29話 特殊効果と学院行事の話
がっつり調合どこいった?
なんだか予定よりあっさり調合終了です。
次回は…どこから書くべきか。なやましいー。
私に続いて調合に入った二人を横目に昨日の記憶を思い出す。
寝る寸前までというか完全に魔力が切れるまで調合しようと言いだしたのは…多分私だったはず。
いや、実は魔力切れまで魔力を使っていると魔力量が増えるって昔聞いた記憶があるんだよね。
って、そうじゃなくて。
(確か、アオ草二回分じゃ多すぎで半分量だと少ない、一回と半分の量にしてみようかな。水の量は…同じでいこう。出来上がりの分量が減るのは嫌だし)
アオ草を一株と半分とって葉っぱを毟り取り調合釜へ。
背後で感心したように頷いているワート先生を無視して調合に集中した。
ぐるぐると混ぜながら魔力を注いでいて、この分量が正解であることがわかったのは最後に葉っぱが消える段階になってから。
(あ。普通の時より綺麗な黄色になってきた)
これはもしかして?とワクワクしながら完成した調和薬を瓶に移し替えていると調合を終えたらしいベルが興味深そうに近寄ってきた。
彼女の手には品質Cと思われる調和薬。
どうやら二回目も成功したらしい。
「あら?ライム、貴女の調和薬なんだか色合いが変わっていますけれど、失敗…ではなさそうですわね」
「ちょっと分量を変えてみたんだ。昨日は爆発してたんだけど、今回はうまくいったみたい。結構いい色だよね―――…黄色っていうか、黄緑色って感じだけど」
こんな色あったかな?なんて首を傾げつつコルクを閉める。
出来上がった調和薬を二人で見ていると興味を惹かれたらしいリアンも近づいてきた。
「丁度いいわ、リアン。貴方ちょっとこれ鑑定しなさい」
「君に命令される謂れはないが…まぁ、いい。ライムちょっと貸してくれ」
諦めたように息を吐いて私から調和薬を受け取ったリアンだったけれど、表情が徐々に変化して最終的に考え込んでしまった。
どうしたんだろうかと顔を見合わせる私たちの様子に気づいたワート先生が近づいてきたんだけれど、リアンの持っているものに気づいてなるほどね、と小さく呟いた。
「これを調合したのはライム君だね。見たところ品質がかなり高い…上に特殊効果もついているようだけれど」
「品質はB+。特殊効果『緑の祝福』がついていますね」
「へぇ!そりゃいい。『緑の祝福』は緑属性の魔力を持った錬金術師が緑系と称される高品質で祝福された薬草を使用した時に三分の一の確率でつくものなんだ。恐らく、薬草自体に秘められた魔力や効能が限界まで引き出された結果だろうね。これも、ライム君の魔力色を考慮すると絶対に不可能とは言い切れない。品質もいいし、売ってくれるなら…そうだな、金貨2枚で買い取るけどどうする?」
「き……?!え、これ調和薬ですよ!?珍しいかもしれないけど金貨二枚?!」
嘘でしょ?!と思わず後ずさればワート先生は不思議そうに首をかしげる。
何もおかしいことなんてないのにな、とでも言うような表情だ。
「珍しい上に研究材料としても証拠としても有用だからね。足りないなら金貨3枚でもいいけど」
「教授、あまりライムにそのような提案はしないでください。ライム、これはまだ君が持っていた方がいいだろう。こういう希少で珍しいものが世に出てしまえば目立つからな」
リアンは調和薬を私に返してすぐポーチにしまうよう指示を出した。
リアンの表情は、なんだか鬼気迫るものがあって怖かったので素直にポーチへしまった。
(金貨三枚…そんなにするんだ、すごい特殊能力付きだと)
そんなことを考えているとベルも同じように難しそうな顔をしている。
「ワート教授、この件は誰かに報告しますの?できればまだ貴方の胸の内にしまっておいてくださると助かるのですけれど。どう考えても、同じものを作れるとは思えませんし偶然という可能性もありますわ。どのみち、入学して二日目でこのようなものが作れると知れ渡ればライムは工房生から外される可能性が高い…違いまして?」
