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26話 初めての調合

とりあえず、調合です!

…お金の話が多いのは主人公のせい。



 用意した素材は自分の作業台へ持って行ってもらって、一回分の素材を作業台にのせる。


次に水の入ったバケツからビーカーで水を掬い、置いておく。

 今回使う素材はアオ草だ。

一番クセがなくて扱いやすいのは薬草と呼ばれるエキセア草なんだけど量がないから却下。



「用意する機材は釜と混ぜるための棒があれば大丈夫。素材によって下処理をする必要があるものもあるけど、草系の素材は基本的に放り込んで終わりだよ。品質を上げるのに乳鉢と乳棒つかったり、計量したり…切ったりするけど、今回はおばーちゃんに最初に教えてもらった通りにやるね」



失敗しても怒らないでね、とは言ってあるので怒られたりはしないだろうけど…どうせなら成功させたいところ。

 ちょっと緊張してたけど、実際釜の前に立つと気持ちは落ち着いて、普段通りになった。

いやー、毎日調合してたもんね。よく失敗したけど。



「私の教科書見たらわかると思うけど、素材を入れて三十分かき混ぜたらできるんだ。温度は変えなくても大丈夫だよ。まず、水素材をいれて適当にアオ草をちぎって入れればいいよ。注意じゃないけど、葉っぱだけ毟って入れてね。茎はあってもなくてもいいけど…いろいろ試したら茎なしの方が品質少しだけいいみたいだから」



説明しながらビーカーの水を釜に入れてすぐアオ草の茎を持ち葉っぱをちぎりながら投入。

全部入れたら泡立て器型の杖の先端をぽちゃんと釜に突っ込んだ。



「意外に簡単ですのね」


「基本中の基本というだけあって工程はすくないようだな。品質に関わってくるのは素材の品質と下処理、あとは魔力の注ぎ方、か?」



まじまじと釜を覗き込むベルと同じように釜の様子を眺めながらメモを取っているリアンをみて小さい頃のことを思い出す。

 昔、私もよく調合してる横で釜を覗き込んでたっけ。

微笑ましく思いながらも大きくグルグルと杖で釜の中身を混ぜていく。



「難易度にかかわらず、最終的な仕上がりに影響するのって混ぜ方と魔力の注ぎ方なんだって。私、この魔力の注ぎ方が下手みたいでよく失敗するんだよね。大体五分五分位の成功率なんだけど…今日はうまくいきそうな感じ。何回かこの杖でモンスター倒したんだけど、すっごく魔力通しやすくて調整も楽だったんだよねー」


「杖は基本的に魔力を通しやすいように作られていますから、当然ですわ。そもそも、貴女は何を使って調合していたんですの?」


「木の枝?そのへんに落ちてる丁度よさそうなやつ」


「……それは、失敗するだろうな。というか、それで成功率が五分五分…?基本的に木は一部を除いて加工をしないと魔力を通しにくい素材なんだが」


「?おばーちゃん、普通に何もないとき適当な棒で作ってたけど」


 何故か絶句している二人を放置して鼻歌交じりにぐるぐる、と釜の中を大きく混ぜること大体五分。

素材の葉っぱが釜の底に沈んでいったのを確認してから魔力を注いでいく。


 魔力の量は個人差があるんだけど私の感覚で言えばほんの少し。

魔物を叩く時の半分もないくらいの量だ。

多分、だけど魔力が伝わりやすいだけあって家にいる時みたいに魔力込めてたら爆発しそうな気がするんだよね。



「魔力は私の感覚だけど、ほんの少しね。私が魔力を注ぐ目安は素材の葉っぱが釜の底に沈んでから。で、ぐるーぐるるーって混ぜていくんだけど、葉っぱが完全に溶けた時に魔力を切って、混ぜて色が均一になれば完成だよ。草系の素材だから完成は黄色っぽくなるかな」


