342話 ダンジョンに向けて
ほんっとうに!お久しぶりです!!!!やっとかけた…!!!
長期間、中々執筆できないことが続いておりまして申し訳ありませんでした。まだ少々バタバタしているのですが、少しずつでも書けたら更新していこうと思います。
そして、長期休みを頂いていた間に考えていたのですがタイトルを変更することにしました。
双色の錬金術師、改め『アルケミスト・アカデミー』として宜しくお願い致します。
いや、実はタイトル凄く適当につけておりまして……某錬金術師を連想させるのでいつか変えたいなーと思っていました。(めっちゃ面白いっすよね、あの漫画)
用意されていた工房スペースは私たちの工房とほぼ同じだった。
調合釜周辺の機材はほぼ使っていたものと同じで、火力調整のレバーなども工房で使っていたものと変わらない。
でも、私達の工房にはない大型魔道具が結構あって、その使い方はしっかり確認させてもらった。具体的に言えば発酵促進機や乾燥機など。嬉しかったのは、魔石を粉末にすることができる自動粉砕機があったこと。
「これで一時間後には粉々の粉末になっている……のかな」
時折聞こえる硬いものが粉砕される音は結構賑やかだったけれど「そういう時はコレを使うんだ」とゼランは魔道具を黒い布で覆った。
ほとんど音が聞こえなくなったことに驚いていると、消音という効果が付いた騒音カバーだと説明を受けて、そのうち購入することを決めた。自動粉砕機は小さくてもいいから欲しいと思っていたし。
「これで大体の装置に関しては話をしたか。あとは台所横にある冷保管庫を利用時の注意点を伝えておく。これにもしっかり魔力を注いでいるが、冷却機能がある関係で魔力消費が早い。三日に一度魔力を注げば問題ないと思うが……長期間、留守にする場合は物を入れないように」
「冷やしても長期間だと腐っちゃうだろうし、ダンジョンに入る時には気を付けるよ。そういえば、ゼランは学校に帰るの?」
ふと気になったことを聞いてみた。ゼランは頷く。
学校の寮で生活をしているというのは移動中に聞いていたのだけれど、そういう生徒は半々なのだとか。
「上流貴族であれば学校近くに家を借り、家族と離れて数人の使用人と生活するのが一般的だな。俺は卒業と同時に貴族籍を抜かれるから学生寮で生活をしているが、こちらで生活した方がいいなら出来なくもない。ダンジョンに潜るという話も聞いているし、必要であれば学園で手続きをするが」
どうする、と問われて思わずベル達と顔を見合わせる。
最初に口を開いたのはリアンだった。
腕を組んで思案顔のまま、ポツポツと言葉を重ねていく。
「こちらの動きですが、僕らは明日以降ダンジョンに数日潜って上級回復薬の素材を集める予定なんだ。それに同行するのは、船上で知り合った冒険者四名」
リアンは奴隷や共存獣も連れていくと口にしたがゼランは考えて首を傾げる。
「素材を集めるのならば、人手は多い方が良いだろう。こちらとしても、ダンジョンに堂々と入って戦闘ができるのは助かる。トライグルではあまり実戦に重きを置かないようだが、こちらでは魔力色や才能構成によってはダンジョンに潜り素材を揃えるだけで単位が取れたり、成績にプラス判定が加えられるんだ。それに俺も該当している」
「ふぅん? じゃあ、ゼラン。貴方も明日から行動を共にすると考えていいのね?」
「ああ、宜しく頼む。すまないが、上級回復薬の素材を覚えていないので素材名を教えてくれるか。もしかすると行ったことのある場所かも知れない」
そういう事なら、と私達は調べた必要な素材名のメモを見せた。
元々、三年生教科書の初版本に載っている為、調べようと思えばいくらでも調べることはできる。
「必要なのは六種類で……【クームペイ・ドリスの花粉】【夜光火のカケラ】【山頂パールの粉】【黄金苔の雫】【魅惑樹の実】【聖水】か。種類が多いな」
「実際必要なのは五種類。聖水は既にあるし、なくなれば教会で入手ができる。この中で心当りや採取経験がある素材は?」
「【山頂パール】と【黄金苔の雫】だな。これは複数エリアにあって、比較的採取がしやすい。初心者から中堅向けの自然型ダンジョンだ。距離も近い。俺が行ったのは初心者向けだったから、あまり治安が良くないが、一人でも対処が可能なレベルだ。山頂にいる鳥系のモンスターや魔物は厄介だが素材をとるだけであれば魔物除けをしておけばかなり楽になる。気を付けるべきはモンスターよりも人間だな。中堅向けは素材の品質が良いようだが、難易度が上がるのが問題だな。こちらは人よりモンスターや環境に気を付けるべきだろう……まだ行ったことがないから案内はできないが」