「え、なにそれ。どうしてそーゆーことになるの?」
話が飛躍しすぎていてさっぱりわからない。
慌てて聞き返してみたけれどベルも理解しているであろうリアンも難しい表情のままワート先生の顔をじっと見つめている。
視線を受けた先生は暫く何か考え込んでいるように胡散臭い笑顔を貼り付けていたけれど、直ぐに両手を挙げて降参のポーズ。
「途中からは流石に悪ふざけが過ぎたかな。だけどライム君以外の二人は状況把握が適切にできてるみたいで何よりだよ。大変だと思うけど、ライムくんの教育と見守り頼んだ。で、この件だけど他言無用ってことで。勿論、俺は何も見てないし聞いてない。ライム君は一回だけ調合をしただけだ…これでいいね?さてと、調合について聞きたいことがあればいつでも聞くけど何か聞いておきたいことはあるかい?」
まだ時間はあるからと近くにあった椅子に座るよう言われたので、椅子に腰掛けると目の前にいる先生が初めて会った時と同じような胡散臭い笑顔を向けてくる。
ベルもリアンも警戒しているように先生を見ているけれど、私といえば何を聞こうか少し迷っていた。
「じゃあ、調合で作るワインって今の私にでも作れたりしますか」
「ワインか。うーん…そうだね、調合の基礎である調和薬を品質Cで作れるなら大丈夫。教科書にも書いてあるだろうけど、結構な量の魔力を使うから作るなら魔力が減っていない状態で作った方がいいだろうね」
「ちなみに調和薬なら何回分くらい?」
「そうだなぁ…大体、5回分くらいかな」
私は今、調和薬なら15回分作れるから3回分なら作れることがわかったんだけど、そこでまた疑問ができた。
「ちなみにですけど、一回分のワインってどのくらいの量ができるんですか?」
「ワインのボトルで一本分だね。熟成は最低三ヶ月いるし、葡萄は熟したものを使えば仕上がりは良くなるけど」
「あ、それは大丈夫です。じゃあ、もう一つ。干し葡萄って調合で作れますか?」
今朝食べた葡萄は完熟した美味しいものだった。
だからこそ傷むのが早いんだけどね…うん。
干し葡萄の作り方を聞いたのはレシピがあるなら手っ取り早く干しぶどうができると思ったからで深い意味はなかったんだけど、ワート先生もベルもリアンも驚いていた。
「干し葡萄を調合で作る……? というか、作れるのかい?」
「え、作れないんですか? 錬金術って基本的になんでも作れますよね」
「まぁ、そりゃ作れるけどレシピは確立されてないと思うけど。まぁ、中にはそういう物を作れる錬金術師もいるかもしれないけど、レシピの公開はされてないから先生は知らないな」
実験する分には構わないけど、とのこと。
食べ物の調合って上手くいけばぐっと家事が楽になるから助かるんだよね、素材も少なくていいし。
時間はかかるけど、調合ってそもそも時間かかるのが普通だもん。
「他に、というか君たちは何かないのかい? 工房生も学院で講義を受けることはできるけど、教員に話を聞くとなるとやっぱり休憩時間や放課後ってことになるからタイミングつかみにくいんじゃない? 今のうちに聞くだけ聞いておいた方がいいと思うけどな」
「では、お言葉に甘えて。まず、工房の運営資金に関することです。配布された資料に目を通した際、資金を増やす方法として店を経営する以外に別の手段があるのではないかと思ったのですが」
「お、流石首席。気づいたか。冒険者として得た報酬なんだけどね、これに関しては工房の運営費に回そうが個人のものとしようが一切関与しないことになってる。勿論、冒険者の仕事ばかりして錬金術師としての腕を磨くことを忘れると本末転倒なんだけどさ。ま、冒険者ギルドには騎士科のやつも出入りしてるし、そういった別の学科の人間と顔つなぎをしておくのもいいんじゃないかい? 実地合同実力証明演習は毎年あるし」
