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31話 提案と準備

ごめんなさい、相変わらずちょとアレです。

 あと、彼は時々言葉が足りない。

ついでに彼女らは何処かずれていたり、思い込みが得意だったりします。

そして色んな意味で行動派。



「ワート先生がいってた演習の対策についてなんだけど、とりあえず近場…リンカの森に三人で行ってみない?」



ずっと考えていたことを口にすると二人は私を見て目を丸くしている。


 なんで驚いているのかはわからないけれど、反対されないうちに言いたいことを言い切ってしまおうと言葉を重ねる。



「森の手前だと出てくるモンスターは野良ネズミリスとかスライムとか子供でも対処できるモンスターばっかりみたいだし、駐在騎士の人もいるから大丈夫だと思うんだよね。それに、素材だって買ってばっかりいたらあっという間にお金なくなるでしょ?近いところで採取できるなら自分で採ったほうが安いしさ。代わりに時間はかかるけど」


「護衛をつけないで三人で、いくんですの?」


「うん。だってそうでもしないと実力わからないし…リンカの森で取れる素材は調和薬に使うものとか、回復薬を作るのに必要な素材もあるしさ、数を確保するなら早いほうがいいと思う。今買取価格上がってるんでしょ?多分、本格的に授業が始まったらなれるために調合したいって人増えるよね?」


「なるほどな。今後需要が増えることを考えると自分で採取した方が数も確保できる、か」


「私は賛成ですわ。自分で使う素材くらい自分で採るのも悪くありませんし、あまり長い間体を動かさないと鈍ってしまいますもの。ただでさえここ最近は入学のために朝から晩まで家庭教師を付けられて朝の素振りくらいしかできていませんでしたし」



優雅に紅茶を飲みながらボヤくお嬢様に、私とリアンは思わず視線を合わせて、ベルから少しだけ距離をとった。



「とりあえず、明日の日が昇る前に出て、昼前に森で採取できるようにしようよ。採取用の袋は持ってる?荷物増やすのは嫌だから、武器以外はポーチに入れてもいいし」


「荷物に関しては頼んだ。採取に必要な道具は僕が用意しよう。樽は入らないだろうから、大瓶を多めに持っていくか」


「でしたら冒険者用のアイテムは私が揃えておきますわ。毎回荷物を持ってもらっていますし、このくらいはしてもいいでしょう。一泊するんですの?その方が素材は多く集められますけれど」


「初めて採取しに行くようなものだし、戻ってきた方がいいんじゃない?三人もいれば結構集められると思うし。あ、採った素材ってどうする?個人用?それとも共用?」



ふと気になったことを聞くと二人共そういえば、と取り分について初めて気づいたらしい。


 最終的に三人で採取に行った場合は共用、単独で冒険者を雇っていった場合は個人のものという扱いにするということで落ち着いた。



「夜のうちにサンドイッチいっぱい作っておかなきゃ。絶対お腹空くし…って、そうだ。今のうちにスープの処理しちゃわなきゃ!昼は面倒だから簡単に済ませるよ。ワインの調合もしたいし」