「調和薬には三種類あるというがこれは黄色なのか。使う素材が植物系だからか?いや、それなら緑になってもおかしくはないと思うが…」


「うーん、あんまり詳しいことは分かんないんだけどねー、使えればいいんじゃない?」


「まぁ、いい。より良いものを作る為には分析なんかも必要だとは思うが、まだその段階ではないか。最新の文献なんかでは、この調和薬は素材と魔力の色によって最終的な色味が変わるらしい。といっても、魔力のほとんどは赤・青・黄の魔力を持っているから、ほかの色になる割合が少ないらしいが…君の魔力は少々特殊だろう。変わった色ができたら教えてくれ」


「魔力の色といえば、魔力も途中で変化する場合があるそうですわね。条件はわかりませんけれど、モンスターを倒し続けたり、召喚術なんかを使い続けていたり、錬金術師の腕が上がるにつれて緑・紫・橙に変化した例もあるそうですわよ」



手を止めずにぐるぐると釜を混ぜながら魔力の色について詳しく知らないことを思い出した。

 いい機会なので二人に聞いてみると調合が終わったら教えてくれるそうだ。

私の知識って偏ってるからなぁ、人との会話だってこんなにしたことなかったし。



「あら、葉っぱが消えてきましたわ。本当に、溶けるように消えますのね」


「面白いよねー。あ、完全に溶けたから魔力切るよ。で、あとはぐるぐるーって大きめに混ぜて行けば…ほら、透明だった液体に色がついてきた。素材に込められた力が強ければ強いほど鮮やかな色になるらしいんだけど、使ったのがアオ草だからあんまり色はつかないんだ」



大きく杖を回しながら色を見極める。


 透明な井戸水と葉っぱが数枚入っていた釜の中で、杖の軌道を描くように黄色が混じっていき、途中では透明と黄色のマーブル模様になった。

これを混ぜて行けば完全な黄色になるから、そうすれば完成だ。

 しばらく、といっても体感ではそれほど時間が経たないうちに釜の中身が均一な黄色に変化した。



「うんうん、いい感じっ!このあとはお玉で掬って…空き瓶に入れるでしょ、でちゃんと蓋を閉めたら【調和薬】の完成」



面白いんだけど、お玉で一杯分掬ったら釜の中は再び無色透明に戻るんだよね。


 二回分の素材を入れると、お玉二杯分がきっちり出来上がる。

 慎重に中身を移し替えて、コルクで蓋を閉めたものを作業台に置く。

杖のお陰か失敗もなくスムーズにできたのでかなりほっとした。



「(この調子なら他の、失敗してた調合もうまくいく…かも?)品質はどうかなぁ…多分Cくらいあると思うんだけど」



測定器はどこだっけ、と工房の中を見回すと作業台の【調和薬】をリアンが手にとってじぃっと見つめている。

 そんなに珍しいかな、なんて考えつつポーチの中に測定器がないか探していると数秒で作業台に調合した調和薬が置かれた。



「品質はC-で特殊効果は無し。一応店には出せる品質だが、店で売るなら品質はC以上が望ましいだろうな。粗悪品ではないが、ケチをつけられると面倒だし評判に関わる」



きっぱりとアイテムの品質や本来詳しい検査何かをしないとわからない特殊効果の有無まで口にしたリアンに私とベルは思わず顔を見合わせた。

 当てずっぽうにしては妙に自信満々だし、パッと見た感じもそのくらいだろうなーとは思っていたから驚いたっていうのもあるんだけど…。



「鑑定師でもないのに、測定器もなしにそのような詳細がわかりますの?」



胡散臭そうにリアンを一瞥したベルは作業台の調和薬を手にとって様々な角度から観察している。



「鑑定師ではないが、品質と特殊効果なんかはわかる。この眼鏡には“詳細鑑定”という特殊効果がついているんだ。魔力を少し込めるとアイテムや素材の情報がわかる…まぁ、魔力を消費するから乱用はできないし、魔力認証は済ませてあるから僕以外には使えないが」


