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58話 採取旅  初日―― 夜

 途中、ちょっと虫食的な発言がありますが苦手な人はスルーしてください。

詳しくは書いてないので大丈夫だと思います、が念のため。


あと、ご飯回です。例の如く。空腹時に書くのは間違っていたらしいです。



 昼食を摂ってから街道に沿ってひたすら足を動かすこと数時間。



 特にトラブルもなく進めたお蔭か休憩地点を二つほど越えて三つ目の休憩地点が見えてきた頃、空はうっすらとミカン色に染まってきていた。

 私達の口数も日が落ちるとともに減っていて、のどかで何の変哲もない景色を眺めながら近くにいるスライムを倒してみたり、枯れ枝を拾ったりするくらいで特にこれといった面白いことは起きていない。



「今日はこの休憩地点で野営だな」



 三つ目の休憩地点には誰もいなかった。

ただ、所々に在る焚き火の焦げ跡は比較的真新しいらしい。

あまり遠くない場所には雑木林があり、川もある。

 つまり、薪が拾えて、水が得られるこの場所は休憩地点として十分すぎる条件を満たしていた。



「休憩所って条件がいい所にあるんだね。今まで見た休憩地点って見晴らし良かったり川やら雑木林があったりしてたし」


「まぁ、休憩地点は国が定めて作っているようなものですし条件がいいのは当然ですわ。休憩地点が創られた経緯は、国防の為と言われていますの。魔物や他国の侵攻から自国の民や領土を護る為に騎士や兵士を疲弊させないよう上手く活用するための場所として考えられた……まぁ、戦争がなくとも貿易や輸送にも有用であることは分かりきっていましたからトライグルに限らずどの国にも設けられているのです」


「物知りだねぇ、ベル」


「き、貴族でしたらそのくらい知っていて当然の知識よ。それに騎士団に入団すると実地訓練だけでなく座学もありますから嫌でも覚えますわ。ええ、本当に嫌でも……美味しくなくとも食事がかかっていましたし」


「ベル、その……なんかごめん」


「いいのです。あのクソ不味い食事を知っているからこそ庶民の方が利用する食堂などの食事も抵抗なく食べられるのですわ。毒味などの方法も知っていますし、ある程度の毒や薬に耐性もつきましたから。不可抗力で、ですけれど」


「不可抗力ってどういう」


「料理班に振り分けられたボンボンの貴族が碌に分別もせずキノコを入れた所為で毒・麻痺・腹痛・嘔吐・消化不良に…ええと、なんだったかしら?取り敢えず、ある程度の状態異常は経験済み、という状態になりましたの。一度ならまだしもその演習中何度もですわよ?あまりにふざけた真似をしやがりましたので日課だった訓練では全力でぶちのめして差し上げましたけれど、半殺し程度で留めたのは間違いでしたわね」



うふふ、と綺麗に貼りつけられたお嬢様の笑顔が凄まじい迫力を醸し出していた。

 思わずベルから視線を外した私は多分、悪くない。



「貴族の方でもそのような体験をするんですね。私も教会の訓練所で似たような訓練はしたことがあります。シスターは戦えなくてもある程度の耐性を付けるよう推奨されているので……基本的に効果の弱い毒草なんかから始めるんですけど、草や花から入るのは戦闘能力のないシスターや子供なんかが対象で。だから戦闘能力が認められると結構大変で、毒虫や毒草しかない場所で野営すると毒の鍋をみんなで食べるんですよ。飲み物は薄めた毒消しだったりしましたね」


「……どくむしのどくなべ」


「シスターって凄いんですのね……私も流石に虫を食べた経験はないですわ」




流石のベルもちょっと引き攣った笑顔を浮かべてるんだけど、ミントは特に気にした風もなくほわほわと微笑んでいる。



(シスターって騎士より強かったりして……色んな意味で)



