345話 カルミス帝国騎士団長と出発準備
たいへん!おまたせを!しておりますが何とか一話できましたあーーー!!!
次、いよいよダンジョンに入ります。
見覚えのある顔に思わず指を差し、立ち上がった。
そこで声を出す前に彼の背後にいる人物たちに気が付いた。
騎士の後ろにいるのは現私の奴隷、元盗賊なのだと。
「……っ、あ、え、えーっとぉ、ど、ドナタサマデスカ。ハジメマシテ」
「いや、だから騎士団長……え、知り合い?」
ドアを開けたまま困惑するゼンには悪いと思ったけれど、ここは誤魔化すしかない。
非常に戸惑った様子で見降ろされ、私は必死に首を横に振る。これはよろしくない展開だ。
何せ、トーネ達を奴隷にする過程で色々誤魔化したので、私自身もかなり気まずい。
「し……しり、ません! うん、全然知り合いじゃないです!」
微塵も、と力強く訴えた私に注がれる仲間からの何とも言えない視線。
けれどそれに構う余裕がなかった私は、意を決して近づいた。
威圧感がある。あの時とはまるで違う雰囲気だ。
「サフル達はあちらで待機。仕事指示を出します。騎士団長さんでしたっけ、何の御用でしょうか。私の奴隷がなにかしましたか」
顔は出していないから気付かれていないはずだ、と誘拐され帰ってくるときのことを振り返る。
ちらっとトーネ達に視線を向けると三人は小さく首を振った。
何もしてないらしい。
答えを待っているとジッと見下ろされ、そして顎に手を当てた。
精悍な顔立ちでいかにも『偉くて強い騎士です』という雰囲気を出している。目をそらしたくなるけれど堪えた。
「何も。ただ、変わった犯罪者奴隷だった為、確認に」
この答えに納得したのだけれど、疑問が一つ。
今もトーネ達はずっと顔が見えないように布をかぶっているのだ。奴隷であることは布の色から分かったのだろうけれど、奴隷紋は見えない。
疑問が顔に浮かんでいたらしく、騎士団長はじっと私を見下ろしたまま口を開く。
「俺は【上級看破】という才能を持っていて、犯罪奴隷や隠しているものが見える。国やギルドに登録がある場合は他国籍の人間であろうと過去現在すべての罪状がわかる」
隠しているもの、という言葉で顔をが引きつり、付け加えられた詳細に顔を覆った。
あの時もフードは被っていたけれど彼には見えていたということになる。
顔を覆ったまま一歩、後退ると何かにあたった。
驚く私の耳に、警戒心をあらわにした交渉モードのリアンの声が。
「僕の婚約者が何か?」
「……いや、確認だけだ。この奴隷紋について説明を」
ホッとしつつ奴隷紋について書かれた用紙を差し出せば、目を通した彼は納得してくれたらしい。びしっと敬礼をしたかと思えばジッと私を見て小さく息をはいた。
「あまり紛らわしい動きはしない様に。その髪色は目立つ……騎士の中には私のような能力を持った人間も多い。特殊な奴隷紋として周知はしておきますが、期待はせぬよう」
では、と頭を下げて遠ざかっていく騎士の背中をじっと見つめていると、トーネ達がサッと室内へ入ってドアを閉めたかと思えばその場で膝をついて手と頭を床につけた。
「申し訳ありません。戸締りをしていた際に外から見られていたらしく」
サフルの言葉に納得したのがゼランだ。
ふむ、と頷く。
「なるほど。先ほどの騎士は学院側が工房周辺を見回るように伝えていた者なのだろう。風変わりな犯罪奴隷がいたら話を聞くのは理解できる。何かあると問題になりかねないトライグルの留学生がいる場所だから、より慎重な対応をしたんだろう」
「……ライムには僕が後で詳しく事情を聴くとして、サフル達がきたのは丁度良かった。今のうちに明日出発の準備をしてしまった方が良いな。冒険者の皆さんも今日から別々に行動する、ということに異論は?」
リアンの言葉にハッシーさんが愉しげに口の端を持ち上げ、近くに置かれた机の引き出しから一つの鍵を持ってくる。
床で頭を下げたままの四人に立つように告げ、待機の指示を出す。
「んじゃ、もう一個の拠点も使いますかねっと。掃除くらいしてんだろ?」