「わかった。じゃあ、僕らは掃除や明日の準備に取り掛かる。調合をする時には呼んでくれ」



慌てて鍋に水を入れて骨を簡単に砕いて鍋に入れ、クズ野菜と一緒に香草も適当にぶち込んで弱火で煮込んで放置。


 その隙に、パンを焼きつつ空き時間でお肉とマタネギを砂糖と醤油、ちょっとの白ワインで炒め、葉物野菜を洗って水を切った。

新鮮なマトマという赤い独特の食感と酸味と甘味のある野菜を切る。



「あ、パンも作らないとね。ワインの後でいいかな」



調合で作るパンは簡単だし普通に作るより時間がかからないから便利なんだよね。

 そうだ、ついでにクッキーも作っちゃおう。

あれ、魔力回復するから便利だし小腹がすいた時とかいいんだよね。

何があるかわからないから回復手段はあるに越したことないし。


 調合するものについて考えつつ下ごしらえを終えたので、地下倉庫にクッキーの素材と今朝選別し終えている葡萄を取りに行く。



「一人二瓶は作れそうだから、残りは干し葡萄にしちゃおうかな。天気はいいけど、時間かかりそうだから堅実な方法で行くか」



よし、と気合を入れてから葡萄を作業台へ。


 丁度ほかの二人も集まっていたので、改めて汚れを落とすことになった。

大きめの樽に水を張ってそこに塩を投下。

そこに葡萄を全て入れて、優しくかき混ぜ、汚れを落としていく。

傷のあるモノは問答無用で干す用に回す。



「こういう作業に時間がかかるんですのね」


「やってみると面倒だなって思うこともあるんだけど、いいもの作るには手間を惜しんじゃダメなんだってさ」



きれいに洗ったぶどうは一つ一つ実を外して綺麗な布で拭いていく。

干しぶどう用の物は鉄の板の上に並べていく。



「干しぶどうを作るのに加熱するの?干しぶどうって干して作るのではなくって?」


「天日干しにする方法もあるけど、時間かかるんだよね。加熱っていうよりも水分を飛ばすって感じ。結構時間かかるし焦げないようにマメに様子見ないといけないから、調合のあとだけど」



手を動かしながら順調にぶどうを洗って、ワイン用のぶどうを各作業台に分ける。

 ワインのつくり方はおばーちゃんから貰った教科書にも載っていたはず、と教科書をめくっていくと真ん中あたりにレシピがあった。

魔力の注ぐタイミングが書いてあるのでとても有難い。



「手順通りに一回ずつ調合しよっか。失敗するのも嫌だし……ええと、まず、酒の素を投入してすぐにぶどうを入れ、魔力を注ぎながら混ぜ続ける。ぶどうが酒の素と馴染み、固体がなくなりワイン色に変化したら、瓶に詰めて日の当たらない涼しい場所で三ヶ月寝かせたら完成だって」


「魔力は多め、とワート教授は言っていたな。時間の目安は書いてあるか?」


「大体三十分くらいらしいね。量が増えると一時間とかそんな感じみたい」



魔力を注ぎながら混ぜていくと酒の素の中でぶどうの粒がプカプカ、ぐるぐる回っている。

 この混ぜる作業も物によってはかなり大変で、魔力の抵抗値が高いものだともったりしていて腕が疲れる。

まだ楽だなーなんて思いながら魔力を注いで行く。



(先生は調和薬5回分の魔力って言ってたから…多分このくらいでいいと思うんだけど)



ぐるぐると武器でも調合器具でもある杖を動かしながら魔力を入れていくと、少しずつ紫色が滲んで、徐々に釜の中が色付いてきた。

 ふっと鼻をくすぐる美味しそうなぶどうの匂いに味見したいなーなんて思ったけれど、まあ、そんなことしたら失敗するからね。

時間にすると大体30分、下準備を入れると40分くらいでワインっぽい色と固体がなくなったので買ってきた空き瓶に移し替える。

 あ、勿論、煮沸消毒はしたよ。



「よし、と完成!二人はどう?できた?」


「できましたわ。続けて調合してしまいますけど、ライムたちはどうするんですの」


「僕も続けて調合するつもりだ」


「私も。なんとなくコツ掴めたし忘れないうちに」



ということで続けて調合。

 二本目は魔力を注ぐ要領がわかってきていたのもあって、一本目のものより色が綺麗な気がした。

先に片づけをしてからリアンに鑑定を頼んだんだけど、一本目は品質C、二本目はC+だった。



「あ、私、クッキー作るけど二人は?」


「何か作りたいところですけれど、素材がありませんわ」


「じゃあ…明日素材取れるだろうからアオ草二人分くらいなら融通できるよ」


「買いますわ。いくらですの、リアン」


「なぜ僕に聞くんだ。まぁ、一回分なら銅貨1枚…いや、二枚だな。相場が上がっているようだし、採取で数を取れない可能性もある」



そう言うとリアンは懐から銅貨二枚を出した。



「僕の分も頼む。出来るだけ調合に慣れたいんだ」


「毎度ありー。あ、そうだ、採取行った時に多めにお水汲んでこようよ。井戸水とは違う効果とか品質になるかも」



ポーチからアオ草を二人分取り出してお金と交換する。

 ちゃりん、という小気味いい音がお財布の中で聞こえて気分が良くなった私は早速クッキーを作るべく材料を投入。

視界の端で二人もアオ草を使用した調和薬の調合を始めている。


 釜をまぜまぜと杖でかき混ぜながら、タイミングを図って魔力を注げば、プカプカとクッキーがたくさん浮いてきた。

このクッキーの調合なんだけど、三回分までならどういう原理なのか、同じ時間で同時に調合できるんだよね。

他の物でも、同じ時間でできるものときっちり回数分の時間がかかるものとがあるみたい。



「ぐるぐるぐーる、っと。あ、そういえばクッキーを入れておくもの用意してないや…ええと、何かあったっけ」


「でしたら焼き菓子が入っていた空き缶が部屋にありますわ。それまでお皿にでも入れておけばよろしいんじゃなくて?」



ほら、と調合を終えたベルが大皿を作業台においてくれたので、お礼を言ってから浮かんできたクッキーたちを移していけば、後片付けを終えたらしいリアンが錬金釜を覗き込んでいた。