新しい羊皮紙にリアンの文字で必要な情報を書き記されていくのを眺めながら、この中で難易度が一番高いのはどれか質問をぶつけてみる。
ダンジョンに入ったことがないんだよね。
「……すまない。どこで採れるのかも俺は知らないんだ」
「あ、そっか。ダンジョンっていっぱいあるんだっけ」
コクリと頷いたゼランをみて、真っ先に浮かんだのは冒険者四人の顔だ。彼らなら恐らくわかるだろうし、と考えた所でベルもリアンも同じようなことを考えていたらしい。
「ねぇ。ゼラン、学院での手続きにはどのくらい時間がかかるのかしら」
「そう、だな……一時間もあれば終わるが」
「なるほどね、それなら私たちが学院まで馬車で送るからその後時間をくれないかしら? 今回護衛を引き受けてくれた冒険者と顔合わせはしておいた方が良いと思うのよ」
ベルの言葉で「そういえばリアンとラクサが冒険者を雇ったと聞いたな」と呟いていた。
あらかた、男女別で馬車に乗った時に話を進めてくれていたのだろう。組んだ冒険者については何も言っていなかったのが分かって、チラッとラクサへ視線を向けると楽しそうにゼランを見ていた。
「時間も時間だ。申し訳ないが学園へ連れて行ってくれるか。俺はすぐに発てる」
「メンバーはどうしますの? 流石に護衛なしだとマズいでしょう」
「あー……その、み、ミントさんはついて来てくれると有難い」
急に言い淀んだゼランにミントが不思議そうに首を傾げた。
私もてっきり奴隷と助手先生を連れてくるように言われるかと思っていたので、意外な指名だったのだけれど、ゼラン曰く『教会関係者がいると手続きが少々』とか言っていたのであちらの事情があるのだろう。
「あら。ミントは学園に入れるの?」
「錬金術師ではないなら入れる。他国の教会関係者も学園内にある礼拝堂へ挨拶に来るくらいだし、もしよければと思ったんだが」
どうだろうか、と自信なさげに聞かれたミントは私を見てニッコリ笑った。
多分だけど私達の代わりに色々と視察するつもりなのだろう。
「そういう事でしたら喜んで。立場上、挨拶をしておいた方が良いでしょうし……案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ま、任せてくれ! あー、その、少し遅くなっても?」
「一時間半くらいならば待ちますわ」
「感謝する。あとは、手続きの関係でトライグル側の教職員も同行して下さると有難いのですが」
「ええ、勿論。ゼラン君にお願いがあるのだけれど私たちと同じような『補助教師』の方を紹介してもらえないかな。ある程度連絡が取りやすいようにしておきたいんだ。業務の関係もあるし、お互い不測の事態などが起こらないとも限らないからね」
これにゼランはすぐに頷いたので、一度準備のためにそれぞれがばらけることに。
ゼランを空いている部屋に案内するのはラクサがやってくれることになったので、彼がいない隙に盗聴防止用結界を展開し私達はサッと集まった。
「ライム、悪いが冒険者の分を含めて食事を。待機するのは奴隷のみになる。ラクサは酒場へ聞き込みに行くそうだ。ミント、君には上手いこと誘導して購買などで商品の目録などを貰えないか聞いてほしい。値段も一緒にな。必要であればゼランを通して購入したい」
「わかりました。教会関係者にも挨拶がてらお話を聞いておきますね。試験に合格したので、私シスター長とほぼ同じくらいの『立場』なので。正確に言えば私の方が少しだけ立場が弱いのですけれど、カルミス帝国の教会は実力主義。私のような合格者は比較的優遇されます……ライム、待っていてくださいね!」
役に立ってみせます、と両手を握りしめて気合を入れるミントに「おねがいね!」と返事を返せば嬉しそうに何度もうなずいていた。
「それから、これからはウィン助手を『ウィン助教師』と呼ばせてもらいます。カルミス帝国やスピネル王国では、ウィン助手やスタード助手のような立場の方を『補助教師』や『助教師』と呼びますからね。重ね重ね申し訳ないのですが……」
少し言いにくそうなリアンにウィン助手先生もとい、ウィン助教師はひらりと両手を広げて肩をすくめた。
