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48話 気の乗らない行事

 ちょっと早めに更新できて一安心。


新キャラが出てきましたがパッと出て、パッと出番が終わるという…w

そのうち、出番があるのかなぁ…。

 たぶん、出てくるとは思います。執事好きだし。




疲れているというより、やさぐれているようなベルの様子も気になったけど、それ以上に気になる存在が背後にあった。



すらりとした体格と品のある物腰の見慣れない少し年上の青年。

 彼の手には箱のような物があるけれど特に何かを言うでもなく静かに立っていて、私と目が合うと軽く会釈をされた。



「?ええ、と…初めまして。ベルはおかえり。なんかずいぶん機嫌悪そうだけど…ご飯あとにする?ついさっき魚のムニエル出来たんだけど」



使用人に挨拶はしなくてもいいと言われた記憶はあるんだけど、会釈をされるとつい挨拶しちゃうんだよね。

ベルはといえば、お腹が空いていたらしく、盛り付け終わったばかりの皿を見せると少し機嫌が良くなった。



「いただきますわ。魚のムニエルなんて久しぶり」



 ベルは早く食べたいのか、いつものように配膳を手伝うつもりで椅子から立ち上がったんだけど、すぐに椅子へ腰を降ろすことになった。



「ルーブ、邪魔ですわよ!」



再び椅子に腰を下ろすことになったベルはキッと先ほどから背後に控えていた青年。

多分、ベルの家の使用人なんだと思う。

着ている服が執事長だって言ってたスキレットさんとほとんど同じだし。



「お言葉ですがお嬢様。配膳などは私がいるのですから私をお使いくださいませ」


「私につくのは工房までと言ったはずです。もう工房に着いたのですから、貴方は早く屋敷に戻りなさい」


「では、配膳を終えたら屋敷へ戻らせていただきます。茶会などがある場合、今後はスキレット執事長ではなく私に知らせるよう―――…失礼、ライム様、でよろしいでしょうか?配膳をお手伝いいたします」



流れる様な会話に目を丸くする私と興味がないのかいつものようにリアンは人数分の食器を戸棚から取り出していた。



「失礼、リアン殿もお席に御着き下さい。配膳は私が…ライム様には申し訳ないのですが少々お手伝いをいただければ」


「え…あ、はぁ。じゃあ、えーと…これを運んでもらっていいですか?次にパン、スープはカップに淹れるので………あの、ご飯、どうします?食べていきますか?」



理解は追いつかなかったけどムニエルはお代わり分もあるわけだし、手伝ってくれている彼の分もあったから聞いてみたんだけど柔らかく笑っていいえ、と控えめに断られた。



「私は使用人ですから主人と主人のご学友と食事を共にすることはできません。ですが、ライム様のご厚意に感謝いたします」



とりあえず、彼はいらないってことか…と納得して食事を運ぶ。

紅茶は彼が入れてくれたんだけど、ベルの淹れる紅茶と同じくらい美味しかった。


 で。

紅茶を提供して結局ルーブと呼ばれた人は、私達が食事を終えるまで一緒にいて、後片付けを済ませてから帰っていった。

ベルはといえば普段の食事とは全然違って一言もしゃべらず、ご飯を食べていたんだけど…工房から馬車が離れていってから全力でため息をついた。



「はぁ…全く、スキレットやお父様にも言っておかなくちゃ。2人共悪かったわね、アレ―――…ルーブは私専属の執事なんだけれど…いちいち煩くって。たぶん、お父様とスキレットの指示でどんな風に生活しているのか探りに来たのよ」



部屋まで入られなくてよかったわ、なんて言いながらお茶を一口。

 専属の執事ってどんなものなのかわからなかったけど、お世話してくれる人がいるってことだよね?なんかすごい。



「やっぱりベルって貴族だったんだ」


「なんですの、その間抜けな感想。ふふ、まぁいいわ…コレ、お土産よ。折角だから食後に頂きましょ。あまり日持ちしないのよね―――…お茶は私が淹れるからそのままでよくってよ」



嫌なお目付け役から解放されたと言わんばかりに立ち上がって台所へ向かったベルを見ながら対してルーブさんの存在にも戸惑っていなかったリアンを見ると彼は普段通り、本を読んでいた。



