291話 国境検問所にて
次!次書くぞ―――!!!!(必死
次回、私用で金土日でかけるので執筆時間がかなり短いのです…orz
国境検問所には、奴隷登録をしてから丁度三日経った夜に到着した。
ここでは、カルミス帝国とトライグル王国それぞれ所属の騎士がいて、身分や出入国のチェックや互いの国に持ち込んではいけない物がないか、犯罪者がいないかを調べているそうだ。
といっても、今いるのは一番大きな検問所ではなく、防衛面で兵力強化しているタイプの国境検問所らしい。
ここでは魔物なんかの情報を売ることもできる情報屋っていう人達が一定数いるらしい。
『いろんな事情を抱えた人が多い』のも、ここの特徴だなとトーネ達が事前に教えてくれていた。
私たちは、各国それぞれ二つずつしかない窓口の一つへ並んだ。
ここに並ぶのは貴族も奴隷も変わらない。
といっても、奴隷は所有物扱いなので基本的に並ぶのは主人だけなんだけどね。
その主人の横には護衛や奴隷がいるので、結構な人であふれていた。
一番人が集まっているのは、食事とお酒が楽しめる場所。
周囲にお店がない分、この国境検問所に飲食店や宿、お土産屋なんかがあるみたい。
お土産って言っても職人や農家が露店みたいなのをやっているので当たり外れが大きいんだって。
主人が休んでいる間は奴隷だけで並んでいることもあるらしいので、いったいいつ呼ばれるのか分からないまま最後尾に並んだ。
途中で用を足したり、食事をしたりはできるみたいだけど、基本的に並んでいなくちゃいけないので、結構ピリピリしている。
「ここで必要なのって身分証だよね?」
「はい。あとは、入国料についてですが出国する際には支払わなくていい、とレーナが言っていたのでこの場合お金はかからないと思います」
ヒソヒソと声を潜めてしまうのは、赤の大国に不本意ながら不法侵入を果たしてからずーっと隠れていたからだと思う。顔が見えないフードの下は口布までばっちりだし。
ちなみに、国境付近の景色は砂漠のような砂でも、荒野でもなく、地面には背丈の短い草が生い茂り、落葉樹や広葉樹といった木々がしっかりと根を張っていた。
トライグルに近づくにしたがって緑の面積が増えていくのが、嬉しくて懐かしくて。
思わず休憩中、木に頬ずりしちゃってクギたちがしばらく目を合わせてくれなかったっけ。
「マリー達はもう具体的に話してるんだね。私たちの工房はまだ行先が決まったところで、何が必要かなーって考えてたところだもん」
「それなら、クローブ達の所と一緒ですね。実は、私達まだ迷いもあったんですけど、今回の件で決定になるとおもいます。決めかねていたので、まずはかかる費用を稼ごうって話をしていたんですが……お金関係、早めに相談していて助かりました」
なるほど、と頷いた所でサッとリウさんのメモが目の前に。
なんだろうと思いつつ受け取って目を走らせる。
『ライムたちは、別室に通される。入国審査や入国記録が残っていないからな。其処で事情を話せば問題なく通れるだろう』
「なるほど、そういえばそうですよね。ちなみに、馬車とかも持ちだせます?」
コクッと首を縦に振ったのを見てほっと一安心。
ちょっと愛着湧いて来たんだよね、あの馬車。
ベルやリアンの意見を聞いて使いやすいようにしたいと思ってる。
待機時間は一時間半で、私たちの後ろには続々と人が並んでいく。
この列に対応する騎士はかなり大変だろうなと思いつつ前の人がようやく審査を終えた。
次に私達が呼ばれ、一歩足を踏み出すと強面の騎士と柔和な笑みを浮かべた騎士がカウンター越しに私達を見た。
「身分を証明するものを」
出したのは、腕輪とギルドカード。
隣にいたマリーも同じものを出していて、一人は腕輪を、もう一人はギルドカードをそれぞれ調べ始める。
口を開いたのは、柔和な笑みを浮かべる騎士だった。
「申し訳ありませんが、お二方は別室へ。私が案内します。奴隷や護衛も連れてきてください―――…補充を!」
騎士の声でカウンター奥の扉があき、精悍な顔つきの騎士が入れ替わるように立ち位置を交換。
カウンターから出た騎士は、私とマリーそして奴隷全員とリウさん達もまとめて奥の部屋へついてくるよう言い、狭いカウンター横の通路へ。
カウンターの横にはいくつかのドアがあって、そこに連れていかれる人が時々いたんだけど、ここが話を聞く部屋らしい。
室内に椅子は一つだけ。
そこに座ったのは騎士で、彼が席に着くと奥からもう一人騎士が現れて武器を抜き、その場で待機。
騎士は簡素なテーブルの上にある羊皮紙に何かを書いてから私達を見た。
「まずはフードを外してください。盗聴防止結界を張っていますから、ここでの会話は外に漏れません」
厳しい口調の彼に顔を見合わせて私とマリーは大人しく、フードを外した。
私が外した直後、動揺した二人の騎士だったけれど、直ぐに険しい表情に戻る。
「お二方の入国記録が確認できませんでした。カルミス帝国に入国した経緯を話してください。その前に、これを一口。真実薬を一滴垂らしてあります。効果は五分」
飲むように、と言われたのでおとなしく飲む。マリーも飲むしかないのがわかっているのか抵抗はしなかった。
真実薬飲むの二回目だしね!
