46話 商品化するアイテム
あれ、なんかライムが食料特化型の錬金術師になってきてる…?(汗
次の話も調合メインになりそうです。
2023.1.31 メイズ【素材】の説明をあとがきに記載
ベルを見送った私とリアンはそれぞれの作業台に移動した。
作業テーブルの上には食べ物関連の素材ばかりで一瞬料理してるのと大してかわらなくない?なんて思ってもみたけど、料理と調合じゃ使うものが違うから気分的にも違うもんね。
…最終的に口に入るものだけどさ。
「まずは簡易スープから作ろうかな。ええと…保存容器は…これでいいかな。オーツバーの方はすぐに食べればいいからまな板の上にこれでいいや」
金属でできた四角いバットは調合の素材を置くやつだけど、きれいに洗ってあるしいいか、と妥協。
簡易スープは空っぽになった空き瓶だ。
…ジャムを入れていたんだけど、密閉できればいいからいいよね。どうせすぐ試飲するし。
そんなことを考えながら念の為にレシピ帳を確認することにした。
(失敗すると材料が無駄になっちゃうし、凹むんだよねー…結構)
数え切れないほど失敗していたから免疫はついてるけど、もったいなさは感じるわけで。
ついでに、こう…ついつい無駄になった材料を買った値段とか思い出しちゃって更に落ち込むなんてことも結構ある。
パラパラと手帳を開いてまずは【簡易スープ】のレシピに目を通す。
【簡易スープの素】
乾燥メイズ+ミルの実+スライムの核+マタネギ。
乾燥メイズは予めすり潰しておき、マタネギはみじん切り。
上記の素材を調合釜に入れ、じっくり加熱。混ざったらミルの実を割り液体のみを注ぐ。
しばらく混ぜ、とろみが付いたらボウルに液体を移し、スライムの核を入れる。
スライムの核が水分を吸い取りサラサラの粉末が残るまで一気に魔力を注ぐ。
失敗すると、煮ても焼いても食べられないドロッとした何かが出来上がる。
ふんふん、と頷きながら私は乾燥メイズをすり鉢に投入してゴリゴリとすりこぎですり潰していく。
この作業って結構疲れるんだよねー…しかも、すり潰してく工程で硬い部分なんかは取り除かないと完成した時に舌触りが悪くなるし。
無心でゴリゴリと乾燥メイズを粉にしつつ、時折ゴミなんかを取り除く。
必要分すり潰せたところで今度は硬いミルの実を割るべく魔力を纏わせたナイフを思い切り突き刺す。
必要な液体が飛び散ったらもったいないからボウルの中で作業を進める。
ナイフを抜いて切り口を下にすると中から乳白色の液体が出てくる。
結構な量の果汁を念の為に漉してから使う。
マタネギのみじん切りは慣れてるのと、面倒だったのでそのままナイフで切っておいた。
「下準備はこれでよし、と。大量生産するならメイズをすり潰すのどうにかしなきゃだねー。時間かかるし量があると腕が痛い…」
やれやれ、と腕を軽く回してから下準備を終えた食材たちを調合釜に放り込む。
火力は弱火から中火でゆっくりゆっくり加熱していけばマタネギから出た水分やミルの実の果汁を吸って粉状になったメイズが溶け合わさって、適度にトロミが出てくる。
かき混ぜ棒代わりの杖が描く軌道が少し残るくらいで火を止めてボウルへ液体を移し替える。
「で、スライムの核はあとで取り除かなきゃだから…このまま放り込むっと」
えいっと少し大きめのスライムの核を放り込んで杖から特殊な加工をされた調合用の匙に魔力を通しながらぐーるぐーると大きく、ボウルの縁をなぞるように混ぜる。
するとスライムの核がきれいに水分だけを吸い込んでぐんぐん大きくなっていく。
「…これ、魔力注ぎすぎると破裂して掃除大変なんだよね…」
おばーちゃんが生きていた時にした“遊び”でスライムの核に魔力を注ぐっていうのがあった。
水を入れた桶にスライムの核を入れて魔力を込め、水分を吸わせてプルプルにして冷やしたり凍らせたりして暑さを凌ぐのに使ったり、木とかにぶつけて遊んだりするんだけど…失敗するとそれはもう大変だった。
破裂して飛び散ったスライムの核って洗ってもなかなか落ちにくいんだよね。
その遊びのおかげで見極めは上手くなったんだけどさ。
「よしっ、できた!!」
我ながらいい出来だ、なんて満足しながら水だけを吸って膨張したスライムの核をつまんで作業台に置き、残った優しい黄金色をした粉末をジャムの瓶に移す。
続いて、オーツバーの調合にはいる。
素材は間違いなくリアンがきっちり測ってくれてるからこっちで測る必要なし。
一応、こちらも調合前にレシピの確認。
確認って大事だよねー…うっかり忘れちゃうことって結構あるし。
【オーツバー】
オーツ麦+食材+食材+ハチミツ+小麦粉
ハチミツと小麦粉以外の食材を投入。
粗方混ざったら小麦粉、ハチミツを加え一気に魔力を注ぎまとまるまで混ぜる。