「?なんだ」


「いや、リアンってああいう執事さん?とかって見慣れてるのかなって」


「貴族相手の商売をしていたら嫌でもな。執事といっても流石ハーティー家の使用人だけあって実力者ではあるんだろう」



そう言うとあっさり本へ視線を向けた彼にまぁいいか、と私も残っていた紅茶をゆっくりと飲み干した。

 丁度、飲み終わったタイミングでベルが紅茶のセットと3枚の皿に同じ個数だけ分けられたお菓子を持って戻ってきた。

見たこともないお菓子はどれも高そうで、それでいて美味しそうだ。



「うわぁ、すごい!これってお茶会で出たやつ?」


「ええ。味は悪くなくってよ――――…食べながらでいいのですけど、明日の予定は?」



唐突な問いかけに首を傾げつつ、朝教会に行く以外特にないと告げる。

 リアンも特に何もない、と答えるとベルは小さく息を吐いた後想像もしていなかったことを告げた。




「明日の午後から学院へ行きますわよ―――…なんでも工房生だけの交流会が開かれるそうですわ」


「…え?なにそれ」

「は…?なんだそれは」



思わず聞き返した私とリアンにベルはめんどくさそうな顔を隠しもせず口を開いた。

声、というか言葉もかなり投げやりだ。



「強制とのことですから、明日の朝一番に手紙が届くはずですわ。交流会には可能な限り今まで調合したものの目録と現品を持ってきて欲しいとか」



ここでリアンが思い切り眉を顰める。

面倒だっていうよりもどっちかっていうと…不快な感じが伝わってくる。



「で、現品と目録を確認して作り方を教えろなんて言い出すわけじゃないだろうな?」


「そこまでは知りませんわよ。いくらなんでも馬鹿正直に書く必要はありませんわ。そんなの他の工房も同じでしょう?」


「そう、なの?先生もいるならちゃんと報告した方が…」



後で何か言われても困るし、と言うと2人は同時に首を横に振った。

何で2人がここで首を振ったのかわからなくて困っているとベルが教えてくれた。



「どの工房も必要最低限の物しか持ってきませんわ。まぁ、私たちの所のようにほぼオリジナルとでもいえる様な品を調合できているとは思えませんけれど…それでも、手の内を総べて明かしてしまうのはあまりに馬鹿正直すぎますわよ」


「ばかしょうじき…って、だって一応これ学校の行事なんでしょ?だったらちゃんとしといた方がいいんじゃないかなーって」


「“可能な限り”と表現されているのをお忘れですの?ライム、そもそも貴女は認識が甘すぎますわよ。貴女の調合するものはどれも魅力的で販路次第では大きな益を生む…商人でもなんでもない私ですらわかるのですから、他の蹴落とすべき者共がどう考えるのかくらい考えなさいまし」



全くもう!なんて可愛らしく憤慨しているけど、中々に口調が辛辣だよね…と引き攣った笑顔を浮かべる私に追い打ちをかけたのはリアンだった。



「ライムは当日、必ず僕かベルの傍にいるように。ああ、それから挨拶以外口を開くな。余計なことを言われても困るからな…リストと品物は僕が用意する。基本的には教科書に載っているアイテムだけだが…問題はないな?」


「ありませんわ。まぁ、間違いなく私たちが一番調合はしているでしょうし、そのくらいは見せつけてやりますわよ。ふん、精々悔しがるといいんですわ。私が折角素晴らしい採取地について情報を入手したといいますのに…ッ!いっそ退学処分にしてしまえばよかったのに」



ベルの機嫌が悪いのはどうやら採取もとい戦闘の機会が先延ばしにされたから、みたい。

 やっぱり採取に行くつもりだったかーと納得しつつ、貴族と会話するのは面倒なので丸投げ出来たのは助かったかな?なんて考える。



「まぁまぁ。その採取地については明日聞かせてよ。交流会ってのが終わったら時間もあるわけだし…素材もやっぱり欲しいしね。新しい調合もそうだけど品質上げたりするならやっぱりいい材料がいるもん」


「あ、あら。ライムがそこまでいうのでしたら教えて差し上げますわ。でも、流石に今日は疲れましたからもう休むことにいたします。はぁ…茶会なんて当分遠慮したいところですわよ」