「入国、というかトライグル王国で教会に向かう途中だったのに目が覚めたら知らないところに運ばれてたって感じですね」
「詳しく話すと、教会に向かう途中に同級生が探していたものを見つけて、それをとる為に路地裏に行ったら、知らない男たちに薬のようなものをかがされ、気付いたら洞窟にいました。彼女は少し前に目を覚ましていたみたいですが、私達を最初にさらったのは彼らではなく、別の人でした」
彼ら、と視線を向けられたトーネ達は微動だにしない。
それを聞いて、経緯を話せと言われたのでそこからさらに詳しく話していく。
「目が覚めた後はトーネ達のアジトに連れていかれました。でも、それは成り行きでそうなっただけで、私達を狙っていたのはトーネ達ではないです。元々、彼らは食料を補給する為に荷馬車を襲ったみたいで……初めて私達を見つけた時なんて凄く驚いてたんで」
「彼女が最初に背後から襲われたのですが、私はそれを見ていました。その時の相手は小柄で線が細い感じだったので、恐らく女性です。次に私も気を失ってしまったのですが、彼らのアジトに運ばれた後にすぐに襲撃されました。闇ギルドに所属している人たちが、依頼で私を狙っていて……ライムは巻き込まれただけなんです」
「闇ギルドか。依頼者は」
「私は錬金科の生徒ですが工房制度を利用しています。同じ工房の上流貴族に嫌がらせをする為に、庶民の私を捕まえて奴隷にしようとしていたみたいです。トーネ達が聞き出してくれました。暗殺者の中で一人、日の浅い人がいて……その方から」
「なるほど。そういう事情であれば、入国記録がないのにも頷ける。お嬢さん二人によるとコイツ等は盗賊だったようだが、どうやって奴隷にした」
「利害の一致、ですね。暗殺者に襲撃されて二手に分かれたんですが、合流した時に騎士が向かってきているのがわかったんです。私、戦闘能力がないので無事に帰るとしたら護衛が必要なんです」
騎士が頷かないので、私は話を続ける。
全部話せって言ってたからね。
「近づいて来てた騎士の人達がどういう人かわからなかったし、それなら実力と私を殺さないってわかってる盗賊の方が安心だと思って『奴隷になって』って持ちかけました。トーネ達とも話し合って、四人は私、一人はマリーの奴隷ってことで落ち着いたんです。こちらの国で登録をしたのは、赤の国の『犯罪者』をトライグルに持ち込むには申請がいるって聞いたからです。犯罪者じゃなくて『犯罪奴隷』にしてしまえば所有物ってことになるから時間もかからないですし、緑の大国に入った瞬間逃げられたら、戦えない私は死んじゃうので。あ、こっちの二人は、錬金科で私の工房を担当してくれている先生のお友達です」
私がそう紹介するとフィガさんが先生たちが書いた契約書を騎士の前に。
それを確認した騎士が何かを書いて、控えていた人に渡す。
「大体の事情が分かりました。今、トライグル側に何らかの届け出が出ていないか確認しています。ちなみに、その奴隷たちは妙な奴隷紋になっているのですが」
「これは『贖罪奴隷』の紋です。これを」
どうぞ、と貰っていた説明用の羊皮紙を渡すと興味深そうに騎士がそれを見て、すべてを読んだ後に「これはこちらでいただいても?」と聞いてきたので頷いた。
後は簡単な質問というかこの後どうするのか、と聞かれたので地図を見せて欲しいといえばきちんと地図を見せてくれたのには驚く。
地図を広げて、そこで現在地と首都迄の経路を教えてもらったんだけど、かなり遠かった。
国境検問所に辿り着くまでの馬車で、色々と聞いたから覚悟はしていたんだけど、具体的な数字を聞くとやっぱり凹む。
「……首都まで街道を使うと一週間ですか」
「特急を使って、ですね。乗合馬車だともっとかかります。この時期は雪が降る前にと盗賊も活発になりますから」
季節の変わり目というのは魔物や盗賊も活発になる時期として、騎士も忙しいそうだ。
そう言われてみると、目の前の騎士も目の下に薄っすらと隈がある。
ああ、疲れてるんだなぁと思うとなんだか気の毒になってくるけど、仕事には忙しい時とそうでない時って言うのがあるもんね。
「ショートカットできる道、とかはないですか?」
「危険度が上がりますが、あるにはあります」
「……教えて、くれたりは」
試しに、と顔色をうかがってみると騎士は目を丸くして、そして小さく笑う。
クスクス笑いながら
