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51話 フォゲット・ミーノット家

とりあえず、書きあがったので投下。

…想像以上に早く出た新キャラです。

まぁ、新キャラといっても一言もしゃべってないんですけども…。

次回はきちんと話す予定です。


あと、ブックマークが100を越えました!歓喜感激大感謝です!

まじかー。すげー。三桁だー。




 教会を後にした私たちは、まず学院に向かっていた。




綺麗に敷かれた石畳の上を歩きながら二番街、一番街と進んでいくにつれて冒険者や騎士の姿も増えてきている。



「リアンがあのシスターを丸め込んで雇えるようになりましたし、あと1人ですわね。近距離が2人、中距離が1人となれば遠距離攻撃ができる者が1人欲しい所ですわ」


「丸め込んだという表現は人聞きが悪い上に誤解を生みかねないから、やめてくれないか」


「それに今!今私のことサラッと戦力外通告したでしょ。私だって敵を殴るくらいできるんだからねっ」



失礼な!とベルに対して抗議してみるけれど、ベルは涼しい顔をしたまま足を止めることもない。

 大きな学院が見えてきたところでちょっとした疑問が浮かんだ。



「学院で一緒に行ってくれる人を探すって言っても、騎士科の生徒がいないんじゃ難しくない?だって錬金科と召喚科って正直戦闘できる感じしないし」


「そんなもの、百も承知ですわ。召喚科の生徒が居ればいいですけれど…家柄や力関係なんかもありますし正直難しいでしょうね」


「ああ。あくまで今後の参考程度だ。いくつか購買で買っておきたいものもあるし、戦闘員の募集はついでだな」


「購買で買うモノって…?」



 大きな門をくぐって敷地内に。

無駄に広い学院は授業中ということもあってか人は殆どない。



「個人用の保存瓶を5本と【火の粉薬】を工房費で10買うつもりだ。ギルドや酒場による途中でウォード商会に寄る。そこでは【酒の素】とフラバムの実を買うぞ」


「あとハチミツとレシナも買おうよ。レシナのハチミツ漬けなら持って行けるし紅茶に入れてもお湯で溶いても美味しいし、パンにつけてもいいしさ」


「……ハチミツとレシナでいいんだな。他には何かあれば言ってくれ」



後は、といくつか食材のリクエストをしているうちにあっという間に学院玄関へ。


 授業中らしいので人影はなく、私たちにとってはとてもありがたい状況だ。

少なくとも工房生の誰かと出くわすことは避けたいし。



「授業の時間に来てよかったよね…昨日の今日で工房生の誰かと会うのは気まずい上に色々やだし」


「同感ですわ。というか、私は工房生以外と顔を合わせるのも御免ですわよ。面倒極まりないんですもの…うっかり殴り飛ばしたくなるのを堪えるのも大変ですし」


「わかってはいたがベルも大概だな」



寄り道することなく購買や掲示板などがある部屋へ。


 部門ごとに色々並べられているけれど、用がある素材売場に向かう。

以前、対応してくれた売り子さんが微笑んで頭を下げる。



「いらっしゃいませ。本日は何になさいますか?販売リストはこちらになります」



どうぞ、と渡された紙にはずらっと取り扱っているらしい商品の名前が書かれている。



「通常の保存瓶を5つと【火の粉薬】を10お願いします。それから…これは?」


「こちらの商品は学生が作成したものの一部を委託販売させていただいているのです。品質はC以上、担当の教師や学院に在籍している鑑定士がしっかり見極めています。値段にばらつきがあるのは、ついている効果によるものです。いい効果や珍しい効果であればあるほど高くなります」


「―――…なるほど、わかりました」



リストに目を通したリアンは直ぐに興味を失くしたらしくさっさとお金を払って商品を受け取っていた。

 商品を持って歩くにはかさばるので、私のポーチにそれらを仕舞ってから商品が全く置かれていないカウンターへ向かう。


 カウンターの横には大きな掲示板がある。

生徒や時折先生の依頼などが張り出されている掲示板を横目に、カウンターの中にいる中年の係員にリアンが声を掛けた。



「はじめまして。こちらは初めて利用するのですが、護衛依頼などの相談受付ですよね」


「おう。護衛依頼とそれに伴う相談やら学生同士の引き合わせはここで出来る。あとは、掲示板に張られた依頼の受理や依頼受付なんかもやってるな。ああ、俺は総合受付のオリバ・オレイフっつーんだ。まぁ、オリバでいい…お前らは工房生か?」



