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319話 【甘い氷】

う、短い…いつも7000文字あたりを目標としてるので今回は短いですが、調合が続くのでこれで更新!

次回も調合です。やっと【発泡水】に突入!

ふぅ…

 採取から帰って直ぐに案内された部屋のドアは、真っ白で、そして金で縁取られていた。


 嫌な予感がする、と小さく呟いた私を置き去りにしたワート先生は無言で部屋のドアノブを押し開く。大きな窓と大きなベッド、明らかに上等な床や天井、敷かれたラグマットなどを見てくらり。やっぱり、高級品ばかりだ。

 嫌だなぁ、と思いつつ室内に足を踏み入れる。

広さはばっちり、というか……広すぎない?と思わず誰かに聞きたくなるくらいで、庶民派の私としてはかなり落ち着かない。



「先生、こんなに広いなんて聞いてないんですけど」


「どちらかといえば狭い部類に入るぞ? この部屋」


「流石、貴族向け……どこもかしこも高そう、っていうか絶対高いじゃないですか。こっわ」


「金はかかってるがベッドは寝心地最高だぞ。錬金術やらなにやらふんだんに使った極上品だからなぁ。王族が泊まることも考えられる以上、徹底的に作り上げたらしい」



 次に暖炉と小さいけれどお湯を沸かせるようにはなっているミニキッチンまでついているのには驚いた。ベッドは一つしかないけど、とそこまで考えてルヴとロボスを連れて来てもいいのか心配になったので聞いてみることに。今、マレンさんの所でお泊り中なんだよね。



「王族云々の話しを聞いたら確認しにくいんですけど……明日の朝、共存獣を連れてきてもいいですか?」


「ん? 構わないと思うぞ、あの狼二頭なら賢いし、暴れたりもしないだろ。一応、学院にも馬屋やヴォルフなどの飼育スペースはあるし、そこを使えば問題ない筈だが確認はしておく。共存獣を持ち込む貴族もいるし許可は下りると思うが」



 元々、騎士科には乗馬練習の為に馬が飼育されている。自分の馬を連れてくる貴族も多いとのことで、かなりの広さがあるのだとか。また、学院所有のヴォルフも数頭飼育されているようだ。学院には採取担当職員もいるとのこと。荷台もある、とのことなのでスペースだけは十分ある。



「今回はギルドの都合だから許可取りはしやすいんだ。んで、奴隷はこの部屋の横に控え場所があるからそこを使ってくれ。じゃ、次に調合部屋に移動する。そこは俺専用の調合部屋だから人が入ってくることは基本的にない。後片付けをして、元通りにして返してくれればいい」


「わかりました。道具は……」


「一通り機材はそろっているし、道具も使っていいぞ。測定器は【詳細鑑定】と同じ性能だから安心してくれ。夜の九時には一度点検に来るがそれまでには調合を終える様に。夕食は何時にとる?」


「大体六時くらいですね。だから、調合は遅くても五時で一度やめて、食後に寝る支度をしてから体力切れまで調合ですね。調合終わったら、ベッドで朝まで熟睡です!」


「……なんっつーか、実技試験追い込み直前の三年みたいな生活してんのな」



 何とも言えない視線を向けられたけど、実技試験っていうのが気になったので詳しく聞いてみることに。先生曰く、実技試験に私物は持ち込み禁止らしい。面白いのは、自分で調合するアイテムを選ぶという形になっている所だ。



「え、アイテムって三種類作るんですか?!」


「知らなかったのか。回復薬・攻撃アイテム・その他の三つだ。対象アイテム一覧ってのがあるから、飯の時にでも目録を渡す。ま、ライムたちの工房は実技に関して指導は全く必要ないと思ってるが……俺としては『その他』で共同調合をするのもいいんじゃないかと思っている。恐らく、追加試験として一人でもう一度同じアイテムを作ることになると思うが、どちらも成功すれば多少筆記の結果が悪くても問題なく合格できるだろう。何せ、共同調合できる錬金術師は今、一人もいない。昔は、魔力回復の効率がいいってことである程度できていたらしいが、師弟制度利用率が下回るにつれて共同調合も廃れていったんだ。あれは、通常調合とは違う難しさがある……俺も学生の頃に挑戦したことがあるが、失敗続きで諦めた」



