346話 馬車の中で打ち合わせ
長らくお待たせしまして…じわっとしか進んでいません(通常運転)
次、ちゃんとダンジョンにドーンしますので!はい!!!!たぶん!
荒野に響くけたたましい音にも慣れた私は馬車の壁を見つめていた。
膝の上にはルヴとロボスがそれぞれ顎を乗せ、正面ではロボスがふさふさの尻尾を揺らしながらアウルさんにちょっかいをかけている。
クギとラクサは出入り口付近でじっとその真ん中に置かれた籠へ視線を注ぐ。
「……マジで蜂ッスね」
「蜂のくせに羽音がしないんで、マジで見つけにく……い、ですよ」
「人がいない所ならタメ語でいいっスよ」
「うっす」
そんなラクサとクギの会話を聞きながら、私はルヴとロボスの頭を撫でる。
ちらりと見える、走行中の外の景色はまだ薄暗くて夜の匂いがしていた。
「休日終わりで頼みたかった御者に出会えたのは相当運が良かった。凄く人気だからあっという間に声かけられちゃうんだよねぇ」
「予約制とかじゃないんですね」
「トラブルのもとになるから廃止になったんだ。本当に良かったよ」
アウルさんの知り合いだという御者さんは拠点から近くの大通りで見かけたのだ。
彼が同僚らしき人と会話していた所にアウルさんが話しかけた流れで私達の依頼を受けてくれた。
あんな風に出会って依頼する流れになったのは初めてなのだとか。
「この時期、砂塵風が頻繁に起こるんだけど彼ならどんな悪天候でも問題ないからね。いやぁ、引き受けてくれて助かったよ」
「特殊技能持ちの御者さんは高いってリアンから聞いてるんですけど」
「まぁね。でも、ダンジョンがある関係でカルミス帝国だと特殊技能持ちの御者は多いよ。魔物の出現率が一番高いのはカルミス帝国だからね。トライグルは比較的魔物の発生が少ないんだ」
「そうなんですか?」
首都に沢山いた冒険者の事を思い浮かべるとアウルさんは楽しそうに笑う。
「ダンジョンの入口受付をみたらすごく驚くんじゃないかなぁ。ダンジョンの周りって基本的に六割が冒険者、三割騎士、残りが一般市民って言われてるから」
「……うわぁ」
「トラブルが多いから騎士は基本、威圧的なんだ。ライムちゃんはロベイ様の家紋入りペンダントをしっかり下げておいてね。騎士だけじゃなくてある程度の教養と実力がある冒険者なら『誰』が背後にいるのか分かるから、横暴な態度をとられることが減るだろうし」
服の中から引っ張り出して見えやすいようにするとアウルさんは満足げに頷く。
続いて説明してくれたのはダンジョンの手続きについて。
揺れる上に轟音が響き渡る馬車の中でも、アウルさんの声はとても聞き取りやすい。
「で、ダンジョンの手続きだね。今回は制限付きダンジョンに入るから、手続きが必要なんだ。国側で特殊な道具を持っていて、貸し出された腕輪をつけるのが義務。これを付けてると、どこの階にいるのか分かる仕組みらしいよ。死んだらそのままになるんだけど、その場合ダンジョンのどこかに潜む回収屋が回収してくれる」
「ダンジョンにもいろんな仕事があるんですね。回収屋なんて初めて聞きました」
「回収屋はダンジョン外にも居るよ。教育施設にも一定数雇われていて、学院行事で使われる位置を把握する為の道具を回収する仕事は主に彼らが請け負っているんだ」
言われてみると、と納得した。
他にも負傷者の道具などを回収し、親族から回収費を受け取ることも多いのだとか。演習で生徒を監視していた外部の人もいたし、荷物回収を専門にしている人がいてもおかしくないかとしみじみ。
「それと俺個人のことで悪いんだけど、トラブルが向こうから来ることもあってさ。才能のこともあるけど、顔が広くなった関係で知らない所で妬まれたり恨まれたりっていうのが結構あるんだ」
これには思わず同情してしまった。同行者であるラクサとクギも同じらしく、同情の視線と言葉を口にする。
「ライムも目立つし、何よりオレっち達は共存獣を連れてくわけで……召喚師かなんかだと思われそうだし仕方ないッスよ」
「ああ、それは確かにね。んー、ライムちゃんさえよければ、ある程度顔の広い同業者がいたら紹介してもいいかな。俺とは違って『優秀』なやつだったり癖は強いけど優秀だったり……まぁ、色々いるんだけど」
性格自体は何度か一緒に仕事をしている関係で大体把握しているという。