「もち。どういう理由で使うことになるかわからないから、バッチリ」
ゼンの答えに満足そうに笑うハッシーさんが鍵を机に置いて羊皮紙を取り出す。
そこにサラサラと書いたのは班分けだ。
「俺の方で班を振り分けた。確認してくれ。意見があれば取り入れて修正する」
紙を覗き込むとバランス良く振り分けられているように見えた。
全員確認した所で壁際で立ったままのサフル達に決まったことを伝えていく。
「えっと、先ず効率を最優先して採取することにしたんだ。ダンジョンによって向き不向きがあるのはトーネやリッカ、クギは知っているでしょ? それに倣って班分けしてくれているから、本領発揮して今後の為にも力をつけてきてほしい」
「……班分けを、伺っても宜しいでしょうか」
サフルの声に用紙を差し出すとトーネ達は納得したようだ。ただ、サフルの表情は曇っていて、苦笑する。わかってはいたけれど、サフルは私が誘拐されてからとても過保護だ。
「サフル。ベル達のことを任せたい。サフルは細かいことに気が付くから、ハッシーさんの役にも立てるだろうし、力をつけるのにうってつけの環境だって思うんだ。トーネと連携をとることも今後増えるからお願いしていい?」
「ライム様をクギが守り通せるとは思えません」
「はぁ? お前、俺との手合わせ毎回引き分けだろうがっ」
「ライム様の役に立てるのはクギより私です」
きりっとした表情のサフルと今にも掴みかかりそうなクギ。
いつも通りだな、と笑ってしまった。
「ライム様、俺とリッカはそれぞれ振り分けられた班に移動し話を聞いても?」
「うん。回復薬はたっぷり渡しておくから、何かあったら節約とか考えないで使って。無茶はしない。怪我は治せるものならいいけど……」
「後遺症が残るような状態にならない様に、ですね?」
「そういうことだね。リッカにはお金多く渡しておくから気になる本があったら買ってね。リッカが欲しいと思ったらなんでもいいよ」
「では、必要だと思った書籍を見つけたらリアン様に相談をします。イマル様も幅広い知識をお持ちですから意見を仰ごうかと」
リッカの言葉を聞いたイマルさんは後ろで「え、俺めっちゃ評価されてる!」と喜んでいた。ゼン達に呆れられてたけどね。
大人二人が離脱したことでサフルとクギも多少冷静になったらしい。サフルが咳払いをして、キリッと私を見据えた。
「私とクギを入れ替える、というのは」
これの提案を聞いて答えられなかった私が助けを求めてハッシーさんを見ると彼は緩く首を振る。トントン、と指したのは向かう予定のダンジョンの地図だ。
すでに作戦会議をするところだったらしい。
「却下だな。剣の才能があるお前さんはこっちだ。いいか、この仕事はお前の主人の評価に直結する。ライムが奴隷の中で一番重宝しているのはお前だ。なにより、ここはトライグル王国じゃない。頭だけじゃどうにもならねぇことくらい──わかってるだろ?」
「……はい。ハッシー様の配慮に感謝いたします。ライム様、どうか、どうかお怪我にはお気をつけて下さい。いざという時はクギを囮にして逃げて下さい」
深く私へ頭を下げたサフルが背を向けて、ベル達の班へ足を進める。
その姿から迷いや未練のようなものは感じられなくてほっと息をはく。
憮然とした表情のクギの腕を軽く叩いて、こちらの様子を見守ってくれていたアウルさんとラクサの元へ。
いつの間にか、ラクサの足元にはルヴとロボスが座っていて驚く。
「さっき、アウルさんが気配に気づいてドアを開けたら外で待ってたんスよ」
「心配してきてくれたのかな。おいで、ルヴ。ロボス」
呼ぶと尻尾を左右にブンブン振りながら私の元へ。
座った私の太ももに顎を乗せて撫でられる体勢を整えているのがまた面白い。
優しく労わるように頭を撫でていると、アウルさんが腕を組んで別の場所で作戦会議中のサフルへ視線を向ける。
「分かってはいたけれど、流石というか規格外だよね。ライムちゃんの所って」
発言の意味が分からなくて首をかしげると、慌てた様子で言い募る。
