62話 採取旅 四日目 『忘れられし砦」 後
野営にて。
相変わらずのクオリティです。
何があったのかちょこっと解説とご飯食べるているだけの回。
物騒がデフォルトになってきた気がします。なぜだ。
次回は採取になる予定。
真っ暗な釜の中に似た空には無数の星がキラキラと散って、瞬いている。
雑木林があるお陰か澄んだ木々の匂いや青い草の匂い。
時折感じる風は比較的暖かな夜には心地いいし、聳え立つ岩山は武骨ながらも冒険心をくすぐるにはもってこいだ。
「絶え間なく聞こえてくる絶叫がなければ完璧だと思うんだよね、この状況」
ふっと思わず遠い目をした私の手にはお玉。
目の前には美味しそうな匂いを発生させている肉鍋がクツクツと静かに煮えている。
コメが炊ける独特の匂いを感じながら、もう少しで主食も完成するなーなんて現実逃避した私の背後からは……形容しがたい悲鳴とも断末魔の叫びとも言えない野太い声が聞こえてくる。
「あの調子ならすぐに終わる。それに終わったら俺が全部燃やしてくるし、臭いは残らないぞ」
高温で一気に焼き尽くすから、と方向性がちょっと違うフォローを入れてくれたディルに私は曖昧に笑う。
今、私たちは『忘れられし砦』で拠点を作っていた。
テント設営はディルがしてくれて私はただ夕食を作っているだけ。
背後の―――…匂いが届かない場所ではベルとリアンとミントが生け捕りにした盗賊で遊……いや、試薬やら何やらの実験をしている。
内容は聞かないと決めた。
物騒な友達を持つと色々と大変なんだな、なんて他人事のように思う。
肉鍋は一度火から離して、ゴミなどが入らない様に蓋をしておいた。
速やかに寝られるように使った道具を洗っていると、折り畳み式のテーブルと椅子を設置し終えたディルが近寄ってくる。
「設置は終わったぞ。他に何かすることは?」
「え?うーん、特にないんだよね。ご飯も炊けるのを待つだけだし…ちょっと早めに“あっち”片付けてくれると嬉しい、かな」
「わかった。じゃあ…呼び戻してくるか。一応、風呂の準備はしてある。食後直ぐに湯を張るから今日は一番目に入ると良い」
ベルが一番入りたがるんじゃないかと思ったんだけどディルが賑やかなソコを指さして真顔で
「湯が赤く染まるぞ」
「先に入ります」
「まぁ、湯の入れ替えはいつでもするが一番汚れてない人間が先に入るべきだろう。じゃあ、呼び戻しに行って後始末をしてくるからここを動くな。周りに敵はいないから安心してくれ」
はーい、と返事を返せばディルは目を細めて私の頭を撫でた後、スタスタとマントを翻して惨状へ向かっていく。
「にしても……あの人たちも大概運がないっていうか」
なんだかなー、とポーチからお椀やスプーンなどを取り出しながら一人呟く。
まぁ、一人きりだからブツブツ言えるんだけどね。
ベルとかリアンがいたら独り言にも突っ込まれそうだし。
結局、というか事の顛末は割と平和だったように思う。
あくまで結果論なんだけどさ。
身を隠して機会を窺っていた私たちの後からやってきた新人冒険者五人のパーティーは、結局見張りに見つかって戦闘になったんだけど……杖を持った子が魔術を使ったせいで盗賊たちに見つかった。
酒が入っているとはいっても新人よりも実力があったらしい盗賊たちは自分たちを討伐しに来た新人冒険者を動けない程度に痛めつけ、捕縛する。
彼らを囲む盗賊達は、自分たちが無傷であることもあってか捕えた無防備な彼らを見下ろして憂さ晴らしのように暴力や罵声を浴びせ始める。
少年たちは容赦なく殴られているようだったし、少女たちは地面に縫い付けられているように見えた。
まぁ、女の子の一人は魔術使ってたし危ないもんねー。
反撃防止の為か口に布押し込まれてたみたいだし。
(私はリアンの後ろに隠されてたからあんまり見えなかったけど)
暗闇の中で横暴極まりない盗賊たちの下卑た声は正直、胸糞悪……えーっと、あんまり気持ちのいいものではなかったのは間違いない。
(ただ、意外だったのは殺される前に皆が助けたことだよね)
盗賊のリーダーらしき人物が剣を振り上げ、誰かを殺そうとしたタイミングでベルは私に合図をした。