「カルミス帝国にいられる時間が限られている以上、あちらの教職員とは出来るだけ『仲良く』しておきたいので気に病まないで下さい。スタードや私もワート教授から色々と指示を受けていて、教授と縁の深い方との懇談も予定しています。ライムさんたちの勉強の時間が減るのは申し訳ないですが」
一度言葉を切って二階の様子を探っているようだった。
まだ降りてこないと判断したのか、ウィン助教師は言葉を重ねる。
「他国の教育についても興味がありますからね、様々なことをお話しできればと思っていますよ。それはそうと、何を聞いてほしいのですか?」
「評価についてです。勿論、学校側もですが生徒側の評価も併せて。他国で気にすることといえばそのくらいでしょう。あとはウィン助教師たちも今後、教職に就くのでしたら視野と相談相手や『同じ立場』の人間は多い方がやりやすいと思いますよ。折角他国に来ているのですから有効に活用した方が無駄がないでしょう」
しれっと言い切ったリアンに先生はびっくりして、そして破顔した。
今まで見たことのない、教師ではなく一個人としての感情が強く出た表情。
「確かに、尤もだ。はは、いや、まさか生徒に気を使われるとは。でも、そうだな。折角の機会だから、俺達なりに最大限『活用』させてもらうよ。教師として生徒たちの前に立った時、実体験を伴わない言葉では薄っぺらい……それと俺もスタードも教師ではなく、個人としてダンジョンに潜るからある程度の協力はするよ。伝手もある」
ふっと笑って詠唱もなく青色の弓矢を出した先生はクルクルとそれを手で弄びながら口の端を吊り上げた。
「俺は弓と槍、短剣を使う。スタードよりも冒険者をしていた時期もランクも高いから、安心してくれ」
一瞬、ベルと先生が同じ何かに見えたけれど詳しく聞くと大変なことになるのは分かっていたので頷くだけにとどめた。
「学院のお使いの関係もあるから、空き時間に密林系のダンジョンに行く。俺とスタードの二名だが、何度も採取には来ているから一定量は採取できると考えてくれ。そうだな……君たちが欲している【クームペイ・ドリスの花粉】は俺達が取ってこよう。ついでに『花』と『実』もだ。リアン君、この【クームペイ・ドリス】の花粉、花、実における効能の違いは」
聞いたことがあるぞ、と記憶を掘り返す私の横でリアンが何でもないことのように口を開く。すらすらとその口から紡がれるのは、教科書のような解説。
「まず【クームペイ・ドリス】は人工作成が可能な魔物として、時に栽培もされています。作成方法や育成法は試験には出ないので省きますが、全体に強力な『毒性』と『薬効』を秘めており、花粉には強い回復力が。蜜には催淫性及び興奮作用が、実には毒性が。花は少々特殊で、花粉と同時に摂取すると毒に。蜜と共に摂取すると強力な魔力回復薬に。尚、蜜は花と同時摂取した場合、催淫性及び興奮作用は消え、鎮静効果を帯びます。また、実はアルコールに聖灰、魔物の血液を混ぜ合わせた溶液に浸して十時間おくと薬効を高める効果を帯び、これを調合の際に投入するもしくは素材にまぶすなどして利用すれば品質EやFでも適切な調合手順を踏めば品質Aまで引き上げることが可能になります」
サラサラと羊皮紙に何かメモを書いていたリアンはそれを先生の前へ。
受け取った先生は、少し考えるそぶりを見せて首を傾げる。
「最近の論文まで反映されているあたり流石だよ。この【クームペイ・ドリスの花粉】は上級魔力回復薬には不可欠。他のもので代用もできるが、一番効率的に数を作れるのはこれを使った調合レシピで、教科書を読み解けばレシピを組み立てることができる……本当は二年後半から三年前半で課題として出すんだが、君たちには今更だな」
困ったような顔で肩をすくめたのを見なかったことにして、先生たちの分の食事を報酬代わりに渡すことも決まる。先生としてもそれが目的だったらしく、素直に頷いてくれた。
というのも元々協力はするつもりだったという。学院関係者としては協力できないが、非番の時に『一個人として』であれば学院側も口出しはできないとのこと。
「予め休みは一週間とっているから、その期間に採取をしてこよう。君たちの事だ、工房でも魔力回復薬はよく使用するのだろう? 刈れるだけ刈ってくるから、楽しみにしていてほしい。花粉を採取すると蜜も少量獲れる。それもオマケで付けておくよ。蜜は鮮度があるが、花粉は刈り取った状態で一か月は常温保存ができる。倉庫に並べて置こう」