「いいですよ。ふふ、ここだけの話お金をもらうんですがね……貴女は『双色の錬金術師』殿でしょう? 俺の弟が冒険者で、この間戻って来た時に君たちの工房で買ったアイテムのおかげで命拾いしたと話していたので。まだ、満足に金を稼げない冒険者にとって、あなたたちの工房は『救い』であり『希望』でもありますから」
さぁ、一度しか言いません。と話した彼は地図の上にトンっと皮手袋に包まれた指を置く。指が辿るルートは途中までは同じ。でも、そこから街道をそれた。
「一つ目は、山越えルートです。こちらは盗賊が多い。首都へ行くには二日の短縮になります。ここを通るのは大量の荷物を運ぶ豪商たちや、AやSといった優秀な冒険者、騎士団などです。時折通る貴族の馬車などは大体狙われていますね。国境にも近いので、こちら側の犯罪者が行くことも多い。トライグル側には本当に申し訳ないのですが、中々対策が進まず」
なるほど、と頷くと今度は少し進んだ場所を指さした。
其処には通路がない。
「二つ目はここです。ここは廃道なので、色々脆くなっていますがこの時期は比較的安全ですよ。少なくとも崩落で生き埋めになることはないかと」
「もしかして、寒いからですか?」
「ええ。廃道といっても元々は採掘用として使われていたので馬車一台くらいなら通れます。目印はトロッコ跡ですね。それを追うように進めば無事に抜けられます。事情がある人間が通る場所なのですが、ここに住む魔物が少々癖が強いということもあって盗賊は住みつきません」
「……癖の強い魔物、ですか」
「はい。私もチラッと聞いただけですが、人語を話すとか。ただ、この魔物は通り抜けるもしくは停止しても十分以内に出口へ向かい始めると襲ってこないそうです」
話によると廃道は長く、いくつかの廃採掘場を抜けることになるそうだ。
鉱物を取れればって思ったけど早く帰りたいので今回は我慢するしかないだろう。
「この場所を通ると三日の短縮になりますが、廃道内の壁や土が硬くなる冬の時期であること、馬が魔物であること、馬車が小型から中型であることが最低条件ですね。春から秋にかけては人が入れません。また、雪が積もっても進めないので今限定です。この場所を通るのは、本当に事情がある人間―――…といっても、通り抜けることになりますから接触することもありませんよ」
なるほど、と頷いてこの道を進むことを決めた。
ここを出るとファストリアという『冒険者の街』に近い林に出るという。
流石に距離はあるし、その先は整備されていないとのことだったけど、問題はない。
最初に採取をしに行った『忘れられし砦』のことを思い出しながら、そこから行けば割と問題なさそうだと息を吐く。
ポーシュの体調は良く、出発前に食事をとらせ、廃採石場から出たらすぐ魔力を込めた麦茶を与えれば問題はなさそうだ。
ただ、問題はマリー達。
完全に回復するまでにまだかかりそうだし、いまだに夜は熱が高い。
いる人間で警戒や警備をしなくてはいけないのでポマンダーは使わせてもらおうと思う。
「この辺りで出る魔物やモンスターについての情報なんですけど……その、これでどうですか?」
そっと出したのは『ゴロ芋スープの粉』だ。
コトッと音を立てて置かれた小瓶に騎士は目を丸くする。
「これは……?」
「私たちの工房で売っている簡易スープの『ゴロ芋スープ』になります。カップに入れて、熱湯を同量注げばトロッとしたスープになります。パンを浸して食べても美味しいですよ」
「おお、これが! 弟が美味しかったと言っていたのです。メイズのスープを飲んだとのことでしたが、必ずまた買いに行くと言っていて……勤務の都合でここから遠くに行くことは難しいので、助かりますね。あの、もしよければですが少し商品を売っていただけませんか。持っていたらで構わないのですが」
そんなことを騎士さんから持ちかけられて、少し迷ったけど頷く。
売れるものはそれほどない。
「売れるものは【オーツバー】二つと【メイズスープの粉】が三つ。あとは【洗濯液】【トリーシャ液】ですね。トリーシャ液と洗濯液は小瓶になります。銀貨三枚でどうですか? 工房、今きっとやっていないので少し高くなっちゃいますけど」
駄目かな、と思いつつ聞けば騎士はガッと私の手を握った。
頬が紅潮している。