振り返ると白い顔で口元を押さえているリアンと遠い目をしているディルが見えたけれど、声を掛けるのは止めておいた。なんか、巻き込むのも可哀想だし。


 壮絶なミントの訓練方法を詳しく聞く前に、私たちは休憩地点へたどり着いた。

大きく広いその場所は街道と同じようにある程度踏み固められ慣らされている。

野営の経験がない私はどうしたらいいのかわからなくてキョロキョロ周りを見回していたんだけど、ミントが直ぐに何をしたらいいのか教えてくれた。



「ライム。持ってきたテントはどのくらいの大きさですか?他の人はいないようですけど、大きさによっては設置場所を考えた方が良いですよ」


「え?そうなの?大きさは五人用の普通テントだった筈なんだけど」


「それでしたら……あの端がいいと思います。雑木林から一番遠く、川からもある程度離れていますし、見晴らしもいいですから」



わかった、と頷いてミントが指さす方へ進む。



「テントを張るのは私がやりますね。テントを張り終えたら薪集めに行ってきます。皆さんはどうしますか?」


「俺は昼と同じように竈と水なんかを用意しておく。川の水は煮沸すれば飲めるが、時間もかかるからな」


「でしたら、私は雑木林を見回ってきますわ。ついでに簡単な罠を仕掛けておきますわ。明日の朝獲物がかかっていれば儲けものですけれど期待はしないでくださいませ。仕掛けながら木の枝や薪になりそうな物も拾っておきますわね。日が落ちる前には戻りますからあまり拾えないでしょうけれど」


「僕は簡易結界をテントの周囲に張っておく。その後ライムの手伝いをするつもりだ」


「私はご飯の支度だね。とりあえず……テントと、簡易調理台、折り畳みテーブルと椅子、お鍋が二つとフライパン、あとは調理器具っと」



この辺がいい、と言われた辺りでトランクを開いて収納していたテントなどを取り出す。

途中で椅子代わりの木箱なんかも必要だろうと取り出して置いた。


 ミントとディルが普通のトランクには到底納まり切らない量の荷物が出てくるのを、驚いたような感心したような顔で眺めているのが分かって、思わず笑ってしまった。

ベルやリアンも荷造りしているとき似たような顔してたもんね。

私も初めてこのトランクを使った時は同じような顔してたんだろうけど。


 慣れた様子で準備をするミントやディルを眺めつつ、ベルを見送った私は早速ポーチから調味料を取り出した。

必要な食材は既にトランクから取り出し済みだから、あとは切ったり焼いたり煮たりするだけなんだよねー。



(温まる物がいいよね。シチューとパンは決定として、お肉入りのホットサラダでいいかな。デザートは焼きアリルにしよーっと)



買ったばかりの新鮮な食材や買い置きしていた根菜、色んな物を適当な大きさに切りながら大体のメニューを決める。

 シチューなんてちょっと反則技を使う予定だから出来るの早いし、焼きアリルもしかりだ。

まぁ、ホットサラダだけはちゃんと普通に作るけどね。


 鼻歌を歌いながら手を動かしているとリアンが手伝いに来てくれたので野菜を切るのを任せる。シチューの材料は切り終わったから、大き目の鍋に野菜もお肉もミルの実から取れる乳白色の果汁もまとめて入れる。

後は適当に塩コショウ、ついでにちょっとのチーズ。



(リアンは見てないし、今の内っと)



 驚くべき速度で設えられた即席の竈に鍋を掛けながら、いつものようにグルグルお鍋を混ぜながら魔力を注ぐ。

お料理調合っておばーちゃんが言ってたっけ。


 魔力を注ぐとあっという間に火が通って、あっという間に立派なスープの出来上がり。

普通に調理すると今回の場合は大体十分は掛かる。

野菜もお肉も大きめに切ったし。



「(魔力注ぎながら混ぜるだけであっさり完成だもんなぁ。五分も経ってないよ、混ぜ始めてから)リアン、悪いんだけどこれ焦げないように時々混ぜてもらっていい? あんまり火が通りすぎるようだったら火から外してくれればいいし」


