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310話 『工房生特別交流会』の始まり

短いですが、サクサク行きまーす!


 暗闇が怖いと思ったのは久しぶりの感覚だった。


 オマケ誘拐の時は色々と展開が早すぎたり、考えることが多かったり、やらなくてはいけないことがいっぱいあったりでとにかく必死だったから。

 覚えた通りに設置できたテントの中でふっと息を吐く。足元にはルヴがいて、なぜかテントの天井には『青っこいの』がいる状況だ。

目を閉じて衝撃の再会を思い出したのは仕方がないと思う。



「青っこいのがコッチに来てるとは思わなかったよ。なんだか大きくなって、豪華になったみたいだし」



ぽそっと呟いただけだったのに、青っこいのがヒューンと降りてきて私の顔の横に留まった。

虫毛ちゅうもうと呼ばれるフワフワの毛を一生懸命私の頬にこすりつけ、そして触覚でツンツンと私の肌を撫でる。青っこいのはこのフワフワを自慢するように擦り付けてくるのだ。



「会いに来てくれたのは嬉しいけど、つらくなったらいつでもここに入るんだよ?」



 ここ、というのは小さな道具入れ。

丈夫な皮で薄い金属を包んでいるそれは強度もしっかりあるので多少のことがあっても潰れない。

 五センチほどになった『青っこいの』がすっぽり入れる大きさなのだ。



「この交流会が終わったらすぐに調べてもらわなきゃ。あと、この道具入れも居心地がいいようにと何かできないかな……寒いところはダメでしょ?」



 クリッと首を傾げた青っこいのはわかっているのかいないのか。

なんだかな、と苦笑しつつ、指差しでそっとその体をやさしく撫でてお休み、と声をかけると私の頭上で丸くなった。潰したらいやだから体の側ではあんまり寝てほしくないのだけれど…仕方がない。可愛いし。


 私が『青っこいの』と呼んでいる水蜂は、いつの間にか【ノヴィシージュ・アピス】という魔物に進化していた。種族名を知っているのは、リアンが慌てて鑑定してくれたからだ。

出発寸前だったから少しごたついたけれど、他の工房生も皆興味深そうに『青っこいの』を見ていたし、先生もかなり興味深そうで文句は出なかった。


 目を閉じて疲労を感じつつゆっくり体を休めることに集中する。

速度優先の移動だったからクッションを敷き詰めたとはいえ、衝撃と疲労はかなりのもの。私はオマケ誘拐である程度なれたんだけど、私以外の二人がそうではなかったので早めの休息をとることに。見張りはルヴとロボスの二頭とサフル。

 まだ魔物やモンスターの出現が少ない場所を拠点にしているから、しっかり休んで明日、早朝から動き始めることに。



──私が今いるのは『工房生特別交流会』で割り振られた初めて来る採取地です。




◇◆◇




 学院から手紙が来たのは三日前。


 「出発準備にたった三日か」とリアンは不満そうだったけれど、ベルは「急ぎで出発することもあるでしょ」と流していたのを覚えている。私といえば用意しなくてはいけないものが特になかったのでホッと胸をなでおろしつつ、重要事項に共存獣や奴隷の同行について何も書かれていないことに首を傾げた。


 学院側は私が共存獣と奴隷を持っていることを知っている。

きっと種族や強さなんかも把握しているだろう。それを禁止していないってことは連れて行ってもいい、という事なんだろうなと納得してルヴ達の装備を整える三日にしようと決めた。

お店の営業もあるから、共存士ギルドで共存獣用のアイテムレシピを購入。


 一瞬、なんでこんなものがあるんだろうって思ったんだけど職員さんの話だと「昔、共存獣大好きな錬金術師がいて、すべての共存獣が健全にかつ可能な限り安全に生きられるように」と便利な錬金装備やアイテム、薬なんかを作ってはレシピ開示したらしい。

有難いなと思いつつ作ったのは新しい首輪とコート。



【相棒の首輪】最適対象:狼系、猫系、人型

 皮にたっぷり所有者の魔力をしみこませ、ついでに害虫除けの効果も! 大切な相棒を守る為の首輪です。賢い子用に回復薬を入れられる専用道具袋のレシピもあります(買ってね)。付属する魔石に魔術陣を刻めばさらに強力に!


【相棒の道具入れ】対象:狼系、猫系、人型

 魔力を使える子も使えない子も簡単に専用の薬が飲めるようになっています。咥えてコルクを外す方式なので使い方を覚えれば簡単!おやつを入れることもできるよ!


