38話 リアンの魔力に関するプチ講義と
尻切れトンボ。
とりあえず、投稿です。
今回は魔力のお話を書きたかったんです…本当ですよ。
ええ、登場させるタイミングがわからなかったとかじゃないんで。
昼食のパスタは中々に、というかリアンにすごく好評だった。
ベルは調合が早く終わったってことだったから少し手伝ってもらったんだけど…力仕事があって手が足りない時にはベルを呼ぼうと思う。
片手でマトマを粉砕していくベルにリアンの顔がこわばってたような気がするけど、気のせいだよね。
マトマとひき肉のソースはまだたくさん余ってるから夜にはグラタンにする予定だ。
いやー、食材が豊富っていいなぁ。
「私は引き続き初級ポーションを調合するつもりですけれど、ライムはどうしますの?」
「クッキー作って、その後気合入れてアルミス軟膏作ろうかなって思ってるんだけど」
「まぁ!でしたら、作ったクッキーはお皿に入れて私の作業机に置いてもらってもいいかしら?調合の合間に食べますわ!魔力が回復するんですのよね?」
「わかった。じゃあ先にベルのクッキー作っちゃうね。リアンはクッキーどうする?お皿に乗っけて作業台に持ってく?」
「…そう、だな。僕も調合しながら食べるか…魔力を使う量が急に増えたからな…以前より魔力量は増えたが、それでもそのうち魔力切れになりかねん」
食後のお茶を飲みながら先ほど調合したらしい浸水液とベルが調合したもの、私が調合したものを鑑定していたリアンがため息混じりに呟いた。
「確かに、そうですわね…調和薬の調合は流石に慣れてきましたし、魔力使用量もそれほどありませんから問題ないですけれど…回復薬になってくると倍は使いますものね。軟膏の場合は素材の浸水液から結構な量の魔力を使うのでしょう?足りるかしら」
「僕とライムは比較的魔力量が多いようだが、ベルは通常の錬金術師たちと変わらないようだからマメに魔力は回復しておいた方がいいだろう。魔力を回復するアイテムは色々あるが…ある程度自分で調合できるようになるまでは店で買った方がいいかもしれない」
なるほどな、と頷きつつできるだけ買わない方向…いっちゃえば出来るだけお金使わなくてもいい方法を…とそこまで考えて気づいた。
「ねぇ、魔力量って増える…よね?もし増えるなら増やした方がいいと思うんだけど」
リアンはそこで私とベルの顔を見て小さく息を吐いた。
どうやらベルも魔力の増やし方は知らないらしく、魔力量を増やせれば確かに今後楽になりますわよねなんて呟いている。
「―――魔力の増やし方について話をしてもいいが、ライム、何か摘めるものを用意してくれ。ベルは紅茶を。僕は簡単に要点をまとめておく」
異論はなかったので素直に頷いて魔力消費用に大量に作ったクッキーと普通に焼いたクッキーの二種類を三人分それぞれお皿に乗せた。
皆調合したあとだから調合したクッキーの方が枚数は多めだ。
クッキーを準備している間にベルは自室から自分用の紅茶を持ってきたらしい。
…高級そうな缶だったのは見なかったことにした。
「紅茶は今淹れますわ。先に座っていてくださいませ」
という言葉に頷いていつもの席に戻れば、リアンがメモ用紙に何かを書いていた。
書きあがったらしい用紙を受け取った私は改めて感心する。
「リアンって先生っぽいよね。教科書見てるみたい」
「この程度なら誰でもかけるだろう。簡単に要点を書き出しただけだからな。それに、内容は少し調べれば分かることだ」
「えー…その調べる作業時間が勿体無いんだって。私なんか調合と採取だけしてたいもん」
「まずは理論をきちんとしていないとオリジナル調合もできない上にどこかで躓くぞ。何より知識は多い方がいいだろう。情報もそうだ、調べられる限りいろいろな情報を得ておけば事前の対策も取れる」
準備と調査を怠っただけで命を失う者もいる、ときっぱり言い切ったので何かあったのかと聞くと商人からいろんな話を聴いたり実際に見たことがあるのだという。