ついでに、ハッシーさんが『ついで』で自分たちが不在時の状況を調べていたらしく、その情報も聞いているのだとか。
「あっちも俺たちの事はある程度調べてるだろうから、君と接触したことは知られているかもしれない。ただ、初対面として対応してくれればいいよ。実際初対面だし」
はい、と頷いて大丈夫だとは思うけれどとこちら側の希望を伝えておく。
譲れない所はあるのだ。
「奴隷と共存獣の扱いについて文句言わない人なら、是非」
「それがライムちゃんのボーダーラインってことか。俺が言うのもなんだけど、君の共存獣も奴隷も幸せだよ。断言してもいいけど、君みたいな主人はかなり珍しいしね」
「アウルさんは変だと思いますか?」
ごとごと、と時折揺れる馬車の中で一瞬の沈黙。
次の瞬間大きく揺れて、そこから徐々に体が押さえつけられるような圧を感じて体勢を崩しそうになったところで、ラクサがサッと体を支えてくれた。
びっくりして目を丸くしている私の横で、チラッと外の様子を確かめたアウルさんが困ったように笑う。
「ココから揺れが酷くなるから気を付けて──話を戻すけど、捉え方が違うんだろうって思っているかな」
よいしょ、と肩を引き寄せるようにして支えてくれるラクサに感謝しつつ、特に問題ないので放すように伝えるけれど笑顔で封殺。
諦めて力を抜いたところでアウルさんが話を始めた。
「俺個人としては好ましいよ。でも、奴隷や共存獣を『道具』として見ている人間にとってはちょっと抵抗がある考え方かもしれない……特に、赤と青の大国では。でも、逆にいい面もあるんだ。奴隷が道具として認識されている以上『所有物』としての保証がしっかりしている」
「ああ、なるほど。言われてみると『資産』ってことッスもんね」
「ラクサ君の言う通り。そういった前提があるから、他者が無理やり奪うような行為をした場合は『道具』である奴隷や共存獣の意思で撃退してもいいことになっている」
ピタッと動きを止めたのは私の周りにいたルヴやロボス、そして奴隷であるクギ。
クギは特に表情変化が分かりやすかった。にやぁ、と口の端が持ち上がる。
「……自分から手ぇ出すのはダメっスよ」
「うっす! 手ぇ出されたら容赦せず殺す許可が下りるってことで理解してます」
嬉しそうに目を輝かせるクギにアウルさんが困ったように眉をへにゃりと下げた。
「殺すのはまずいかな。手足を折って顎外すくらいにして欲しい。殺しちゃうと後で結構面倒だから」
「……ちぇ」
アウルさんの言葉に拗ねたような表情を浮かべつつも、クギは頭を下げた。
数秒間、ガタゴトと馬車の走行音だけが響いていたけれどアウルさんがため息交じりに話し始めた。
「ココだけの話だけどね──実を言えば俺も犯罪奴隷にはいい感情はないんだ」
「え、そうなんですか」
「一般奴隷や借金奴隷なら人として見れるけど、分かりやすく殺人・強盗・詐欺みたいな犯罪歴があるってことだからね。そういう人間の詳しい事情を知ろうと思わないっていうのが一般的な心情なんじゃないかな」
これには頷く。
私も犯罪奴隷と聞いて最初に抱いた印象は「なんかこわい」だったから。そんな話をした時、ベルやリアンには生暖かい視線を向けられた。
「ご近所さんがどういう人なのか知りたくなるのとおんなじですよね、きっと。関わらないって分かってるから知ろうとも思わないっていう感じですか? 購入する時じゃないと『どういう人なのか』を気にしないだろうし」
「確かに俺も今回は『ライムちゃんの奴隷』っていう切っ掛けがあったから知ろうと思った。で、話をしてそこらの犯罪奴隷と違って『人』って感じが強いんだなって、今気づいたよ。普通に冒険者として知り合っていたら仲良くできていたと思うくらいには認めてるし」
視線が集まったクギは気まずそうに視線を逸らしたけれど、しっかり座り直した。
アウルさんが微笑ましそうに目を細めて周囲を見回す。
「冒険者が苦労するのは大前提なんだよ。奴隷であろうとそうでなかろうと皆同じ。俺らは『堪えた』から冒険者を続けられているだけで、クギやトーネ達はそうじゃなかった。この一線は明確で、そして大きい。でも親しみが持てちゃう辺りが流石なんだよなぁ。これ、たぶん……ライムちゃんが主人だからだよ」
「すごく褒めるッスね?」
ラクサの言葉に伸びをした彼は肩をすくめる。
数分の間、道の荒い所を走っているらしく全員が口を噤む。