「わかった……って、もうできたのか?!随分早いな」


「さ、さーて!次はホットサラダつくろうかな!」


「………」



物言いたげな視線を感じる気がするけど、綺麗に気づかなかったふりをした。

 大き目のフライパンに野菜と下味を付けた豚肉を適当に放り込んで塩コショウ、コンソメ少々を振った所で川の方から何かを持って戻ってきたディルに気付く。



「ディル、それって」


「川の水位の確認と隠れている魔物がいないか見に行ったら丁度良さそうな魚がいたからな」



 ディルの手には枝に突き刺された八匹の魚が。

目玉の部分に枝が突き刺してあるからか調理はしやすそうだけど、とそこまで考えてディルの全身を見回す。



「足どころか靴も濡れてないけど、どうやって獲ったの?」


「ああ、雷属性の魔術を使ったんだ。微弱なものだったからコレだけしか取れなかったがまだ必要なら獲ってこられる」


「魔術って凄い!じゃあ、折角だし新鮮なうちに食べちゃおうか。ムニエルでいい?」


「ライムの作る物ならなんでも」



 口元を緩めて私の隣へ立ったディルは魚を水の入った桶に入れる。

ついでに、調理のたびに出してくれている中型の水桶に水を継ぎ足してくれた。



「食事を終えた後だが体を清めたいなら湯も用意するがどうする?流石に風呂という訳にはいかないが」


「え!じゃあ、水を入れる予定だった樽に……入れてもらってもいい、よね?リアン」



チラッとディルとは反対側に立ってアリルの芯を抜いてもらっているリアンを見た。

 アリルは傷ついたものを大量に買い込んであったからまだまだあるし、一個食べるだけでも満足感があるから私は好き。

家にもアリルの木があって、夏になると沢山なったっけ。

 リアンが頷いたのでトランクから中型の樽を出して渡した。



「大きな布があればいくつか欲しいんだが、持ってきているか?」


「あるよー。古いシーツなんだけど家から持ってきてそのままにしてて…使えそう?っていうか、何に使うの?これ」


「目隠しがいるだろう。食べ終わったらすぐにお湯を入れるからライムたちが先に浴びるといい。布は使い終わったら魔術で綺麗にしてトランクの上に置いておくよ」


「目隠し、いる?ぱぱーっと脱いでざぱーっと浴びるだけなのに」



面倒そうだし別にいらないんじゃないかなーと思ったので口に出したんだけど間髪入れずに返事が返ってきた。

ほぼ同時に、二人から。



「いや、いるだろう」

「いるな、間違いなく」



 綺麗に声を揃えた二人に感心しつつ、まぁ二人が必要だっていうんなら必要なんだろうなと納得して魚の鱗を落とし、内臓と頭を取り除く。

まな板で三枚におろしていると両脇から物言いたげな視線を感じたけど、顔を向けると二人には何故かパッと顔を背けられる。


 リアンもベルも時々謎の反応をするんだけど、ディルも同じらしい。

ちょっと納得はいかないけど聞いても教えてくれないのは学習済みだ。



「アリルの処理終わったらここに並べてもらっていい?最後に火にかけるから」


「わかった」



トランクからもう一つ大きなフライパンを取り出す。

これは蓋付きだから煮汁がちゃんと残るんだよね。

 アリルの煮汁は寝る前に夜の番をする人の為の飲み物に使うつもりだ。


 切り身になった魚に塩コショウと乾燥させた香草を乳鉢ですり潰し粉にしたもの、そして白ワインを掛けて少し置いておく。

 その間に竈からシチューをおろし、代わりにホットサラダ用の具が入ったフライパンを置く。

火加減を確認してからトランクに向かってそこから中型フライパンを取り出す。



「フライパンいっぱい持ってきてよかった」


「初め聞いた時は驚いたが、こうして見ると納得もいくな。洗いながら、という訳にもいかないんだろう?」


「洗いながらとか布で拭いて使うのも出来るけど、あるものは使わないと。それにフライパンとか鍋のままなら温めるの簡単だし。外で食べるなら少しでも温かい方がよくない?今は夏だけど、料理は温かい方が美味しいし」



なるほど、と隣で頷きながらアリルを丁寧にフライパンへ並べていくリアンは最初に出会ったころと比べるとかなり話しやすくなったと思う。

慣れたのもあるんだろうけど、話しかけるなっていうか近づくなって雰囲気がなくなった気がするし。


 ベルも他人行儀というか高圧的じゃなくなって親しみやすくなったし、色々と教えてくれる。お金遣いは荒いからお財布は死守するけど。



(今は二人だけじゃなくてミントもディルもいるし、その内エルとイオも混ざってくれればもっと楽しそうだなぁ。あ、戦闘的にもバランス取れてるのか! 騎士って確かベルと同じ前でガンガン戦う筈だし)



ポーチからカップやお皿、フォークとナイフを取り出した所でムニエルを作り始める。

幸い、竈に置いたホットサラダはいい具合に火が通っている。



(火が通ってないようだったらこっそり魔力を流し込もうと思ってたけど、必要なかったか)