「紅茶が入りましたわよ…って、あら、これリアンが書いたんですの?」
「ああ、魔力の増やし方と回復方法について書いておいた」
紅茶を受け取って一口ずつ口をつけたのを見たリアンは手書きの資料を私とベルにくれた。
資料に書いてある魔力の増やし方、はどうやらいくつか方法があるらしい。
「詳しい説明はいらないとは思うが説明はしておく。まず、魔力を増やす方法は大きく分けて二通りの方法がある。まず、自助努力で魔力を増やす方法を話す―――1つは、小まめに魔力を空にして自然回復させる方法だ。これは、割と知られていることだが枯渇状態になると体が容量を増やそうとするものらしく、毎日これを繰り返すことで最大魔力量が少しずつではあるが増えるそうだ。頻繁に魔力を使う召喚師や錬金術師は魔力の総量が多くなるのも頷けるだろう」
「確かに…そう、ですわね。出来るだけ魔力は使い切りなさいと家庭教師にも言われたことがありますし」
納得するベルと昔似たようなことを聞いた記憶があったなぁ…なんて考えていると次に、とリアンが口を開いた。
「次に、肉体レベルや職業レベルを上げる方法がある。先程の方法とこの方法は根本的に魔力量を上げることができるが時間がかかる上に、方法によっては危険も伴うからな」
リアンによると肉体レベルというのは魔物やモンスターを倒すことで上がり、それらはステータスとして確認できることが多いという。
肉体レベルが上がると魔力だけじゃなくて体力や他の基礎的な能力も上がるらしく冒険者や騎士は肉体レベルを上げるために遠征や護衛をするのだという。
「ダンジョンに冒険者や騎士たちが集まるのは、肉体レベルを上げやすいからでもある。ダンジョンは基本的に特殊な魔術や結界が張ってあるらしくダンジョン内でなら死んでも蘇ることができるらしいから、初心者なんかもよくそこでレベルを上げるようだ」
もっとも、とリアンは言葉を切ってゆるく首を振った。
「ダンジョンでレベルを上げた冒険者は死にやすいから実際に学ぶならばダンジョン以外で実力をつけることが推奨されている」
ここまではいいか、と言われて肯けば三項目を指差した。
メモに書かれている文字と聞いた言葉を自分の中で整理して納得したから頷くとベルも同じようなタイミングで首を縦に振った。
「次に、道具や薬などによって一時的に魔力を増やす方法だな。一番よく用いられるのは装飾品による魔力増幅だ」
例えばこれもそうだ…そう言ってリアンは左耳につけていた耳飾りをテーブルに置いた。
キラキラと少しの光ですら反射するドロップ型の石で色は深い青。
綺麗だなーと見ているとリアンが耳飾りを手にとって見えるように持ち上げた。
「この石の部分が魔石を加工したもので、微量だが魔力が増える効果がある。一定以上の腕を持つ職人やダンジョンで入手するのが一般的だな。ただし、効果が良ければいいほど値段が跳ね上がるから懐具合と相談する必要がある」
やっぱお金ですよね、世の中。
魔力を底上げできる石が其の辺に転がってる訳が無いのはわかってるけど、お金がないと話にならない感じか。
「あとは薬で一時的に魔力総量を増やす方法だが…これもかなり高価なアイテムだから日常的に用いるのは難しいだろう。基本こういった薬は戦闘中に魔術師や召喚師が使うために考えられているから持続性はないし、調合中に使うと魔力コントロールが難しくなるだけだからな」
「ん、とりあえず…わかったかな。他に増やす方法ってないの?耳寄りな情報みたいな感じのやつ」
「あってたまるか!と言いたいところだが…稀に死にかけると飛躍的に魔力量が増加するという説があったが検証してみるか?」
「―――…じ、地道に魔力使って増やします」
「それが一番いいだろう。幸い、調合しなければならないものは多いし、工房を開けば嫌でも魔力切れになる」