速度が上がっているだけあって衝撃も大きくなっているようだ。衝撃吸収してくれる素材を敷き詰めておいてよかったとクッションを撫でていると、ラクサの腕に力がこもる。
ふわっと体が浮き上がるくらいの衝撃を感じることも多いから、しっかり私を支えてくれるラクサに感謝しながら衝撃をやり過ごした。
振動が落ち着いたころを見計らって、アウルさんが息をはきながら言い切った。
「褒めるのは下心があるからだよ。長ーく付き合っていきたいし」
「正直ッスね?」
「取り繕うことでもないからさ。アイテムの事もだけど、警戒心の強いあいつらが身内認定した時点で懐に入れたようなもんだよ。犯罪奴隷なんて警戒対象ど真ん中なのにね」
「それは確かに納得ッス。さりげなーく探り入れてたッスもんね」
「うわ、バレてる。けど、クギたちがライムちゃんに恩を感じて、報いたいと強く願っていることが分かったから警戒をやめたんだ。そういう人間が裏切らないことはよく知ってる。共存獣然り、奴隷然りね。良くも悪くも、甘い蜜だけ吸う連中とは全く違う」
奴隷たちが私を害そうとした瞬間、共存獣が即座に殺すだろうとアウルさんはロボスへ手を伸ばす。一瞬考えて、ぺろりと指をひとなめ。その後は興味をなくしたように私の足に再び顎を乗せて目を細めた。
ルヴと青っこいのは興味を示す素振りすら見せない。
「奴隷も共存獣も腕の一本や二本余裕で差し出しそうだから、ライムちゃんは手綱をしっかり握っておいて。仕事が増えるのは困る」
そう言いながらも、気の抜けた笑みを浮かべる姿と発言の内容が釣り合わなくて思わずラクサと目を合わせてしまった。
疲れたような顔でため息を吐いてラクサは半目でアウルさんを見やる。
「……どっからどこまでが計算なんスかねぇ」
「計算してるのはハッシーの方。俺、どっちかっていうと感覚と経験則で生きてるから。ってことで、これからしばらく移動時間だから休むのは今の内。この速度だと盗賊も魔物もモンスターも追ってこない」
「そうなんですか?」
「そそ。狙われていたとしても、こんな速度で走ってる馬車を攻撃すれば自分たちもただでは済まないしね。それなら停止した所を狙うよ」
納得した私は寝るから放していいよ、とラクサに告げるとムッと口を曲げた。
不満そうな顔に首をかしげる。
「このまま寝ればいいじゃないッスか」
「え……腕死なない?」
「死なないッスよ。大した力も込めてねぇッスもん。ほら、寝た寝た! オレっちも休むんで、睡眠薬あれば嬉しいッスね」
あるよ、とポーチから小さな瓶を出して渡すと笑顔で受け取ってくれた。
経験豊富なアウルさんが休めというのだから、その通りにしようと大人しく目を閉じる。
ルヴやロボスの温かさとラクサがしっかりと支えてくれるお陰で一瞬で意識が落ちた。
眠る寸前、耳元でラクサの声が聞こえたしたけど気のせいだったかもしれない。
◇◆◇
意識が浮上したのは、頬に違和感を感じたからだ。
目を開くと短い呼吸音と共に生温かい息がかかる。
視線を向けると嬉しそうにロボスが私の様子を窺っていた。
「ロボス……起こしてくれたの?」
わふ、という短い声にお礼を言ってグッと伸びをする。
馬車の速度は随分と落ちていて振動を心地よく感じるくらいになっていた。
「もう着きそうなのかな」
ぼうっとした私の声に鳴き声が二つ。
ルヴとロボスのものだった。
「ラクサ、起きてる?」
「ん、おきてる……」
寝ぼけてるな、と思いつつ視線を上へ。いつの間にか私を足の間に座らせて抱き枕として眠っていたらしい。
アウルさんをロボスが尻尾で顔を叩いて起こしていた。
「あー……よく寝た。信頼できる共存獣が同行してるって有難いよ。あと十分くらいで警備門に着くからクッションをしまってもらっていいかな。馬車の中まで点検されるから」
分かった、と頷いて全員で回収。受け取ってはトランクへ入れる、という動作を繰り返し、片付いたところで奴隷であるクギは布を被る。
「これからクギは俺の指示があるまで布を脱がない、声を出さないように。全部ライムちゃんの評価が下がることに繋がるから」
これを受けてクギが大きく頷く。
続いて、私達へアウルさんが青い布を渡した。
「これを目に見えるところに。できれば腕や首、頭だね。リーダーとして登録するのは便宜上俺だから、俺を象徴する色にしておくよ。刺繍は俺個人の冒険者紋。カルミス帝国でだけ通用するものだけど、ダンジョン関係では効果は抜群だよん」
