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34話 三人でリンカの森へ! 中

あれ、おかしいな。前後編で終わるはずだったのに。

……採取をしております、もちゃもちゃと。

会話は少し多めで、ベルがよくしゃべっています。

隠れタイトルは「お嬢様は好戦的」でしょうか?




 採取の要領が掴めるまでは採取がしたいということだったので二人の意見を優先した私も採取に加わったんだけど、あっという間に群生地に生えている素材は必要最低限のみ残して全て回収してしまった。



「欲って怖いよね。気づいたらコレだもん」


「けれど、きちんと次の分も残していますしかなり模範的な採取活動だと思いますわよ。群生地のみを集中して回れたおかげでかなり量も取れましたし、群生地だと人が手を入れなければ長く採取できないことも多いと聞きましたわ」


「ああ、それは確かにな。アオ草などの初級錬金術で使用する素材は生命力が強いものが多いから、放っておくと一気に生息域を増やして生態系を崩すことも少なくないと聞く。できればここにも定期的に採取しに来た方がいいだろう。まぁ、地図がある時点で僕ら以外にこの場所を知っている人間もいるだろうから心配はないだろうしな」



どっさりとまとめられた種類別の素材たちをポーチにしまい終わった私は小休憩ということで見晴らしのいい、狼やモンスターの縄張りから外れた場所に腰を下ろしていた。


 お昼ご飯のパンにチーズと葉野菜、ベーコンを挟んだものはあっさり食べ終えたので今はベルが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。

お茶菓子はリアンが持ってきてくれたビスケットとジャムだ。

 ジャムはブルップという酸味が強い子供の爪くらいの大きさの果物。

濃い青紫色で果肉が柔らかいから主に加工して国内や国外で流通しているらしい。



「このジャム…ブルップだっけ? 美味しいね。ジャムだから甘いけど酸味があっていくらでも食べられる感じ」


「このジャムもビスケットも青の大国スピネルのものですけれど…随分といいものを持ってきたんですのね。王室御用達の刻印が刻まれてますし」


「たまたま父と弟が戻ってきていたんだ。土産として持って行けと言われて持ってきただけだ。ジャムは余ったら工房の食事で出してくれて構わない」


「いいの? やった。朝からジャムとか贅沢だよね。ジャムを作るのって大量にレッドベリーが採れた時くらいだったし」


「レッドベリーならリンカの森でも採れた筈だぞ。一本見つけるとその周辺にまとまって生えているそうだ。ただ、僕の聞いた場所は丁度このあたりだからウルフの縄張りにかかっている」



地図を広げたリアンが指差した範囲は確かに、ウルフの縄張りに掛かっているのを私とベルも確認した。

 距離はあまり遠くないし、食糧事情何かを考えると是非ともレッドベリーは欲しい。



「丁度いいですわね、どうせウルフを相手に腕試しをするつもりでしたもの。数が多ければ共闘、すくなければ個別で対応して手に負えなければ煙玉を使って一度退却すればいいだけですし」



簡単な話だ、とでも言うように再びカップを手にとって紅茶を飲むベルに私とリアンは思わず顔を見合わせる。


 好戦的すぎるお嬢様の言葉に頷いていいものだろうかと視線を向けるとリアンは諦めたように目を伏せてゆるく首を横に振った。



「…わかった。ただし、あまり奥には入らない…それでいいな。レッドベリーもおそらく手前の方だし、囲まれると厄介だからな」


「ええ、勿論ですわ。丁度お茶もなくなりましたし早速行きませんこと?」



明らかにウキウキと嬉しそうなベルに私もリアンも大人しく片付けをして立ち上がった。

 私はレッドベリーの採取っていう楽しみがあるからいいけど、リアンは小さく息を吐いて諦めたように私たちの後ろを付いてくる。


 レッドベリーがあってウルフの縄張りだという場所は少し開けた場所だった。

丁度テントを張って野営するにはちょうどいいスペースで誰かが焚き火をしたらしく、土や草が焦げた形跡。

縄張りなのに結構人間が入り込んでるんだなー、なんて考えているとベルがその形跡を調べ始めたので慌てて私も杖を出して警戒しながらベルの横に立つ。

リアンは既に鞭を手にして周囲を警戒している。



「どうやらここで焚き火をしていたのは冒険者になりたての経験の浅い人間のようですわね。火の後始末が荒い上に少量ですけれど血痕もありますもの。相手は…ウルフ系、で間違いなさそうですわ。毛が周囲にありますし、この爪痕は野良ネズミリスやクマではありませんもの」


