1話 始まりの前に
見切り発車のファンタジー?連載を始めてみました。
主人公が若干チート気味なので苦手な方は回れ右!です。
しょっぱなから通貨の話が出るので簡単に補足説明。
【鉄貨】 すごくやすい
【銅貨】 一番使う
【銀貨】 便利に使う
【金貨】 高い
【大金貨】 目玉ちょっと泳ぐくらい高い
設定しちゃうとアレな感じになる?と思い、ちょっとうん、あれにしてみました。
その内、変更というかしっかり設定するので区切りのいい所までお待ちいただけると嬉しいです。
とりあえず、平均月収の基準だけのせておきます!
【首都での平民(庶民)平均月収】について。
職業により収入が違う、ということでぼやかして書くことにしました。
書き始めが見切り発車という形でしっかり貨幣価値を加味せずかきはじめたこともあり、ココでは月収を明確にしないでおこうと令和6年5月22日に修正しています。
13年5月5日に貨幣の価値を変更。鉄貨が増えました。
令和3年1月18日に金貨1枚10万から1万へ。大金貨を追加しました。
令和3年12月1日 訳が分からなくなってます。はて。
令和4年2月3日 とりあえず、キリのいい所で貨幣価値を見直そうと決意
令和6年5月22 冒頭、および序盤の『平均月収』に類する箇所を明確にせず、曖昧な表記へ変更
テーブルの上に並ぶのは、私が暮らすトライグル王国の通貨。
それらを見て溜息とともに机に突っ伏した。
見慣れたテーブルの上には、銀貨が50枚と銅貨が35枚が数えやすいように積み上げてある。
まぁ、積み上げなくても間違いようのない金額なんだけど。
「貯金を入れても総額で大金貨一枚にもならないって洒落にならないよねぇ……どうしよう」
私の場合、日々の生活には殆どお金がかからないから十分すぎる蓄えだと思ってた。
でも、最近知った都会の事情は違うらしい。
錬金術にはお金がかかる。
けれど、それだけでなく 生活していくだけでもお金はかかるのだ。
家賃はどうにかなりそうだけれど、衣食住のうち、衣と食が危険。特に食の分野がかなり際どい。
この十年間コツコツ貯めてた私の苦労を一気に吹っ飛ばしてくれてありがとう、常識という名の現実。
そこから導き出される答えにうっかり絶望して、なんの変哲もない天井を意味なく見つめた。
遅くなりましたが今は亡き両親と10歳まで育ててくれたおじーちゃん、おばーちゃん、報告です。
「とりあえず、少しでも入学に掛かる必要雑費をどうにか抑えないと……入学早々に無一文かぁ」
私、ライム・シトラールは馬鹿みたいに学費の高くて名前の長い学院に行きます。
学費はなんとか投資って形で学院から借りられるそうなので、ギリギリ平気。
真面目に普通にやってれば投資資金(という名の借金)は返せるらしいし、まぁ、問題ないよね!
なんて可能な限り前向きに考えてるけど……これにもやっぱり色々あるわけで。
早いうちに人に渡せるくらいの調合ができるようになることが大前提。
「って、現実になりそうな怖すぎる冗談言ってる場合じゃなかった。入学式で着る錬金服一式に、インク、ペン…教科書と自衛用の武器ぃ?」
出費がかさむような悪魔の入学リストを眺めて思わず声が裏返る。
いや、だって…本当に火の車なんだよ?物質だけで言えば充実してるけどお金はないんだ!
