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62.5話 打ち合わせは内密に

 主人公以外からみるとこんな感じです。

次回こそ、採取するはずです。きのこ!きのこ!



 ライムが先に休んだことを確認したミントが戻ってきて、四人はそれぞれ座っていた席に腰を下ろした。


 ベルが無言で紅茶を入れて、ちらっとライムが用意していった自分用のお茶菓子を見たが、誘惑を振り切る様に視線を手元の紅茶に戻す。



「―――…じゃあ手早く済ませるわよ」



静かな声が空気を震わせる。

 口の中を潤す様に紅茶を含んで飲み下してから、ディルへ視線を向けた。



「まず、見張りの時間帯に死体の処理を頼むけれどそれは問題ないかしら」



何気ない日常会話と変わらない口調でベルはディルに尋ね、ディルも顔色一つ変えず頷いた。



「討伐証明になる物を確保したなら問題ない」


「それに関してですけど生首を持ち歩く必要はなくて助かりましたわ。奴らは元冒険者だったようでギルドカードがありましたの。武器に関しても多少価値のありそうな短剣などは回収していますわ。安物に関しては壊れてしまいましたけれど」


「問題ない。盗賊の処置はいいとして“商品”はどうする」



淡々とした声に抑揚はなく、感情が滲むこともない。


 ライムがいるといないとではこうも違うのかと感心すらしながらベルは返事を返した。

リアンとミントは今の所口を挟む気がないのか優雅にお茶を飲んでいる。



「ライムが保護したもの以外は盗賊と同じように処置して頂戴。生きていた二人も終わらせて、一纏めにしたから手間は省ける筈よ。場所は馬車周辺。馬車の中に売り物になりそうなものはなかったから馬車ごと燃やしてしまって」


「―――…死体に関してはわかったが、アレはどうするんだ?」



 感情のない視線がぼろ布に包まって眠る奴隷の少年を映す。

つられるように他の三名もそちらへ視線を向け、数秒の沈黙が訪れた。

 口をつぐんだベルの代わりにリアンの溜息がその場の空気を動かす。



「どうもこうも“戦利品”扱いになるだろうな。鑑定した結果、まぁ使えなくもないし余程の欠陥がなければ工房で使うことになりそうだ―――ライムは恐らく“奴隷”を“奴隷”として扱えない。躾けは僕とベルでするつもりだが、教育が必要ないものであることを祈るよ。手に余るようであれば売るか処分する」



奴隷に時間をかける余裕はない、と言い切ったリアンの目に温度はない。



「でも、あの病気はどうにかなりませんの?工房で使うならある程度見栄えもよくしておかなければ、害にしかなりませんわよ」



客商売である工房経営に影響を及ぼしかねないというベルの言葉にリアンは少し考えるそぶりを見せて、腰につけたポーチから小型の手帳を取り出した。

古いそれはずいぶんと使い込まれている。



「―――…実験をするつもりだ。アレが掛かっている病気は“黒色魔力不適合病”と呼ばれる先天性の病で、幸いにも感染するものではない。“黒色魔力不適合症”は別称“封印病”とも言って、カルミス帝国の貧困層ではメジャーな病気だ。これは、一定以上の魔力があるのにもかかわらず自然消費または自然放出ができないことで起こる。人は誰しも自然に魔力放出をしているが、遺伝によってその機能が働かない者が一定数存在することは知っているだろう。そういったものは通常より魔力を有していないことが殆どで問題なく一生を終えることができるが、稀に通常より多い魔力を有している者も生まれてくる―――そういった人間がこの病を発症する」


「聞いたことがあります。特効薬もある、とは聞いていますけど」



高いんじゃなかったかしら、と宙を見つめるミントにリアンは特効薬の相場を口にした。



「こちらで買うなら銀貨2枚といった所だろう。需要があまりないからこの値段だが他の特効薬と比べても安い部類に入る。ただ、あくまで僕らのいるトライグルと隣国スピネルでの値段だ。需要が高く薬師や錬金術師が少ないカルミス帝国では金貨1枚から、とも言われている。症状は軽度なら倦怠感や動悸、息切れ、眩暈、咳…まぁ症状が現れる部位によるが風邪のようなものが多いから、生活に支障はない。ここで自然治癒する者も多いが罹患した半数が中度と呼ばれる症状に移行する。中度になるとほぼ間違いなく重度に進行するからこのあたりで薬を使うか奴隷落ちするか、だな」



リアンは淡々と具体的に症状を上げていく。

 詳しい説明に三人は驚いたものの、それぞれ話に耳を傾けた。



「中度でスキル無効化か。少し気になったんだがリアンは相手のスキルがわかるのか?」



頷いたリアンに三人は便利だと思う反面、厄介だという感想を抱いた。

 スキルが相手に知られるということは手の内を知られているようなものだからだ。

才能の有無もわかるのである意味一番敵に回したくない相手でもある。



「そこの奴隷のスキルは剣術、身体強化、自己回復、食い溜め、悪運だな。まぁ、現時点では何の役にも立たないわけだが」


「まぁまぁ。でも、悪運というスキルのおかげで生き残った、んでしょうね。見つけたのがライムで良かったですよねぇ、この人」



しみじみと少年を見下ろしながら呟くミントにベルが口を開いた。

 その顔に浮かぶのは純粋な疑問だ。



「そういえば、シスターの立場から見て奴隷ってどういう扱いになっているのかしら。庇護の対象という訳ではなさそうですけど」



一般的に慈悲深いイメージのあるシスターだが、今回の旅でイメージが随分変わっていたこともあり他の二人もそろってミントに視線を向ける。



「奴隷は奴隷です、としか答えようがないのですけど……ああ、でも解放奴隷で前科がなければ必要な過程を経てシスターや神父になることは可能ですし元奴隷であっても偏見なんかはありませんよ。元借金奴隷だったという神父様もいらっしゃいますし、実際高位神父の半数はそのような方ですから。ただ、犯罪奴隷に関しては有効活用させていただいています」