なんだかとても長い、それでいてちょっと聞き覚えのあるような名前の演習とやらについて詳しく聞きたいと思ったのは私だけじゃなかったみたいだった。
「なんですの、その長い名前のイベントは」
「噛み砕いて言えば各学科の生徒同士が6人ひと組のパーティーを組んで、実際にモンスターや魔物を倒したり野宿したり…フィールドワークを行う行事だよ。色々なやり方はあるが今年から大きく制度を変えて、必ず学院内の生徒同士で組むことが義務付けられたんだ。今までは冒険者を雇うのもOKだったんだけどさー」
困ったような笑顔を浮かべながら頬を指先で掻くワート先生の言わんとしていることはわかった。
つまり、貴族たちが生徒ではなく腕のいい冒険者を雇って成績を上げていたのだろう。
エルから聞いた合同演習の正式名称がこれなんだろうなーなんて考えているとベルが再び疑問を口にする。
「合同演習のことでしたのね。ある程度は姉たちから聞いておりますけれど……評価はどのようにしますの?」
「騎士科は討伐数や討伐したモンスターや魔物の種類、召喚科は契約したモンスターの数や種類、またはどれだけレベルアップしたかだな。錬金科は集めた素材を使って作成したアイテムで判断することになっている。勿論、使える素材は全て演習で手に入れたものだけだから、ある程度鍛えておかないと後で大変だぞー?」
「わかりましたわ。でも、演習ということは結構な期間実施するんですのね?」
「移動時間なんかも考慮して二ヶ月。ただ、錬金科は二ヶ月を採取期間として7日間の調合期間を設けてる。評価のポイントはいろいろだけど、まぁ品質と難易度は考慮している――――…この演習で提出するアイテムが進級できるかどうかの判断にも使われるから実質試験のようなものと考えていた方がいい」
詳しいことは時期が来たら発表されるからな、と胡散臭い笑顔を浮かべて質問を打ち切った先生は時計を見てそろそろ時間か、とぼやきながら片付けを指示した。
釣られて時計を見ると確かにそろそろ授業が終わる時間だった。
使った機材は少ないし廃棄するのも素材の茎くらいだったのであっさり片付けは終了。
丁度片付けが終わったところで授業終了の鐘が鳴った。
どういう仕組みなのかは分かんないけど、構内にだけ流れるみたいなんだよね…このキンコンカンコーンって音。
じゃあなー、なんて大分砕けた口調で教室を出ていったワート先生を見送った私たちは顔を見合わせる。
「とりあえず、購買いく?」
「ですわね。それと、資金調達のためにも学院内の依頼も見てみますわよ。確か生徒用のボードがあったはずですわ。調和薬の依頼があればいいのですけれど」
「今のところ調和薬を使った調合アイテムも作れないしね。帰ってからまた作るにしたって10くらいなら出しても平気、だよね?」
「問題ないだろう。ただ、問題は素材の調達についてだが」
「それならいい案があるから工房に戻ったら話そうよ!ついでに冒険者登録と肉屋と八百屋に寄っていこう!今日のスープの材料買わなきゃ」
並んで教室を出たあと、リアンを先頭にして購買部へ向かった。
何だか、今までと違ってやることが沢山あって毎日が楽しい。
今までは生活するので割といっぱいいっぱいだったし、こうやって人と話すことが楽しすぎて元の生活に戻った時に私は一体どうなるんだろうって不安にもなったり、ならなかったり。
難しいことを考えるのはその時になってからの方がいいだろうから、いいけどね!
まずは目先のことをなんとかしなきゃ。
特にお金。早いこと所持金、増やさないとなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
引き続き、スローペースではありますが更新していきますのでよろしくお願いいたします。
ってことなので誤字脱字変換ミスなど発見したら教えてやってください。こっそりでいいんで。