お願いします、と三人で頭を下げるとウィン先生は満足そうに笑って立ち上がった。
さて、と周囲を見回したタイミングで盗聴用の結界を解除した。
「あ。リアン、ベル。私サフル達にご飯を預けていくね。皆には留守番しててもらわなきゃいけないし」
「それもそうだな。ああ、悪いが洗濯などを頼んでもいいか? サフル以外はライムの奴隷だからライムの許可を得ないといけないんだ」
なるほど、と頷いて移動中に出た洗濯物を取り出しながら了承の返事。
他にやっておいてほしいことは、とベルに聞けば先に体を清めておくようにと指示。
というのも、ゼランが一緒に行動することが決まった以上今までとは違う生活形態になるから、今のうちに清潔な状態になっておいた方が良いというのだ。
「なるほどね。じゃあ、タオルと体を洗う石鹸、トリーシャ液もわたしておくよ。これ、タグをつけてあるから間違えないと思うけど……それぞれに合いそうな香りで作ってみたから試して。一応魔物やなんかが嫌う匂いをメインにしてるんだ」
壁際で動かないサフル達に苦笑して布を外してほしいと頼むと皆、指示通りに布を外してくれた。少し居心地悪そうな表情ではあったけれど、チラチラ私の手元にあるトリーシャ液に目が向いているのが面白い。
「馬車の中でゼランには一通り僕たちの奴隷の扱いに口出しはしないように伝えて、了承を得ている。まぁ、同じ食卓に着く、などはできないが部屋は工房内に用意した。用事があれば状況に応じた声掛けをしてほしい。それができなさそうならメモを渡してくれ。メモ紙はコレ、筆記用具は?」
「あ。そのライム様……職人の皆様から頂いた贈り物を開けてみてください」
「贈り物? あ、そういえば出発前に何か貰ったような」
なんだっけ、とポーチに手を入れて形状などを思い出しながら取り出せばそこには結構な重さの箱が。
断りを入れて食卓テーブルに箱を置き、蓋を開けるとそこには驚くものが入っていた。
「ええ!? うそ、これ……携帯万年筆だ!」
「はい。職人の皆様が『旅の安全を祈って』作ったそうです。リアン様とベル様、そしてミント様とラクサ様の分もあります。ベースは同行できなかったシシクが作り上げたものです。メンテナンス方法や組み立て方も見て覚えたとのことだったので調子が悪くなったらシシクに点検を頼んで下さい」
ぺこりと頭を下げたサフルに驚きながら、金の文字で名前の刻印が刻まれたものを手に取る。私のは黄色と緑のグラデーションがかった万年筆だった。リアンは青、ベルは赤、ラクサは橙、ミントは若草色。
感動しながらそっと手にもって試し書きをさせてもらったけれど凄く書きやすい。
「うわぁ、うわぁ! どうしよう、これ凄く高いよね……凄く助かるし嬉しいけど」
「一つ一つ手作りであることは間違いないな。ああ、品質固定、劣化無効などの状態維持効果が付いているから普通に使っていたら壊れないだろう。この魔石部分に魔力を込めておくといい。魔力認証付きだ」
ひぇ、と情けない悲鳴が出たけれど有難く魔力を流し込んで『私のもの』にしてしまう。
帰ったらお礼しなきゃ、とリアンたちと苦笑した。
「貼り薬とセンベイかな?」
「そうだな。その辺りが妥当だろう。貼り薬を使いたくても使えなかった職人も多いだろうし、これを作成した職人の皆さんは使っていない人間ばかりだから宣伝にもなる」
「センベイは全種類ですわね。ラクサはセンベイ容器量産しなくちゃいけないから忙しいわよ」
くすくす笑うベルにミントが青ざめながらも、私はどうしたら、なんて呟いていた。
今回のダンジョンで魔力回復薬の素材をたくさん集める協力をしてほしいと頼む。何せ、貼り薬を作るにもセンベイを量産するにも魔力回復薬は必須なのだ。
「じゃあ、書くものは私の使っていたペンなんかを置いていくね」
「ありがとうございます。鉛筆はシシクから貰っていますので、そちらも併用して報告などさせて頂ければと思います」
ペコリと代表して頭を下げたサフルと他の奴隷と一緒に台所へ。
私だけになった途端にサフル達の肩の力が目に見えて抜けたので、思わず吹き出してしまった。拗ねたような顔をしているクギの腕をペシペシ叩いていると照れ臭そうに「いてぇって」とかなんとか小さな抵抗。
「ごめんごめん。みんな食べたいものいって。お酒と飲み物、茶葉は渡すね。お酒はあまり数が出せないけど」