慌てて渡されていたベル特製のフラバンを放り投げれば……結構な効果があって。
突然響いた爆発音と煙に動揺し錯乱した盗賊達。
敵はいないと油断していたらしい彼らにベルとミント、そしてディルの三人は情け容赦なく次々と襲い掛かったのだ。
―――…で、その結果が一時間ちょっと前の惨状という訳です。
盗賊は三人の実験台を残して全滅。
新人冒険者五人は“目覚めると面倒”という事でリアンが持ってきていた眠り薬を使って強制的に眠らせた。
まぁ、命に係わるような怪我はしていないし、手当てする義理もないから満場一致で放置が決定した。
私たちの方には誰も怪我人がいないことを考えると作戦は成功。
盗賊達の賞金は見張りの二人分を差し引いた金額にはなるだろうと言っていたのはリアンだ。
「ま。今回はフラバンって結構な威力あることがわかっただけでも良しとしよう、うん。あれなら熊とか狼に囲まれても何とかなりそうだし、一人で採取にも行ける気がする」
盗賊を捕まえるのに大活躍したフラバンっていう代表的な爆弾を思い出して、私の手が止まる。
このフラバンっていうのは錬金術で一番最初に作れる爆弾だ。
材料も手ごろだし錬金レベルもあまり高くないから、勝手に大した威力はないと思ってた。
(でも、ベルの作ったフラバンは威力すごかったな。直撃した盗賊と近くにいた盗賊二人が吹っ飛んだし)
直撃した盗賊は即死で頭とか手足がバラバラになってしまったらしい。
近くにいた二人は吹っ飛んで気絶したらしく、リアンが鞭を使って回収、捕縛。
今、不幸にも実験台として有効利用されている真っ最中だ。
(見えなくてよかった。これは全力でリアンに感謝)
爆弾を作るときは暴発に気を付けようと改めて思いつつ、水差しに水と念の為の浄化石を一つ入れ、スーッとする薬草を入れておいた。
ちなみにこの薬草は、隠れてる間にたまたま見つけて毟ったやつだったりする。
いつでも食事ができるよう準備を整えた臨時の食卓を見て満足した私は、コメが上手く炊けているか焚火の傍にしゃがみ込んだ。
「さてと!私たちの分は用意できたけど……食べやすそうなの何か作っておくべき、かなぁ。やっぱ」
弱ってるっぽいし。
ちらっと視線を向けた先には薄汚れた布に包まった“商品”の男の子。
焚火からあまり離れていない場所に横たわっている彼は
意識はまだないみたいだけど、ガリガリだったし何か食べさせた方が良さそうな気がする。
左手首と右足首、そして顔の右半分が黒く変色しているけれど、まだ生きてるし。
実は、彼を見つけたのはリアンだ。
見つけた瞬間に無言で短剣を取り出したのを見て慌てて鑑定を頼んでみると、どうやら他人には罹らない病気だったみたいで、その場で殺すのはやめてくれた。
ただ、面倒そうに眉を寄せて
「これを助けても金にはならないぞ。治療にも金がかかるし、ステータスも恐らく平均的だ。この程度の奴隷ならば掃いて捨てるほどいる」
引き取りも拒否されかねない、と面倒なものを見る目で奴隷の男の子を見るリアンは完全に商人の顔をしていた。
(でも、お腹が鳴る音聞いちゃったもんねー。多分だけど嫌な感じもしないし、唯一の生き残りな訳だし……ここで何があったのかくらい知りたい)
自分が一般常識とかに疎いことは何となくわかってはいるし、余計というか必要のないことをしている自覚はある。
本当に気まぐれだとは思うし助けたことで彼が後々苦しむことになる可能性だってあることを理解したうえで助けてもいいかと聞けば、リアンはため息をついてそれっきり何も言わなかった。
本当は本人にも確認を取った方がいいんだろうけど、ずっと気を失ったように眠ったままだったから事後承諾してもらおうと勝手に自己完結。ごめん。
勿論、盗賊達を始末したベル達にも同じように聞いてみたけれど、三人とも少し困ったような顔をしつつ頷く。
ベルには
「拾ったからには最後まで面倒見なさいよ」
って釘を刺されたっけ。
元の奴隷商の人に渡すまでに元気にしてあげなさいってことだろうけどさ。
乾燥したコメを小鍋に骨とクズ野菜からとったスープの素の中に入れて、じっくり火にかける。
放置しておけばいい具合に煮えて食べやすいお粥ができる筈だ。
