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29.5話 ???視点

 初の間話。

超短編ですし、読んでも読まなくても問題なしです。

……いつか出したいけれど、彼が出るのは一体いつになるんだろうか…。

時間軸なども少しずれています。



 双色の髪を持つ女の子が入学したという噂を耳にしたのは入学式を終えた翌日のことだった。


思わず、足を止めて教室内で噂話をしている男子生徒たちの会話に耳を傾ける。

 心臓が妙な速さで脈打っているのが不快で、もしただの聞き間違いだったらどうするんだなんて思いが浮かんで…期待している自分に内心苦笑した。



「いや、本当なんだって!俺の幼馴染が錬金科にいるんだけど入学式の時に間違いなくいたらしいぜ。黄色っぽい金髪と毛先の方が緑色で、瞳も似た感じの色合いで目立ってたってよ。そりゃそうだよな、双色なんて伝説かなんかじゃなきゃ聞かないし」


「へー、で?その子って貴族なんだよな。家名は?」


「いや、教員と一緒に話してたから声はかけられなかったからわからないらしい。なんでも新しく取り入れられた制度に参加したってことだけはわかったみたいだけど…なんていったっけ」


「新しい制度で錬金科っていやぁ工房実習制度なんじゃないか?学院外で生活しながら学ぶ方式だって聞くし、学生寮で暮らして基本学院から出ない俺たちじゃお目にかかる機会もなさそうだな」



髪の色を聞いた瞬間に微かな期待が確信に変わった。



(ライムだ。でも、本当にあのライムが、この街にいるのか…?)



記憶の中の彼女は幼いままだったけれど優しく偉大な錬金術師の祖母と暮らしていたはずだ。


 俺が別れを告げた直後に育ての親でもある祖母を亡くしてどうしているのだろうと、心配しなかった訳じゃない。

 会いに行って慰めたいと思ったことも何度だってあったけれど、その時の俺にはなんの力もなくて死に物狂いで学ぶ日々が続いていた。

 手紙を出そうにも、住所がわからなくてただ心配だけが募っていった苦しい日々を思い出す。



(―――…でも、ライム以外に双色をもつ人間なんて聞いたことがないし、いるん、だろうな。きっと、この街に)



 話をしていた男子生徒たちは既にその場を離れていて、教室内に残っているのは俺ひとりだった。


  知らない、興味もない同級生に囲まれるよりずっとひとりの方が楽だった。

 俺の肩書きや家名や権力に擦り寄ってくる面倒で煩わしい人間が視界に入らないだけでもひとりでいることは意味があった。


 けれど、俺だって仲間や人のぬくもりを知らない訳ではないから痛みだって、寂しいという感情だって、あるのだ。



「次は移動教室だったか」



ふっと息を吐いて時間を確認した俺は少し早足に演習場へ向かうべく教室を出た。


 これから初めて授業で召喚獣を呼び出すのだ。

俺は屋敷いえで何度も召喚自体はしているし、出来るという自信も確証もあるので感情が揺さぶられることはない。

一応、生き物を召喚するのは初めてだし、今回の授業は生涯を共にするという召喚獣を呼び出すことになるので勝手は少し違っているが随分と早い段階で色々と叩き込まれている。


廊下で会話をしている、おそらく同級生であろう生徒たちは自分の召喚獣が何になるのか気になっているようで興奮したり、不安そうだったりと普段以上に会話が多い気がする。

 召喚する際に感情が乱れると魔力のコントロールが難しくなるから常に冷静でいるようにと初めに躾けられているはずなんだが、と頭の片隅で呆れたのは言うまでもない。




(にしても、貴族というのは本当に面倒で厄介で煩わしいな)




 廊下に出れば視線をいたるところから感じる。

 貴族ばかりといっても様々な立場の、様々な考え方をする人間がいるのだ。

絡まれてはたまったものではないと標準装備と化した無表情を貼り付けて廊下を進む。

演習場まではそれほど時間はかからないし、道を間違うほど方向音痴というわけでもないので歩みを早める。

 強く望んだわけではないが、今後必要になるかもしれない貴族という地位。

自分の行く末を考えて思わず舌打ちをしそうになったがどこで誰が聞いているのかわからないので、心の中に押しとどめる。


 演習場についた時、ほとんどの生徒が集まっていたが俺はその輪の中に入らないよう、目立たない壁際にもたれかかって何をするわけでもなくぼんやりと思考を働かせる。



(そう、だ。会いにいく口実なら、ある)



深めのポケットに突っ込んだ指先に触れた硬質的な感覚に目を細める。


 ポケットの中には大切な、命よりも大事な暖かな思い出の結晶とも言える首飾りが入っている。

一般的に普及している“結晶石の首飾り”というアイテムであることに違いはないが、これは特別だ。

なにせ、この首飾りは彼女が生まれて初めて一人きりで調合したアイテムなのだから。

 少し変わった『青の導き』という特殊な効果がついていて、青色ではなく今まで確認されていない無色のまま魔力が込められた結晶石。

 魔力の色に応じて色が変わるという特徴がある結晶石に無色で魔力を帯びたものは存在しない。



 ぎゅっとポケットの中で確かめるように首飾りを握り締める。

辛い時も苦しい時も支えになってくれたのはこの首飾りと思い出だった。

思い出したくもない記憶の方が多い俺にとって、この首飾りと彼女にまつわる記憶だけは忘れたくないし、実際忘れることなどないだろう。



(喜んで、くれるだろうか。ああ、でもアレをそのまま渡すより加工した方がよさそうだな。腕のいい職人に頼んで、完成したら会いに行こう)



 この首飾りの対価として。

 一番そばにいて欲しい時にいられなかった詫びとして。

 これからも交流を持つための切っ掛けとして。



決意を固めた俺の耳に教員の声が聞こえてくる。

どうやら授業が始まるらしいので、一度考えを中断して敵ばかりがいる人間の輪の中へ足を踏み入れた。



――――…君は、俺のことを覚えていてくれるだろうか…?



 時々、別キャラの視点なんかや小話を挟めたらいいなーと思っていたりいなかったり。

個人的に見習い騎士のエルやベル、リアンなんかのを書いてみたいです。

本編…ええ、わかっていますとも。本編が本命。


=素材・調合アイテム=

【結晶石】白~透明の鉱物。周囲の森を探せば容易に見つかる。

加工がし易いので庶民の宝飾品として広まっており、価格もお手頃。

稀に色の付いたものが発見されるが、大体は魔力が満ちた鉱山の奥で見つかる程度。

色つきのものは魔石として高値で取引される。

 錬金術の素材になると魔力の影響を受けて、込められた属性に応じた淡い色がつく。

その為、無色透明な石に属性の付いた効果はついていないのが常識。


【結晶石の首飾り】錬金術師でなくても作れる初級者向きのアクセサリー。

結晶石の発見が容易いこともあり、練習台としてよく使用される。

元手はただに等しいが、魔力が込められることで少しだけ効力も上がる。

低レベルの冒険者に人気。


=特殊効果=

『青の導き』青属性と呼ばれる水属性の魔法を一つ付加できる。



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