【愛馬との絆革(頭絡・馬銜・手綱)】対象:馬系

 乗馬中の愛馬とレッツ・コミュニケーション。気持ちよく走ってもらえるように雨の日は飼い主が魔力を込めると雨除けの魔防壁を張ることができます。フシギだね! 複数ある革紐は愛馬ちゃんに似合う色にしてあげてください。また、しっかりばっちり魔力をしみこませられる作りなので愛馬ちゃんも安心!

※額革・項革・頬革・鼻革・喉革すべて揃い、手綱もしっかり合わさった充実の出来ですがあくまで素材の革を作るレシピなので優秀な革職人に最後の仕上げを託すように


【愛馬のための肢巻革】対象:馬系

 大事な愛馬の大切な足を守るための装具。繊細で力強い脚をしっかり守る頑丈でしなやか、着け心地の良い肢巻の革を考えました。金属が入っているから調合はちょっと難しいけれど、可愛い愛馬の為に頑張ってね★


【愛馬のための馬着】対象:馬系

全身毛に覆われ、寒さに強いと言われる馬や馬系の魔物。でも、寒いものは寒い!そんなときの為に馬着をどうぞ。冷えを予防するだけでなく、恒温性能をつけているので温度が一定で快適な馬着ライフを送れること間違いなし! 虫が寄ってこないように対策もばっちり。汚れも雨もばっちり弾きます。素材がちょっと高いけど、愛馬のためだ仕方ない!



 他にもリードとか蹄鉄とか色々『相棒シリーズ』『愛馬シリーズ』があるんだけど、それは時間的にも資金的にも厳しかったので諦めた。

 素材の革はベルから買い取り。

革屋さんにも行ったんだけど、ベルが自分で狩ってきて業者に持ち込んでいた革が一番いいって言われたんだよね。

革の加工賃も本来なら結構するのだけれど、錬金術師が加工した錬金革は職人なら一度は扱いたいというものらしく安くしてくれた。職人さんにもいろいろ扱いたい素材があるのは知っていたけど、まさか革職人にまで適用されるとは。


 流石に申し訳ないので、自分用に作ったセンベイ(ミル味)を渡してみた。

これ、ミルの実の果汁と砂糖を入れて甘くしたものだ。ルヴ達用に塩分を控えたセンベイを作るために考えたんだけど、美味しかった。人間用には砂糖を追加して少し甘くしたんだけど、これが大正解。


 正規の加工賃を半額にするからセンベイを二セット(十二枚×二)で、話がついた。

加工は間に合わないかもな、って考えていたんだけど、とんでもなく頑張ってくれたみたいで二日目の夜に完成したとボロボロになった職人さんが工房まで届けてくれた。


 流石に申し訳なくなったのでポーシュに乗る練習がてら送ったのだけれど、ポーシュの横をベルが並走してきたのには割と本気で驚いたっけ。

何とかポーシュとルヴやロボスの装備はできたんだけど、『青っこいの』の分はまだ何もないのだ。帰ってきたら共存士ギルドで相談するつもり。


 私の同行者はジャックとレーナだ。

行く先は『緑の楽園』と呼ばれるケルトス方面にある採取地。ここは湿地と平原の二面性を持っている土地なので植物素材がかなりたっぷり採れる、と聞いている。錬金術師や素材目当ての冒険者が多い…とは言えないのは、虫が多いから。モンスターではない虫が多い場所は、厄介なんだよね。


 ベルは、クローブとリムの三名でシュツル方面にある『豊かな谷底』へ。

ここは魔物の出現率が高いことでも有名らしく、動物系の素材が豊富。虫が少なく狩りの対象が多いことにベルは喜んでいた。


 リアンはヘンリーとマリーという組み合わせで『嘆きの池』というアンデッド多発地帯に行くらしい。素材は神秘系と特殊な環境で育つタイプの素材。装備やアイテムの準備をして、採取地での採取可能素材及び作成可能アイテムを調べてってなるとかなり忙しいし、無理しなくちゃいけないスケジュールだった。


 なので、組み合わせが分かった時点で学院の空き教室を貸し切り、図書館で素材や作成できるアイテムを調べる人、採取地について聞き込みをする人に分けた。私は採取地について聞き込みする方に回ったけれど、情報がたくさん集まりすぎてまとめるのも大変。