出来上がったら冷まして程よい大きさに切り、保存の効く瓶などに詰めて完成。
魔力を注ぎすぎると焦げ、足りなければまとまらない。
作り方は簡単だ。
ちなみに、だけどこのオーツバーは普通に“料理”として作ることもできるんだよね。
実際、冬の備蓄食料として秋には必死に作って貯蔵した記憶が頭と体にしっかり染み付いていたり。
(今年も作った方がいい…のかな?やっぱ。こっちでの冬がどんな感じなのかまだわからないし…色々備えておいた方がいいのか今のうちに聞いておかなきゃ)
幸い、冷ます場所はたくさんあるし、人手もあるから量を作ってもきっとなんとかなる、筈。
そんなことを考えながらレシピ通りにハチミツと小麦粉以外の素材を入れる。
ちなみにレシナピールだけは冷ます段階になってから混ぜ込むので避けてあるけどね。
割と雑に調合釜を混ぜながら程よいところで小麦粉とハチミツを投入する。
魔力は一気に、出し惜しみせずに注ぐ。
初めはまとまりがなかった素材たちが徐々にまとまって、ひとかたまりになってきたのですぐに釜から取り出して素材置き用のバットへ。
ドローっと伸び広がっていく生地がきっちりバットいっぱいになったら素早くレシナピールを均等に振り、後は早く冷めるように放置。
粘度はあるけど割と早く固まるから、それまでの間に後片付けを簡単にしてしまう。
ボウルやら使ったものを洗うのって結構時間かかるんだよね。
私が調合に使った機材を洗い終えた辺りでリアンも片付けを始めた。
作業台には薬酒と思われる瓶が3つほど並んでいて、その横には浸水液らしき保存瓶が5つ。
(リアンもベルも今まで調合したことなかった割に失敗しないよね…私が小さい時はよく爆発させてたのに)
コツ掴むのが早いのかな?なんて考えながら、冷めたオーツバーを切り分ける。
味見用に1つは半分こ。
残りは密閉できる大瓶に放り込んでおく。
売れないってなったら採取に行くときに自家用ってことで持っていけばいいだけだし。
続いて台所でお湯を沸かす。
これは簡易スープの味見用ね。カップも2つ用意した。
一応ベルの味見分は残しておく。あくまで味見だから量はないけど。
「リアン、調合終わったんだけど片付け終わったら鑑定してもらっていい?」
声をかけるとリアンはわかった、と頷いて調合したものを地下へ運び始める。
私といえば、リアンが鑑定しやすいようにっていうのと味見するってことで食卓テーブルへ移動。
久々に苦草茶でも飲もうと準備をしているとリアンが地下から戻ってきた。
私が試食の準備をしていることに気づいてそのまま食卓テーブルに来たんだけど、物珍しそうに簡易スープを見て、オーツバーには感心したような表情を浮かべる。
「鑑定結果だがこっちは品質B+で体力回復・小、魔力回復・微、劣化無効の効果がついている。オーツバーは品質Bだが体力回復・中、魔力回復・微、劣化防止・小がついているな。ああ、あと満腹感+とあるから非常食としてはいいかもしれない」
「結構品質高いんだね。次は味だけど…先にオーツバー食べてみて。私、ちょっと簡易スープ用のお湯持ってくるから」
「お湯…?」
一体湯をどうするんだ、という視線を向けられたものの簡易スープの粉を半分ほどカップに移し、カップに普段の半分位のお湯を入れる。
「大体粉と同量でいいんだよ。お湯が多いと味が薄くなって美味しくないから―――…で、お湯を入れたらスプーンとかでグルグル混ぜながら粉を溶かすだけでいいんだよ」
はい、とすっかりトロミのついたスープをリアンに差し出せば彼は少し戸惑ってはいたものの素直に口を付けた。
「……美味い」
「でしょー。粉だから持ち歩きも楽だし便利だよね。パンを付けて食べても美味しいし、トロミついてるから冬とか温まっていいんだよ。きちんと密封しておけば腐らないし」
じぃっとカップを見つめているリアンに次は半分にした試食用オーツバーを差し出せば彼は少し躊躇した後、一口それを齧った。
私も味見ってことでオーツバーを齧る。
ザクザクというオーツ麦の触感とナッツの香ばしさ、ドライフルーツになったブドウ、そしてハチミツの甘味。
後味はレシナピールのさっぱりとした酸味と香りと、そして少しの苦み。
(うん、結構美味しい。上出来じゃない?我ながら)
もぐもぐ、とあっという間に食べてしまったオーツバーだけど、ちまちま食べていると飽きちゃうんだよね…まあ、ゆっくり食べた方がお腹いっぱいになるから冬は部屋でちまちま齧ってたけどさ。
「……オーツバーなのにこれほど美味いとは…一体どうなってるんだ」
保存瓶に詰められた他のオーツバーを見ながらぽつりとつぶやくリアンに大げさだなぁ、なんて思いながら聞いてみる。