 ひょいと肩をすくめた先生に相槌を打ちながら、そんなに難しいだろうかと改めて思う。

 共同調合は成功すればほぼ合格らしいが、失敗すると全員失格という一撃必殺みたいなものなんだって。ま、筆記試験で最低97問は正解しないと実技試験も受けられないそうだけれど。



「リアンやベルと話してみます。それと、先生……調合用の素材が足りなくなったらどうしたらいいですか?」


「ん? 何が必要なんだ」


「大量に使うのは砂糖、魔石粉、温宝花と冷宝花、あとは密封瓶、浄化石あたりです。明日は【滋養強壮剤】の調合だろうし、できれば直ぐにでも」


「あーなるほどな。素材の量を考えるとかなりの量がいるか。これはなー…んー、経費でいけそうだ。【発泡水】は課題の【滋養強壮剤】に必要不可欠なもので、採取をしていたら魔力を無駄に消費することも素材が必要になることもなかったからな。多少値が張るのが温宝花と冷宝花、あと魔石粉だがどうにかなるだろ。貴族の要求する『必要なもの』より断然安上がりだ。砂糖に関してはかなり多めに頼んでおく。余ったら工房に持って帰っていいぞー」


「やった! 最高品質の砂糖で! 混じり物があると品質ががっくり落ちちゃうんですよ」


「わかったわかった。頼むのは学院の購買だから在庫があるものはすぐに運んでもらう。奴隷を借りるぞ。で、ライムは調合準備をしていてくれ。下処理だけで一時間はかかるだろうから、それまでにあるだけのものを運んでおく。一応、部屋をノックするがそれでも聞こえなければ呼び鐘を鳴らす。呼び鐘ってのはこれだ、扉の横に紐があるだろ。それを引くと中にある鐘が揺れて音を出す」



 ほれ、と言いながら紐を引いた先生の動きに合わせて、リンリンと甲高くも綺麗な音が響いた。扉一枚隔てているとはいっても音はそれなりに大きい。



「んじゃ、コレ渡しておくわ。ここの鍵だ。合鍵を持ってるのは俺だけだから、基本的に開けられることはない。安心して調合してくれ」



 じゃあ、後でなとサフルを連れて先生は歩いてきた廊下を戻っていく。

 その後ろ姿を見送って、私は貰った鍵で案内された調合用の部屋へ。



「おお、広い!」



 ワート先生専用だという調合部屋は、私たちの工房スペースの二つ分はあった。作業机は三台、調合釜は二つ。蒸留器や遠心分離機、各種計測器、混ぜ棒もかなりの数が備え付けの道具掛けに並んでいる。


 肝心の素材はすでに運び入れられていて、袋に入れた状態のものが床に置いてあった。ひとまずそちらへ足を向けると、近くに洗い場、大型の乾燥台まで備え付けられていることに気づく。乾燥台っていうのは、大きなトレーみたいな形をしていて、特殊な器具の上にセットし蓋を閉めることで熱風を発生させ素材を乾燥させることができる魔道具だ。かなり高いし、新しい道具ということもあっておばーちゃんは持っていなかった。



「すごいなぁ。これなら順調に調合できそう。まずは下準備ってことで……こっちの作業台に布を敷いておかなきゃ。葉っぱを洗って汚れを取り除かないとね」



 針状の葉を枝から外すと根元あたりが結構汚れているから、先に枝から外して洗う。外す段階で少し茶色くなっている葉にも気づけるし。力を入れるとプチッと抜けるので手早く作業をしていく。なんたって、量が量だ。ハサミを使って葉の部分を切り取る方法もあるけれど、引っこ抜いていく方が私は好み。