へそくりなんてものもないし。
ちなみにこのリストは数時間前に帰っていった自称学院の教師が置いていったもの。
自称っていうのは――――…なんっていうか随分草臥れてたから。
草臥れていた理由は本人曰く『家が想像以上に遠かった上に悪天候が重なった結果』らしい。
(実際住んでる所は田舎どころか辺境って呼ばれてもおかしくない場所なんだけど、ちょっと大げさだよね)
私の住んでいる家は人里離れた場所にある。
王都と呼ばれる場所に行くには片道でもひと月かかるし、そこそこ大きい街にいくには一週間。
まぁ、最寄りの村に行くには半日だから特別不便ってわけじゃないんだけど……世間様からするとかなり不便らしい。
この山に家を構えたおばーちゃんは、ある種の変わり者として一部の人には知られている。
不便で魔物まで住み着く危険な山一帯を買い上げ、結界を張っているのだからまぁ、変人といえば変人だろう。
結界を張っているのは、周辺に希少な素材が自生しているからって言うのが最大の理由だったりする。
まぁ、その素材だって錬金術師や薬師といった専門職でなければ大した価値のないただの草や石ころみたいなものなんだけどね。
(あとは都会に住んでると色々ごたごたして面倒だからって言ってたっけ)
お金だって、おばーちゃん自ら行商という形で様々な場所を歩き、作った薬やアイテムを販売していたから結構稼いでいた筈だ。
でもそのお金も食糧や生活必需品、そして高価で希少な素材に悉く化けていったのでお金は残っていないんだよね。
あるのは作り置きされた薬や調合に使う道具、錬金術関連の書物といったものばかりだ。
ちょっとくらい残して置いてくれても……と思う反面、稼いだのはおばーちゃんだからおばーちゃんが用途を決めるのは当然だと思うから文句は言わなかったけど。
「あ、そうだ!おばーちゃんも同じ学院に行ってたらしいし、もしかしたらまだ何か残ってるかも」
一番嬉しいのは教科書と錬金服が残ってる場合。
錬金服っていうのは…錬金術師が身に着ける特別な服のこと。
生地は勿論、装飾に至るまで魔女や魔術師が制作したものを使ってるから丈夫で汚れにくく、汚れても直ぐにキレイになるっていう物凄いシロモノ。
この材料費だけで普通の家の年収分くらいにはなるんだけど、その上、この材料を加工して服にするにも高い技術力がいるから…3年分くらいの年収は覚悟しないといけないんだとか。
値段で言うと、冒険者および騎士用防具・武器<召喚術師用防具・武器<錬金術師用服って具合。
錬金術師用の武器は本人の使い勝手さえ良ければ何でもいいみたい。
でも、初期投資費が異常だ。
生活費が残る気配が一切ないもん。
そういえば、調合=錬金術ってことになるんだけど、おばーちゃんは「錬金術っていうよりも調合っていう響きの方が好きなのっ!」って何度も私に言い聞かせてた。
だからついつい調合って言っちゃうんだけど、意味合い的には同じだし昔はどっちも使ってたらしい。
「普段使ってる部屋にそれらしきものはなかったから――――…あの部屋かなぁ?」
家にお金はないけど部屋数は十分すぎるくらいにある。
理由は簡単でこの辺りに宿泊施設がないからなんだけどね。
おばーちゃんが有名な魔女もとい錬金術師だったから、村の外から来る人は大体家に泊まってた。
時には数十人ってこともあったみたいで流石にその時は部屋で雑魚寝だったけどね。
小さい子がくることは殆どなかったけど、たまに来てくれる子と一緒に遊んだりもした。
(おばーちゃんが死んじゃってからお客さんは殆ど来ないけど)
おばーちゃんが死んじゃった年はお客さんだった人とかがたくさん来たけど、年々少なくなってここ三年は全く来ていない。
一応部屋の掃除はしてるけど、正直物置小屋にしてしまおうかと何度も思った。
ま、まぁ?何部屋かは食糧庫にしちゃったけど。
「にしても、たっかい学費払うんだから、色々勉強頑張ってしっかり元はとらないとね!一流の錬金術師になって、私はここで一般人向けのお店を開くって決めてるし」
むんっと拳を握りしめて決意を新たにする。
(前々から「いつか」って思い描いてたけど、最終的にはおばーちゃんよりもすごいって言ってもらえるような一流の魔女になるんだ!)