「調合でクッキーが作れるとはな…実物を口にはしたが、こうして改めて見ると少々、というか少し妙な感じが…」


「でも、昨日と今日食べたパン生地もこうやってぷかーって浮いてくるんだよ。続けてパン生地も調合するけど見る?」


「魅力的な提案だが僕は少し実家に寄って明日、必要なものの手配を済ませてくる。パン生地の調合はまた今度見せてくれ。そういえば念のため確認しておくが、回復アイテムは何か持っているのか?いくら危険度が低い場所へ行くとは言っても準備はしておいた方がいい」



 眼鏡の位置を直しながら私を見ているリアンの手にはいつの間にか手帳が握られていて、そこにサラサラと必要なものの名前を書いているようだった。



「回復アイテムかぁ。ええと、これと、これと、コレと…これ?」



ポーチから出したのはおばーちゃんが作って家に置いていた回復アイテムだ。

 置いておくのもアレだし、ということでポーチに詰め込んだんだけど結構な数があるんだよね。高そうなモノもいくつかあったからついでに出してみる。



「中級と上級各種ポーション、万能薬、これは…霊薬のエリクシル剤かッ!?」


「え、ダメだった?これ回復アイテムだよね。でも、リアンがこれだけ驚くならこっちのエリなんとかっていうのってやっぱり高いの?」


「高…値段の話じゃない。いや、確かに値段はかなりするものだが。ちなみに、というか確認だがこれの作成者は」


「おばーちゃんだよ。在庫の回復アイテムは全部持ってきたんだよね。まぁ、今出したのは数が少ないけど。初級ポーション、なかったんだよね。やっぱ調合するか買うしかないのかな」



調合したものは全部持ってきたから間違いない。

なくさないように、ってことで数だけは控えてある。

名前がわからないのもたくさんあったから、絵でかいて、その横には数字を入れたんだけどね。



「……オランジェ様の、作ったエリクシル剤……」


「って、ちょっと大丈夫?なんか顔も雰囲気も怖いんだけど」



目を見開いたままエリクシル剤?とかいう名前らしい薬瓶を凝視しているリアンの前でパタパタと手を振ってみるけれど彼の視線は一向にぶれることがない。


 他の物に興味がなさそうだったので、視線に怯えつつエリクシル剤だけを残してポーチへ収納する。

最後の瓶をしまって、背を向けていたリアンに向き直ろうとした瞬間、ものすごい力で肩を掴まれる。

言わずもがな、犯人はリアンだ。



「ッ…ライム」



低い、不機嫌とは違う真剣な声に思わず体が固まる。


 両肩を捕まれた私の背には作業台。

肩を掴むリアンの手は思っていたよりも大きくて、ついでに言えば細長い身体のどこにしまってあったんだろうと思うほど力強くて振りほどけそうにはない。

 眼鏡の奥に見える切れ長の瞳が妙にぎらついていて、その迫力に思わず生唾を飲む。



「は、はい?」


「いくら払えば僕のモノになる」



薄く整った唇から紡がれた言葉を私が理解するより早く、何かが物凄い速さでリアンの頭に直撃した。



「昼間からなにトチ狂っていますの、ムッツリ色情眼鏡。ライム、なにか妙なことされていませんこと?いくらお金がないといっても容易く金銭で大切なものを売り渡してはいけませんわ。男はロクなこと考えませんもの」