やれやれとため息をついて本や筆記用具などを片付け始めたリアンにベルが口を開いた。
その顔には楽しそうな表情が浮かんでいてちょっと、嫌な予感。
「でしたら、積極的に採取にも行くべきですわね。肉体レベルを上げれば魔力が増えるならそれに越したことはありませんわ。工房を開くなら物騒な客なんかの対応もしなければならないでしょうし、レベルの高い調合をするならばいずれ危険地帯での採取も視野に入れなければなりませんもの」
優雅に紅茶を飲みながら目を細めるベルから滲むのは戦闘中に感じた背筋がじょわっとする類の寒気。
どう返事するんだろうとリアンを見るとコチラも苦虫を3匹位まとめて放り込まれたみたいなすっごく深い皺を眉間に作っていた。
「非常に不本意だが、そういったことが必要になることもあるだろう。ただ、基本的にそういった素材の採取は荒事を得意とする冒険者なんかに頼むのが一番だと思うが?わざわざ危険を冒して取りに行く必要はないだろう。高位の素材は人間が脚を踏み入れるのも危険な地帯に多く存在しているようだし素人が出る幕ではない」
「あら? そうはいいますけれど、自分の目で素材を確かめるのも立派な錬金術師の仕事ではなくって? 自分の使う素材のことくらい分かっていなければ一流の錬金術師になんてなれませんわ。オランジェ様などの高名な錬金術師は皆自分で採取もしていたと聞きますもの…今から備えておくことも大事だと思いますけれど」
「君の言うことも一理あるが、まずは知識を増やしつつ着実に実力をつけるべきだろう。肉体レベルの強化などはあとでいくらでも…」
「何をおっしゃっていますの? 肉体レベルの強化こそ日々の努力や鍛錬が物を言うのですわ!」
白熱し始めた二人のやり取りを眺めつつ、大人しくお茶とお茶菓子を食べる。
なんていうか、この二人結構こういうやり取りしてて仲いいんだよねー。
私なんかこういう感じに発展することもないもんなぁ…とりあえず、話に入れそうもないしとっとと調合しちゃおう。
そう考えて腰を上げたところで、丁度ドアをノックする音が聞こえてくる。
来客の気配にも気づかない二人をひとまず置いておいて、私は玄関のドアを開けて…思わず目を見開いた。
そこには見覚えのある人物が立っていたのだ。
「よ!元気だったか、ライム」
「エル?! うわ、久しぶりー! あれ? イオは一緒じゃないの? 一人?」
「俺は野暮用で家に寄ったからそのついでに来てみたんだ。ライムが風の噂で工房生になったって聞いてさ」
結構でかい工房なんだなーと建物を見上げるエルに苦笑すると少し時間があるかと聞かれる。
話をする時間くらいはあるし、急ぎの調合もないから頷いてまだ何かを言い合ってる二人に声をかけてドアを閉める。
「ちょっと外出てくるねー、一時間くらいでもどるから調合するならしててー」
返事はなかったけど気にせずドアを閉める。
エルはこの間黙ったまま、何か言いたげにドアの奥―――聞こえてくる元気なベルとリアンの声の方を見ていた。
「じゃ、いこっか!ええと、どこで話す? 裏庭…だと座るところないもんね」
「あー…じゃあなにか飲みながら話すか。悪ぃな…その、取り込み中とかだったんだろ?」
「調合してたわけじゃないから大丈夫だよ。調合中だったらそもそも出られないし」
他愛のない話をしながら、エルの案内で二番街の露天通りへ。
ここ、あんまり来ないんだけど色んな露天があって結構面白いんだよね。
エルは私の分も飲み物を買って露天から少し離れたとこにある広場のベンチに腰を下ろした。
「とりあえず、飲もうぜ。入学して少し落ち着いたし、色々情報交換な」
そういって笑ったエルは久しぶりに会ったから前よりちょっと大人っぽく見えた。
うーん…騎士科の制服着てるからかな?
ここまで読んでくださってありがとうございました。
少々、遅くなっておりますが出来るだけ更新していきますのでお付き合いいただければと思います。