「変な意味じゃなくってさ。奴隷に発言の自由を許していることもだけれど、さっきの会話はカルミス帝国ではありえないんだ。奴隷は『モノ』で人ではないという扱いが普通だからね」
肩をすくめる彼に頷くのはラクサと意外にもクギ。
二人はこの国出身だっけ、と考えているとラクサが言葉を引き継いだ。
「マジで、ライムの奴隷への態度は異質っつーか……美談で『借金奴隷に落ちた幼馴染を買った』ってのが昔からあるんすけど、主人が男でも女でも対等ではないッス。トライグルは割と寛容ッスけどね……一度でも借金奴隷に落ちたら扱いは雑になる」
「あ。クギだったかな? 君もこのメンバーでいる時は普段通りに話してくれて構わないよ。俺、色んな所を転々としたり『害才者』ってことで割と犯罪者的な扱いも多くて、奴隷の人に同情されることもあったんだ」
いやぁ、大変だったー!と明るく話す姿にクギは戸惑いながらも頷く。
全員が席についたところで、アウルさんがチラリとロボスをみる。
ロボスもちらりとアウルさんを見たので、恐らく興味があるのだろう。
「ロボス、アウルさんの所に行っても大丈夫だよ。気になるんでしょ?」
私の言葉でロボスはうん、と頷くように瞬きを一つ。
そして、ちょっとだけ名残惜しそうにしつつアウルさんの周囲をぐるぐる。それを見たアウルさんが嬉しそうに掌をロボスへ向けて匂いをかがせているのを見て確信した。
「アウルさんって共存獣がいたんですか?」
「ん? うん。実家にいたんだ。魔物化していなかったから寿命で先に星になっちゃったけど……あ。これ食べる? 魔物の骨。俺、知り合いにファウングの共存獣飼ってる連中が多くてさ。持ち歩いてるんだ。あげてもいいかな」
「はい。ロボス、食べていいよ。ルヴには私が持ってるのあげるから、ゆっくり食べながら話を聞いてね。麦茶も出そうかな」
一度飲み物を準備してから席へ戻ると、骨を齧る姿を嬉しそうに見ていたアウルさんが口を開いた。
「話がそれたね。とりあえず、他の班も含めて出発は明日四時。俺達はポーシュちゃんと馬車があるから、ここに直接御者に来てもらうことにした。知らせは俺が出しておくよ。で、ここから直接……ここに向かうんだけど、俺達が一番遠いんだ」
「ほんとだ。どのくらい時間がかかるんですか?」
「二日だね。でも、今回は『トライグル王国』から来たお客様ってことで、こっちの連絡通路を使わせてもらおうと思う。リアン君にも提案したんだけど、了承が出たからゼラン君に頼んでカルミス帝国の学長に願いを出してもらうことになってる。恐らく許可は下りるだろうってことだから、ゼラン君はこの後学院に戻るよ」
なるほど、と納得。連絡通路は敵が出る可能性が低く、道も整っているので基本的にとても安全だ。
「休憩所はいくつかあるけど、大休憩所でのみ休憩をとるつもり。トイレはちゃんとあるんだけど、無防備になる場所でもあるから……ライムちゃんは共存獣を護衛にして個室に入ってね。俺らは交代で」
「わかりました。食事はどうしますか?」
「馬車の中で済ませよう。ただ、状況によっては馬車に俺の知り合いを招きたいんだ。っていうのも、情報の為なんだけどね」
「わかりました。料理を少し多めに作っておきたいので、このあと台所貸して下さい」
「た、タフだね。まぁ、俺たちも仕込みは手伝うよ。早く寝ておきたいし」
何を作るのかと聞かれたので、パンに具を挟んだものを大量に作ると話した。
具は魚、肉、卵。ソースは三種類。簡単なものばかりとは言ったけれど、温かいものを食べたくなることもあるだろうと思い、オーブンも使わせてもらう。
「スープはベースを作って、具をカップに入れた状態にしておきます。私のトランクに入れる時はトレーに並べた状態でしまえば、そのまま取り出せるので」
「なるほどね。具入りのカップにスープだけ注ぐのか」
「はい。深いカップなので揺れが酷くても零れにくいです。代わりにフォークがいるんですけどね」
感心した様子で着いてくるアウルさんとしっかり隣を歩くクギ。
クギはサフルがいないときよく手伝ってくれるので、説明をしなくてもある程度察してくれる。