「で、これ売れそう?まあ、オーツバーはともかく、簡易スープの方は乾燥メイズをすり潰して粉にする作業が大変だし、スライムの核も使うから大量生産は難しいけど」
「売れる。特に簡易スープ、といったか?湯を注げばスープになるというのが素晴らしい。これは売れる。確実に売れる。冒険者だけでなく騎士や行商をしている人間にも喜ばれるだろうな…野営でスープを作る手間が省けるのはかなり有難いし、料理が作れない者も湯なら沸かせる。程よいメイズの甘味とコクはパンや干し肉の邪魔もしない」
「あ…う、うん……そ、そっか。えーと、じゃあこれも売る?」
「乾燥メイズは粉でも仕入れられるから大量に作れるならば粉で仕入れよう。スライムの核も冒険者ギルドに依頼すれば手には入れられる。次の採取ではスライムがいる場所を選ぶぞ。スライムは水辺によく現れるから川沿いを行くのもいいかもしれないな」
妙に生き生きとし始めたリアンがパパパッと使った食材の量を聞いて計算をはじめ、あっという間に販売価格を決めてしまった。
「銅貨5枚っていうのは高いんじゃ…?薬と同じくらいするよ?」
「スライムの核を使うからこの値段だが手間を省けて、長期間持ち運べるとなれば妥当な金額だろう。これでも利率は低めにしてあるんだぞ?銀貨1枚でも買う人間は買うという商品だ」
いくらなんでもそんな値段じゃ売れないだろうと思ったんだけど、リアンは具体的にどのくらいの量を作れるのか、どのくらいの時間がかかるのか聞き始める。
戸惑いつつ答えるとリアンは満足そうに頷く。
「オーツバーもこの味なら売れるだろう。値段は…そうだな、2本入りで銅貨3枚、と言った所か。ハチミツ以外の原価はどれも安いし入手しやすいから価格変動の影響も受けにくい」
「あー…じゃあ、これも売る感じ?」
勿論だとでもいうように彼は頷いて、機嫌よく懐から手帳を取り出しサラサラと何かを書いていく。
何をしてるのか聞いてみると、商品のリストアップをしているらしい。
品名と値段、原価に加えて分類も書いているらしい。
「クッキーにオーツバー、簡易スープに解毒剤と初級回復ポーション、アルミス軟膏が今の所販売予定の商品だ。まだ品数が少ないからな…客層を騎士や冒険者向きにするならばもう少し薬や便利な道具なんかを充実させた方がいいだろう。一般の客を呼びたいなら日用品の類を揃えなければいけない」
「お店の方向性かー…何でも置いておくっていうのは駄目なの?」
「まとまりがなくて客が入りにくくなるだろう。元々、錬金術師の店というのは敷居が高い印象があるからな。店を始めるなら僕たちがもう少し調合できるようにならなければならないだろう」
ベルも加えて近いうちに話し合うか、なんて呟いて自分の作業台に向かって行く。
どうやらまだ何かを作るつもりらしい。
私は昼食の支度をするのにいい時間だってことで食事の準備に取り掛かる。
今日はリアンのリクエストでチーズを使ったパスタにする。
リアンはパスタ系やさっぱりしたもの、ベルはスープと濃厚な味付けの料理を好む傾向があることが分かってきた。
この後、リアンはアルミス軟膏を調合し、私はちょうどソレの完成と共に昼食を作り上げた。
チーズとミルの果汁を混ぜ合わせ、具は干し肉にマタネギ、少量の塩コショウというシンプルなソースだったけど結構美味しかった。
余分に作ってしまったベルの分のパスタはリアンのお腹にあっさり収まったのにはちょっと驚いたけど…。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
引き続き書いていきますのでお付き合いいただけると嬉しいです。
=アイテムなど=
【簡易スープの素】
乾燥メイズ+ミルの実+スライムの核+マタネギ。
乾燥メイズは予めすり潰しておき、マタネギはみじん切り。
上記の素材を調合釜に入れ、じっくり加熱。混ざったらミルの実を割り液体のみを注ぐ。
しばらく混ぜ、とろみが付いたらボウルに液体を移し、スライムの核を入れる。
スライムの核が水分を吸い取りサラサラの粉末が残るまで一気に魔力を注ぐ。
失敗すると、煮ても焼いても食べられないドロッとした何かが出来上がる。
【オーツバー】
オーツ麦+食材+食材+ハチミツ+小麦粉。
ハチミツと小麦粉以外の食材を投入。
粗方混ざったら小麦粉、ハチミツを加え一気に魔力を注ぎまとまるまで混ぜる。
出来上がったら冷まして程よい大きさに切り、保存の効く瓶などに詰めて完成。
魔力を注ぎすぎると焦げ、足りなければまとまらない。
【メイズ】剣のような葉と成長すると軽く2mほどになる大型植物。
現代で言うトウキビ(とうもろこし)。粉にしたり乾燥させたりして食料だけでなく飼料などにも用いられる。