「詳細鑑定ですって?!そんな貴重なもの、どうやって手に入れましたの?って…そういえば、貴方の実家は商家でしたわね」



それならば納得もできますけれど、と言いながらベルは物珍しそうにリアンの眼鏡を眺めていた。

 なんか、とっても凄いものを持ってるってことだけはわかったんだけど、イマイチ凄さがわからない。



「ねぇ、珍しくて高そうなモノっていうのはわかったんだけど…その“詳細鑑定”ってすごいの?いや、まぁすごく便利なのはわかるんだけど」


「ライム…貴女って……いいえ、知らないのなら教えて差し上げますわ。基本的に特殊効果がついたアイテムはダンジョンでしか手に入れられないのです。まぁ、一流の腕を持った錬金術師ならば作れるそうですけれど高度な技術を要しますの…ここまでは宜しくて?」


「う、うん。取り敢えず、希少なものだってことだけはわかった」


「結構ですわ。ダンジョンの中では色々なものがドロップできますけれど、中でも人気の特殊効果というものがあります。その中の一つに“鑑定系”があるのですわ。過去にはルーペ、指輪、眼鏡などがあったそうですけれど、どれも金貨1000枚以上の値がついて落札されております。オークションですから値が上がるのは当然ですけれど、それだけ価値があるものなのですわ」



ベルの口から告げられた衝撃の価格に思わずリアンと距離を取った。

どうしよう、ぶつかって壊しでもしたら…!!



「ちょ、これから私に近づかないで!お願いだから!こ、壊しちゃっても弁償なんか絶対無理だからね!!」


「……君は本当に馬鹿だな。魔力認証をしているといっただろう。基本的に魔力認証機能が付いたアイテムは所有者ができると壊れない。まぁ、値が張るのは間違いないが…この眼鏡に関しては元々視力矯正が主な機能で僕のように視力がよくない人間でなければかけられないという欠点がある。オークションに出すにも手数料がかかるし、使用者を選ぶアイテムは基本的に売れにくいんだ。だから、手に入れた冒険者が困っていたらしくてな…運良く父が買い取ったと聞いた。金貨100枚といっていたか」


「だめだ、無理だ。壊れないとわかってても怖くて近寄りたくない…慣れるまであんまり近づかないで、お願いだから。手違いと不測の事態っていつどこで起こるかわかんないんだから」


ずざっとベルの背後に隠れる私に向けられるのは呆れたような視線と憐れむような視線だった。

 ベルがこっそり「たった金貨100枚で大げさですわよ」なんて見当はずれな慰めを口にしてくれたけど、金銭感覚が違いすぎて戦慄すらした。


貴族怖い。金持ち怖い。二人共怖い。

なんか触るだけでお金が発生しそうだよ。



 戦々恐々と二人からじわじわ距離を取った私に対して、二人は呆れたように溜息を付いた。





=アイテムと素材=

【調和薬】水素材+素材。一般的にどのような素材からでも作れる基本中の基本。

     釜に素材を入れて魔力を込め、三十分程かき混ぜ加熱するとできる。

     異なる素材同士を掛け合わせる際に使用することが多い。

      ちなみに、調和薬は大きく分けると三種類に分けられる。

植物系の緑、水系の青、その他の赤。入れる素材によって多少色合いが異なる。


【エキセア草/薬草】一般的に薬草と呼ばれ、親しまれている草。

抵抗力を高める効果があり、薬によく用いられることから薬草として広く認知されることとなった。食べることもできるが苦味が強い。軽い風邪などの場合はこれを摘んで乾かし、粉状にしたものを飲む。花は一年に一度咲くが花には苦味もなく薬効も高いことから少々高い。匂いは青臭さがある。


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[一言] オランジェ製とかいう最高級ブランドで固めてる自分の方が資産価値やばいの気づくべき
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