挟む材料を用意し、ソースを作りつつオーブンを温める。大量調理なので一気に焼いてしまうつもりだ。
「こうやってみるとすごい量だなぁ……全員分?」
「はい。全員分です。何があるかわからないのでかなり多めに渡しておく予定です。ダンジョンの中で食材って買えたりするんですか?」
「場所による、かな。自然型の場合はダンジョンの外に多いよ」
作業をしつつ時々アウルさんから補足説明を聞いているとばらけていた奴隷たちが戻ってきた。そこから全員で持って行く食糧を作成。
アイテムも場所に応じて配布し、其々のチームごとに分かれることになった。
私たちのチームはこのままだったけれど、他の二チームは別拠点と贔屓にしている宿へ移るそうだ。特に、ベル達は馬車が空いていれば早速移動をするのだとか。
「ふぅ。これから別行動になるけれど……ラクサ。いい? ライムから目を離さないで頂戴。移動中は必ず手を繋いでおきなさい。迷子になりそうだから」
「いや、それだと不十分だ。一定範囲から離れられない様に鎖付き首輪や足かせ、腰に巻く鎖があるからそれを渡しておく。ああ、人が多い場所なら喋らない様にさるぐつわを噛ませてもいい。他の冒険者や不審者に関わらせないようにしてくれ」
「ベルはまだいいけどリアン、割とひどくない? なんか悪いことした人の扱いじゃん」
「いや、酷いっていうか……ウン、まぁ、目は離さない様にしておくッス。あと首輪とかいらないンで」
「そうか? 便利なんだが」
当たり前のことを言うように首をかしげるリアン。彼にベルとラクサだけではなく、全員がドン引きしているのがちょっと面白い。
いつもの通りだなぁと思っているとゼンがそっと私の耳元で囁いた。
「え、あれマジで言ってる?」
「リアン基本的に嘘つかないから、本気だとおもう。苦しそうだから断るけど」
「……待った。ライム、本気でその反応でいいわけ?」
何か変だろうかと首をかしげるとゼンはヨロリとワザとらしく後退してしゃがみ込み、何やらブツブツ言い始めた。
変なの、と首をかしげつつポーチから警備結界を出してベルとリアンに見せる。
「これあるし、平気だよ。ラクサだけじゃなくてルヴ達やクギもいるしさ。アウルさんも強いだろうから大丈夫。あと、一回誘拐されてるから帰る手段は色々あるって知ったし」
グッとこぶしを握り締めるとベルとリアンが揃ってため息をついて背を向けた。
ゆっくり手を振っていると、その手が柔らかいものに包まれる。
「ミント?」
「ライム、ぜったい、ぜったい無事で再会しましょうね。約束です」
「うん。ミントも怪我しないように気を付けてね」
「はい! ラクサさん。もし、何かあったら『お相手』をしっかり覚えて、可能なら捕まえて下さいね。ちゃんと私、お話ししなくっちゃいけないので」
「……ハイ」
一度ぎゅっとミントは私を抱きしめて、道具入れからハンマーを一つ。
これは、と首をかしげると私にハンマーを握らせてふんわり微笑んだ。
「もし、何かされそうになったら性別年齢問わずこれで顔面を殴って下さい。大丈夫です、殺傷能力高いハンマーなので!」
「え、あ……ありがとう」
ハンマーを受け取った私に満足して、ミントは笑顔でベルの元へ。小さくなる背中に手を振っていると、リッカやイマルさんが頬を染めて鼻血を垂らしているゼランを引きずっていった。
「……俺達も『キャラが濃い』ってよく言われるけど、ライムちゃん達ほどじゃないなって今思ったよ」
へらっと笑うアウルさんにラクサが頭を抱えながら深いため息を一つ。
まぁ、こんな感じで私達は早朝ダンジョンへ向かうことに。
ど、どんな感じだったっけ?コッチ……と戦々恐々としながらもどうにか。ええ、どうにか。
次回、楽しみにしていたダンジョンなのでがんばります!
いつも応援、イイね等の反応、誤字報告や感想などありがとうございます。中々返事が出来なかったり、更新が遅くなり大変申し訳なく…!
それでも変わらず、応援しお付き合いくださって感謝しかなく……。
引き続き、頑張りますので一緒に楽しんで頂ければ嬉しいです。