鼻歌を歌いながらお粥を作成し終えたころにはコメが炊けたようだったので少し蒸らしてから腕に抱えられるくらいの木桶に鍋をひっくり返し、ホカホカの炊き立てご飯を広げて濡れ布巾を被せ、先に夜食用のオニギリを作成しておく。
(具材は作り置きしておいたので十分だし、焼きオニギリはご飯食べた後で焼いて渡せばいいから楽だなぁ。ちょっと多めには握っておこう。沢山炊いたし、あったかいうちじゃなきゃ上手く握れないんだよねー、オニギリ)
このオニギリという料理は、手を濡らして適量の塩を付け、熱々のご飯を文字通り食べやすいよう一纏めにしたものだ。
中に具を入れて握ってもよし、塩だけでも十分美味しいし、大体の料理に合う万能主食。
まぁ、乾燥しやすいのと炊き上げるのにちょっとした技術がいるくらいで、パンと張り合える素敵な主食だと私は思ってる。
おばーちゃんの好物だったこともあって、パンより多く食卓に出てたから時々無性に食べたくなるんだよね。
大量に炊いたご飯は食べる人数を考えると多いかもしれないなーなんて一瞬考えたけど、四人とも結構がっつり食べるから問題ない筈。
余ったら、明日の朝に直接お米に味付けして炒めるだけで別の料理にしてもいい。
オニギリは乾燥させた保存効果のある葉っぱに包んでポーチへ収納した。
ベタベタになった手を洗い流した所で背後から名前を呼ばれる。
どうやら、あっちも用事が済んだらしい。
――――…調理中に聞こえていた悲痛な叫びはもう、聞こえなくなっていた。
◇◇◆
甘じょっぱい味付けの肉鍋は、ショーユと砂糖と少量の薬酒。
使った薬酒は癖がなくて臭い消しに効果のある薬草を数種類使ったものだ。
具材は購入したマタネギ、キャロ根、リーク、ハクサイ、そしてオークの肉という割とシンプルで安価なもの。
(ま、安い材料でも砂糖使ってるからそれなりの値段はする気がするけど……量食べるなら肉鍋が一番楽だよね)
次々に消えていく鍋の具材。
消費者は私以外の四人。
炊いたご飯は綺麗になくなり、肉は三回、野菜は二回ほど継ぎ足した。
「ライム、この味付けでまた鍋を作ってくださいませ!夏もいいですけれど冬に食べたい味ですわ」
「わかります!いくらでも食べられちゃいますよね、このコメという主食ともすごくよく合っていて……ちょっと食べすぎちゃいました」
満足げな顔をするベルとミントは幸せそうに顔を見合わせている。
背後に置かれている血濡れの武器はこの際見なかったことにしておく。
「これは野菜も肉も効率よく食べられるし、体も温まるな。こういった料理はまだあるのか?普段食べるスープもいいが、こういった具が多い煮込み料理ももう少し色々と食べてみたいものだ」
リアンも満足したのか満足げに汁だけになった鍋を見ながら冷たい水を飲んでいる。
肉を一番食べていたのはベル、野菜の消費はミント、バランスよく黙々と食べていたのはリアン、コメと共に具材を掻き込むように食べていたのはディルだ。
多分だけどお昼に落ち着いて食べられなかった反動もあるんじゃないかなーって考えてる。
今まではもう少しゆっくり食べてたし。
苦笑しつつ空になったお皿を回収し、代わりにミカンを一人一つ渡した。
ミカン食べると口の中さっぱりするしね。
皆が片付けは自分たちが、って言ってたけど今回戦闘したわけでもないし大して疲れてもいないから、片付け位させてほしいと頼んだ。
流石に…申し訳ないからね。
食器を洗っているといつのまにか洗い終わった食器をディルが拭いてテーブルに並べていく。
テーブルに乗せられた食器はリアンによってまとめられ、ベルとミントはお茶の準備を始めていた。
「別に後片付けもお茶淹れるのも今日くらい私がやるのに。戦ったわけでもないし、ただ爆弾投げてご飯作っただけだもん」
「俺たちがしたいだけだから気にするな。ただ、気になるなら…その…―――冬になったら魚で作った鍋料理を食べたい。オランジェ様と昔食べただろう、材料はこちらで用意するから頼む」
「報酬が鍋って!まぁいいけどさぁ……ディルが言ってるのって、白身魚の鍋の事だよね?塩味の。冬に食べると美味しいし、いいよ。冬に鍋する時には手紙出すからおいでよ。食材費位なら私個人で出せる額だし」