「ベル、見ただけでわかるの?すごいね」


「この程度なら騎士団にいた人間なら誰でもわかるものですわよ。あとは、そうね……ベテランや一人前と呼ばれる冒険者も同じだと思いますわ。けれど…ここなら多少の採取もできるんじゃないかしら。足跡も三頭分しかありませんし」



キョロキョロと周囲を見回すベルは開けたスペースの少し奥に視線を向けて、小さくありましたわよ、とその方を指差した。



「あちらの方向にレッドベリーの木がありますわ」


「どれどれ?あ、ホントだ。っていうか、お嬢様なのによくあれがレッドベリーだってわかったね」


「家の庭に植えてありますもの、わかりますわよ。さ、早く採取してしまいなさいな。時間的なものもありますし、私とリアンが周囲を警戒しておきます。一番採取が早いライムが摘むのが一番だと思うのですけれど、かまいませんわね?」


「ああ、それが一番だろうな。ライム、ウルフが出てきたら声をかける。それまで採取を頼む」


「わ、わかった。取り敢えず、採取出来るだけ採取しちゃうね」



自慢じゃないけれどベリーを採取するのは結構得意なので密かに気合を入れつつ、レッドベリーの木が生えている方へ。


 草を踏みしめて周りを見渡すけれど、あるのは普通の木や草花、あとはなんの変哲もない土や小石ばかりで至って普通の森に見える。



「なんていうか、地図がなかったらウルフの縄張りだなんて気づかなかったと思う」


「まぁ、ウルフの縄張りはわかりにくいですから仕方ないですわ。クマの類やある程度の大きさがある獣は木に引っかき傷なんかがあるからわかりやすいですけれど…こういった森で気をつけなければいけないのは蛇や毒を持った虫ですわよ。まぁ、このあたりには毒虫なんかはいないから安心していいとは思いますけれど」


「毒虫…?あ、派手な色の蜘蛛とかか。あれ、いい毒袋持ってるんだよ。毒薬の調合に使えるから見かけたら採取してたなぁ。結構大きいよね!」


「普通、蜘蛛を見かけたら悲鳴を上げるものですわよ? 嬉しそうに笑いながら話すのはおやめなさいな」


「えー…でも、調合の素材になるなら集めたほうがいいよね?毒って結構使えるし」



 レッドベリーが盛大に実った木を前に私は早速ポーチから大きめの籠を取り出す。


これは自宅から持ってきたんだけど、まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかった。


 ウキウキしながら、柔らかい布を敷いた籠に熟した赤い実だけを優しく摘んでいく。

熟れた食べごろのレッドベリーは優しく手前に引くとポロッと採れるからわかりやすいんだよね。

 順調に採取をしながら話をしている私とベルにリアンが呆れたような感心したような何とも言えない表情を浮かべているのが見えた。



「よく話しながら採取できるな」


「そりゃレッドベリーの採取は得意だから。家の近くに群生地があったんだけど、熟したやつは早く回収しないと野生の鳥とか獣に横取りされちゃうんだよね。だから必死に摘んでたらいつの間にか早く摘めるようになったんだ。一応、私が採取している間はいいんだけど、次の日に狙ってたやつが採られてたりするとすっごく悔しくって」


「鳥や獣と張り合ってたのか、君は」


「弱肉強食って言葉知らないの? 他の物も回収に必死になってたから採取だけは早いし、量も取れるから錬金術師としてやっていくには丁度いい特技になって良かったよ」


「前向きにも程がありますわね。リアン、そちらはどうですの?そろそろ反応があってもいい頃だと思うのですけれど」



口と手を動かしながら採取を続ける私を見ながらも周囲の警戒をしていたらしいベルが横目でリアンに問えば、リアンが普段通りの冷めた声でシレっと返した。



「―――わかっていて聞いているんだから君は本当に性質が悪いな。左から数体こちらの様子を伺っているウルフがいる」


「あら、ちゃんと気づいていたならいいんですのよ?もし気づいていなければどうしようかと思っていただけですし、確認は大事でしょう」


「ウルフ、いるの?どのあたり?」


「リアンの左奥に木と岩があるのが見えまして?丁度あの岩の後ろ辺りに三体いますわ。恐らく、偵察しに来たのでしょう。まだ若いウルフですわね」



ベルに教えてもらった方を慌てて見てみるけれど、私には特に何も見えなかった。

 目は、良い筈なんだけどな?と首をかしげているとリアンに構わず採取を続けるよう指示されたので大人しく採取に戻った。

適材適所っていうもんね、気にしないで採取しようっと。



「若いウルフか。攻撃性と機動力はあるが連携はまだまだ、といったところだろうな。この時期なら巣立ったばかりで狩りの経験も少なそうだ。だが、それなら一頭指南役がいるんじゃないか?」