倒れたリアンの横に落ちていたのは、ちょっと凹んだ大きな円形のクッキー缶だった。

 缶で人が倒せることをこの日、私は初めて知った。



「いや、張り倒す前に完全に気絶してるけど。っていうか、空き缶ぶつかっただけなのに一瞬体が浮いた気が」


「気のせいではなくて?数分で目を覚ますでしょ、放っておきなさいな。あら、この薬…エリクシル剤じゃありませんこと?」



ふんっと鼻息荒く作業台の前で倒れたリアンを蹴り飛ばし、スペースを作ったベルは私の作業台に乗っていた薬瓶に驚いたように目を見開いた。



「え、知ってるの」


「知っているも何も貴族ならば皆知っているものですわ。エリクシル剤は霊薬と呼ばれるほど高位の回復薬ですもの。ありとあらゆる病や呪いを癒し、四肢が千切れたとしても、現物が無事で利用可能な状態ならば元通りにつなぎ合わせることができるのですわ。これが作れる錬金術師は一流と言われていて、国も認めるほどの腕前ということで表彰もされるんですのよ」


「へぇー。結構すごいんだね、これ。ちなみに値段は?」


「そう、ですわね…作成者によって違うようですけれど、最低でも金貨10枚はしますから」


「金貨10枚?!え、たったこれだけで?!量だってほんの一口分しかないのに?!嘘でしょ!?」



ギョッとして作業台の上に乗っている手の平大の薬を見る。


 ちなみに、だけどポーチの中にはあと4個入ってるんだけど、どうしよう。

驚愕する私にベルは苦笑しながらそうですわね、と言葉を続けた。



「ライムの持ち物だということはオランジェ様が作られたもの、ですわよね?それなら金貨100枚以上しますわよ。オランジェ様が作ったエリクシル剤は品質もさることながら付いている効果も凄いらしいですから。なんでしたかしら――…長年臥せって今にも死にそうなとある令嬢が飲んだ瞬間に室内を走り回った、というのがある程ですから」


「それ、絶対やばい効果だって、飲んじゃいけないやつ。うわ、どうしよう、危ない薬にしか見えなくなってきた」



ドン引きする私に向かって高いものなんだから仕舞ったら?と声をかけてくれたベルに感謝しながら、ポーチに入れたタイミングでヨロヨロと立ち上がる影。

よく見ると赤くなった箇所を押さえている。



「っく…なんだったんだ、一体…。凄い、衝撃が」


「チッ。もう起きましたのね、ムッツリ眼鏡」


「あ、リアン生きてた。凄い音したのに動かないから一瞬死んだかと思ったよ、大丈夫?眼鏡割れてない?ついでに頭も」


「君たちが僕の心配を微塵もしていないことだけは痛いほど理解した。缶を投げたのはベルか」



若干ふらつきながらも立ち上がったリアンは床に落ちていた缶で衝撃の大本が誰なのかを悟ったらしい。

 憤りを顕にギロリとベルを睨めつけているものの、ベルは冷たく見下すような、蔑むような視線を向けたままだ。



「ええ、そうですわ。缶を持って戻ってみれば貴方がお金に物を言わせてライムの純潔を――」


「おいちょっと待て、どうしてそういう結論になるんだ!?というか、僕をなんだと思ってるんだ、君は!」



何故か一転して顔が真っ赤になったリアンとますます眼差しが冷え込むベルをしばらく見ていたけれど、なんだか長くなりそうだからパン生地を作るための材料を地下から持ってくることにした。


 時間は有効に使わないとね。

っていうか、リアンは明日の手配しに行かなくてもいいのかな?




ここまで目を通していただいて感謝です。

結構、わちゃわちゃ三人組で遊ぶのが楽しい。


=食材&アイテム=

【マトマ】手の平大の赤い野菜。酸味と甘味がある。

 匂いも味も独特なので好き嫌いが激しい野菜でもある。じゅーしー。

 ソースにもスープにもサラダにも!万能野菜。

【酒の素】酒樹から採った樹液で無色透明。

 アルコール度数が高いので飲むのには向かない。

基本的に酒類の調合や燃料、薬と用途は多岐にわたる。常温保存OK。

【エリクシル剤】神々の杯+万能薬+上級ポーション。霊薬。飲んで使う。

最高峰の回復薬として知られている。腕や足などがちぎれても、現物があり、腐敗などしていなければつなぎ合わせることができる。

ありとあらゆる病を治すことができ、呪いも同様。

体力・魔力・状態異常を治療できる最上級の薬を多量の魔力とともに混ぜ合わせることで初めて調合できる。

これが作れれば一流の錬金術師とされ、かなり重宝される。必要な魔力が多く、時間がかかるので作れない錬金術師も多い。


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