今は貴族らしいディルを護衛として雇っているばかりか、こういう雑用させていいのかなーなんて今更ながらに思う。
一般常識的にはダメな気がするけど、まぁ本人がいいって言ってるわけだし大丈夫なのかな。
今度ベルに聞いてみようっと。
楽しみだな、と呟いたディルの言葉に被せるようにガシッと肩をすごい力で掴まれる。
驚いていると目の前には真剣な顔をしたベルとミント。
目が、完全に獲物を見る時のソレで、思わず腰が引けた。
「なんですのそれ!ちょっと詳しく教えなさいっ!」
「あのっ、私もそのお鍋料理食べてみたいですっ!何を用意したらいいですか?野菜なら畑で育てますから、私も呼んでくださいっ」
「あ、明日ね!明日ちゃんと話すからっ!洗い物終わったし、私先に汗流してくるよ!じゃあ、あとは任せたディル!」
洗い物も終わったのでできるだけ急いでその場から離れ、ディルが用意してくれていたお風呂場へ。
古いシーツで仕切られたそこには、人ひとりが入れるだけの樽がドーンと鎮座している。
中はお湯で満たされていて、中に入っていいとのことだったので遠慮なく体を洗ってから湯に浸かった。
今までは体を拭くだけだったけど、ここで数日過ごすことを考えて設置してくれたらしい。
お湯は毎回取り換えてくれる上に、洗浄なんかも魔術であっという間に終わるとのこと。
「ディル…次もついてきてくれないかなー。お風呂気持ちよすぎる」
お湯に浸かるという行為自体がかなり久しぶりだもんね。
桶にお湯張って体綺麗にするとかはあったけど、肩までじっくり入る機会があんまりない。
公衆浴場もあるけど、結構高いんだよ。
銀貨一枚だもん、一回。
ゆっくり疲れと汚れを落として予備の着替えを身に着ければ完成だ。
錬金服もディルがまとめて魔術で綺麗にしてくれるんだって。
もはや神様だ。
のんびり疲れと汚れを流した私は、夜食と夜用のホットワインを作って、ちょうど目覚めたらしい男の子にお粥を提供。
自分で食べられそうだったので自分で食べるように言えば、あっという間に小鍋を空っぽにしてしまった。
食後直ぐに気を失う様に眠ってしまった彼にディルは溜息を吐きつつ汚れを取る魔術をかけてくれた。
「あとは私たちがやるから、ライムはもう寝たら?」
「そうしよう、かな。朝ちょっと早く起きて採取したいし」
「……それなら僕も同行する。あまり強いモンスターは出ないとは思うが、君一人で採取をさせたら周りが見えなくなりそうだからな」
「任せましたわよ、リアン」
「いや、まだ爆弾持ってるし一人でも大丈夫だってば」
一応主張はしてみたけれど、皆からの返事も反応もなかった。
なんか、採取の旅を始めてからこんな扱いが続いてるような……え、そんなに弱いの?私って。
思わずミントに聞くと、優しい笑顔で濡れた髪をタオルで優しく拭かれ、そのままテントへ連れて行かれた。
地味に、ミントの対応が一番心にきた。
悔しいから明日の朝は皆が驚くくらい沢山採取してやる。
キノコとかキノコとかキノコとかキノコとかキノコとか!!
採ったキノコは冬にする鍋の具材として活躍させてやるんだから、覚えてろ…ッ!
ここまで読んでくださってありがとうございました!
誤字脱字などがありましたらちょもちょもっと直しますし、違和感を覚えたら一部改正などもします。
結構な頻度で打ち間違いとかあるんで……すいません、ほんと。
そんなこんななのに、ブックマークもアクセスも増えてて、ちょっとびっくり。
読んでくださってる皆様に感謝です!ほんとありがとうございます。
少しでも楽しんでもらえてたらうれしいです。更新遅くて申し訳ない限り。
=食材とか=
【リーク】
円筒状の野菜。土に埋まった部分は白く火にあたる部分は緑色に。
どちらも食用可能で、火を通すとねっとりとした触感と独特の香味、そして歯触りがある。
臭み消しなどにも利用される万能野菜。
現代で言う根深ネギの類。
【ハクサイ】
葉が球状に折り重なった野菜で、主に煮込み料理やスープの具材として扱われる。
甘みとうま味が強いがクセがないことからも人気の野菜。冬は特に重宝される。
この野菜はオランジェが原種を発見し、栽培方法を広めたことでも有名。




