に調合釡に入れて素材が消えるまでグルグルーッと混ぜるだけ。
魔力量は多少いるし、沸騰というか熱し過ぎちゃいけないから中火にする必要はあるけど、素材が溶けるのが比較的早いから問題なし。
一応濾す必要があるけど、それだけだ。
あ、あとやけど注意ね。
香油を作るための素材を一気に投下し、魔力を加えながらグルグル混ぜる。
こっちの香料も料理用の香草だけどあるモノは使わないとね!
……ローゼルの花って高いし量もたくさん必要だもん。
「あ、いい香り。乾燥させた料理用の香草だけでも結構いけるかも」
元々いい香りだからか問題なく“香料”の区分に入るらしい。
良かったよかった、と調合釡の中で滑らかなオリーブ色に変化していくのをワクワクしながら杖で大きく円を描くように混ぜていく。
中心でクルクル回る香草たちは殆ど溶けて見えなくなってきている。
完全に溶け切ったのを見計らって魔力を切り、濾し布を置いた深皿に注ぐ。
丁度一回分しか作ってないから、このままトリーシャ液の調合に取り掛かることにした。
だって、いちいち入れ物変えるのって面倒だし。
トリーシャ液の作り方も簡単だ。素材は多いけどね。
一度杖先を綺麗に拭いてから、調合釡にすべての素材を入れる。
「リアンの作った浸水液と今作った香油、サイプレスの実にローゼルの花の代わりに乾燥させた香草をぽぽーんと入れて混ぜてけば……うん、成功しそうな感じ!」
全体的にオリーブ色に染まっていた液体が魔力を注ぐと徐々に色を変えてまずは無色透明に、そして素材が溶けていくうちにゆっくりと若草色、最後に淡いオレンジ色へと変わっていく。
多分、オレンジになったのはサイプレスの実の赤と香草の抽出液の色が混ざった結果だろう。
(石鹸もそうだけど、調合時間だけで見るとたいして時間要らないのが助かるよね。まぁ、その前の素材を作る時間考えると思いついたらすぐに作れるってものじゃないけど)
次に【洗濯液】を調合したら、浸水液や香油を多めに作っておこうと思う。
そのために必要な香料は料理用の香草を使えばいいし。
(香草っていえば教会の裏庭にたくさん生えてたなー。雑草みたいな扱いだし、ご飯食べたらちょっとだけ気分転換に教会に行って貰えないか聞いてみよう。ミントの顔も見たいし)
元々聖水を貰うのと追加で買ってきて欲しいって言われてたから丁度いい。
魔力を切って、あっさり完成した【トリーシャ液】を瓶に詰める。
結構な量があって、ワインボトル一本分になった。
完成した【トリーシャ液】をひとまず、作業台の端に横にしておいておく。
「次に【洗濯液】だね。素材もばっちり揃ってるし早速調合しちゃおうかな」
念のため、と一度手帳に書かれているレシピに目を通す。
難易度的には石鹸よりも洗濯液の方が難しいんだけど、あまり難しくはない。
【洗濯液】
酒の素+シャボン草+調和薬+魔力草+水素材。
酒の素に魔力草を加え、色が出たら調和薬とシャボン草、水を入れて静かに加熱する。
初めに魔力を注ぎながら大きく3回釜の中を混ぜて静かに煮出す。
素材のシャボン草が消えたら火を止めて容器に移せば完成!
石鹸よりも強力な洗浄力を持つので頑固な汚れもスッキリ落ちる。
肌にも優しく、手も荒れにくくなる。
手帳の通り、調合釡に酒の素と魔力草をいれて魔力を注ぐ。
この段階では混ぜても問題ないみたいだからいつものようにグルグル混ぜた。
魔力草は採取した時に処理を済ませる様にしてあるし、割とすぐに使えたりする。
水に関しては井戸の水を使うことにした。
量がモノを言うからね、うん。
「結構色がついてきたからこの辺りで調和薬とシャボン草、後は水を入れて大きく三回魔力を込めながら混ぜて……静かに加熱だね。結構魔力使うけど手順は簡単だなぁ」
静かに杖を引き上げ、軽く洗ってから布で水気を拭きとる。
ポーチに杖を入れたらお玉を持って、シャボン草が消えるのを待つ。
消えたらすぐに火を止めて大きな保存容器に入れれば完成だ。
「錬金術で作ると石鹸も洗濯液もトリーシャ液も腐らないんだよね、何故か。多分魔力のお陰だとは思うんだけど」
おばーちゃんが死ぬ前に大量生産した物たちはどれもまだ現役で使える。
十年分は作っておくから、とたまに話してたけど確かに十年分はしっかり持ちそうだ。
懐かしいな、と思いながら釜の火を止め、手に持ったお玉で完成した【洗濯液】を容器に移す。
きっちりコルクで栓をし、作業台を片付けた私はリアンの進捗状況を見る為に一度自分の作業台から離れることにした。
薬が完成するのは明日だ。
作り終わったら一晩寝かせなきゃいけないらしいんだよねー。
読んでくださってありがとうございます!
毎度のことながら誤字がありましたら報告して貰えると凄く助かります。
あと、毎度毎度すいません、ホント報告ありがとうございます…助かってます、はい。
=新アイテムとか=
【サイプレスの実】
解毒・防臭・消臭効果がある。
無味無臭で刺激もないので、肉や魚料理の臭みけしとして一般的に用いられる。
【香油】
香料+薬効油+浄化石。
入れる香料によって香りや効果が異なる。薬の素材や雑貨として、また髪に塗る人もいる。
調合素材の一つ。
【トリーシャ液】
浸水液+ローゼルの花+香油+サイプレスの実
とろみのある液体。水や湯に触れると泡立ち、良く溶ける。
ローゼルの花を別の素材に変えると様々な香りに。
髪を洗うと綺麗にサラサラ艶々に! また、汚れにくくなる効果も。
オランジェが考えたもので他には広まっていない。ローゼルの花を入れなければ無臭になる。
【洗濯液】
酒の素+シャボン草+調和薬+魔力草+水素材。
酒の素に魔力草を加え、色が出たら調和薬とシャボン草、水を入れて静かに加熱する。
初めに魔力を注ぎながら大きく3回釜の中を混ぜて静かに煮出す。
素材のシャボン草が消えたら火を止めて容器に移せば完成!
石鹸よりも強力な洗浄力を持つので頑固な汚れもスッキリ落ちる。
肌にも優しく、手も荒れにくくなる。
【シャボン草/泡草】
水やお湯に浸けて揉むと泡立つ変わった草花。比較的繁殖力が強い。
シャボンの香りと呼ばれる清潔感のある香りを持っていて、実>花>葉の順で香りが弱くなっていく。
直径5センチほどの赤、ピンク、白、黄色、紫といった色の美しい花を咲かせる。
シャボンの実はちょっと高めで庶民は葉をよく使う。