 それでもどうにかできる限りの準備を整えて出発。

私達のパーティーは参加者が多かったけれど、ポーシュが馬車を引いてくれたので時間はかなり短縮できた。まぁ、他の場所に行った皆も移動手段として馬を使ってるから、移動時間はかなり短縮できている筈だ。

同行しているのはサフル、ルヴ、ロボスとポーシュ、そして『青っこいの』だ。


 参加した奴隷は、サフル以外にはマリーの所にいるコンフの二名。

禁止事項が『外部の人間を雇うこと』だから、共存獣はいた方が楽だ。



「それにしても……ベルの言う通り本当に料理が上手なのですね」



 しみじみとそう呟くのレーナの手には、パパッと作った朝食用のスープ。

野菜やお肉を挟んだパンと串に刺した果物という簡単なものだったけれど満足してもらえたみたい。お腹が空いた時の為に用意したオーツバーは、食料という名目で持ち込んでいるので評価には響かない。人数分作ってベルとリアンにも持たせているし、多めに食料は渡したのは言うまでもなく。



「パンも具も本当に美味しいですよね。僕らの工房で何度か料理を教えてもらって、食事を共にしたこともありますが……正直、これが毎日食べられると思うと羨ましい限りです」



 しみじみと話すジャックは二年になってから片眼鏡を身に着けるようになっていて、妙にしっくりくる。似合ってるよね、と話したのは移動中の事。

照れたように、でも誇らしそうに笑ったジャックはかなり明るくなったと思う。

一年の時は暗い雰囲気だったから。



「私ができることって料理と採取くらいだからね。戦闘能力がないから他のことでカバーしないとまずくてさ」


「でも、貴女には奴隷と共存獣がいるでしょう? 立ち回りも回復と支援だと聞いていますし、私が近距離でジャックが長杖で中距離だから、バランスはいいと思うの」


「僕は杖と槍が使えます。といっても基本的に魔力で上乗せして戦うタイプなので、魔力回復が鍵に……あの、ライムさん、これは?」


「え? 魔力回復できるクッキーだけど。クラッカーの方がいい? グミもあるよ。一応食糧というかオヤツってことで持ってきたんだ。学院の規則で『薬』は決められたものって言われてるけど『食べ物』は禁止されてないから、評価に影響は出ないよ。先生に確認したから間違いなし」



 グッと親指を立てると二人の顔が何とも言えない表情に。

ちゃっかりしてますね、と呟いたのはレーナ。有難くいただきます、とジャックが少し迷っていたので一種類ずつ渡した。心なしか嬉しそうに道具入れへいれたジャックが小さく咳払いして地図を広げる。空はうっすら明るくなってきているとはいえ、夜行性の魔物やモンスターは眠りにつき、いままで寝ていたモンスターや魔物が活動を始めるより早いという絶妙な時間帯。

できるだけこの時間に行動したい。



「まず、一番素材が多いと聞いている湿地と平原の境目を進みましょう。拠点はどうしますか?」


「どうせだから移動しない? 最大で二日間の採取になるだろうから、ポーシュに馬車を引いてもらって素材が多そうな場所の近くで野営したいかな。必ず手に入れなきゃいけない素材もあるし。一つは夜に採取の予定でしょ。できるだけ移動距離が少ない方が負担少ないと思う」



 じゃあこの辺りを目指して移動をしましょうか、と具体的な指示を出してくれるジャックに頷く。ポーシュが引く馬車に私達が乗り込んだところでサフルが御者として手綱を握り、ルヴとロボスが並走。


 私たちはまっすぐに目的地に向かって草原を駆け抜けていく。

窓から見える素材たちをしっかり確認して、その都度二人に教えていたんだけど「よく見えますね」と引きつった声で褒められた。



ぎりぎり、どうにか。

青っこいのがこっそり合流しております。かわいいよーかわいいよー!

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[良い点] 更新ありがとうございます。 ミル味のセンベイとは、「雪の宿」的な?美味しいよね。 しかし、食べ貯めできるポーシュがいるとずいぶん旅程にゆとりができそう。馬の移動って食事時間と餌運びが大変っ…
[良い点] 青っこいのが登場した!まさかの進化してる! [気になる点] 後の二組のパーティの動向?ライムちゃんが薬草系採取なので沢山採取してくるのは確実!あせってないかなぁ? [一言] お疲れ様でござ…
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