「貴族だらけのお茶会とか考えるだけで無理。貴族じゃなくてよかったって心から思う」


「同感だな。ライムと同じ意見だというのが少し癪だが」


「……あなた方も、そこそこ有名な錬金術師になって貴族になってしまえばいいんですわ」



それじゃあお休みなさいませ、と澄ました顔をしてベルが自室へ引き上げていくのを見送ってから私達も後片付けをして少し早いけど休むことにした。


 顔を洗ったり体を拭いたりして部屋に戻った時にはもう殆ど意識がなかった。

やっぱ連日の調合尽くしが効いたんだろうな、なんて一瞬思ったんだけど…気づいたら眠ってたらしい。


ベッドの上で気づいた時には朝だったんだよね…びっくりしたよ。




◇◇◆




 朝、いつものように聖水をかけてからようやく収穫できるようになったアオ草を摘んだ。



今日は食事の準備をする前に教会に行くことにしたので、沢山作ったキャロ根のジャムを持っていく。

ちゃんとお財布管理係のリアンには許可を貰ってるし、ベルにも聞いてあるから問題なし。

 大量に作ったから今回は大瓶で持ってきた。

我ながらいい出来だし、甘いから喜んでもらえると思うんだよね。



「うーん…何だか天気崩れそうだなぁ」



遠くの空に重たい雲のようなものが見える。

風の流れとかからするとすぐに雨が降るってわけじゃなさそうだけど…早めに学院に行った方がいいかもしれない。


 石畳の坂道を駆け上がりながら今日やるべきことを考えているうちに、教会に辿り着いた。

今日はミントがいなかったんだけど代わりにシスター・カネットがいたのでジャムを渡して代わりに聖水と…庭で子供たちが倒したというスライムの核を2つ貰った。


 ギルドに持ち込めば買い取って貰えることも勿論伝えたんだけど、ジャムのお礼だって言われたら受け取るしかないよねー。

貰って困るものじゃないし。


 できるだけ丁寧にお礼を言うと、シスター・カネットは優しく笑って



「もしよろしければ、またシスター・ミントに会いに来て下さらないかしら。あの子、ライムさんがいらっしゃるととても嬉しそうで…私達シスターはあまり教会から離れられないので“外”のお友達がいると気分転換にもなりますのよ」


「はい!私もミントと話するのは凄く楽しいし気分転換にもなるのでまた…あ、でも採取にいくかもしれないんですよね。できるだけ出かける時には顔を出して予定は伝えますけど…」


「採取、ですか…もしよければ、ですけれどシスター・ミントを護衛として雇ってくだされば嬉しいですわ。あの子は教会の訓練を受けていますし、他にも訓練を受けているシスターはいますから。この時期ならあまり長期間でなければ問題ありませんし」


「場所にもよるので行き先が決まって、他の仲間の了解が得られたら是非!」


「よろしくお願いいたします。シスター・ミントはまだ若いですからね…色々な経験をさせてあげたいと思っているのです。今までは中々そういった機会がなかったのですけれど、つい数日前に新しくシスターが配属されることになったので漸く人員に余裕ができて…あら、ごめんなさいね。歳をとると長話をしてしまって困ります」


「いえ、話をするのは好きなので私でよければいくらでも!あ、でも、今日は天気が崩れると思うので洗濯物とか中に干した方がいいですよ」



ほら、と教会の背後に広がる森の間から見える遠くの山々を指差すとシスター・カネットは驚いたように目を瞬かせて大変、と呟いた。



「朝食の時にでも洗濯物や濡れたら困るものを仕舞うように周知いたしますね…ありがとうございます、ライムさん」



穏やかな笑顔に見送られて私は再び坂道を降りて工房へ向かう。

 まだかなり早い時間だからか殆ど人は出歩いて居ないのでぶつかる心配もせず全力で走ったんだけど…工房の前には見たことのない人がいた。



「…?こんにちは。あの、何か用事ですか…?」


「!ああ、この工房の生徒さんかな?これ、学院からの手紙だよ。朝早いから起きてるかどうか心配だったんだけど、直接渡すように言われてたから助かった」



ここにサインしてもらえる?と懐から受領証を出されたのでサインをして代わりに手紙を受け取る。

 速達ってこういう感じなんだ、なんてちょっと感動しながら工房の扉を開けると丁度リアンが何か書いている所だった。

相変わらず、寝癖一つなくピシッと錬金服を着ている。



「おはよー。もう起きてたんだ」


「おはよう、君もいつも以上に早く起きたようだな。もう教会に行ってきたのか?」


「聖水とスライムの核を貰ってきたよ。スライムの核はジャムのお礼だって。それから、これ。さっき工房の前で受け取ったんだけど」



はい、と手紙を渡すとリアンは差出人を確認して直ぐに封を切った。

 ざっと目を通したかと思えば面倒そうに息を吐いて、食卓テーブルの上で書いていたモノを見せてくれた。



「これがリストだ。ベルの言っていた通り君の作った物に関しては報告しない。持っていくのは、調和薬や解毒剤、アルミス軟膏、猛毒薬くらいでいいだろう。こんなことならアルミスティーの茶葉に挑戦しておくんだったな」