ピースサインと呼ばれるポーズをとったアウルさんは私達が布を着けたのを確認して満足そうに笑う。
「奴隷や共存獣にもつけてもらうよ。目印だからね」
「わかりました。クギ、これつけてね。ルヴ、ロボスおいで。青っこいのは……うーん、無理っぽいから私から離れないように」
ポーシュには外に出たら着けるという話をして、次に真面目な顔をしたアウルさんが無言で盗聴防止用結界を展開した。
「まず、真っすぐダンジョン受付へ向かう。スムーズに入れることは稀だ。今回行くダンジョンは広いから最大で五組が入れることになってる。ダンジョン内にいられる時間は『ダンジョンランク』によって大きく変わる。今回、リーダーである俺は最高ランクだから最大で二時間だね。低ランクは三十分」
ここまではいいね、と聞かれて頷く。
事前に聞いていた話の他にもルールがあるのかとドキドキしていると『同じ時間帯に入る同行者』についての注意を促された。
「まず、低ランクから中ランクの人間は基本的に『ダンジョン道具』が目当てだ。発見場所が多い場所へ向かい、次に魔物の討伐や採取をすることが多い」
「低ランクもダンジョン道具を探すんですか?」
「金になるからね。成り上がるには装備なんかを整える必要があるから、先ずは資金調達をする。高ランクは依頼を受けていることが多いから事前に把握しておきたい。俺が話しかけてみるから、ライムちゃん達は待機ね。リーダー同士で目的を確認するのはよくあることだから……この時、相手が紹介できる知り合いだったら紹介するよ」
はい、と頷く。
ここまでが一般的な行動をとる冒険者たちだと言われて納得。みんな理由があってダンジョンを選んでるんだなと感心した。
「注意するべきは無免許の連中。マイナス付きって呼ばれてるやつらだね。過去に犯罪めいたことをしたり、何度かダンジョンギルドの規約に引っかかったりして監視がついていることが多い。ラクサは知ってるかな」
「知ってるッス。冒険者ギルドにもダンジョンギルドにも登録してない、もしくはできない連中ッスよね。登録できない理由は、年齢だったり、才能だったり、罰則だったり」
「一定金額を払う事でダンジョンには入れるんだ。ただ『評価』と『特典』が得られないから、そういった連中は免許を買うか、奴隷になるかってとこだね。カルミス帝国ではダンジョン奴隷制度っていうのがあるんだ。トライグルにはないよね?」
リアンたちから聞いた奴隷の種類は借金奴隷、犯罪奴隷、一般奴隷の三種類だったので頷く。口ぶりからするに、カルミス帝国限定の奴隷制度なのだろう。
ラクサは知っているようだった。
「こっちもランクがあるってのは聞いたことがあるッスよ。結構人気だとか」
「そうだね。まぁ、後で詳しく教えるよ──着いたみたいだし、行こうか。ライムちゃんは顔を隠さないで堂々としていてね。ラクサは慣れてるみたいだから、サポートを宜しく」
ルヴ達はぴったりと私の傍にいるように、と告げてアウルさんは目を細める。
耳を澄ませているのだと分かって、同じように音を拾うことを意識してみた。
人のざわめきが酷い。
「ん、少し混んでるね。ただ、馬車枠は開いていそうだからそっちで行くか……ライムちゃん『それ』って好きに使っていいって言われた?」
ついっと指さされたのはロベ爺ちゃんの家紋入りペンダントだ。
頷けば、ニヤリとほんの少し悪戯めいた笑みを浮かべる。
「早めに入れるかもね。それ、ちゃんと見えるようにしておいて……そうだな、錬金アイテムで便利なものを何か出せる?」
「トリーシャ液とかってことですか?」
「お、いいね。トリーシャ液をお願いしようかな。女性人気が高いのと結婚適齢期の男や家庭がある人間、貴族なんかにも注目されているらしいんだ。ハッシーから聞いたんだけど、わざわざ買いに行く人もいるとか」
「賄賂に適切ってことッスね」
「人聞きが悪いなぁ。袖の下ってことで」
「おんなじ意味ッスよ、それ」
そうだっけ? なんてラクサに突っ込まれて笑うアウルさんの表情が引き締まったのは、大きなノック音が聞こえてからだった。
あらかじめ停車したら降りる、というのは聞いていたので大人しく全員が降車。