ちなみに店は貴族お断りにする。
貴族って偉そうだし、言うこと滅茶苦茶だし、欲張りだし、無駄に偉そうだし、性格悪いし、嫌い。
おばーちゃんが認めてた貴族だけはまぁ…認めてもいいかな?いい人ばっかりだったし。
ふんふんふーん、と鼻歌を歌いながら部屋の中でも一番目立たない、というか一見普通の木の壁にしか見えない場所で歩みを止める。
隠し部屋がある箇所には必ず継ぎ目だとか切れ目ができる。
でも目の前にあるのは本当に普通の壁だ。
ついでにいえば魔力探知にも引っかからないから開けられる人はかなり限定されている。
どういう作りなのかはわからないけど、おばーちゃんの認めた人間しか入れないんだって。
ここに入ったのは一度だけ。
おばーちゃんに初めて「魔女になりたい」と告げた時だった。
嬉しそうな顔をしたおばーちゃんはこの部屋に私を連れて、そこで『手帳』をくれたんだ。
貰った手帳にはレシピが書いてある…筈なんだけど私に実力がない所為でさっぱり。
(手帳の内容は血縁者っていうかおばーちゃんに認められている私にしか内容がわからないから安全だけどね)
手帳の中身は私とおばーちゃんにしか読めない言語『ニホンゴ』っていう文字で書かれているので、解析はかなり難しい筈だと聞いた。
(三種類あるもんね、文字。っと、そうじゃなくって……使えそうなもの探しの続きっと)
ドキドキしながらわかりにくい溝へ指をかけ、そうっと横へずらしていく。
徐々に開いていく戸の隙間から室内を覗き見た。
陽の入らないその部屋は薄暗くて、開いたドアの隙間から差し込む明りが真っすぐに暗い室内に伸びている。
「よかった。ここ、ずっと掃除してなかったけど、やっぱ埃よけの魔法施してたんだ」
塵一つない物置をみてホッと胸をなでおろす。
流石の私でも埃まみれの服を洗濯するのって疲れるしやりたくない。
まぁ、お金無いからやるしかないんだけど。
物置の中は意外に広かった。
といっても普通の部屋の半分くらいしかスペースはなくて、棚が四方を囲っているからかなり狭く感じるけど、それでも考えていたよりは広い。
棚には貴重と思われる本(難しそう。今の私じゃ全然解読できない)やら使い方のわからないモノ、なんだか物凄く高そうなものなど色々並んでいて面白い。
掘り出し物ってことで、片手鍋と多くの保存瓶を見つけたので有難く借りることにする。
こういうチマチマしたものも結構高いんだよね~。
よくよく見ると片手鍋は『調合用』らしくどんな劇薬・劇物にも耐えられる特別な金属と手法で作られたもので「幸先がいいぞ!」なんてちょっとワクワクしてくる。
使えそうなモノをいくつか取り置いて最後の棚へ向かう。
ほかの棚には面白いものがいっぱいあったけど、それも私にはレベルが高すぎてまだ使えない。
「うーん、やっぱり昔の本とか服は残してないよねぇ。おばーちゃんって掃除するときも豪快だったし」
最後の棚の中段あたりまで確かめ、諦めかけていた私はため息をついてその場にしゃがみ込む。
期待していただけに、がっかり感が凄かったんだよね。
「ん?これなんだろ」
座り込んだことで視線が低くなった私の視線に飛び込んできたのは一つのトランク。
最後にチェックした棚の下段。
丁度別の棚の影に隠れるようにひっそりと置いてあるトランクに気づいた。
まるで隠してあるような置き方に危ないものかも?とも思った。
だけど、おばーちゃんは危ないものを物置には置くような性格じゃなかったから一応安全として引っ張り出してみる。
「ふんっ!…ってアレ?軽っ」
大きなトランクだったらから凄く重たいと思って気合を入れたのは良かったんだけど、びっくりするくらいに軽い。
勢い余って尻餅を付いた私は呆然とトランクと見つめ合った。
目の前にあるトランクは深緑色で、四隅には白い動物の革が衝撃吸収の為に縫い付けられている。
留め金は聖銀だと思う。
聖銀っていえば、調合で創れる金属の中でもすっごく難しくて、材料も貴重なものばっかりだった筈だ。
魔を退けるってことで色んな人に人気があるって聞いた記憶がうっすらと残ってるし。
(でも、材料が取れにくいことやインゴットを作れる人が少ない所為で高級品の頂点付近にある金属だって素材辞典に書いてあった気がする。調合するのだって、高級金属って言われてる聖白銀よりも難しいって聞いたことある、し)
聖白銀は聖銀より少し簡単で、素材も頑張れば揃えられることから、代替え品として市場に出回ってるってメモをした記憶はばっちりある。
いや、聖白銀も物凄く難しいんだよ?