この時間に学院の購買部にいるんだから間違いはないだろうが、と私達を観察しているオリバさんに驚いていると私の顔を見た彼がハハハと笑う。



「購買部で【火の粉薬】を買うのは錬金科だけだし、そっちの嬢ちゃんはハーティー家のご令嬢。んで、こいつは学年首席合格したウォード家の長男だろ?しかも双色の髪を持つ生徒なんてお前さんくらいしかいねぇからなぁ…学院関係者なら大体知ってるぜ?色々優秀らしいじゃねぇか」



それで何の用だ、と問いかけられたリアンが動揺もなく口を開いた。

リアンはきっとオリバさんが私たちが“どこの科”の“誰”なのか知っていると知ってたんだと思う。



「3日後に“忘れられし砦”に採取に行こうと考えています。これまで問題を起こしていない、対人戦闘経験がある若しくは可能な生徒であることが絶対条件で護衛をしてくれる生徒がいれば仲介願いたいのですが」


「期間は?それと希望の学科はあるか?」


「採取を含め13日程度、食事はこちらで持ちます。錬金科以外の学科で中距離もしくは遠距離の武器が使える方が嬉しいですね」


「探してはみるが…この時期だからあまり期待はするなよ。何せ、騎士科が殆どいないからな。お前ら、ここ初めて使うんだろ?念の為に全員の名前書いてくれ。学院の生徒ではない護衛を雇ってるなら備考に人数と武器、名前と性別を頼む」


「わかりました」



差し出された用紙にサラサラと名前と学科を書いて、備考欄にはシスター・ミントの情報を記載して提出した。


 私もベルもその様子を黙って見ていたんだけど、大量の紙の束をすごい速さで捲っていたオリバさんがぴたりと動きを止めた。

少し悩んで一枚の紙を引き抜き、続いて五枚ほど紙の束から引き抜いたかと思えば、大量の紙束はカウンターの下にしまわれる。


 抜き出された用紙を私たちの前に並べて、どうやらそれは生徒の情報らしい。

顔はわからない名前と性別、所属している学科、成績、冒険者登録の有無、簡単な出身なんかが書かれている。



「紹介できるのはこれだけだ。この1枚を除いて全員が騎士科の2~3年、武器は中距離と遠距離だな。その内の2人が貴族でこっちの3人が庶民出だ」



リアンの横から差し出された用紙を覗き込んでみるけれど、なんだかピンとこない。

 私的に貴族って時点で却下したいんだけど、こうやって紹介されてる以上悪い人ではない…んだとは思う。



(ベルのお蔭で大分貴族に対する苦手意識というか嫌悪感は減ったけど、昨日の交流会で貴族が面倒だって実感したばかりだからなぁ。リンカの森とかなら少し我慢すればそれで済むけど、今回は13日でしょ?居心地悪いのはちょっと)



むー、と貴族だという2つの書類を睨みつけて、どう思うか2人に聞こうとしたんだけど…ベルとリアンは1枚の用紙から視線が動いていない。



「2人ともその人なにか問題でもあった?」



見せてーと自分から一番遠い場所に会った用紙に手を伸ばしてみる。

目を通してまず、目に付いたのは学科だった。



「―――…召喚科?」



どういうことだろうと首を傾げた私に今まで黙っていたオリバさんが口を開く。

 説明してくれるのは有難かったので視線を紙から移したんだけど、オリバさんは真っ直ぐに私を見据えている。



「双色の嬢ちゃんはコイツと知り合いか?」


「私に貴族の知り合いはいないですし、そもそも召喚科とは接触したこともないんですけど…ってどうして私に?」



思わずそう聞き返すと気まずそうに頭を掻きながら私の持っている用紙を見つめる。

 一緒にいるベルもリアンも無言で話しに入ってくる気はこれっぽっちもないらしい。



「実はな…コイツは“ライム・シトラールから護衛依頼があった場合は無償で協力をする”って条件付きで護衛登録をしてるんだ。たまにいるんだが、召喚科の生徒じゃかなり珍しい」