「有効活用?教会で強制労働が必要な場面があるのか?」



いぶかし気なディルにミントはいいえ、と普段通りの穏やかな笑顔を向けた。

どこか懐かしそうな顔をして頬に手を当て小首をかしげる姿はどこからどう見ても優しいシスターそのものだ。



「訓練の時によく使うのです。戦闘訓練から治療の訓練、必要な素材を集める為に教会所有の鉱山や危険地帯への派遣、危険地域における肉壁及び労働力、あとは…ええと、何かあったかしら?まぁ、一般的な使用方法と変わらないと思います。ああ、危険地帯での使用法に関してはちゃんと顔が見えないように布で隠していますし、犯罪奴隷が逃げ出せないように片足の筋と声帯は潰して、再生できないように呪いも刻んで戦闘能力があるシスターを最低三人配置していますから」


「……厳重ですわね」


「昔、かなり昔なんですけど犯罪奴隷にも人道的な扱いをしていたシスターと神父が惨殺された事件が数回あったそうなんです。そういったことを避けるために徹底的に管理することになったそうですよ。犯罪奴隷は残念ながらいくらでもいる上に市場では持て余しているようなので慈善事業も兼ねて引き取っているっていう事情もあるんですけど……ライムには内緒にしていてくださいね。多分、犯罪奴隷なんて見たことないと思うので」



普通に暮らしていたら見ませんものね

一度途切れた会話を元に戻したのはリアンの軽い咳払いだった。

 普段通りの表情で商品の少年の扱いについて話し始める。



「とりあえず、だ。特効薬の素材は集めるのが難しいわけでもないから、調合してみようと思っている。あの様子だと重度まで進行しているようだが、特効薬を投与してどの程度まで治るのか診るいい機会だ。薬の調合は難しいと聞くし、特効薬や回復薬を多く作れるようになれば今後の商売も楽になる。冒険者や騎士にはよく売れるからな」


「私は構いませんわよ、別に。それで奴隷が無事なら雑務を任せるのもありですわね。使用人の技術を叩き込めば私たちが雑務をしなくてもよくなりそうですし」


「―――…まぁ、目に見えない範囲でだろうな。ライムに食事を任せきってる以上僕らが雑務を放棄するわけにはいかないだろう。君のその理論で行けば、ライムが食事を作る理由がなくなる」


「………じゃあ、雑務は奴隷と当番制にしましょ。若しくは一番面倒な洗濯を一任」


「わかった。奴隷もライムの作った食事をどういう形であれ食べるんだから、雑務をするのは当然だろうし、洗濯と庭の手入れあたりを任せるか」



ベルとリアンが双方ともに納得したのを見計らって黙っていたディルが面倒そうに口を開いた。

手元にあるお茶は新しいものを入れたようで柔らかな白い湯気を立てている。



「奴隷の扱いについてはまとまったようだな。次に見張りについてだが、順番は入れ替えるか?」


「私は入れ替えた方がいいと思います。リアンさんは朝ライムと採取をするんですよね?」



ああ、と頷くのを見てミントが見張り番の調整を行って、あとはそれぞれ解散または見張りの為に移動を開始し…ベルが足を止めた。

視線の先には話にも上がらなかった、というかすっかり忘れていた厄介ごとたち。



「ねぇ、私…忘れていたのですけれど“コレ”どうしますの?」



薬を使ったとはいえ明日の朝には起きるんじゃなくって?と面倒そうに指さす先を見た三人は、今気が付いたといわんばかりの表情を浮かべて顔を見合わせる。


 四人の脳裏にまとめて処理する、という手段が浮かばなかったわけではないが犯罪者になるつもりはなかったので渋々却下する。



「面倒だし、起きてからでいいんじゃないか?」


「そうだな。焼いて罪状が付くのも癪に障る」


「一応ギルドまで連れていくことにはなりそうですけど、面倒を見る義務はないわけですし放置でもいい気がします」


「そうね。じゃあ起きるまで放置する方向で。あんまり騒ぐようなら適当に薬で黙らせておきましょ。痺れ薬も効果あるわよね」



面倒ごとはすべて片付いたといわんばかりにテントへ戻る三人をディルは見送り、自身は任された仕事をこなす為、長い詠唱を面倒そうに唱えながら暗闇へと足を進めた。





数分後、忘れられし砦で大きな火柱が上がったがそれを見たものはいない。




誤字脱字変換ミスがあれば予告なくこっそり治す予定です。


………ブックマークとか評価がえらいことになっていて驚いています。

皆さん読んでくださってありがとうございました!

すげー…


2022.12.26

 補足説明を転記しておきます。

 ギルドでは色々な討伐報告が許可されています。

昔ならではの討伐部位を見せる、というのは選択肢の一つになります。

 また、ベル達は該当しませんが、不正の疑惑がある場合は『カードと明確な討伐の証』を提示するよういわれることも。

 基本的な報告はギルドカードで充分ですが、冒険者の中には『自分で倒しました』というのを周囲に知らしめる目的で(ちょっかいなんかを減らすため)生首や大物の討伐部位をそのまま提示することもあります。

他にもいくつか報告手段はありますが、特殊な例が多いこともあり、広く知られているのは昔ながらの『討伐部位とギルドカードの提出』と『カードのみの提出』の二つです。



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