 分量を量らなくちゃな、と分量の計算……といっても、すでに最大調合量で作れるように計算したものを書き込んであるのだ。1リットル分の水に対して砂糖や塩の量が何グラムで何%、みたいな計算はできるだけしないように。まぁ、ウィン助手先生に「集中的に教えます」っていわれてるから頑張らなくちゃだけれども。


 しばらく無心で葉っぱを外していると結構な量になった。三十分で大きなボウル五つ分はかなり頑張った方だと思う。この分だと外すだけの作業は部屋でもできそうだ。

 外した葉っぱは、ボウルを洗い場に運び、ざっぱざっぱと洗う。汚れが浮いてくるのを何度か洗って落とし、用意していた布の上に平らになる様に広げた。その上から吸水性の高い布をかけて軽く押さえると準備万端。


 次に、温宝花を粉末にする。結晶状の温宝花は【粉砕機】があったので其処に入れる。ここで粉末状にするんだけど、全体量から使った枚数を均等に分けることになるから、時間がかかる。しっかりきっちり枚数を数えながら粉砕機に入れて、粉末になったものの総量を計り、均等に計りながら小分けにする。この作業が一番大変だった。


 温宝花の粉末化が終わったところで取り付けられた鐘が鳴らされたので、作業を中断しドアを開けると冷宝花などの素材を持ったサフルがいる。大きな台車に載せてきても一度では運びきれなかったようで、何度か往復するそうだ。

 運んでくれた冷宝花も同じように計り、計算して小分けにする作業を続け、砂糖の確認。

純白のそれを見て、ほっと胸をなでおろした。これなら調合失敗さえしなければ問題なく【甘い氷】が作れるはずだ。



「じゃ、まずは……甘い氷を作りますか」



 最大調合量で計算したけれど、時間との勝負というところがあるので慣らし調合はしない。ぶっつけ本番だ。

 緊張はするけれど、これはこれで楽しいのでサクサク必要な道具を調合釜の周りへ運ぶ。


 手順は下の通り。



【甘い氷】砂糖+温宝花(花弁六枚)+魔石粉(赤・青)+冷宝花(花弁七枚)+水素材

 氷のように固まった甘い砂糖の結晶。魔力色および魔力の味、水素材の味が反映されるため応用が利く。手順を間違うと成功しない。ゆっくりと溶けるので果実酒づくりなどに利用される。錬金術ではない方法でも作成可能だが時間がかかる。

=手順=

1.砂糖と水を調合釜に入れ、加熱

2.砂糖水になったら冷宝花を粉末にしたもの(花弁一枚分)を投下し魔力を注ぐ

3.小さな結晶状のものが完成したら取り出し、温宝花の花弁をいれ七十度まで加熱

4.3で完成した結晶と冷宝花を投下し魔力を加えながら混ぜる

5.このように交互に温宝花と冷宝花を加えながら結晶を大きくする



 魔力をたくさん使うので、最初に甘い氷をひたすら作る。幸い回復薬は貰えるみたいだし、遠慮なく進めるつもり。

 分量を計測した素材を運び、使いやすいように配置。手順を再度確認し、指差し確認をしつつ自分の中で流れを再確認。ふっと息を吐いて、調合釜に向き直る。



「まずは、砂糖水を作らなきゃ」



 砂糖と水素材…【エンリの源水】を今回は使用する。計った分を投入し、温度を少しだけ上げて加熱し、砂糖を煮溶かす。綺麗に溶けたところで、火を弱火にして冷宝花の粉末を投入しながら魔力を注ぐ。ゆっくり、けれど確実に調合釜の中が冷えていくのがわかる。

魔力は外から徐々に、冷やすイメージで注いでジッと調合釜の中を見ていると徐々に小さな結晶が調合釜の中に出来始めた。


 おお、とワクワクしながらグルグル混ぜていると小指の爪ほどの結晶が五つ、ぷかりと浮かぶ。わくわくしながら掬い、次に温宝花の粉末を入れて加熱。今度は温度指定があるから温度計とにらめっこ。