「ッそ、そんな安く?! 高いって、たったの銀貨三枚! なんてことだ……流石、トライグル王国の国民ですね。素晴らしい。あなた方は冒険者や騎士の味方だと聞いていましたが、まさか、こんな……銀貨三枚お渡しいたします。どれも、欲しかったものです。銀貨二十枚でも安いですよ。カルミス帝国ではまず手に入りませんから」
いそいそと銀貨を渡してくれたので受け取って商品を渡せば彼は嬉しそうに道具入れへしまった。
そして、懐から一枚地図を出す。
「これは、お礼です。カルミス帝国の地図です。毎年配られるので去年のものですが、それでも良ければ。内容はほとんど変わりなく、この辺りが少し詳しくなっている程度ですね。こちらへ来ることがあれば参考にしてください。どこでも買えるもので申し訳ないのですが」
「い、いえ! とても助かります。あ、えっと、申し訳ないですし……これ、どうぞ。冬になると風邪をひきやすくなると思うので【ハッカ風ドロップ】っていう商品なんですが、私はスッキリするのでスッキリ飴って呼んでます。長時間舐められて、効果は馬車酔い防止、喉の炎症抑制、眠気覚ましです。三つ入りで銀貨二枚で売ってるんですけど…一つしかないので」
オマケを渡すとキョロッと周囲を見回してから、私たちが行く道の付近に生息しているモンスターの情報もくれた。なんでも、こういう情報はトライグル側と情報交換をして騎士の間で共有されているらしい。
「大事な情報、ですよね?」
「ええ。自国の情報については基本的に守秘義務があるのですが、トライグル王国と我がカルミス帝国は最友好国です。国の始まりから現在に至るまで、お互いの不足を補い、協力してきました。国境付近の魔物は強いことが多いので、お互いにある程度情報交換をして、どちらかが窮地に陥ると助け合っているのです。それは、今まで何度もありました。魔物の大発生時、両国が手を取り合い、協力して両国の魔物を殲滅したこともあります」
ここで働けるのは騎士の誇りです、と言い切って「皆トライグル王国の友人が欲しいので、新人は必ずここへ希望を出します。選ばれるのはエリートばかりですが」と笑った。
ある程度情報交換が終わったところでノック音。
特殊な防音結界らしく、外からの音は聞こえる仕様になっているようだ。
ノックの主は『確認』に向かっていた騎士で、戻ってきたその手には一枚の書類。
それを目の前にいる騎士に渡すと、騎士は小さく息を吐いて大きなハンコを押した。
「捜索願が出されています。冒険者ギルドとトライグル国立レジルラヴィナー学院、ウォード商会、教会……複数の上流貴族から」
「……あー」
「や、やっぱり大変なことになってるみたいです、ね」
何とも言えずに視線を逸らす私と困ったような嬉しそうな表情をしているマリー。
ますます早く帰らなきゃね、と話をして私たちは騎士の案内で外へ出た。
裏口、といってもいいその場所は隠されていて、安全を確認した出国者専用のドアだという。ドアを開けるとポーシュと馬車がすでに待機の状態に。
了承を得て、その場で飲み物や食料を与え、御者をしてくれるフィガさんとリウさんに温かい毛布やひざ掛け、クッションなどを渡していく。
ポーシュが食事をしている間に話したんだけど、ここから先はこの二人が御者をしてくれるらしい。トーネ達が完全に奴隷となったので近くにいない方がやりやすいんだとか。
でも、と躊躇する私にフィガさんが
『護衛及び護送込みで雇われている。気にしなくていい』とのこと。
分かった、と返事をして簡単に食べられる食事を渡しておく。
まず、ここから二日間は馬車を走らせ続けることになるらしい。時々、用を足すために停止するのは決まっている。でもそれも十分という短時間。
揺れる馬車の中で熱にうなされる仲間の看病があるので、トーネが馬車に戻ってきてくれるのはかなり有難かった。結構体力を使うんだよね。体を拭いたりもするし。
ちらっと見上げた空は鈍色で、時折、酷く冷たい風が吹きつける。
雪が降るまでには帰りたいなぁ。
本当なら、すぱーん!と行きたいのですが、どういう経路で、っていうのはしっかり書きたくて。
もっと早く!テンポよく!!!ともどかしく思う方もいるかと思うのですが、お付き合いいただけると嬉しいです。
何となく、カルミス帝国の雰囲気が伝わるといいなー。
国境騎士は、コミュニケーション能力かなり重要だと思います。
そして、仲のいい国同士ってことで裏では色々と合宿みたいな感じで和気藹々してそう。。
敵対国とかじゃないっていいですよねー。