「なるほど。それで知り合いがいるか聞いたんですね」


「そういうこった。なんつーか、妙に鬼気迫る顔だったし召喚師の名門フォゲット・ミーノット家の次期当主とも名高い生徒が名指しのうえ、無償で協力をするなんてのはかなり異例だからなぁ…本当に知らないんだな?」



念押しというよりも確認の度合いが強い問いに頷きかけたんだけど、名前をみて少し引っかかることがあった。



「ちなみに、この人の武器って?特に何も書いてないんですけど」


「大体何でも使えるそうだが…召喚科では槍をメイン武器として使っている筈だ。召喚術に関しても優秀だぞ。なんたって首席だ。トラブルも今のところはない…というより、基本的に1人で行動しているな。名門貴族にしちゃ珍しく護衛も付けてない」



これだけの情報じゃわからないけど、客観的に見ても召喚師と仲良くなれるなら仲良くなっておいた方がいい……筈。



「ねぇ、貴族っていうのが引っ掛かるけど、召喚師ってどんなものなのかもよくわからないし、ダメ元で会ってみるっていうのはどうかな?護衛料がタダならこっちも費用が浮いて助かるし」



実力はある、らしいけど期待はせずに見張り番程度の認識をしておけば大丈夫だと思う。

それに、タダなら多少性格が悪くても耐える自信がある。

 用紙から視線を2人に向けたんだけど、2人ともかなり怖い顔をしている。



「もしもーし…?別に会うだけなんだし、そんな顔しなくても」


「君は本当に会うだけで済むと思っているのか?相手は名門貴族のフォゲット・ミーノット家だぞ」


「悪い貴族ではないですけれど、警戒はすべきですわ。有名でも何でもない貴女を名指した上に護衛料を取らないなんて何か裏があるに決まっているでしょう。召喚科についての情報はいくつか仕入れていますけれど、この男に関しては何の情報も入ってきてませんの。家柄的にも私の家と同等ですし“何か”あってからでは遅いのですわ―――…この男の狙いは貴女なのですから、しっかりしてくださいませ。身分というのはあなたが考えているよりもずっと厄介なのですからねっ」



まったくもう、なんて憤慨しているベルには悪いけどちょっぴりムッとする。

そこまで言わなくても、と思っちゃうんだよね。



(心配してくれてるのは嬉しいし、わかるんだけど…ど田舎の辺境で育った私からすると人との交流ってかなり手さぐりなんだよね)



正直、同じくらいの年の人と話すのも初めは緊張してたし…色々あって気遣いとかは吹っ飛んだけどさ。

 不満そうな顔をしている私の様子を見てリアンとベルが何か言おうとしているのが分かったので慌てて口を開く。



「そもそも、権力とか貴族とかよくわかんないからイマイチ警戒しようもないし……でも、この人とは嫌でもその内接触するような気もするし、早い方がよくない?それに顔合わせの時に学院の関係者もいてくれるなら変なこと出来ないだろうし、物は試しって言葉もある訳だしさ―――…取り敢えず会うだけあってみようよ、お願いするって決めたわけじゃないって前置きしておけば大丈夫だって!」



正直な話、名前も顔もきっとばれてるから護衛を任せられるかどうか見極めるって建前があった方がいいと思うんだよね。


 ぼそっとつぶやいた言葉が2人には聞こえていたらしい。

ベルは心底呆れたような顔をして私を見てるし、リアンは頭が痛いのか額を押さえて何か呟いている。



「はぁ……貴女は…本当に…どうしようもありませんわね。何だか真剣に考えているのが馬鹿らしくなってきましたわ」


「今この時ばかりはベルの意見に同意せざるを得ないな…オリバさん、この生徒と会うことは可能ですか?ただし、護衛を依頼するとは限らないと伝えてほしいのですが」



私達のやり取りを今までじっと見ていたらしオリバさんはニヤニヤ笑いながら頷いた。

 オリバさん曰く、その生徒と顔合わせをしてからどうするか決めるっていうのはよくあることらしい。



「ちなみに会ってから護衛を断ることも良くあるし、それを逆恨みするような相手だったら護衛を頼まなくて正解だったなと思っておけ。実害があれば、学院に言えば対処するしまぁ、そう構えることはねぇよ」