「この温度調整が結構、大変なんだよね…一瞬で温度下がるし」



 むぅ、と唇が突き出るけど本当に大変なのだ。

ベルやリアンも私と同じ意見で、調合中も温度の調整でいつも「ああまた下がった!」「温度を保つ魔道具とか作れないものなのか?」とかそんなことばっかり言っている。錬金術師あるあるだよね、なんて無事に完成したアイテムを前に顔を見合わせて話すことも多い。リアンもだけどベルも意味のない会話をしたりするしね。そこにラクサが加わって、細工師と錬金術師の苦労の違いなんて話をすることも多い。最近はミントが加わることが多いかな。



「あ、七十度! ここだー!っと」



 準備していたので七十度を確認して火を弱火、そして冷宝花粉末と砂糖の結晶を投下。徐々に、周囲の砂糖を小さな結晶にまとわせるイメージで焦らず、でもケチらずに魔力を注ぐ。三回目の加熱で中級魔力回復薬をグイッと飲んだ。

 熱して、冷やしてを交互にするからか中々疲れるけれど、最終的にプカリと浮かび上がった五つの手の平大の結晶はうっすら透き通っていてとても綺麗で。わくわくしながら測定すると無事、品質Sで完成させることができていて、余分な体の力が抜けたような感覚を味わう。



「これを後二回かー…いいけど、やっぱりベルとリアンがいた方が楽しいなぁ」



 次の調合の準備をしながら無意識に呟いた内容に自分でびっくりした。

 今まで、本当に気にしてなかったから。私が調合してると大体リアンかベルがいて、いない時はサフルやラクサがいた。

 ふっと振り返って広い室内を見渡す。

 がらんとした部屋はまるで自分の暮らしていた部屋みたいに見えて、何とも言えない気持ちで砂糖を手に取る。



「……ちゃんと、できる様にならないとね。二年生になったばかりだけど、一年なんてあっという間だし。ベルやリアンに頼りっぱなしだもん。もっと頑張らないと……サフル達を養うのは私しかいないんだから」



 できることから、と口にしてるけれど出来ないこともできる様にならなければいけないという焦りはずっと付きまとっている。一人の生活なら、できる範囲が決まっていて大変な思いをするのは結局自分だけだったからどうにかなっていたけれど、今度はそうじゃない。



「お金もいっぱいかかるから、たくさん稼がなきゃ。冒険者依頼とかもマメにチェックしに行った方がいいよね……お金のことだからリアンに相談したいけど、迷惑かけるのは嫌だし」



 ベルに『未来』の話がしにくいのは、きっと貴族だからだ。

一年生の頃より多くなったのは『婚約者』についての愚痴。何人かいるという候補に加わった人物が嫌だとひたすら言っていた。というのも、王族が二人ほど候補者に上がったらしい。

 私やミントはすごく驚いたけれど、レーナたち貴族はよく知っていて「ああ、あの」と納得していたので詳しく聞くと、上流貴族であればよくあることだと教えてくれた。



「ああ、もうやめやめ! 考えてたら失敗しちゃいそうだし、ちゃっちゃと【甘い氷】作っちゃわなきゃ」



 よっしゃ、やるぞー!と気合を入れて声を出せば、思考はあっさり調合モードに切り替わる。明日作る【発泡水】の出来で今回の【滋養強壮剤】が成功するかどうかが大きく左右されるから、頑張らないとね。



まだまだつづきますー!

なんとか水曜日に更新できた。

次回、素材とかかける、、かな?と思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [気になる点] 氷石糖も氷砂糖互換だけど、作り方や使い方の差別化や特長の比較が全く無いのちょっと気になる。
[一言] 調合だ!ヤッター!! そうだよなぁ、貴族ならばそうなるよなぁ ただでさえまともな錬金術師で才能があるのならその縁は紡いで行きたいよなぁ ベルは溜まったもんやないけど…ww 更新感謝〜!!!!…
[良い点] そうよね。ライムが卒業後のことを見越して動くように、ベルだって卒業後のことがあるわけで。貴族なら在学中に婚約、卒業後に結婚ですよね~。あの勘違い年下幼馴染は論外と思っていましたが、ベルが手…
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