「うーん…もう作れる、かな?ちょっと待って」



そういえば手帳で成功率みたいなのを確認できることを思いだしたのでおばーちゃんの手帳を開いてアルミスティーの茶葉と書かれたページを確認してみる。



【アルミスティーの茶葉】成功度:高 所要時間:1時間

 アルミス草+魔力草+スライムの核

若葉を摘んで乾燥させたもの。蒸してから乾燥するとより味が引き出せる。

 仄かに甘く香ばしい為、老若男女問わず好かれている。

 錬金術で作ったものは高価で、市販されているのは錬金術で作られたもののみ。

アルミス草と魔力草を合わせて釜の上で蒸したあと、粗熱を取り、スライムの核と共に調合釜へいれて乾燥した葉が浮いてくるまで魔力を注ぎながら混ぜ続ける。



成功度が低から高に変わって、そして必要レベルっていう表記がなくなっていた。

解毒剤を連日調合してたから少しは上達したってことなんだろう。



「これなら作れそうだよ。時間も一時間ってことだから…ご飯食べた後にすぐ取り掛かれば…丁度スライムの核もあるし。ベルには調和薬の調合お願いしなきゃだけど。あ、これ念の為“鑑定”お願いね」



ポーチから朝摘んだばかりのアオ草を取り出して渡せばリアンは何か言いたそうな顔をしたもののキッチリ鑑定してくれたらしい。



「…このアオ草にも“祝福”がついてるな」


「やった!あ、アルミス草も魔力草も在庫はある、よね?」


「ああ、少なくなってはいるがまだあるな。調合して品質がCであれば持っていくか」



そんな会話をした後、朝食の準備に取り掛かる。リアンは簡単に店舗スペースの拭き掃除をするらしい。

 ベルが起きてきたのは、やっぱり朝食が出来上がった直後だった。

流れるように食事の準備をしていつも通りに朝ごはんを食べる。

パンのお供はキャロ根のジャムだけど、これも割と早くなくなりそう。



「今日の予定だが…交流会は午後1時からだな。その前にベルには祝福の効果が付いたアオ草で調和薬を調合して欲しいんだが、構わないか」


「ええ、別に構いませんわよ」


「僕らはその間、アルミスティーの茶葉を作ってみる。これは品質がCであれば持っていくつもりだ。ベルは多少時間が余るとは思うが…」


「問題ありませんわ。その後すぐに回復薬を作ります…回復手段は多く持っていくに越したことありませんものね」



何処に連れて行かれるんだろう、とおもわずスープを飲む手が止まった。

リアンも同じだったみたいであからさまにベルから視線を逸らしてる。



「って、そうだ。今日、たぶんだけど天気が崩れるから作り終わったら早めに学院に行こうよ。帰りは濡れるかも…遠くの方に雨雲っぽいのがあったんだよね」


「―――…わかった。雨具の用意をしていくか。念の為に聞くが、ライム、雨避けのマントはあるか?」


「あー……確かトランクに入れっぱなしになってたと思う。出しておかなきゃ」



多分、というか確実にリアンが私にだけ雨避けマントの有無を聞いたのは全財産を知ってるからだろうなぁ。

 リアンが恐ろしい金額で薬を買ってくれたのはいいんだけど、あれから買い物ってしてないんだよね。

依頼もあったし、時間がなかったっていうのも大きいんだけどさ。



「にしても唯でさえ気が乗らないのに、更に雨が降るなんてついてませんわね」


「全くだ」


「だねぇ…明日は晴れるといいんだけど」



採取に行くならなおさら、と口にしながら窓の外を見る。

まだ、雨雲は来てないみたいだけど…どことなく、雲が増えてきているような気がした。




ここまで読んでくださってありがとうございました。

次はいよいよ交流会です。何も今のところ考えてないけど…(ボソッ

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