久しぶりに踏んだ大地はほんの少し揺れているような感覚も手伝って、よろけてしまったけれどラクサが素早く支えてくれた。
「身分証を出せ!」
高い鉄柵と硬い岩を並べて作られた砦じみた雰囲気があった。
ダンジョン全体を囲むように大岩たちが地面へ突き立てられ、更に内部は特殊な結界が張られているのが分かる。
「どうぞ」
リーダーを務めるアウルさんが冒険者ギルドのカードとダンジョンカードを提示する。続いてパーティーメンバーの名前と出身地が書かれた書類を出した。
「……トライグル学生?」
重厚な雰囲気の鉄柵横につけられた検問所には複数の騎士がいて、どの人も物々しい雰囲気を醸し出していた。私達の前にいるのは特に厳しそうに見える。
そんな人にじろりと私を見下ろされて内心はドキドキしていたけれど、出来るだけ胸を張って堂々と見えるよう頑張った。
「その髪色とペンダントは……まさか『ライム・シトラール』殿でありますか?」
「は、はい! 身分証はこっちです。留学できているので、こちらは学院の証明書になります。確認してください」
ギョッと目を見開かれ、不思議に思いつつ、鉄製のカウンターへ身分証を置く。
何度も身分証と私、そしてペンダントを確認した騎士は突然最敬礼をとった。周りにいた騎士も習うように業務を放り出して最敬礼。
一瞬の静寂の後に響いたのは、目の前の騎士による怒号じみた声だった。
「この度は我がカルミス帝国へお越しくださり感謝いたします! ライム・シトラール嬢が参られた! 歓迎せよ!」
「はっ!!」
びりびりと空気が震えるほどの圧に思わず口を開けて固まっていると恭しく一礼した騎士が私へ身分証を返してくる。
そしてラクサ達のチェックもせず、検問所を通っていいというような仕草を見せた。
「じゃあ、行こうか」
けろっと何でもなかったかのように馬車のドアを開けたアウルさんが私達を馬車へ。
彼は騎士と少し話をして、直ぐに乗り込んできた。
盗聴防止結界を再度展開してから感心したように首に下げられたペンダントを見る。
「いっやぁ、凄いね。どうやら、カルミス帝国騎士団の上層部にロベイ様直筆の手紙が来ていたみたいなんだ。内容は『吾輩が後ろ盾をしている錬金術師が行く。便宜を図ってくれとは言わんが配慮をしてくれ。戦闘が少し苦手でな』っていう感じで釘を刺して、ついでに融通が利くようにしてくれてるみたいだ。証拠にコレ貰っちゃった」
ピッと指に挟まれたのは赤く染色された国の紋章入りカードと金色の腕輪。
腕輪は所在地確認のための道具だと聞いているので分かるけれどカードの用途が謎だ。
なにこれ、と首をかしげる私の横でラクサが感心したような呆れたような顔でそれを見つめていた。
「やっべぇッスね、ライムの人脈。これ提示したら即ダンジョンに入れるッスよ。あと、騎士団の関係部署にも国家機密に関わらない場所なら入れるッス。下手すると王の側近辺りなら謁見できるんじゃないッスかね。ロベイ様の影響、カルミス帝国ではえぐいんで」
「うっわこわ。アウルさんそれ近づけないで下さいね」
「呪いのアイテムじゃないんだから、そんなこと言わないで。けど、これがあるからすぐ入れるな……準備は特に必要ないし、このままダンジョン入口へ行こうか。馬車で入れる通用口があるから」
どうやら、自然型ダンジョンでは馬車のまま入ることも多いらしい。
採取したアイテムや素材を大量に持ち帰るのを目的としているのだとか。
「それと、多分間違いなく騎士の護衛が付くね。準国賓みたいなもんだから……ちっと動きにくいけどライムちゃんから『馬車に積んだものを見張っていて欲しい』って頼んで貰えないかな。採取自体は自分たちで行わないと『成績に影響する』って言えばいけるか。ロベイ様のお気に入りどころか、後ろ盾がある人間の言うことは自国の貴族より優先されるから」
「けんりょくこわい」
「あはは。まぁ、カルミス帝国限定だから我慢我慢。ラッキーだと思っておこう。沢山調合できるよ」
「あ、それは嬉しいです。頑張ろうね、皆」
「こういうところ見るとライムはライムだなって思うッス」
いつも読んで下さってありがとうございます。
更新は勿論ですが、感想への返信などが遅れに遅れ大変申し訳なく……。
こちらは自由に書ける下書きみたいな感じで今まで通りのんびり好きなところをどーんとかいていけたらなと思っています。今まで通りです。