「へー。てっきり放置されるのかと…流石学費が高いだけありますね!」


「はは、言うねぇ双色の嬢ちゃんも。それはそうと、どうする?この坊ちゃん、これを出してから休み時間と帰寮前には必ず時間にここに来てるぜ。顔合わせするなら早い方がいいと思うが…駄目だった場合はギルドかどっかに行くんだろ」



優良な奴は直ぐに仕事がみつかるからな、という有難い忠告に私達は顔を見合わせて…結局首を縦に振った。



「じゃあ、その部屋で待っててくれ。俺の代わりの職員を呼んだら行くからよ」



受付カウンターから出たオリバさんは、従業員専用と書かれた扉へ向かって歩き始めている。

 その部屋、といいながら指差したのは受付の横にあるかなり目立たない上に飾り気のないドアだ。


 隠し部屋みたいなドアに手を掛けるとあっさり開いた。

室内はテーブルとイスがあるだけで、ランプなどもない。

テーブルは大きく、椅子は6脚あった。



「テーブルと椅子しかないね」


「当たり前だ、ここは商談や顔合わせなんかで使うために作られている。こういった部屋は一番街の店なら殆どあるし、店ならば設計段階で付けるのが常識だ。商談などを他者に聞かせるわけにはいかないからな」


「ウォード商会にもあったよね。ずらーっと並んで」


「部屋のことはどうでもいいですけれど、まさか今日のうちに顔合わせすることになるとは思いませんでしたわ」



オリバさんがいないので椅子に座る訳にもいかず、邪魔にならない場所で話しているとドアが開けられた。

 パッとそちらを向けばオリバさんが少しだけ開いたドアから顔を覗かせていた。



「とりあえず、事情は説明して了承は得たぞ。嬢ちゃんたちは好きな席に…って、おい!ちょっと待てっ…!!」



慌てて静止を掛けるオリバさんの声に何事だろうと身構えた時、私の前に黒が広がった。

黒といっても無駄に肌触りがいい布のようなものだと気づいて思わず声が漏れる。





「…え?」



ギシッと音を立てて体が固まるのが分かる。

 背中と腰のあたりに何かが巻き付いていたり、ジワリと服越しにも伝わってくる熱と嗅ぎなれない香り。



「ライム…ッ!!」



耳元で聞こえる感極まったように私の名前を呼ぶ声。

 視界が布で一杯なので状況把握をするのに少しかかったんだけど、どうやら私は今誰かに抱きしめられているようだ。

ぎゅう、と背中や腰に回された腕は容赦なく力を加えてきて結構苦しい。



「ッ~~な、何してんのアンタ!?早くライムを放しなさいッ!」



ベルのらしくない声を聴きながらどうやってこの拘束から逃れるべきなのか私は懸命に考えていた。


…まぁ、結局ベルとオリバさんに助けてもらったんだけどさ。

絞め殺されるかと思ったよ。


ここまで目を通してくださってありがとうございました。

誤字脱字変換ミス、そして怪文章などを見つけ次第訂正しますが見つけたら教えてください。


=素材など=

【火の粉薬】可燃性鉱石×2。

 可燃性の鉱石を細かくすり潰し、粉にしたもの。

 湿気らないように!あと火気厳禁。

 高品質なものは粒子が細かく均一。鉱石用のすり鉢もしくはヤスリで削る。

 魔力を込めながらする必要があり、根気がいるので購入する人の方が多い。


【フラバムの実】

 手のひら大の大型の実。固い殻で覆われているが、熟すと中の種が弾ける。

 種は直系5センチほどで加熱すれば食べられる。ほくほくとしていて仄かに甘い。


【保存瓶】

 素材や調合品を保存する為の入れ物。

基本的に硝子でできているが水晶で作られている高級品もある。

大きさは様々で多量に使う為に品質の低いものは、鉄貨2~5枚で売っている。

クリスタルのモノは最高純度で銀貨一枚。


【酒の粉】酒の素+穀物。

比較的いい火薬になり、素材も安価なため初心者向き。爆弾を作る際に良く用いられる。

炎系よりも水系の爆弾と相性がいい。


【フラバン】フラバムの実+火薬+調和薬。

フラバムの熟すとはじける性質を利用して作られる爆弾。

実の中にびっしりと火薬がつまっている…らしい。

魔力を込めて敵に投げつけると爆発する仕組み。

錬金術師見習いなどがよく使う。


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