材料だって簡単に見つかるわけじゃないし。
「おかしいっていえば、コレ材料もそうだけど留め金がないっていうのも謎なんだよね」
見つけてから隅々まで観察したけど、不思議なことに留め金が見当たらない。
それらしき金属板はあるものの本当にまっさらな板でしかなかった。
押しても反応なし。
横もしくは上にずらそうとしても全く動かない。
噛み合わせなんかもまるでなし。
多分、開けるには何か仕掛けがある。
おばーちゃんが作った若しくは考えたものなら間違いなく。
何かあるかなぁ、と今までの経験を思い出して気づいた事がある。
「確か“血液を媒介にする契約”がどーのとか“自分の魔力を道具に移す最も簡単な方法は血を一~二滴ぽたぽたーっと入れなさい”とか言ってたっけ」
これを聞いたのは、確か亡くなる少し前。
そういえば亡くなる直前までおばーちゃんってば調合釜のまえにいたっけ。
「何か調合をしていたのは知ってるけど、もしかして今目の前にあるトランクを作ってた……とか?」
ありえる、と一人納得しつつ、ダメ元で試してみることにした。
例えばトランクの中に何も入ってなかったとしても、トランクを開けるキーを自分の魔力に設定できれば私が死んでもずーっと開けられるのは私だけってことになる。
つまりは、頑丈で大きな金庫が手に入るってことだ。
「トランクも高いもんね。買うと」
わかるよ、おばーちゃん。
ひっそり呟いて持ち歩いている短剣で少しだけ指を傷つける。
短剣を持ち歩いているのは、歩いてて見つけるちょっと珍しい(一般的には入手が難しいらしい)薬草とか樹に実った果物、後は肉とか魚とかを捌くのに持ち歩いてるんだよね。
便利なんだ、これがまた。
ぷくっと指の上に丸い玉を作ったのを見て、金属板の部分に血液を擦り付ける。
普通なら金属部分に血が付くだけで変化は無い。
もし変化がなければ自分で付けた汚れを拭って開ける方法を考える予定だった。
でも、予定は実行に移さずに済んだ。
血をつけて数秒…変化があったのだ。
留め金が淡く光ったと思ったら、調合の時によく見る光がトランクを中心に広がっていく。
光は膨れ上がって、部屋中に広がったかと思えば数秒後には直ぐに四散した。
「うっわ、チカッチカする」
間近で結構キツい光を見たせいで暫く目が痛い。
光が強くなったあたりで目を閉じたけど遅かったみたい。
暫く目がシパシパしたけど、どうにか違和感を解消してワクワクしながらトランクに意識を戻す。
「やった~!!専用トランク入手!これで出費がまた減った…っ!ありがとう、おばーちゃんっ」
ほんと、トランク買うお金もなかったんだ!
今この家にあるカバンといえば…えーと、あ。
買い物用のかごとデッカイ布をうまいこと使うお手製カバンみたいなもの位?
カバンを使うような生活してないんだよねー、人のいるところに降りるのって一ヶ月に1回くらいだし。
その時には作ったモノとか農作物を売って小金を稼ぐって感じだったもん。
「重さ皆無だったし空っぽかなぁー…何か役に立ちそうなものでも入ってれば助かるんだけど」
よっこいしょ、とトランクを持って生活スペースに戻る。
生活スペースっていっても危険度の少ない調合用の設備と食事をするテーブル、台所とか後は細々したものくらいしかないんだけどね。
お客さんとかの対応はここでしてたからある程度見栄えはいい、筈。
今は窓の所に乾燥させる薬草吊るしてたり保存食用に果物とか野菜とかぶら下げてるから生活感しかなかったりする。
いや、だってお客さんなんて来ないし。
トランクをテーブルの上に置いた私は、期待と緊張でちょっとだけ震える指を留め金にかけた。
指先が金属板に触れるとトランクの『鍵』が解除される。
使用者がこの部分に触れて初めて開くらしい。
こういったモノって中々、庶民(下手すると庶民以下かもしれないけど)の私には縁遠いものだってこともあって物凄く感動するやら緊張するやらだ。
「―――――…… え ? 」
とりあえず、理解が追いついていかないから少し待って欲しい。
正直、自分の目が信じられないんだ。
幻覚が見えるような物を食べた記憶はないから現実かな…?
こんな感じの雰囲気です。
説明っぽいのが多かったので、もう少し読みやすい文章にできたらいいと心から思います。
もし怪文章や誤字脱字変換ミスなどがありましたら教えてくださいませ。