それはそれで良かった、とフライパンにオリーブオイルを入れる。

 バタルは…今回使わない。

他の料理というかアリルの丸焼きに使ったし節約だ。

バタル作るのって面倒なんだもん。



「そろそろベルとミント呼んでもらっていい?ムニエル出来たら完成だから」


「わかった。じゃあ僕は一度離れる。何か不審なものが見えたら直ぐにミーノット家の次期当主を呼ぶんだぞ」


「はーい」



行儀よく返事をするとリアンは小さく頷いて雑木林の方へ歩いていく。


 結構な枚数のムニエルを作成し、皿に乗っけたらその横にホットサラダをバランスよく同じ分量になる様に盛り付ける。

ムニエルの横には搾りやすいように切ったレシナを添えておく。


 シチューもカップによそって、テーブルに並べた所でディルが戻ってくる。

よく見るとテントの後方に一メートル四方の小さな脱衣所みたいなのができていた。



「凄いの作ったねー。でも木材とかないのにどうやったの?」


「土属性の魔術で支柱を四つ作って簡単に繋げたんだ。全部土で覆うより魔力消費量が少ないからな」


「魔術ってホント便利だね!私には使えないんでしょ?やっぱり」



錬金術師で魔術を使える人間を知らなかったので聞いてみると、ディルは顎に手を当てて何かを考え、じっと私の目を見た。


 ディルの紫の目は近くで見てもやっぱり綺麗で昔と変わらない色だ。

初めは本当にわからなかったけどこうやって見ると、ディルは何年経ってもディルのままなんだなぁってちょっとだけ安心する。



「――…ライムには魔術の代わりに錬金術が使える。俺としては魔術よりも錬金術の方が羨ましいよ。何でも作れるだろ?飯も薬も道具も」


「そりゃまぁ、そうだけど……バーンって魔術使ってるのってカッコいいし便利そうだから使えるなら使ってみたいよ、やっぱり」


「か…カッコいい、か?その、魔術」


「うん。カッコいい。道具なしで炎も水も雷も風も出せるんでしょ?凄いよやっぱり!」


「カッコいい……凄い……そ、そうか。まぁ、それなら、その戦闘になったら色々見せてやるから楽しみにしててくれ。魔術は攻撃にも使えるから」



 ふいっと顔を背けたディルに首を傾げつつ新しい楽しみが増えたなぁ、なんて考えながら空になったフライパンに水を入れ、洗ってトランクへ。

 遠くから足音が聞こえてきて顔を上げると三人の人影がこっちへ向かってきているのが見える。



「ちょっと暗くなってきたね。ええと魔石ランプ出せばいいかな…三つ出してもいいと思う?」


「そう、だな。三つあった方が困らないんじゃないか?今日はまだ月明かりがあって手元は見やすいが、これからもっと夜が深まれば暗くなる。そうすれば手元も見えなくなる」



片付けもあるだろ?との事だったのでポーチからランプを三つ出して明かりをつけた。

 魔石ランプって従来の普通のランプと違ってかなり明るいんだよね。

まだホカホカと湯気を出している料理の横に飲み物のカップを置いた所で気づく。



「飲み物ってお茶と水とワインどれがいいと思う?」


「水が一番無難だろうな。水差しがあるなら水は俺が入れるよ」


「じゃあお願いしまーす」



はいっと陶器で出来た水差しを取り出せば慣れた様子でディルが水を入れてくれた。

その水の中にムニエルに添えられなかったレシナを絞れば完成だ。


 丁度いいタイミングで戻ってきた三人から薪代わりの枝を受け取って、竈の横に置いて手を洗ってもらってから席に着いた。

手を合わせて食事の挨拶をした後は、もう皆無言で食べ進めていたのが妙におかしくてこっそり笑っちゃった。


 けど、皆よっぽどお腹が空いてたらしい。

実際、私も結構お腹は空いていたし気持ちがわからないでもないけど、お昼より食べるスピードが速いし、お代わりも凄かった。



「こんな風に遠い場所に採取に行くのって初めてだけど、結構お腹空くもんだねー。お昼だって割としっかり食べたのに」


「ある程度気を張りながら移動しますから疲れちゃいますよね、やっぱり。幸い見通しがいいですから危険があれば早く察知できますけど、天候や環境によって疲労具合はもっと違ってくるので疲れたなって思ったら無理せずに休むのも大事なんです。肝心な時に動けないと命に係わりますし」