「悪い、助かるぜ。腹に溜まるものと保存がきくものがあれば助かる。数は多くなくていい。どうせ今夜と明日の朝の分くらいだからな。朝、ダンジョンに行くための用意は俺達がしておく。馬車関係が主になるが、敷いておいて欲しいクッションなんかがあれば予め出しておいてくれ。準備しておく」
「あ、そうか。じゃあ、それも出しちゃうね。炊き込みご飯と揚げたゴロ芋、あとは揚げ魚をパンにはさんだものとか、ああ。お茶菓子も置いておくよ。皆で食べて。数時間戻らないからその間少しゆっくりしてね……移動時に怪我とか酷いことはされてない?」
ずっとサフル達が近くにいなかったことを思い出して体調などを聞いてみる。
一見すると汚れたり体のどこかをかばうような動作はしていない。
「はい。心配して下さって嬉しいです。なんともないですよ」
ふっと表情を和らげたサフルに続いて、何とも言い難い複雑そうな顔をしたトーネ達が視界に入った。どうしたの、と聞けば小声で周囲を眺めながら渋い顔で呟く。
「いや、奴隷の扱いを思い出しただけだ。当然のことだとわかっていたつもりだが、相当恵まれていると改めて自覚した」
「ですねぇ。他の奴隷と同じように扱われるかと思ったのですが、私達が『緑の大国』のライム様が所有していると知っているからか奴隷にしては丁寧な扱いでした。お陰で周囲の目が面白かったです」
リッカの言葉にどういうこと、と思わずトーネとクギへ視線を向けると二人はそれぞれらしい反応と言葉を返してくれた。
「すっげぇ、嫉妬と羨望の眼差しを向けられて……もう一人奴隷はいらないかとかめっちゃ言われた。俺らに決定権ねーっての。つか、役に立たねぇの分かってるやつを『買ったらどうか』なんて奴隷が口だせると思ってるあたり論外だ」
俺らが何でもねぇ奴に忠誠を誓うかっての、なんて文句を言うクギは癇に障ることを言われたのか不機嫌を隠しもしない。なんというか、らしいなぁと苦笑する。
「ルヴ達ですが、工房の周囲を警戒しています。警備結界を解除し僕らだけになったら食事や世話をさせて頂こうと思うのですが、ルヴ達も綺麗に洗っておきますか?」
「じゃあ頼もうかな。これ、ルヴ達用のトリーシャ液でこっちがブラシ。私の部屋で待っていてもいいよ。これはルヴ達に渡して。これを渡しておくと安心するみたいだから」
着倒した服を二着渡すと一瞬サフルが羨ましそうな表情を浮かべた気がするけれど、頭を下げて丁寧に受け取った。ボロだから適当に扱ってくれても、なんて言いかけたけれど、ルヴ達やポーシュのご飯を出しているうちにあっという間に時間がたった。
「青っこいのは私と行動するしポーシュには帰ってきてからご飯をあげてね」
「かしこまりました。どうかお気をつけて」
ペコリと四人一斉に頭を下げたのでくすぐったい気持ちになりつつ、軽く手を振って皆が集まっている食卓テーブル付近に戻る。
私が合流した所で、外へ。
とっぷりと暗くなった工房前にはポーシュがすでに待機していた。その背にはしっかりと馬車も括り付けられている。
「御者の方がまだいらしたから準備を頼んでおいた。流石仕事が早いな」
しれっとリアンが指示をしていてくれたらしい。
一応お礼を言えば「気にしなくていい」とすぐに帰ってきて、私の耳元でささやいた。
「いいか、外に出る時は必ず僕の側に。警戒は僕がする」
「うん、わかった」
「その返事が不安なんだが……まぁ、いい」
やれやれと息を吐いて私が馬車に乗る為に差し出された手を握る。外国にいると慣れないことをしなくちゃいけなくて少し面倒だ。
【クームペイ・ドリス】
魔物。手足が樹木の肌を持っているが、頭部・胴体は人間のような肌色を持っている。二足歩行をする。体内で種を育てる。蜜は口にあたる部分と目にあたる部分から分泌。花粉は頭部を割ると出てくる。本体は手足四か所のどこかにあり、そこには小さな花が咲いている。全体に強力な毒性と薬効を併せ持つ。
花粉には強い回復力が。蜜には催淫性及び興奮作用が、実には毒性が。花は少々特殊で、花粉と同時に摂取すると毒に。蜜と共に摂取すると強力な魔力回復薬に。尚、蜜は花と同時摂取した場合、催淫性及び興奮作用は消え、鎮静効果を帯びます。また、実はアルコールに聖灰、魔物の血液を混ぜ合わせた溶液に浸して十時間おくと薬効を高める効果を帯び、これを調合の際に投入するもしくは素材にまぶすなどして利用すれば品質EやFでも適切な調合手順を踏めば品質Aまで引き上げることが可能