「恐らくは。その指南役ですけれど、私に譲ってくださいませんこと?」


「……僕は構わない。ライムもウルフとの戦闘経験がないということだったし、構わないだろう。念のため確認しておくが助太刀は?」


「いりませんわ、そんなもの。貴方こそ助けが必要でしたら私にいつでもおっしゃってくださいな?ライムは…危なければこちらで判断して加勢した方がいいと思うのですけれど、どう考えているのかしら」



私の頭上で交わされるのはちょっぴり物騒で妙に場馴れした冒険者っぽい会話だった。


 なんだかすごいなぁ、と感心しながら手を休めずに採取を続けていく。

籠の中身は三分の一くらいしかいっぱいになってないので、気合を入れて手が届く範囲のレッドベリーを摘み取った。


(もし、ジャムを作って少しだけ貰えたらミントにジャムサンド作って持っていこうかな。話もしたいし、畑も気になるし、ついでに聖水が貰えれば庭で育ててるアオ草にも調合にも使えるもんね)


手が届く範囲のレッドベリーを取り尽くした私は変わらず周囲を警戒している二人に少し場所を移動したいと申し出てみた。

すると意外にも二人は了承してくれたんだけど、私が立ち上がって籠を一度ポーチへしまったタイミングでベルの鋭い声が響いた。



「ライム、来ますわよ!武器を構えなさいっ」


「は?! え、う、うん?」



慌てて杖をポーチから取り出した私とは違って、ベルもリアンも既に戦闘態勢はばっちりらしい。

 二人の視線は先ほど教えられた方向に向けられているけれど、足はジリジリと少しずつ開けた場所へ向かって後退している。



「ここでは少し戦いにくい。少し下がって開けた場所まで誘導できればいいんだが、乗ってこなければこちらから仕掛けるぞ」


「それがいいですわね。敵はあの三頭だけですし…先にリーチのあるリアンが攻撃してくださいませんこと?恐らく先に飛びかかってくるのは焦れた若いウルフでしょうし」


「わかっている、僕が一頭受け持つからその間に指南役を君が叩いてくれ。ライムはまず自分の身を守るのが優先だ」


「わ、わかった。ええと、取り敢えず…杖持って立ってればいい?」



杖を構えると言われてもイマイチわからなかったので、杖を横に持ってみたり、振り下ろせるような格好をしてみたり工夫していると呆れたようなため息が聞こえてくる。



「……そう、ですわね。ウルフが飛びかかってきたらちゃんと避けて、可能ならば杖で攻撃してくださいませ」


「言っておくが杖を持って仁王立ちはするなよ。きちんと何時でも振り下ろせる、若しくは回避しやすいような体勢で待機していろ」



仁王立ちはやっぱりダメか、と内心がっかりしながら杖の先端をウルフに向けて、少し腰を落とし横や後ろに動けるような体勢を取っておく。


ちらっと横目で私の状態を確認した二人が小さく頷いたのを見てホッとしながら視線を森へ向けると私の腰くらいまである体格のウルフがコチラへ向かって駆けてくるのが見えた。


 四足歩行だけあって素早いけれど目で追えない程ではないので気をつけて見ていると一番後ろにいるウルフは前の二頭よりも大きい。

獰猛な、完全に敵を見る目で私たちを見据える獣を前にすっと心が落ち着いていくのを感じながら私は小さく息を吸った。



狩りをしている時の、独特の緊張感は既に辺りに漂っている。






次回、おそらく戦闘描写はいります。苦手なのでさらっとだと思いますが。



=素材など=

【ブルップ】酸味の強い子供の爪ほどの大きさの果実。

 現代で言うハスカップとブルーベリーの中間のような果物。

 隣国である『青の大国 スピネル』の名産品。

 濃い青紫色でジャムや果実酒に加工される。

【レッドベリー】野苺の一種でよく採取できる身近な果物。

 背の低い木で葉と茎に刺を持つ。小さな粒が集まって一つの実に見える。

 プチプチとした触感と程よい酸味と甘味から人気が高い。

 赤以外に黒、黄金(黄色)の色をしたものも存在しており、黄金色をしたものは価値が高い。


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