「言われてみれば確かに。でも、それほど疲れてないから大丈夫だよ!山を下りてから妙に調子いいんだよね。体も軽いし、息もしやすいっていうか」


「ライムの家は標高の高い山にあったから自然と体力がついたんだろうな。俺も似たような経験はある」



シチューを食べる手を止めたディルが懐かしそうに目を細める。


 そういえば、確かにディルが最初に家に来たときは結構辛そうだった。

子供だったっていうのもあるしお腹空いていたからだとは思うけど。



「――…それはそうと、夜の見張りはどうしますの?まだ決めてませんでしたわよね」


「あ!そうですよね。ええと、私とディルさんが交代で見張りをって考えていたんですけど、ディルさんはどうしますか?」


「俺は構わない。護衛を受けた時点でそのつもりだったからな」



食事を再開しているディルにミントが小さく頷いたところでリアンが口を開いた。

お皿の中の料理はなく、丁度口に含んだ水を飲みこんだ後だったらしい。

親指で口元をぐっと拭ったのが見えた。



「見張りについてだが、僕も数に入れて構わない。ベルはどうする」


「私も構いませんわよ」


「あ!じゃあ私も!私、どうせ朝早く起きるし!」



はいはい、と手を挙げた所で何故か全員が顔を見合わせた。

え、何その反応。



「そう、だな…二時間交代で見張りをする。順番はベル、僕、ミーノット次期当主、ミント、ライムの順でどうだ?」


「異論有りませんわ。出発は何時ですの?」


「六時…いや七時にする。今のところ順調だから問題ないだろう。朝食は六時でいいか?」



全員が頷いたところでいち早く食事を終えていたディルがお湯を張りに行ってくれた。


 これに一番喜んだのはベルで、ミーノット次期当主、なんて他人行儀に呼んでいたのがディル様に変化した。

うん、まぁ汗かいたから温かいお湯は有難いけどさ。

分かり易いというかなんというか。

あとでこっそり寝る前に呼び方を変えた理由を聞いたら


「今の所、私に害はなさそうですもの。問題ありませんわよ」 だって。


 今にも駆け出しそうなベルに請われて石鹸やタオルを渡せばさっさと食事の片づけを済ませ、仕切りの向こうへ消えていった。

 私と言えば、ベルを見送ったついでにアリルを火にかけ始める。

火の具合が丁度よくなったからベルが出てくる頃にはちょうどいい焼き加減になってるはずだ。



「焼きアリルを今作ってるから、あとでデザートに出すね。んと、次はミント入ってきたらいいよ。私まだ片付けとかあるし作る物もあるから」


「ありがとうございます。ふふ、本当に嘘みたいな野営ですね。こんなに快適な野営初めてです」


「それは確かにな。飯がしっかり、それも美味いモノが食べられるだけでコレだけ違うとは思わなかった」


「オランジェ様が作ったトランクやポーチがあるお蔭でもあるな。普通、野営でテーブルや椅子を使うことは稀だ。貴族ならまぁ、よくあるようだが」



感心したようなミントとディルと普段通りのリアンの声に、なんだかんだで仲良くやれそうだとこっそり胸をなでおろしたのはココだけの話。

 まだディルとリアンが余所余所しいのが気になるけど、一日目だしね。


 その後は順番に汗を流して、見張りの人を残しテントに横になったんだけど気づけばあっという間に寝入っていたらしい。

ミントに起こされるまで一度も目が覚めなかったことにちょっと驚いたっけ。


 朝食には準備の時間が二時間近くあったから胃にやさしいミソシルっていうおばーちゃん直伝のワショクや煮物を出したんだけど、人気であっという間に鍋から消えた。

ワショクを知っている同じ工房のベルとリアン、一緒に暮らしたことがあるディルは何の抵抗もなく食べていたけど、ミントの食いつきが凄かったのは予想外だったなー。

 多分、一番食べてたんじゃない?



「ライムがシスターだったら毎日ご飯食べられるんですよね……今からでもシスターになりませんか?」



っていつも通りのほんわかした笑顔で冗談めかして言われたんだけど、私は知ってる。


(あの時のミントは目が、本気だった)


そうそう、見張りの人用に作ったホットアリルサイダーも人気でベルには工房でも時々作ってほしいって頼まれた。


 あと四日は歩き通しだけど、この調子なら問題もなく楽しく進めそう。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

読み返して後で加筆や誤字脱字変換ミスなどを訂正することもあるとは思いますが、内容が変わる場合などは前書きでおしらせしますー。


=めもメモ=

ホットアリルサイダー:体を温めるためにライムが作ったあったかアリルジュース。

 残念ながらしゅわしゅわしない。


レシナ1、アリルの搾り汁1リットル、シナモン、香草少々。

搾り汁を入れた鍋に全ての材料を入れて火にかけ、くつくつしたら火を弱めて香りが出るまで煮る。

汁だけ飲むよ。



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